「ソシャゲのガチャって、運営がインチキしてるんでしょ？　確率を操作してるとか、そういう噂を聞いたことあるわ」

『そうとも限らないぞ、唯』

「あ、魔法ちょうちんさん」

『……そうだな。商店街の福引で例えてみよう。

　ここに１００個の玉が入った福引のガラポンがある。この玉は、全て大きさも重さも同じに作ってある。どの玉が特に出やすいとか、そういうことはない。これを、数学用語で「同様に確からしい」という。

　さて、この１００個の玉のうち、１個だけ金色の玉がある』

「きんた……」

『ストップ！

　……こほん、金の玉が出れば大当たり。見事グアム旅行にご招待だ。他の玉は全て白。残念賞でタワシをプレゼントだ。このガラポンを１回だけ回して、金の玉が出る確率は？　唯、わかるか？』

「それくらい、あたしにだってわかりますー！　1/100で1%でしょ？」

『ご名答。では、ガラポンを１００回回して、１回でも金の玉が出る確率はどうだ？

　あ、一つだけ条件がある。ガラポンを回して出た玉は、その都度ガラポンの中に戻すんだ』

「え？　1%を１００回回すんだから100%でしょ？　違うの？」

『ブッブー！　見事に確率の罠にハマったな』

「えー！？」

『わかりやすく説明するぞ。

　こういう問題は「ハズレの確率」から求めていくんだ。

　このガラポンを１回回して「金の玉が出ない確率」、つまり、ハズレの白い玉が出る確率は？』

「えーっと、100個のうち99個白い玉が入ってるんだから、99/100で99%？」

『そうだ。

　では、２回ガラポンを回して、２回とも白い玉が出る確率はどうだ？』

「きゅ……99*2で198%……じゃ……ないよね……」

『正解は(99/100)*(99/100)=0.9801。98.01%だ。

　さて、２回とも白い玉が出る確率はわかったな。ここからが肝心だ。

　「２回とも白い玉が出る」ということは「１回も金の玉が出ない」ということだ』

「な、何か哲学的な話？」

『俺は数学の話をしてるんだ。「１回でも金の玉が出る」確率は、1から「２回とも白い玉が出る」確率を引いた数になる。つまり、

　1-0.9801=0.0199

　わかりやすく100分率に直すと1.99%だ』

「やっぱり低っ！」

『ここから少し飛ばすぞ。１００回ガラポンを回して１００回とも白い玉が出る確率は、さっきの99/100を100回かければ出る』

「99/100*99/100*99/100*99/100*……めんどくさっ！」

『数学では、こんな時に便利な考え方がある。べき乗(じょう)だ。

　(99/100)^100と書けばいい。読み方は「99/100の100乗」だ。

　紙に書く場合は、100を(99/100)の右肩に小さく書くんだ。TINAMIの小説では、この書き方には対応してないけどな』

「お約束のメタ発言出たね」

『windows付属の電卓にも、べき乗機能は搭載されてるぞ。関数電卓モードに切り替えれば使える』

「あ、ほんとだ」

『で、やっと本題だ。１００回ガラポンを回して、１回でも金の玉が出る確率は？』

「さっきの考え方の応用だよね？　１００回ともハズレの白い玉が出る確率が(99/100)^100だから、それを１から引けばいいんだよね？

　1-(99/100)^100=0.63396765872677049506938397342748 で合ってる？」

『電卓の答えをまるまるコピペしたな。その通りだ。わかりやすく100をかけて%表記で表すと……』

「約63.4%！？　意外と低い！」

『そう。１００回ガラポンを回しても、当たりが出る確率は６割ちょいってことなんだ。これが確率の罠だ。

　ちなみに、２００回で約87%、３００回回してやっと約95%という数字になる』

「へぇー……」

『ソシャゲのガチャも、この福引とよく似ている。出てきた玉にそれぞれ番号が書いてあり、その番号に対応した賞品、キャラクターなりアイテムなりがもらえるという仕組みだ。

　レア度が低いキャラは、例えば01から20までの番号が出たら今河和美、のように、対応する番号を広く取ってあるってことだ』

「あたしの友達を低レアキャラ呼ばわりとは、いい度胸してるわね」

『彼女には後で謝っておくよ。

　ま、何が言いたいかといえば、ソシャゲは絶対やるなとは言わない。自分の責任の持てる範囲で、節度を持って楽しみなさいってこった』

「でも、例えばもしサイバのソシャゲが出て、コーダさんが実装されたとしたら、どんなにレアでも、魔法ちょうちんさんは血走った目でガチャ回しそう」

『ほっとけ』

　おあとがよろしいようで。