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涼州戦記 "天翔る龍騎兵" 第2章4話汜水関戦前夜

hiroyukiさん

第2章4話です。汜水関での戦いの前夜といったところです。

2009-08-08 19:20:35 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:11600   閲覧ユーザー数:8483

第2章.反董卓連合編 4話 汜水関戦前夜

 

一刀が不思議な体験をしてから3日後、準備の整った一刀達は汜水関へと出発した。

 

汜水関への援軍は将として一刀、趙雲、馬岱の3名、兵力は1万、但し内1千は石工や大工等の一般人で戦いが始まる前に洛陽に帰すことになっている。

 

そのまた3日後、虎牢関を経由して汜水関に到着した。

 

「さてと、蒲公英。10人を一隊として5隊ほどを斥候として出してくれ。連合の動向を探らせるんだ。」

 

「うん!でもお兄様、そんなに大人数で出すの?」

 

「ああ、それぐらいいれば何かあっても対処できるだろうし、最悪何人かは戻ってこれるだろうからな。」

 

「へぇ~、お兄様ってけっこう考えてるのね。」

 

「まあ、軍師ってことになってるからな。」

 

「うん、わかった。じゃあ。」

 

そう言うと馬岱は馬首を翻して自分の隊へと馬を走らせた。

 

「星、君は関前面の細工の方を頼む。」

 

「着いたばかりだというのに一刀殿は人使いが荒いのではないか。」

 

「そういうなよ。休ませてやりたいけど戦いが始まる前には一般の人達は洛陽に帰ってもらわないまずいからな。」

 

「ははは、わかっておりますよ。しかしあの細工を関前面全てに施すとなると間に合わないのでは?」

 

「それについては石工や大工以外の8百人を回すからそれを百人ずつ8隊に分けた上で関前面を八つに区分けしてそれぞれに1隊を宛がってくれ。そうした上で彼らに一番に終わった隊には褒美として割り増し料金を出すと言ってくれ。皆競ってやってくれると思うよ。」

 

「ふふふ、蒲公英ではないが本当にいろいろと考える御仁だな。」

 

「まあ、俺は武では役に立たないからこのぐらいはやらないとな。じゃ、宜しく頼むよ。」

 

そういうと一刀は城壁へと上がる階段の方へ走っていった。

 

 

それから数日後、一刀は城壁の上で石工や大工の作業を監督していた。

 

そこに兵が走ってやってきた。

 

「北郷様、偵察に出ていた隊が帰ってきました。」

 

「うん、わかった。すぐ行く。じゃあ棟梁宜しく頼むよ。」

 

石工の棟梁に告げると下へと向かった。

 

下に下りるとそこには偵察から帰ってきた兵とともに趙雲、馬岱がいた。

 

「お疲れさん。どうだった?」

 

「は、報告いたします。連合軍約20万進軍を開始しました。」

 

「そうか、ついに来たか。それで後どのくらいでこちらに着く?」

 

「その大半を歩兵が占めている為、後5日はかかるかと。」

 

「そうか、後5日か。後、どんな諸侯が集まっていた?」

 

「確認した旗は袁が2つに曹、陶、孔、王、鮑、張、劉、それに孫もありました。」

 

「けっこう集まったもんだな。ご苦労、休んでくれ。」

 

「はっ!」

 

兵は下がっていった。

 

 

「星、蒲公英。後5日ということだけど一般の人達のことを考えると3日で準備を終わらせたい。大丈夫かな?」

 

「そうですな。……まあ大丈夫でしょう。7,8割方は終わってますしな。」

 

「蒲公英の方も後ちょっとだから3日もあれば問題ないと思うよ。」

 

「そうか、俺の方も3日あれば終わるだろうから準備の方は問題なさそうだな。ところで星。」

 

「なんですかな。一刀殿」

 

「桃香に聞いたんだ、以前諸国を旅して回っていたって。今回連合に集まった諸侯の内注意すべき相手って誰だと思う?」

 

一刀に問われ、俯き考え込んだ趙雲だがしばらくして考えが纏まったのか顔を上げた。

 

「私も深く知ってる訳ではありませんが、やはり曹操。これほど油断できぬ相手はいますまい。後、今は袁術の客将になっている孫策ですな。あれほどの戦上手はみたことがありませぬ。」

 

「へぇ~、やっぱり曹操なの。お兄様も伯母様も曹操は強いって言ってたものね。後、孫策か~、伯母様に聞いたことあるよ。伯母様の戦友の孫堅って人の娘だったと思うけど。」

 

「おお、蒲公英も知っていたか。江東の小覇王と呼ばれる英傑だな、しかし劉表との戦いで孫堅殿が戦死なさってしまってからは急に勢力が衰えてしまい、今では袁術なんぞの客将だからな。だが何時までも袁術の客将なんぞに納まっておらんだろう。案外この戦いを契機に独立なされるかもしれんな。」

 

「そういえば、孫堅さんの戦死の報を聞いた時伯母様すごく残念がってたもんね。」

 

趙雲と馬岱が話し合ってる横で一刀は俯いて何か考え込んでいたが小さく首を振ると趙雲の方を向いた。

 

「星、袁紹や袁術はどうなんだ?」

 

「袁紹に袁術ですか。両家の力はさすがに名門かなりのものがありますが本人達は無能というか馬鹿ですな。」

 

「はぁ~、袁紹達ってバカなの?」

 

「バカって……辛辣だな~、なんかあったの?」

 

後で一刀はこの一言を後悔した。

 

延々と続く袁紹、袁術の罵詈雑言。そしてなぜか出てくるメンマ賛美の数々と華蝶仮面?。

 

機関銃のごとく次々と迸る熱弁に一刀と馬岱は唖然としていた。

 

…………

 

 

一刻後、やっと趙雲から解放された一刀は城壁へと上る階段を歩きながら考えていた。

 

(孫策?史実や演義でも親の孫堅だったはず。それに孫堅が死ぬのは反董卓連合の後じゃなかったっけ?でも孫堅が死んで袁術の客将という流れはいっしょ。つまりこの世界、時間軸は違うが流れはいっしょということなのか?)

 

城壁の上に上がった一刀は連合軍が来るであろう方向を見ると小さく呟いた。

 

「後、1回か………」

 

…………

 

 

時刻を遡った連合軍陣営内の曹操の陣にて

 

「桂花、戻ったわよ。」

 

桂花(荀彧)と呼ばれた少女は満面の笑みを浮かべながらいそいそとやってきた。

 

「華琳様、お疲れ様です。如何でしたか。」

 

華琳(曹操)と呼ばれた少女はそれに答えることなく不機嫌そうに横を通りすぎると乱暴に椅子に座った。

 

それを見た荀彧は訝しげな顔をしながら曹操といっしょに入って来た二人の内水色の髪の落ち着いた感じの女性の方を向き小声で話した。

 

「ちょっと、秋蘭。どうしたのよ。」

 

秋蘭(夏侯淵)と呼ばれた少女はやれやれという仕草してこちらも小声で話した。

 

「大体わかるだろう。」

 

「はぁ~、袁紹がまたバカやったのね。」

 

「ああ、その上集まった諸侯が小粒ばかりでな。華琳様が満足されそうなのが孫策ぐらいだったか。」

 

荀彧と夏侯淵はヒソヒソと話していた。

 

 

不機嫌そうに何か考え込んでいた曹操だが何か思い出したのか荀彧達の方を向いた。

 

「桂花、その後董卓について何か情報は入って来た?」

 

「はい、華琳様。函谷関を経由して1万2,3千ほどの軍勢が洛陽に向かったとの情報があります。旗を確認したところ北平の太守公孫賛と平原の相劉備だということです。」

 

「ああ、そう言えば公孫賛軍議にいなかったわね、董卓についたの。でも劉備ってどこかで聞いたわね。」

 

「黄巾の乱の際、義勇軍を率いて活躍しており、その功を以って平原の相に任命されたようです。」

 

「そう言えばそんなのが居たわね。それだけ?」

 

「いえ、劉備達の前に1万ほどの騎馬隊が洛陽に向かってるのですがこちらは旗を出していなかったのでどこの部隊かは未確認です。」

 

それを聞いた曹操は考え込んでいたが夏侯淵といっしょに入って来た女性が声をかけてきた。

 

「華琳様、董卓が自領から援軍を呼んだのでしょうか?」

 

「いや、姉者。それはないはずだ。董卓が洛陽に引き連れてきたのが約3万、自領の守備のことを考えると1万もの援軍を送るだけの余裕はないはずだ。」

 

姉者(春蘭:夏侯惇)と呼ばれた女性は「そうなのか?」というと首を傾げた。

 

「涼州連合かもしれないわね。」

 

考え込んでいた曹操はぽつりと一言漏らした。

 

その言葉に反応したのは夏侯淵でまさかという顔で応えた。

 

「涼州連合ですか?でもあそこの当主の馬騰は知勇兼備の名将であり民や兵を大事にする人物です。現状のあまりにも旗色が悪い董卓に加担するとは思えませんが。」

 

「桂花、その情報に誤りはないわね?」

 

「はい、華琳様。複数の細作より同じ報告がされていますので間違いはないかと。」

 

「そう、確かに洛陽に約1万の騎馬隊が来た。今帝国でそれだけの騎馬隊を投入できる諸侯はというと………公孫賛と董卓を除くとやはり涼州連合しかないわ。」

 

「その騎馬隊を率いるのは……やはり馬騰ですか。」

 

「そうでしょうね。あの馬寿成が配下に任せておとなしくしているとは思えないわ。……ふふふ、つまらない戦かと思ったけどどうやらおもしろくなりそうね。」

 

……………

 

同じ頃、孫呉の陣営にて

 

「冥琳(周瑜)、今帰ったわよ。」

 

「雪蓮(孫策)か、お疲れ様。どうだったの?」

 

孫策はそれに答えず不機嫌そうなまま置いてあった椅子に座った。

 

「どうしたの、長かったようだけどそんなに紛糾したの?」

 

「そうじゃないわ。腹の探り合いばかりでつまらないったらなかったわよ!」

 

それを聞いた周瑜は苦笑いを浮かべながらだだを捏ねる子供を宥め始めた。

 

「やれやれ、これだけの諸侯が集まっての軍議だ。腹の探り合いになるのは仕方なかろう?」

 

「でもね冥琳。総大将と汜水関の先陣を決めるだけであれだけ掛かったのよ。まったくやってられないわ!」

 

と言い放ちつつ、机の上になぜか?あった酒瓶に手を伸ばす。

 

「ほう?それでも決まったことがあるのか。」

 

と言いつつ素早く酒瓶を取り上げ、手の届かないところへと置く。

 

「え~ん、冥琳の意地悪~。あのつまらない軍議にまじめに出てたんだから少しくらい飲ませてよ~。」

 

「何言ってるのよ。それでどう決まったの。」

 

ぶーぶーと不満たらたらの顔で

 

「総大将は袁紹、汜水関の先陣は陶謙や劉岱とかが共同で当たることになったわ。」

 

と言ったが周瑜は意外そうな顔をした。

 

「あなたのことだから自分がやると言い出すんじゃないかと思ってたけど……」

 

「……んー、なんか汜水関は様子を見た方が良いような気がしたのよ。」

 

「どうして?」

 

「………勘ね。」

 

感ってと言おうとした周瑜だが孫策の感が良く当たることを思い出す。

 

「勘ね。あなたの勘は良く当たるけど……誰かある!周泰を呼んで来て。」

 

「あー、信じてくれないんだ。」

 

「私は軍師なの。軍師が勘に頼ってはおしまいよ。」

 

その後、やってきた周泰に汜水関を探るよう指示を出した。

 

……………

<あとがき>

 

どうもhiroyukiです。

 

今回は汜水関での戦いの前夜という感じにしてみました。

 

戦い前の緊迫した感じを出してみたかったのですが、文って難しいですね。

 

今一表現できていないようでより一層の精進が必要だと痛感しました。

 

ところで前回に出した歴史改変の回数制限、けっこう反響があったようでうれしく思います。

 

ここでこの物語における歴史改変の概念を説明しておくことにします。

 

正史や演義でのイベント(黄巾の乱とか反董卓連合とかです)を何個か選んでこの物語に出していこうと思ってますが、イベントの結果が変わったのをもって歴史が改変されたと判断しています。

 

ですから例えば今やっている反董卓連合との戦いですが馬超や劉備達を董卓サイドに付けましたがこれだけでは歴史改変とは見做さず董卓達が勝って始めて歴史を改変したと見做し、結局董卓達が負けた場合は改変されなかったと見做す訳です。

 

後、一刀にとってはこちらの方が重要かもしれませんが、1つ歴史を改変した場合その後に起こるイベントが我々の知っている歴史と同じ結果になるとは限らないということです。

 

当たり前ですけど同じようなイベントが起こったとしてもイベント前の状況が異なれば結果が違ってもおかしくはないからです(バタフライ効果と言う奴です)。

 

でも一刀は頭の性能をUPさせてるとは言え諸葛亮達ほどの頭は持っていません。

 

どこまで歴史の先読みができるかそれによって彼の運命は決まります。

 

それともう1つ馬岱の台詞で馬騰と孫堅がいっしょに戦ったことがあるように言っていますが、これはこの物語における特殊設定で正史にも演義にもそのような記述はなかったと思います。

 

ですので間違ってる訳ではありませんので悪しからず、後日特殊設定については詳細にしたいと思ってますのでお待ちください。

 

次回でいよいよ汜水関での戦いが始まります。

 

では、またお会いしましょう。

 


 
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