No.88294

恋姫無双 袁術ルート 第二十一話 一刀の戸惑い

こんばんわ、ファンネルです。

袁術ルートもとうとう、21話まで来ました。これもみなさんの応援あってのことです。

本編は、相変わらず遅いです。どうか、温かく見守ってください。

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2009-08-05 21:52:28 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:22225   閲覧ユーザー数:17384

第二十一話  一刀の戸惑い

 

 

一刀たちが放った使者はとうとう戻ってこなかった。戦が始まる。もはや決定事項になってしまったのだ。

 

「戦が始まるのか………」

 

一刀たちは主だった軍師たちと軍議を開いていた。神楽と月はショックのためか気分が優れなく、体調を壊してしまったので部屋で休ませている。

 

美羽には、この檄の存在自体を内緒にしている。なんせ、差出人が美羽の従妹である袁紹だ。きっと、ショックを受けてしまうだろう。そう懸念したからだ。当然、七乃さんにも悟られないようにしている。

 

「この戦、勝てると思うか?」

 

一刀は、詠、風、稟の三人に聞いてみた。だが、三人とも首を縦には振ってくれなかった。

 

「難しいでしょうね。主だった豪族たちや同盟関係にあった諸侯たちは掌を返したように次々に寝返っています。」

「今では、風たちは天下の極悪人ですからね~。」

 

稟と風は諦めたように言った。一刀も予想していたとはいえ、洛陽の頭脳とも言える二人にきっぱりと言われると、絶望感でいっぱいになる。

 

「まったく!庇護してほしいって言うから、庇護してやったっていうのに、状況が悪くなるとすぐに掌を返すなんて!」

 

詠も憤慨しているのだ。

 

近辺の豪族たちや諸侯たちが次々と裏切ってしまっている。この戦はどう見てもこちらが不利だ。兵力差はもちろんの事、大義すら奪われてしまった。そんな、負け戦に名乗り出ようなんて奴らはそうそういない。

 

どいつもこいつも『天子』というブランドに群がってきた蟻のような者たちだ。だが、その天子に価値が無いと知れば掌を返すのは当たり前だろう。人は主義では戦わないのだから。

 

「街の人たちの様子はどうなっている?」

 

一刀は聞いてきた。すでにこの情報は民たちの間にも広がりつつある。この洛陽が戦場になるかもしれないのだ。当然、民たちが気がかりになってきた。

 

「今の所、何の変化もないようだけど……やはり不安が広まっているようね。いつ暴動が起きてもおかしくはないわ。」

 

民たちに不満と不安が広がりつつある。民たちにとって『天子』は雲の上の存在だろう。だから、彼らにとっては神楽の正体など小事にすぎない。

 

だが、重要なのはここが戦場になるかもしれないという事だ。霊帝の時代、彼らは悪政に苦しめられ続けてきた。

一刀たちがやってきて、何とか平和になってきたが、それでも過去の傷はそう簡単には癒えない。

また、あんな日が戻ってくるかもしれないと皆不安がっているのだ。しかもその原因を作ったのが一刀たちなら民たちの間に不満が募るのは当然と言えるだろう。

 

 

と、その時、月と神楽がやってきた。

 

「月、神楽!……もう平気なのか?」

 

一刀は二人の心配をしていた。先ほどの二人の取り乱しようはとても酷かったからだ。

 

「はい。あの時は、取り乱してしまい申し訳ありませんでした。ご主人様。」

「もう余たちは平気だ。」

 

二人とも平気と言っているが目の下にクマが出来ている。おそらくロクに眠っていないのだろう。

 

「恐れながら進言いたします。神楽様。月様。」

 

稟だった。彼女は神楽の前に跪き、進言したのだ。

 

「我らの放った使者は戻る気配はなく、このままでは戦が始まるのは時間の問題でしょう。」

 

月と神楽は予想していたとはいえ、きっぱりと言う稟の言葉に動揺を隠しきれなかったようだ。

普段だったら、真っ先に月の精神面を心配するはずの詠だが、今回は稟の言いたい通りに言わせていた。それほど切迫した状況なのだ。

 

「そして我らには、この戦を停戦に持ち込むほどの兵力はございません。」

 

それも当然だ。おそらく敵の兵力はこちらの十倍近いだろう。十倍もの兵力を埋められるような策なんか存在しない。真っ向から勝負すればこちらの負けは確定する。

 

「つまり………打つ手なし……そう言いたいのか?」

 

神楽は神妙にに聞いてきた。多少、間を開けた後、稟はいったのだ。

 

「はい。残念ながら………現状の我々にはどうしようもありません。」

 

一種の宣告のような言葉を聞いた後、神楽はめまいを起こしふらついてしまった。月ももう立っているのがやっとというような感じだ。

 

詠も風も稟の言葉を肯定した。もはや打つ手は残されてはいなかった。絶望感が一刀たちの空間を包む。一刀たちはその場で黙りこくってしまったが、突然、風が口を開いたのだ。

 

「神楽様。風に提案がございます。」

「風?」

 

このどうしようもない状況で一体何を言うのかと思った。

 

「洛陽を捨て、長安に都を移すべきかと……」

「なっ!余にこの洛陽を捨てろと言うのか!?」

「お、おい風……」

 

稟も風を諫めようとしたが、一刀は黙っていた。この流れ、身に覚えがあったからだ。

 

「いや……案外、悪くないかも……」

 

詠もボソッと言ったようだったが、一刀や神楽にはきちんと聞こえていた。

 

「え、詠ちゃん?」

 

月も親友の詠が何を言っているのか理解できないようだ。詠は神楽の前に跪きながら言葉をつづけた。

 

 

「詠、そなたまで……」

「まあまあ。神楽。まずは詠たちの話も聞いてみようぜ。」

「う、うむ……」

 

一刀は神楽を抑え、詠に続きを言わせた。

 

「都を移すと言ってもほんの少しの間だけです。ここは一度、長安に退くだけです。」

「逃げるのか?しかし、引くのは構わんが、それで敵が諦めるとは到底思えん。」

 

神楽はもっともな質問をするが、その答えは風が答えた。

 

「敵の狙いはお兄さんたちですからね~。洛陽にお兄さんたちがいないと分かれば洛陽に来る意味が無くなります。」

「しかし、奴らが長安まで来たらどうするのだ?」

「それは兵糧の関係上ないと思われます。敵さんは、半場無理やりの強行軍になるでしょうから。」

 

風は自信満々に答える、だが、神楽の不安はまだぬぐえないようだ。

 

「だ、だが、敵も体制を整えた後、再度、長安に侵攻してきたらどうするのだ?」

 

確かにそうだ、逃げているだけでは何の解決にもならない。だが、詠を始め軍師たちは勝機のあるような顔で言ってきた。

 

「敵が体制を整えるにはかなりの時間を要します。その間に、僕たちは神楽様の皇帝としての正当性を世に広めます。」

「正当性だと………悪いが、余に正当性などあるとは思えぬのだが……」

「それを何とかするのが、僕たち軍師の役目です。」

 

詠は自信たっぷりに言う。

 

「神楽様が統治なさった街がどれほど素晴らしいかを世に広め、敵の大義名分ごと無かったものにします。」

 

稟も詠と風の考えが理解できたみたいだ。

 

「敵さんは、その大義名分にのみで進軍してきていますからね~。檄のほとんどがデタラメと知れば戦はなくなるかと……」

 

風も自分の策の全貌を明かした後、改めて神楽に決断をさせた。

 

神楽は少し悩んでいた。父を始め、この洛陽には祖先たちが暮らしてきた聖地だ。その都を捨てるというのは、さすがに躊躇いがある。

だが、大切な友人の命には代えることは出来ない。神楽は悩みをふっ切り、帝として、答えを出したのだ。

 

「分かった。都を移そう。早速、準備をするのだ!」

 

神楽は今までの歴史の詰まった都よりも友人たちの命の方を重く見たのだ。その器のでかさに月を始め、一刀も詠も稟も風も膝をついて、この小さな皇帝に跪いたのだ。

 

 

詠たちの作戦は正しい。正史においても、反董卓連合が結成された時、洛陽に董卓がいないと分かったら、連合はいつの間にかチリジリになってしまったのだから。ようは得る物が無かったために、引き返したとのだ。

 

ようやく、勝機が見え始めた。月も神楽もとても喜んでいたが、軍師たちと一刀はまだ懸念していた。

 

「都を移す際に問題が一つだけあります。」

 

稟が口を開くと、軍師たちは全員うなずいた。一刀もまたその理由を理解出来ていた。

 

「……時間か?」

「一刀殿?……はい、一刀殿の言う通りです。都を移すとなるとかなり時間がかかります。ですので、ある程度時間稼ぎする必要があります。」

「詠、都を移すとなると、どれくらいかかる?」

「う~ん……どんなに急いでも二カ月は掛かるわね。」

「敵の結集地点がここだから………約一カ月ほどで洛陽に到着しますね~。」

 

そうだ。問題は時間なのだ。敵は待ってはくれない。十倍の兵力差を持つ相手に一ヶ月間は耐え抜かなくてはならない。

 

「幸運にも敵の経路には汜水関と虎牢関があります。兵力差は何ともなりませんが、この二つなら一ヶ月くらい耐えられるでしょう。」

 

汜水関と虎牢関。この二つの戦いはあまりにも有名だ。天然の要塞であり、攻めにくく、守りやすい。関としてこれほど心強いものはないだろう。

 

「分かったわ。籠城して時間を稼ぎ、長安に移る。基本方針はこれで行くわよ。」

 

詠がその場をまとめ上げた。みんなは頷き、とうとう一刀たちの取るべき道が決まったのだ。

 

勝機が見え始め、希望が出てきたというのに、一刀の心はまだ晴れていなかった。

 

「なあ、詠。……その……雪蓮たちは、どうすると思う?」

 

そうだ。一刀の心には、雪蓮の影が漂っていた。雪蓮は一体どうするのだろう?もしかしたら、自分たちの味方になってくれるのかもしれない。そんな期待もあったのだが……

 

「あまり期待はしない方がいいわよ。彼女たちは立場的に連合に参加せざるをえないから……」

「どういう事?」

「まず、この檄の内容と、連合の規模。そしてこの檄が送られた時期。この三点があるから。」

 

詠は言う。確かのそうだ。世の多くの民草にとってこの連合は『悪政を行っている一刀たちを倒す正義の連合』に映るわけだ。つまり、今の一刀たちに味方するという事は、悪の手助けをする悪い奴らと言われてしまうのは明白だろう。

 

そして、この檄が送られた時期だが、この檄文に書かれている刻限に間に合わせるには、すぐにでも行動する必要がある。

檄文の内容の真意を確かめさせる時間を与えない。また何ともいやらしい時期に送ったものだ。

 

雪蓮たちが袁術、董卓と同盟関係にあるのは、おそらくほとんどの人間が知っているだろう。実際の所、真名を許しあっている仲だ。

 

それゆえ、この時期に檄文を送りつけ、有無も言わさず、この連合に引き込もうという算段なのだ。

 

「……雪蓮……」

 

彼女の立場を考えれば考えるほど、絶望感がわく。彼女たちと戦うなって考えられない事だ。

 

「しっかりしなさい!あんたがそんなんになってどうするのよ!」

「詠?」

「あんたがそんなだったら士気にかかわるのよ!あんたは……その……僕たちの主なんだから!」

「!!」

 

詠に渇を入れられ、ようやく自分の立場というものを理解した一刀。そうだ。自分たちの理想を守るためには戦わなくちゃいけない時だってある。

 

「……ごめんな、詠。そしてありがとう、」

 

一刀は迷わない。たとえそれが最悪の状況であったとしても。いつも通りの笑顔に戻り、ようやくいつもの空気に戻ったのだ。

 

 

軍議はかなりかなり長かった。今日はこのあたりで止めようと、一時解散になったのだ。

 

一刀が自分の部屋の前に行くと、そこに人影が立っていた。七乃さんだった。

 

「七乃さん、どうかしたんですか?」

 

七乃さんの顔はいつもの笑顔ではなく、どことなく怒っているようにも見える。

 

パン!

 

いきなりだった。一体何が起きたのか理解できなかった。そして頬に痺れるような痛みが広がって行く。殴られたのか?どうしてだ?

 

「な、七乃さん?」

 

一刀は最初、理解できなかった。

 

「いつまで、私たちに内緒にしておくつもりなんですか?一刀さん。」

「っ!!」

 

何が内緒なのか?とは言えなかった。一刀は理解した。七乃さんと美羽には全部内緒にしているつもりだったが、七乃さんには全部お見通しだったようだ。

 

「……知っていたんですか?戦が始まるかもしれないって事に。」

「これだけ大騒ぎになれば、誰だって気がつきますよ。……ああ、お嬢様だけはまだ気がついていないようですけどね。」

 

七乃さんはお茶らけに答えるが、とても怒っていた。

 

「どうして、教えてくれなかったのですか?」

「そ、それは……その……」

「私たちでは、何の力にもなれない……そう思ったからですか?」

「…………」

 

違う!そんなんじゃない!そう思っても一刀は口にすることが出来なかった。なんと言えば良いのか分からなかったからだ。

 

「私たちはそんなに信用ありませんか?」

「…………」

 

そうじゃない!そうじゃないんだ!だた、心配なだけで……。一刀は思った事を口にすることが出来ない。

 

七乃さんは、手を振り上げて、また一刀の事を殴ろうとした。何も言わない一刀に怒りを感じているのだろう。一刀もまた甘んじて受けようと思い、目を瞑った。

 

だが、いくら経っても手は振り落とされなかった。ゆっくり目を開けて行くと、七乃さんは優しく一刀を抱きしめていた。

 

「な、七乃さん?」

 

一刀は何事と思った。七乃さんは目に涙を浮かべている。

 

「そうやって、自分一人で何もかも抱え込むのは止めてください。」

「………お、俺は何も抱え込んだりなんかしていませんよ。」

「嘘です。だって……泣いているじゃありませんか。」

「………え?」

 

そんなはずはない。さっき、詠に渇を入れてもらい、雪連たちと戦う事に迷わない。そう誓ったはずだ。

そう、誓ったはずなのに、一刀は手を目に当ててみると涙が浮かんでいた。

 

「えっ!?ど、どうして……?」

 

一刀は袖で涙を拭き取ったが、それでも次々と溢れていく。

 

「一刀さん。少しは私たちを頼ってはくれませんか?」

「……な、七乃さん?」

「私たちは、馬鹿ですから……こんな時、どう言えばいいのか分からないし、策だってロクに言う事は出来ませんけど……」

 

七乃さんは一刀を優しく抱きとめながら言ってくれた。

 

「こうやって、心配することくらいは出来るんですから。」

 

いつの間にか、一刀も七乃さんの事を抱きとめながら醜く泣き続けた。ほんとはとても怖かった。戦が始まる事。雪連たちと戦うかもしれない事、自分が狙われている事。すべてが怖かった。

 

「……うっ………うぐ…………」

 

だが、一刀にはもう立場というものがあるのだ。一刀が弱気になっていたら士気に関わる。だから、強がっていた。でも、本当は怖い。しかし、誰にも言えない。

 

一刀は知らず知らずの内に自分を追い込んで行っていたのだ。でも、七乃さんはそんな一刀に優しくしてくれた。

 

「…………うう………七乃さん………ごめんな……さい……」

「………ごめんなさいの前に言う事がありませんか?」

「………はい……ありがとう……七乃さん……」

「良く言えました♪」

 

しばらく、一刀は七乃さんの胸の中で泣き続けていた。そして、七乃さんもそんな一刀を子供をあやすように抱きしめていた。

 

 

……………………

 

 

……………

 

……

 

 

一刀はようやく泣きやんだ。だが、泣きやむと同時にとても恥ずかしくなってきた。とっさに七乃さんから離れたのだ。

 

「あら?どうしたんですか、一刀さん。」

「す、すすすみません!そ、その………服を汚してしまって……」

 

七乃さんの胸には一刀の涙の跡でいっぱいだった。

 

「そんな事気にしなくていいんですよ。それに面白いものも見れましたしね。♪」

 

七乃さんは冗談で言っているのか分からないがかなり悪戯めいている。

 

「な、七乃さん!」

「冗談ですよ。でも、とても嬉しかったんですよ。あんな風に甘えてくれるなんて。」

 

いつの間にか、一刀は真っ赤になっていた。それを見ている七乃さんは上機嫌だ。

 

「そんなに恥ずかしがらないでください。もう、私たちは家族なんですから。」

「家族?」

「はい。家族です。」

 

なぜか、心が温かくなる。一刀は嬉しくて仕方がなかった。自分には掛けがいのない仲間と家族がいる。

 

「もう、私たちに隠し事はしないでくださいね。約束ですよ、一刀さん。」

「はい、本当にすみませんでした。」

「分かればいいんです。………あ、それと、お嬢様には自分の口からちゃんと説明してくださいね。お嬢様は何も分かっていないのですから。」

「はい。」

 

七乃さんはそのまま自分の自室に戻って行った。体にはまだ七乃さんの温もりが残っている。今日は、ゆっくり休めそうだ。

 

朝が来た。一刀たちの基本方針は決まったので皆、行動を開始していた。特に軍師の三人はとても忙しかった。次々と書簡のようなものに書き込んでいる。何を書いているのかは分からないが、編都する際の書類には間違いないだろう。

 

忙しかったのは彼女たちだけではない。霞も華雄も軍の編成に手間取っている。何せ、汜水関に虎牢関に籠城すると決まっていても、相手は自分たちの十倍近い兵力なのだ。それにその二つに全軍を投入する事も出来ない。時間稼ぎが目的なので、なるべく守りに強い兵士たちを集めるのは当然と言えた。

 

恋とねねも軍の訓練でとても忙しそうだ。とは言うものの、忙しそうなのは彼女たちではなく、むしろねねにどやされている兵士たちの方に見える。

 

一方の一刀だが、あいにくとは仕事が無かった。みんなの手伝いをしたかったのだが、詠たち軍師の仕事はあまりにも難しく、一刀の手に負えない。

 

軍の編成に関しても、実際に戦うのは霞と華雄なのだから横から口を出すわけにもいかない。

 

恋とねねの手伝いをしようとしても、ねねに邪魔者扱いされた。正直、ここまで来ると悲しくなってくる。

 

「………美羽の所に行くか……」

 

なぜそう思ったのかは分からないが、七乃さんとの約束もある。美羽にも今の状況を教えなきゃならない。そう思い、彼女の私室を訪れたのだ。

 

 

一刀は美羽の私室の前にまで来た。

 

「美羽、居るのか?」

 

部屋には行ってみると中には誰もいなかった。美羽が一人で出歩くなんてそうそうない。一刀は城のあちこちを探し回った。

 

そして、城の見晴らし台にまで来た。そこに美羽がいた。一人で街を眺めている。普段、そんなことはしないはずなのだが……

 

「美羽。」

「うん?…おお!一刀!」

「こんなところで何をしているんだ?」

「何にもしとらん。ただなんとなく来ただけじゃ。そういうお主は?」

「ああ。美羽の事を探していたんだ。」

「妾を?何の用じゃ?」

 

一刀は少し悩んだ。要件と言っても、ゆっくり遠回しに話すか、直接、言ってしまうか、悩んでいるのだ。なんせ、自分が討伐のリストに挙がっているのだ。生命がかかわる以上、かなりデリケートな問題になる。

 

「一刀?」

「あ、ああ!すまない。え~とだな………」

「うん?」

 

(だめだ!言えない!あなたの従妹から討伐命令が来てます、何て言えるわけがない。)

 

「え~と……実はだな、俺たちに戦を仕掛けようとする連中が現れたんだ。」

「な、なんと!本当なのかや!?」

「ああ。」

 

ひとまずは袁紹の名前を伏せておいて、大まかな事だけを伝えようとした。

 

「何とも馬鹿な連中じゃの~。妾たちに適うと思っておるのかの~?」

「……………」

「ん?どうして黙っておるのじゃ?」

「あ、いや、何でも無い。」

「ま、良いか……所でその愚か者たちは一体誰なんじゃ?妾たちに挑んできた度胸だけは褒めんとの~!ふはははははは!」

 

美羽は調子に乗りまくっている。やっぱり隠しておく事なんか出来ない。いつかは絶対にばれるんだ。早いうちの方が、傷も浅いだろう。そう思って一刀は正直に答えようとした。

 

「美羽、落ち着いて聞いてくれ。」

「うん?なんじゃ、いきなり改まりおって………」

「実はだな……俺たちに戦を仕掛けようとしている奴は……袁紹なんだ。」

「な、何じゃと~!」

 

さすがに驚きは隠せないようだ。従妹に命を狙われるなんてどんな気持ちになるだろう?一刀は美羽の精神面が心配だった。

 

「うははははは!麗羽め!とうとうヤキが回ったようじゃの~!」

「…………あれ?」

 

どうしてショックを受けないんだ?従妹からの宣戦布告なんだぞ。それどころか喜んでいるようにも見える。

 

「妾たちに敵うと思っておるのかの~?ぬふふふ………ん?どうしたのじゃ、一刀。」

「いや、何とも思わないのか?袁紹はお前の従妹なんだろ?」

「なぜじゃ?………おっ!いや、悲しい、非常に悲しくて残念じゃ。」

「え、あ、うん。やっぱりそう思うよな普通。」

 

良かった。やっぱり悲しんでいるようだ。………あれ、悲しませないように言ったのに、どうして良かったなんて思ったんだ?

 

「うむ、実に悲しい。同じ袁家の者を討たなければならんとわ……実に悲しいぞ。ふふふふふ。」

「………………」

 

目が笑っている。絶対に悲しんでなんかない。と、その時、七乃さんがやってきた。

 

 

「あ、お嬢様。こんなところにいらしたんですか?探しましたよ。」

「おお、七乃。」

「あ、七乃さん。」

 

七乃さんと目が合った。昨日はあんなに泣いてしまったのだから、目を合わせるのがとても恥ずかしい。

 

「七乃や、聞いたかや?麗羽が攻めてくるらしいのじゃ?」

「ええ~!そうなんですか~!」

 

いかにもわざとらしく驚いた七乃さん。

 

「麗羽も馬鹿じゃの~!うはははは」

 

美羽はもう上機嫌だ。そんなに袁紹と戦争するのが嬉しいのか?

 

「お嬢様と麗羽様は、仲が悪いですからね~。」

「え?そんなに仲が悪いの?」

「はい、それはもう。」

「…………………」

 

一刀は街の方を向いて、大きく息を吸った。

 

「ん?どうしたのじゃ、一刀。」

 

美羽が不思議な行動を開始した一刀に問いかけた所、

 

 

 

 

「ちっくしょおおおおあああああああああああああああ!!!」

 

 

 

 

「ぬお!い、いきなりなんじゃ!びっくりするではないか!」

 

「すまない、でも叫ばずにはいられないんだ!」

 

今までの悩みは一体何だったのだろう?あんなに悩んで、美羽を傷つかせないように悩んで、七乃さんにまで泣きついて、赤っ恥までかいたというのに!

本人は傷つくどころか、喜んでさえいる。

 

(はっ!?)

 

一刀は思った。七乃さんは美羽と袁紹の仲を知っていたはずだ。どうして、教えてくれなかったんだ?

 

一刀は七乃さんの方を向いた。七乃さんは笑いを堪えるかのような笑顔だった。

 

「………七乃さん……」

「はい?」

「……酷いです。」

「どうしてですか?♪」

「………………」

 

もういいや。あまり考えないようにしよう。この人たちと話していると頭が痛くなってくる。だが、一刀は悟ったはいいものの、根本的な解決にはなっていない。

 

「美羽。張り切っているところ申し訳ないが、俺たちは勝てないかもしれないんだぞ?」

「え、なぜじゃ?」

 

一刀は檄の内容を話した。

 

「なんと!相変わらず卑怯な奴じゃ!」

「本当ですね!お嬢様。」

「ようやく分かったか。だから、俺たちは一時、長安に行く事になるかもしれないけど……一ヶ月間、汜水関と虎牢関だけで耐えられるか……」

 

いくら、最強の関とはいえ、兵力差が軽く十倍以上あるのだ。だから、絶対に耐えられるとは言えない。

 

「大丈夫じゃろ。」

「え、美羽?」

「妾たちにはお主がおる。」

 

美羽は屈託のない笑顔で言う。

 

「月たちもおる。恋だっておる。………気に入らないが雪蓮たちだっておるのじゃ。妾たちが負けるなんて絶対にありえん。」

「美羽?………そうだな、俺たちが負けるはず無いか!?」

「当たり前じゃ!お主は一体何を悩んでおるのじゃ?」

 

相変わらず、自信満々な笑顔で答えていた。だが、この無邪気な笑顔にいつも助けられていたのは事実だ。

みんな、この裏表ない笑顔に引かれていったのかもしれない。そう思っていた。

 

 

「さてと、随分と話し込んでしまいましたね。とっくにお茶の準備は整っておりますよ、お嬢様。」

「おお、そうじゃった!忘れとった。一刀もどうじゃ?」

「いや、まだやる事が残っているから。」

「なんじゃ、つれないの~。」

「また今度誘ってよ。」

「うむ。」

 

そう言って、美羽たちは行ってしまった。一刀はその場でたそがれていた。

 

「………仲間……か。」

 

一刀は一人呟いていた。

 

「昔の美羽なら考えられない単語だな。」

 

一刀は、思わず苦笑してしまった。

 

「なあ、雪蓮。お前はこんなにも美羽に必要とされてるんだぜ。」

 

一刀は、その場にいない雪蓮と話している。だが、答えが返ってこない事は重々承知している。それでも、一刀は話すのを止めない。

 

「……助けてくれよ……雪蓮……」

 

思わず、呟いてしまった。彼女の立場を考えればそんな事ありえないのに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日がたった。建業から使者がやってきた。

 

使者は一刀たちに檄文を渡した。そこに書かれていたものは、一方的な同盟破棄であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

建業

 

「本当にいいのか、雪蓮。」

 

「うん。もう決めた事だから。」

 

 

「そうか、ならば何も言うまい。」

 

「………ごめんね、冥琳。我がまま言っちゃって。」

 

「気にするな。お前は王なのだから。」

 

「うん。」

 

(美羽、一刀。必ず、助け出して見せるわ!だから、待っていて。)

 

 

 

続く

 

 

あとがき

 

こんばんわ、ファンネルです。

 

どうでしたか、今回の本編は。

 

次回は、とうとう汜水関の戦いに入ります。

 

次回は、一刀視点ではなく、雪蓮視点からの話になると思います。

 

では、次回もゆっくりしていってね。

 


 
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