No.874204

ジョジョの奇妙な冒険、第?部『マジカル・オーシャン』

piguzam]さん

ep45~天国へ行く方法があるかもしれな(ry

2016-10-14 02:01:01 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:7331   閲覧ユーザー数:6655

前書き

 

 

 

半年前

 

ディオ「随分とぉ……待たせてくれるじゃないかッ!!PIGZAMU]ゥゥウッ!!」

 

PIGZAM]「ひいぃ!?スイマセェン!!」

 

一年後

 

DIO「一年経って……執筆力が衰えたんじゃあないか?PIGZAM]ウゥゥウウッ!!」

 

PIGZAM]「アンタは一年で進化しすぎッ!?」

 

 

はい、という訳で……誠にすいませんでしたぁあああ!!(土下座)

 

仕事が忙しかったのがブラックに早変わり。

執筆時間ゼロというヤバすぎる状況でした(五体投地)

 

会社内装DIYってなんやねん……しかも俺一人て……鬼畜ぅ!!

 

とりあえず懺悔はここまでとして(ォィ

 

 

今回、恐らく前までと作風ガラリと変わってますが、あんまり気にしないで下さい。

 

それとですね、作品内に※←コレをつけた場所があるんですね、ハイ。

 

このマークから先は是非とも、アニメ版ジョジョの奇妙な冒険のbgm

 

Noble Pope を聞きながら閲覧下さい。是非とも!!(迫真)

 

 

それと残念ながら、コナン編は今話で一度終了となります。

 

作品内の時間的に、もう書くのは難しいと判断いたしましたので。

 

これからは定明の空白期にちょくちょく挟んで行こうと考えてる所存です。

 

 

では、どうぞッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もぐ、もぐ……」

 

チュンチュンと小鳥の囀る清々しい朝。

このBGMは即ち、平和という何物にも変えがたい日常の始まりだ。

晴れた空の見える窓の外が、より一層心を洗ってくれる。

 

「はい定明君。これ作ってみた松前漬なんだけど、どうかな?」

 

「あ、ありがとうございます……美味そうだ」

 

そして爽やかな一日の始まりには、その日を動く糧となる食事が必要不可欠だ。

まだ寝起きの体に活を入れ、しかし刺激が強すぎない優しい味わい。

昨今は乱れがちだが、日本人の朝食には欠かせない純白の米。

その優しい白米の味にアクセントを加える漬物は、白米と一緒に口に入れる事で価値が跳ね上がる。

元々は北海道の郷土料理の一種であった松前漬。

蘭さんが笑顔でお椀に盛ってくれたその松前漬を箸で掬い取り、ホカホカと湯気を点てる白米に優しく乗せる。

漬け汁がご飯に絡んだのを確認し、それらを一気に口へ頬張る。

 

ぷちっ、ぷちぷちっ。

 

「ン~~……」

 

数の子のプチプチと潰れる食感。

まるでししゃもの卵を噛んでいるかの様な極上の味わいを堪能して、俺は笑みを浮かべてしまう。

そしてそのまま、蘭さんお手製の味噌汁をズズッと一飲み。

昆布から滲み出たぬるりとした喉越しを、綺麗さっぱり打ち消してくれる。

 

「はぁ……たまんねぇ」

 

「定明君はホントに美味しそうに食べてくれるから、作り概があるよ」

 

「ノンノンノン。美味しそうに、じゃあないッスよ。実際に蘭さんの作る飯が美味いから食べまくってるんス。母ちゃんの飯で舌肥えてる俺が言うんだから間違いないっすよ」

 

「もうっ。あんまり褒めないでよー」

 

煽てられても困っちゃうんだからー、と恥ずかしそうに手を振りつつ、しかし満更でも無さそうな顔をする蘭さん。

しかしまぁ、実際にうめえんだから褒めるしかない訳だ。

高校生でこれだけ家事が出来るなんて、間違いなく将来は良い奥さんになるだろう。

こんな良い人に想われてる工藤新一さんはその幸運を噛み締めるべきだぜ。

自分の考えに軽く頷きながら焦げ目の無い鮭を食べて、ご馳走様と挨拶をする俺。

それに返ってくるのは笑顔の蘭さんの「お粗末さま♪」という言葉だった。

 

「うん♪定明君は何時も綺麗に食べてるね♪凄く良い事だよ」

 

「……母ちゃんがね……一粒でも残ってると、悲しそうな面するんスよ。まるで一昔前にCMに出てた、あのチワワみてーなつぶらな目で、ね」

 

「……あ、あはは……で、でも、そのお陰で定明君もお行儀良く食べれてるじゃない?……それに比べて」

 

俺の言葉に苦笑いしながらもフォローを入れてくる蘭さんだが、その目は次第に半目になり、他の空いてる席へと向かう。

そこには、空になった『二人分』の食器が乱雑に置かれたままだ。

鮭は骨に多くの身が残っており、ご飯なんて米粒がかなりくっ付いている。

まるで遅刻しそうで慌てて食べた様な惨状だが、ここに座っていた二人はそんなに忙しい予定は無い。

じゃあ何故こんな風に散らかっているかというと、本人達が急いで行動したかったからだ。

 

「お父さんとコナン君の食器、二人に洗わせようっと。定明君、お茶のお代わり要る?」

 

「お願いしゃっす。出来れば緑茶で」

 

「りょーかい♪持ってくるからテレビでも見ててね」

 

「うーっす」

 

蘭さんの決定した言葉に苦笑いしながらお茶のお代わりを頼み、俺は姿勢を変えてテレビの電源を入れる。

丁度チャンネルは天気予報が終わってニュースが始まった様で、原稿を持ちながらニュースキャスターが一礼していた。

 

あぁ、どうにもこれは――”あの一件”の事らしい。

 

 

 

『続いてのニュースです。”4日前に起こった”ベルツリータワー狙撃事件について、警察はティモシー・ハンター37歳。及びケビン吉野32歳の二名を、殺人逃亡の容疑で逮捕した事を表明しました』

 

 

 

流暢に文面を読み上げたニュースキャスターから場面が切り替わり、警察から留置場へと連行されるハンターと吉野の二人の姿が映し出される。

上着を頭から被せられ、手錠を付けられた二人が高木刑事と千葉刑事に連れられてバンに乗せられていく。

 

『昨日ハンター容疑者と吉野容疑者は朝8時頃、警察署に出頭し、「自分と相方であるケビン吉野が、藤波氏を狙撃、殺害した」と供述。更に殺害に使用したライフルや拳銃の隠し場所を延べ、警察がこれを押収した事で逮捕となったそうです』

 

ニュースキャスターの述べる言葉に従って画面が切り替わり、吉野が使っていたライフルや拳銃が映し出される。

どうやら犯行に使ってた銃器はホンの一部だったらしく、テレビにはマシンガンに爆弾、更に暗視スコープなんかも映ってやがった。

やれやれ、戦争でもおっぱじめるつもりだったのかよ。

 

「あっ、またこの事件のニュースやってるね」

 

「そうっすね。ある意味じゃ最近で一番ホットな話題ですから」

 

「あんまりこういう事件で賑わって欲しくは無いけど……はい、どうぞ」

 

「ども」

 

ふぅ、と溜息を吐きながら首を振っていた俺だが、蘭さんが持ってきてくれたお茶をお礼を言って受け取る。

冷たく心地良いお茶で喉を潤しながら、清々しい朝を迎える為に払った労力を労う。

 

 

一昨日の晩にハンターと吉野をブチのめした事で、俺の杞憂を取り払うことに成功した訳だ。

 

 

さすがに昨日一日は眠くて朝食を食べた後は蘭さんにバレない様に探偵事務所から出て公園のベンチで爆睡。

……は出来ず、結局少年探偵団純粋年齢組の夏休みの自由研究の買出しに付き合わされちまったがな。

ちなみに付き添い、というか保護者役は俺と灰原で、コナンは世良さんと急に自首した犯人の意図が理解できなかったらしく、世良さんと伯父さんと一緒に警視庁に行っていた。

協調性の無いコナンに宿題のアレコレを押し付けようと決定してる純粋年齢組。

まぁさすがにそれはコナンの自由、というか自己責任なので止める気は無かった訳だが。

 

そんなこんなで、昨日は幸運な事に事件らしい事件は発生せず、比較的穏やかに一日が終了。

 

そして今日、俺が海鳴市に帰る日を迎える事が出来た。

これで少なくとも、蘭さんと伯父さんがあの狙撃事件に巻き込まれる事は無いだろう。

俺も無事に帰れるし、蘭さん達の周囲の安全も確保。

 

正に文句なし、ヴェェリィイィナァ~イスな結果を生み出せたぜ。

 

 

 

ただ、急に自首してきた二人の犯人の謎、そして姿の見えない謎の狙撃手(俺)の捜索。

 

警察の皆さんはやる事満載だろーし、捜査協力を依頼された伯父さんも大変だろうが、そこは俺の知った事じゃない。

 

コナン?あいつは自分で事件に首突っ込んでいくからノーカンだろ。

 

 

 

現に今日も、犯人達の供述の詳しい内容を目暮警部から聞く為に急いで飯食ってた伯父さんにくっ付いて行ったぐらいだし。

そういえば昨日、例の森山夫妻も北海道から帰ってきて普通の日々に戻ったって伯父さんが言ってたっけ。

もしかしたら、いや確実にハンター達に殺される所だった人を救えたのは、やれやれ一安心ってな。

 

『更に両容疑者はこの事件の3週間前にアメリカ・シアトルにて地元新聞記者であったブライアン・ウッズさんを狙撃、殺害した事件についても供述しており、アメリカ政府から身柄引き渡しの要請も来ていることから、裁判は難航を極めるものと予想されます』

 

「……やっぱり、アメリカの事件もこの人達のした事だったんだね」

 

「ごく……えぇ……奥さんをノイローゼに追い込んだ張本人らしいっすから……」

 

お茶を飲みながら答えると、蘭さんはテレビを見ながらやりきれない顔になってしまう。

 

「人を殺すのは、いけない事だけど……あのハンターって人の事を聞いたら……何とも言えない、かな」

 

「……そうっすね」

 

そもそもの殺された理由が、身から出た錆ってヤツだ。

人一人をノイローゼに追い込んでおいて、その記事で成功して悠々自適な生活だなんて虫が良すぎるってな。

単純な話、ハンターは『やられたからやりかえした』――それだけだ。

でも、だからって自分の復讐に周りを巻き込んで良い理由なんて無え。

……それだけは、何がなんでも越えちゃいけねえラインなんだよな。

 

「ズズッ……ご馳走様ッス、蘭さん。俺はちっと部屋に戻りますね」

 

「あっ、うん。もう”荷造り”は終わったの?」

 

「勿論全部終わってますよ。切符の予約も万全。後は悠々自適に新幹線に乗って帰るだけの簡単なお仕事、ってね」

 

「……普通小学生一人で新幹線に乗るって、簡単じゃないと思うけど……まぁ、準備が出来てるならOKだね」

 

ニュースから目を離して立ち上がり、蘭さんの質問に笑顔で返す。

後一時間後くらいの新幹線で、俺はこの米花町から愛しの地元へ帰ることが出来るんだ。

もう事件の心配が減ると思うと笑顔にもなる。

ハンターの復讐を邪魔したのも、蘭さんの苦笑いだって全くこれっぽっちも気にならねえくらいだ。

 

 

 

――それにしても、よぉ。

 

 

 

『そして、ハンター容疑者のシルバースター授与を巡る交戦規定違反の嫌疑における偽装、及び捏造の容疑で当時陸軍特殊部隊大尉であったジャック・ウォルツ被告、及び元陸軍三等軍曹のビル・マーフィー被告が強制帰国しました。既にアメリカ警察の調べで、両被告の収賄、贈賄、武器密輸や麻薬製造等、次々と余罪が判明しており――』

 

 

 

清々しい、良い朝だぜ。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「伯父さん。二週間、お世話になりました」

 

「なぁ~に、良いって事よ。久しぶりに甥っ子に会えて楽しかったぜ。それに、たんまり稼がせてくれたしな♪」

 

「もう。お父さんてば」

 

(小学生とパチンコ行って勝って嬉しそうにするなよなぁ、このおっちゃんは……)

 

朝食から2時間程過ぎて警視庁から帰ってきた伯父さんに乗せてもらい、俺達は駅に来ていた。

理由は勿論、これから海鳴に帰る俺の見送りだ。

今は新幹線の到着を待っていて、最後に皆に挨拶をしている最中である。

上機嫌に胸元を叩いて笑う伯父さんの姿に、蘭さんは腰に手を当てながら溜息を吐く。

コナンもその隣で呆れた表情を浮かべている。

そんな3人の様子を見ながら、俺はカバンを担いでジョセフ・ジョースターの被っていたハットの鍔を直して笑みを浮かべた。

最後の最後まで、この人達の笑顔が欠ける事が無くてホッとしたぜ。

ちなみに伯父さんとパチンコに行った経緯は、お小遣い半分カットされた伯父さんの哀愁漂う背中がアレだったんで。

 

「蘭さん、二週間、美味い飯とか洗濯とか本当にありがとうございました」

 

「あぁ、良いよそんな。また何時でも来てね?お姉さんが腕を振るっちゃうから♪」

 

最後くらいは礼儀正しく頭を下げた俺に優しい言葉を掛けてくれるが……正直、米花町はもう勘弁ッス。

だがそんな事を面と向かって言う訳にもいかないので、苦笑いで誤魔化しておく。

んで、次は少し悔しそうな顔でブスッとしてるコナンだ。

まぁそんな顔をしてる原因は分かってるので、軽くニヤリと笑いながら近付く。

 

「残念ながら、俺の鉄球の謎は解けなかったな」

 

「……くっそ~。難しいなー」

 

(久々だぜ……ここまで難解な謎は……ったく。それに鉄球どころか、コイツのマジックのネタすら解けねぇなんて……)

 

「へへっ。これで後は工藤新一さん、だっけ?その人だけだが……」

 

ギャルギャルギャル

 

そこで言葉を切って、俺はコナンの目の前で鉄球をホルスターから取り出して回転させる。

 

「こいつを直に見てねぇんじゃ……まぁ、無理だろうな」

 

(バーロー。直に何度も見てるっつの)

 

「まっ、何時か謎が解けたんなら、俺に教えてくれよ?」

 

「……何時か、絶っ対に解いて見せるからね」

 

と、コナンは挑戦の炎をメラメラと燃やした目で俺を見ながら、百円を取り出して俺に差し出す。

前回の服部さんとのやりとりは覚えていた様だ。

俺は鉄球を閉まって「サンキュ」と言ってそれを受け取る。

たかが百円、されど百円ってな。

 

「おっ居た居た」

 

「定明さーん!!」

 

「ん?」

 

と、コナンとのやりとりを終えた俺の耳に自分の名前を呼ぶ声が聞こえ、そっちに目を向ける。

すると、ゾロゾロと今日までに会った面子の世良さん、園子さん、阿笠ハカセ。

更に少年探偵団純粋年齢組と灰原の姿を発見した。

 

「あらら。随分と大所帯になっちまったか」

 

「いいじゃないか、見送りは賑やかな方が、さ」

 

苦笑いしてしまった俺の頭をグリグリと撫でながら、世良さんは邪気を感じさせない笑顔でそう言う。

っつうかあんまグシャグシャすんなっての。

 

「定明さん、もう帰っちゃうんだ……」

 

「寂しくなりますね」

 

「もっとこっちにいりゃあ良いじゃねーか」

 

しきりに俺の頭を撫で回す世良さんから逃げようとする俺と逃がすまいとする世良さんのプチ攻防の中、吉田と円谷、小嶋達がそんな事を言い出す。

三人の顔は本当に残念そうで……そんな風に思われてんのは悪い気はしねぇな。

 

「まっ、俺にも向こうの生活あるからな。こっちもお前等のお陰で中々楽しかったぜ?」

 

面倒くせー事も多々あったが、というのは言わないでおく。

実際結構楽しい事はあったからな。

俺の台詞を聞いた3人は目を輝かせ、吉田は「また来てね」と言ってくる。

……気持ちは嬉しいが、事件はなぁ……。

そして吉田の言葉にどう返そうかと考えていたら、3人はおもむろにポケットに手を入れ――。

 

「「「少年探偵団の一員としてッ!!待ってる(から!!)(ぞ!!)(ます!!)」」」

 

「……何時か、そんな未来がありゃあな」

 

こいつ等まだ諦めてなかったんかい。

しかも事件に出会う確立どーのこーのじゃなくて、事件に向かうスタンスじゃねぇか。

 

「あらあら。一気に目の鮮度が落ちてるじゃない」

 

「やかましい。落としたくて落としちゃいねえよ」

 

「あ、あはは……あ、あいつらも悪気は無いんだよ?……多分」

 

「そこはキチッと断言して欲しかったぜ……」

 

灰原の言葉を借りるなら、水揚げされて時間の経った魚の目をしながら、俺は溜息を吐く。

そんな俺に苦笑いしながらフォローになっていないフォローを入れるコナンと、どこか面白がっている灰原。

俺達の視界の向こうで例の自由研究について議論している3人の後ろから、園子さんが出てきた。

 

「まーアタシはあんまり絡んで無かったけど、元気でね少年。後、バッグ取り返してくれてサンキュー♪」

 

「……そんな事もありましたねぇ」

 

たった2週間ほど前の事の筈……なのに、中身が濃すぎて遠い記憶にすら感じさせられる。

もう夏休みの思い出って言われたらこの町での出来事ばっか出てきちまうよ。

まぁ最初からそんなに話す事は無かったのか、園子さんは「じゃ、元気でやんなよー」とさっぱりした挨拶と共に蘭さんの方へ。

次に声を掛けてきたのは、ある意味で素敵なプレゼントをくれた阿笠ハカセだ。

 

「定明君。また何時でも遊びに来とくれい。もしそのスケボーに故障があったら、ワシが完璧に直すからのう」

 

「あー、そん時はお願いします。それと改めて、こんなグレートにカッピョイイもんくれて、本当にありがとうございます」

 

「にょっほほほほほっ!!なんのなんのじゃ!!」

 

自分の発明品を褒められて嬉しいのか、ハカセはそのでっぷりした腹を揺らして笑う。

母ちゃんの送ってくれてた俺の衣類は母ちゃんと父ちゃんが帰ってくる今日の3時頃に合わせて既に送ってある。

今、俺が持ってるのは携帯に財布や携帯充電器なんかを詰めたバッグ、それとハカセからもらったスケボーだけだ。

気楽な行き帰りで良かったぜ。

そんな感じで最後に皆と挨拶を交わし、ホームに入ってきた新幹線に乗り込んで入り口で振り返る。

 

 

プルルルルル。

 

 

『まもなく、列車が発車致します』

 

 

どうやらそろそろ、時間らしい。

 

 

「定明君、元気でね。あんまりダラダラしちゃ駄目だよ?お父さんみたいになっちゃうから」

 

「蘭ちゃーん?お父さんここなんだけどー?軽く傷付いちゃうぞー?」

 

「良い、次に会う時も変わらないでね?」

 

「あー……まぁ、了解っす」

 

伯父さんの声もなんのその、蘭さんはかなりマジな声音で俺に注意してくる。

実の娘に無視された伯父さんは軽く肩を落としながらも、苦笑しながら俺に視線を向けていた。

伯父さん、中々にタフな根性っす。

 

「やれやれだぜ……雪絵と結城君にもよろしく言っといてくれ。また会いに行くからよ」

 

「うっす。ありがとうございました」

 

「おう」

 

「定明兄ちゃん、元気でねー」

 

「あぁ、コナンもな。あんまし事件に首突っ込んで、蘭さんと伯父さん心配させんじゃねーぞ」

 

「う、うん。ばいばーい」

 

俺の言葉に苦笑いするコナンだが、多分効果ねーだろーな、あんまり。

他の皆からもさよならの言葉を貰ってから窓を閉め、新幹線が動き出して景色が流れていく。

そして遂に、ホームで手を振っていた皆の姿が見えなくなり、米花町の景色だけが窓に映る。

 

 

……これで終わったって事だな……うん……。

 

 

「――~~~~~ッ……フウゥ……ッ!!」

 

 

新幹線の速度が乗り始め、既に俺は危険区域から出掛かっている。

それを認識し、俺は深く息を吐いて満面の笑みでガッツポーズを取った。

二人席の指定席を取ったから横には誰も居ないが、通路挟んで隣の席のおっさんが首を傾げて俺を見ていた。

だがそんな事、ちっとも気になんねぇ。

コナンと伯父さんが揃ってる時点でもしかしたら事件に巻き込まれるかと思ったが……全く、やれやれだ。

しかしまぁ、どうやら幸運の女神様はちょっとだけ機嫌が良かったらしい。

二日連続で何の事件にも巻き込まれずに入れるとは……心の底から”グラッツェ”と言って贈りたい気分だ。

 

それに母ちゃん達も出張先で何のトラブルも無かったみたいでホッとしたぜ。

 

席を少しだけリクライニングさせてバックからコーラとペンを取り出す。

まぁ所謂、祝杯ってヤツだ。

この俺、城戸定明の”帰還祝い”ってヤツよ。

 

「よっと」

 

プシューッ

 

缶の底にボールペンで穴を開けてっと。

んで、ベキッベコッという音を鳴らしながら缶からペンを引き抜き、穴に口をつける。

後はそのまま――。

 

カチッ。

 

ゴボゴボゴボォッ!!

 

「んぐッ!!んぐッ!!んぐっ……ッ!!」

 

一気に流れ出てくるコーラを飲み干すッ!!

 

「……ゲブゥ」グシャッ!!

 

そして大きなゲップをしながら缶を握り潰した。

……くぅ~ッ!!美味え……ッ!!最高の一杯だぜ……ッ!!

大声でこの喜びを表現してぇ所だが、列車の中なのでそれは自重。

後はこのままゆっくりと新幹線の旅を楽しみつつ、海鳴に帰るだけだ。

アリサ達からも昨日ハンター達逮捕のニュース速報が出て直ぐに連絡が来て、今日帰る事も伝えてある。

今日からは、殺人事件なんて無い平穏な日々が、また始まるんだ。

 

「っと、その前に……英気を養っておきますか」

 

俺はいそいそとバックからヘッドフォンとプレーヤーを取り出し、再生を開始。

シートのリクライニングを更に倒して、完全に寝る体制に入る。

耳元から聞こえてくるマドンナの美声に心を癒されつつ、瞼を閉じた。

まだ一昨日の眠気が少し残ってるし、ゆっくりと寝るとしますか。

 

「明日はリサリサと買い物だし……疲れ……とっとかねぇと……な……スー」

 

 

 

 

 

誘われる眠気に身を委ね、俺はゆっくりと夢の世界へと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――誰かが言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――様。――が現れました。――如何いたしましょう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――平和とは――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――愚問だな――よ。――私の期待に応えてくれよ?」

 

「――ハッ。必ずやこの――が、貴方様へ――献上してみせます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うむ、ならば――行くがよい――新たなる地……その『海鳴』とやらへ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――次の戦いまでの準備期間である――と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「ん~~~~……ッ!!!……帰って来れたぜ……ッ!!海鳴にぃ……ッ!!」

 

新幹線に揺られる事、数時間。

俺はあの魔都米花町から帰還し、遂に愛しの地元へと帰ってきた。

この田舎と都会が融合した町並み、新鮮な空気。

俺の大好きな地元の匂い……全てが最高だ。

 

「さぁ~て……久しぶりに家でのんびり映画でも見るとすっかねぇ」

 

何を見るか?「drドリトル」も良いし「仮面の冥土GUY」も捨てがたい。

スーパーの薄っぺらいクリスピー生地のピザにアップルテイザーのセットがありゃあ最高だ。

 

「熱々のチーズとサラミ、バジルペーストのジェノベーゼ……たまんねぇな」

 

「私としては、小エビと玉葱の乗ったガンベリをお勧めするけど、どうかしら?」

 

「おぉ。それも美味そう、だ?……って」

 

「フフッ、だーれだ♪」

 

と、俺の独り言に自分の意見を混ぜる声と、俺の視界を覆い隠す柔らかい手。

背後から聞こえる声には、楽しいという感情が乗せられていて良く弾んでいる。

 

「この落ち着いた声は……リサリサだろ?」

 

「あら、バレちゃった?」

 

俺の回答にちょっと驚いた声で答えると手が離れて、俺の視界が拓ける。

振り返ると俺の答え通り、手を口元にやって微笑むリサリサの姿があった。

チュニック丈のチェックシャツに黒のショートパンツを合わせたコーディネートが良く似合っている。

 

「声を弾ませて、アリサっぽくしてみたんだけど似てなかったかしら?」

 

「いや、似てたぜ?でも最初にちょっと笑ったので分かったんだよ」

 

「??笑ったから?」

 

訳が分からない、といった感じのリサリサに、俺は肩を竦めて少し笑う。

 

「アリサがふふっなんて上品に笑う時は、上機嫌どころか逆にプッツンしかけてる時ぐらいだろ。それ以外はもっと快活に且つ自信満々に笑うのがアイツだろ」

 

暗に普段は上品に微笑むアリサなんて想像出来ないって言ってる様なモンだ。

勿論聡明なリサリサにこの言葉が分からない筈も無く呆れた表情を浮かべる。

 

「ジョジョったら……ひどいわよ、それ」

 

「まぁ他にも色々あるがとりあえず……何で駅に居るんだ、リサリサ?」

 

あまり続けるとよろしくない会話(俺の精神的に)なので切り上げ、かねてからの疑問を口にして話を逸らす。

確かリサリサとの約束は明日の筈だった。

だから俺も今日は家でゆっくりしようと思っていたんだしな。

と、俺の質問を聞いたリサリサは俺がやったように肩を竦めながら口を開く。

 

「私はおつかいの帰りよ。院長先生が足を捻って捻挫しちゃったから、代わりに郵便局まで荷物を出しに行って来たの」

 

ここで会ったのは偶然よ、と微笑を浮かべながらリサリサは答える。

なるほどな。確かにリサリサもこの町に住んでるんだから、バッタリ会う事もあるか。

 

 

 

そう自己完結しつつ、リサリサにこれからどうするのかを質問し――。

 

 

 

――こっち――です。

 

 

 

「ッ!?」

 

「?ジョジョ?どうしたの?」

 

突如、頭に響いた声を聞いて反射的に振り返ってしまう。

いきなり反対方向を向いた俺に、リサリサの不思議そうな声が聞こえてくる。

どうやらリサリサには今の声は聞こえなかったらしい……だが。

 

 

 

――こちらへ――来るのです。

 

 

 

「幻聴って訳でも……無さそうだな」

 

「??」

 

「いや、何でもねえ」

 

首を傾げるリサリサに笑いながら答え、担いでいたスケボーを地面に下ろす。

……帰ってきて早々だが、確認しねぇ訳にもいかねえか。

 

「……リサリサ、少し急用を思い出した。悪いがまたな」

 

「え?あっ、ジョジョッ!?」

 

「明日の約束は覚えてるからよッ!!また連絡するッ!!」

 

「ちょっと待っ――」

 

ギャギャギャギャギャギャッ!!

 

急に走り出した俺にリサリサが声を掛けるが、俺は走りながら答える。

俺はスケボーの速度を上げて、自分の勘に従って道を走っていく。

……頭の中に聞こえる声に従って走るだぁ?普段の俺なら絶対にしねー行動だぜ。

そんな不穏なモンは無視するのが、この俺のセオリーなんだが――。

 

「ここで行かねーと、更に不穏な目に遭っちまう気がするんだよなぁ……勘、だけどよぉ」

 

虫の知らせ、とでも言うんだろーか?

それが俺の頭の中で猛烈に鳴り響いてんだ。

だからこそ、行かなきゃならねぇ。

 

「寧ろ徒労で終わって欲しい所だぜ」

 

自分の勘が外れている事を祈りながら、俺は声の”導く方向”へと進む。

だが、そこまで遠くでは無かったらしい。

 

――ここ、ですーーここに来るのです。

 

「ッ!!」

 

キキィーーッ!!

 

頭の中に響く”ナニカ”の声に止められたと同時、スケボーを止めて降りる。

 

「……ここか」

 

再びスケボーを担ぎ直し、俺は廃墟となった小さな元雑貨ビルを見上げる。

小さな三階建てのこのビルは駅から徒歩10分程の場所にある、つい最近取り壊しが決まったビルだ。

既に表の入り口や周辺には工事用の簡易鉄柵が置かれ、立ち入り禁止の注意書きがなされている。

どうやら謎の声の”誰かさん”は、俺にこのビルの中に来て欲しいらしいな。

俺の見上げるビル全体が、何か異様な雰囲気に包まれている。

間違い無く、ここにはヤバいナニカがあるんだろう。

 

 

……やれやれ、やっと米花町から帰ってこれたと思ったのに、今度は地元で厄介事かよ。

 

 

「勘弁して欲しいぜ、全く……だが、放置すんのはもっと不味い、か」

 

 

逃げ出すのは簡単だが、逃げ出した後にもっと大変になるくらいなら、今やっといた方がまだマシだ。

俺はスケボーを『エニグマ』のファイルに保存し、両手をフリーにする。

例え何があっても直ぐに対応出来るスタイル。

それを保っておかねぇと、この先はヤバい様に思えたからだ。

 

ジジィィイ……

 

立ち入り禁止と書かれた鉄柵を『スティッキィ・フィンガーズ』のジッパーで切り開き、中へ進入する。

もう少し横にズレれば鉄柵の隙間から入れたけど、面倒くせぇ。

その奥のビルの入り口は、どうやら誰かに壊されたらしく、鍵の回りがグチャグチャになっていやがる。

大方、中高生くらいのヤンキーがここに侵入して遊んでたんだろう。

ヤレヤレと首を振りながら、ビルの中を進む。

 

「さてさて……まずはあの声の”ナニカ”がここにどう関係するのか、探さねぇと――」

 

いけねぇな、と呟こうとした俺だったが――それは叶わなかった。

 

 

 

何故なら――。

 

 

 

「……ん?……おい坊や。こんな所で何してやがる?」

 

 

 

――そこには”先客”が居たからだ。

 

 

 

――しかも、只の先客じゃあない――そう。

 

 

 

「――な」

 

 

 

俺が言葉を失うのには、充分過ぎる『男』が居たからである。

 

 

 

「……どうした?質問に答えて欲しいんだが?」

 

 

 

口を半開きにした俺に訝しげな視線を向けながら言葉を募らせる――身長190センチ越えの『大男』が。

服装は今時珍しい学ランに学帽姿。

しかしその学ランの裾が異常に長く、端から見ればまるでコートにしか見えない。

昔の番長スタイル……所謂、『長ラン』の前を全開にした出で立ち。

鎖やプリンスのバッジが付けられた、見るからに『不良』なスタイル全開の男。

更に学帽の後ろ半分は、まるで髪の毛と一体になった様なボサボサとした『奇妙なスタイル』をバッチリと着こなしていた。

その『彼』の視線が怪訝なモノを見ている。

 

「……す、すいません。すごく背が高かったんで、驚いちまって……えっと……ちょっと、気になる事があって」

 

彼の視線を受けながら、俺はカラカラに乾いた喉を必死に動かして言葉を搾り出す。

俺の言葉を聞いて大丈夫だと判断したのか、目の前の『学生』は視線を普通に戻した。

 

 

 

だが、俺は内心で混乱しっぱなしだ。

 

 

 

それこそ道端で『死んだ過去の偉人』と出会う様な確立の出来事。

つまり『絶対に有り得ない筈の出会い』ってヤツを体験してしまってるからである。

 

 

 

――何で、こんな場所に、いや、この海鳴に――。

 

 

 

「……ほぉ?こんな廃墟で気になる事、だと?……そりゃ一体何だ?是非とも聞きてぇな。ン?」

 

 

 

――何で居るんだよッ!?

 

 

 

 

 

    ド

     ド

      ド

       ド

        ド

         ド

          ド

           ド

          ド

         ド

        ド

       ド

        ド

         ド

          ド

                  ・

      ・

    ・

 

 

 

 

 

最強の『スタンド使い』――。

 

 

 

 

 

 

――『空条承太郎』さんがッ!?

 

 

 

 

 

 

バァ~~~ンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

今、正に目の前で奇妙な出来事に遭遇している俺に対して何が気になるのかを質問されるという奇妙な出来事。

本当にどうなってるんだよ……一体何が起きてるってんだ?

頭に次から次へと疑問が湧き上がるが、それを表情に出す事をしない様に努力する。

 

 

 

これ以上パニクッて事態がややこしくなったらもう手に負えな――。

 

 

 

「――ムッ!!そこに居るのは誰だッ!!出てきなッ!!」

 

「ッ!?」

 

 

 

と、承太郎さんが俺から視線を外して振り返ると、鋭い声で怒鳴る。

その声でハッと混乱していた意識を戻した俺の耳に――。

 

コツーン。コツーン。

 

人が歩く音が聞こえてきた。

どうやら承太郎さんの感じた気配は正しかったらしく、奥の方から一人、またも『男』が出てきた。

 

 

しかも――。

 

 

「ヒヒッ。やっぱ鋭いなぁ~、承太郎」

 

「……テメーは……」

 

「……マジかよ」

 

 

またもや俺が良く知る男――まるで”西部劇”の時代から出てきた様な”ガンマン”の服装。

そして咥えタバコに軽薄な笑みを貼り付けた、一人の男。

男――奴は”奇妙な形の銃”――『皇帝(エンペラー)』をクルクルとガンスピンさせながら歩いてくる。

 

 

 

「奇襲は失敗しちまったが……まっ、構うこたぁねぇか」

 

「……ホル・ホース」

 

 

 

人生哲学、『一番よりNO,2』の『スタンド使い』――『ホル・ホース』は、不敵な笑みで俺と承太郎さんの前に立った。

 

 

 

……二重(ダブル)ショック……幽霊なんかに会うよりも、もっと奇怪な遭遇……マジにどうなってんだよ。

何でこの世界に『ジョジョ世界』の人達が居るんだ……神様に説明してもらいてぇぜ。

俺の混乱を他所に、ニヤニヤ笑うホル・ホースと威圧感が倍増した承太郎さんの間で、空気が唸りを上げる。

ッ、ヤバいッ。この状況……のんびり現実逃避で構えてる訳にはいかねえぞ。

間違い無く今、リアルにヤバい状況なんだから……。

 

「良い度胸してるじゃあねーか?あぁ?遠距離で戦うテメーが、態々俺の射程内に近付いてくるとはよぉ」

 

「……ヒヒッ」

 

承太郎さんの凄味に臆する様子も無く、ホル・ホースはニヤけた顔を止めない。

その様は確固たる”自信”からの余裕って感じだ。

 

「……舐めてんのか。それとも奇襲が失敗して自棄っぱちになったか?」

 

「いやいや。舐めてなんかいねぇぜ、承太郎……寧ろこの状況に怯えてブルっちまいそうさ、このホル・ホースは」

 

怒気を隠そうともしない承太郎さんの言葉とメンチに、ホル・ホースは心にも無い言葉を紡ぐ。

……ここまで清々しい嘘ってのも中々ねえよなぁ。

この俺ですら分かる程に分かりやすい挑発行為、承太郎さんが気付いてない筈がない。

だがそんな状況でも俺への配慮を忘れていないらしく、承太郎さんは俺を背中に隠す様に移動する。

 

 

ここで俺に逃げろと言わないのは――。

 

 

「へへっ。そうだよなぁ?”お荷物”があっちゃあ、迂闊な行動は取れねぇわなぁ」

 

「……」

 

奴が既に発動させて何時でも撃てる様に持ってるスタンド――『皇帝(エンペラー)』を警戒しての事だろう。

『|皇帝《エンペラー》』は銃から弾丸まで全てスタンドで構成されている。

だからスタンドに対してもダメージが与えられるし、銃弾を自由自在に曲げる事が出来るスタンドだ。

もし、俺を逃がした時、承太郎さんのスタンド『星の白金(スタープラチナ)』のラッシュで弾丸を弾こうとしたとしよう。

万が一、『星の白金(スタープラチナ)』の防御を擦り抜けたら……それを考えて承太郎さんは動けないんだ。

仮にスタープラチナ・ザ・ワールドで時を止めても、俺をこのビルから出すには5秒じゃ遠すぎる。

そのくらいの位置まで踏み込んじまったからな。

 

「まぁ、例えお荷物が無くとも、お前さんのスタープラチナ。とても近付きたくねぇスタンドだ」

 

「あ?」

 

「おいおい、そう怖い顔すんなって。こりゃマジに言ってんだぜ?」

 

と、承太郎さんの訝しむ声にホル・ホースは手を振りながら答える。

その言葉は真面目に承太郎さんに対する警戒心があるが……それでも、表情に自信が表れていた。

ってか、どういう事だ?何でホル・ホースはこんなにも自信に満ち溢れてる?

 

 

コイツは一人(・・)じゃそれ程脅威じゃねぇが、誰かとコンビを組んで初めて――ってまさかッ!?

 

 

俺はハッとして辺りを見渡す。

そして想像した通りの光景に、顔から血の気が引いてしまう。

このビルの”窓ガラス”が――無くなっている。

まだ、取り壊しの工事が始まってすらいないのに――。

 

「機械以上の精密な動きとパワーを持つスタープラチナに、俺が正面から挑むなんて愚行――」

 

そして、このフロア一面に……既に、ガラスの破片がバラ撒かれているッ!!

しかも”鏡”までッ!!

工事中のビルだから別におかしいとは思ってなかったけど……つまりこれは――ッ!!

 

 

 

「俺一人じゃ出来ねぇぜ」

 

 

 

既に”罠の中”って事かよ――ッ!!!

 

「ッ!?まさか――」

 

そして、ホル・ホースの言葉に気付いた承太郎さんだが……。

先に地面を見た俺は気付いてしまった。

承太郎さんの無防備な背中から襲い掛かろうとする、包帯まみれの”スタンド”――『吊られた男(ハングドマン)』の姿に。

既に『吊られた男(ハングドマン)』は手首から唯一の武器である隠しナイフを取り出している。

そのまま承太郎さんの背後に落ちていた窓ガラスの中から、ナイフを振り下ろしーー。

そこからの俺の行動はもう、反射的と言う他に無かった。

 

「『ウェザー・リポート』ォッ!!」

 

ドバォオッ!!

 

「ッ!!これはッ!?」

 

「何ぃいいい~ッ!?」

 

『ヌゥッ!?』

 

スタンド使い達の前で……スタンドを使っちまったんだ。

だが、後悔した所でもう遅え。

二人の驚愕の視線を浴びながら、ウェザー・リポートの能力を発動。

 

ゴォウッ!!

 

風圧を巻き起こして、俺と承太郎さんの周囲にあったガラス片を吹き飛ばす。

これで、『吊られた男(ハングドマン)』の奇襲はとりあえず凌げた。

 

「この風圧……ッ!!自然のモノじゃねぇ……ッ!!それにあの雲はッ!!」

 

「小僧ッ!!テメーもスタンド使いだったの――」

 

「『星の白金(スタープラチナ)』ッ!!!」

 

『オラァッ!!』

 

ドゴォオッ!!

 

「ごへぇえッ!?」

 

と、ホル・ホースは俺に『皇帝(エンペラー)』を構えるが、弾丸が発射される事は無かった。

 

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!』

 

ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴバァッ!!!

 

「ぎゃぶっばぁッ!!?」

 

その前に本家本元である承太郎さんの『星の白金(スタープラチナ)』のラッシュに殴り飛ばされて吹っ飛んだのだから。

いくらスタンド使いとはいえ、人形のヴィジョンは持っていないホル・ホースに『星の白金(スタープラチナ)』の攻撃を防ぐ術はない。

そんな攻撃を生身で受けてしまったのだから、奴が壁に叩きつけられるのは道理でしかない。

 

バゴンッ!!

 

「あばが、が……」

 

『スタープラチナ』のパワーで叩きつけられたホル・ホースは呻き声をあげるも、起き上がってこなかった。

余程今の一撃が効いたんだろう。

とりあえずこれで、ホル・ホースは片付いたな。

 

「……やれやれだ……しかし俺を助けてくれたって事は、味方と考えさせてもらうぜ」

 

「そのつもりでお願いします。それより、まだもう一人残って……ッ!?」

 

俺の反射的な行動がプラスに働いてくれたらしく、承太郎さんに「何者だッ!!」と警戒されずに済んだ。

……だが、こっちの危機はまだ終わってねぇッ!!

もう既にーー。

 

キラッ

キラッ

 

「ッ!?野郎、光の反射で移動を繰り返してるッ!!こっちに狙いをつけさせねえつもりかよ……ッ!!」

 

「……やれやれ。話には聞いていたが、ちと面倒なスタンドだな。オマケに、J・ガイルの野郎まで”蘇ってる”とは……」

 

「……蘇ってる?」

 

帽子の鍔を直しながら呟かれた承太郎さんの台詞を、思わずオウム返ししてしまう。

ちょっと待て、待ってくれ。

『蘇る』って……ンなの有りなのかよ?

確かにさっきのホル・ホースと承太郎さんの会話はまるで『一度出会ってる』事を前提とした会話だった。

だが、だがよぉ……ッ!!

ジョジョの原作で、J・ガイルは死亡してそれで終わりだった筈だッ!!

それがどうしてこんな……いや、そもそもこの海鳴の町にこの人達が居る事こそ問題だぜ……ッ!!

 

「詳しい話は後だ。それより坊主。テメーも嫌なら素直に逃げたって構わねぇんだぜ?本気で戦るのか?」

 

「……少なくともこの状況で嫌って言えんのは、とんでもねーマヌケだけっすよね?」

 

「まぁな。理解が早くて助かるぜ」

 

背中合わせの状態で、俺は承太郎さんと視線を交えずしていた会話を終える。

何せ嫌っつっても完全に巻き込まれちまった後なんだから。

例えここから俺だけ逃走したとしても、こいつ等は必ず俺を殺しにくる筈だ。

そうなったら、俺の周りが危険にさらされちまう。

しかも、J・ガイルは女を辱めて殺す様な奴だ。

そんな奴に狙われてんのに――オメオメと帰る事は出来ない。

それは母ちゃんを危険に晒す、バカの極みとも言える行為だからだなぁ。

 

だからッ!!今ッ!!ここでッ!!

 

「面倒くせぇけどよぉ……きっちりケリつけなくっちゃあな……や〜れやれだぜ」

 

「……(コイツ……口ではあんな事言っているが、既に戦う覚悟を決めてやがる……見た所8、9歳とかそれぐらいの歳の様だが……どんな修羅場を経験したらその歳でそんな目が出来るんだか……やれやれ、奇妙な小僧だぜ)」

 

 

……とはいえ。

 

「こんだけ『ガラス』やら『鏡』やらブチまけられてるとなると……さて、どうすっか」

 

もう一回『ウェザー・リポート』で今度はビルから全部出すか?いや、それだと本体を探す時に背後から狙われる危険が増えるだけか。

吊られた男(ハングドマン)』の正体は光の反射を利用して動く『光のスタンド』だ。

だから鏡だけじゃなく、水やガラス、果てには人間の瞳にすら移動できる。

移動した先の物体に映っているのは光の像であって、外から攻撃しても倒す事は出来ない。

唯一の攻撃出来るチャンスは――。

 

「俺の仲間が言っていた。あのスタンドを攻撃出来るのは、映る物から映る物へ移動している時だけだと」

 

俺たちの周りに散らばる鏡やガラスの間を行ったり来たりしている光を注意深く観察しながら、承太郎さんはポツリと呟く。

仲間ってのは恐らくポルナレフさんか花京院さんの事だろう。

 

「映る物に入ったあのスタンドは一種の無敵状態だ。攻撃しても鏡やガラスを割るだけに終わる」

 

「だから跳躍中に、ってのは分かります……けど……」

 

会話を続けながらも、俺たちは周囲への観察を決して止めない。

今の俺と承太郎さんの周りにはガラスや鏡は1つも無い状態だ。

床に落ちた鏡やガラスに自分の体を映さなけりゃ、『吊られた男(ハングドマン)』は俺達を攻撃出来ない。

しかも反射で移動出来るのは同じ平面のガラスとかだから、何処に移動しても無駄なのだ。

俺たちを攻撃するには、壁とかにガラスを立てかけたりしなきゃいけなかったんだが、壁には映る物は何も無い。

天井も照明器具は既に外されていて、石膏ボードだけの状態だから上から襲う事も無理。

それが分かっているから、奴は大量の映る物の中を飛び回っているんだろう。

原理はどうあれ『吊られた男(ハングドマン)』は光の速さで動けるのだから、捉える事は至難の技だ。

 

 

そんな芸当が可能なのは、軌道が分かっていれば光すら切れる『銀の戦車(シルバーチャリオッツ)』か――。

 

 

「大丈夫だ。奴の移動は――俺のスタンドなら捉える事が出来る」

 

 

光速を超えて時を止められる『星の白金《スタープラチナ))』ぐらいだろう。

俺も『((星の白金(スタープラチナ)』を扱えるけど……さすがに本人の前で大っぴらに使っちゃあ余計な混乱を招いちまうからな。

結論から言えば、野郎のスタンドをブチのめす事は可能だって事だ。

 

 

 

さて……後はこっちからどう仕掛けるかが問題――。

 

 

 

「――ジョジョ?何をしてるの?」

 

「「ッ!!?」」

 

 

 

突如、ビルの入り口の方から聞こえた――”俺にとって馴染み深い”声。

ソプラノを思わせる優しい声に弾かれて視線を向け――――見てしまった。

 

「こんな取り壊し予定のビルの、しかもガラスだらけの中で……それにその人は?誰なの?」

 

「リ――ッ!!?」

 

  ゴ

   ゴ

    ゴ

     ゴ

      ゴ

       ゴ

        ゴ

         ゴ

        ゴ

       ゴ

      ゴ

     ゴ

    ゴ

   ・

  ・

 

床に散らばった――光を反射しているガラスを”跨いで立っている”、リサリサ――アリサ・ローウェルの姿を。

 

 

 

「リサリサァアアアアアアッ!!逃げろぉおおおおッ!!?」

 

 

 

俺は恥も外聞も無く、大声を上げて手を伸ばし――。

 

 

 

スパァアアンッ!!

 

 

 

「――――――ぁ――――ぇ」

 

 

 

リサリサノカオガ、ハンブンニ――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――ア

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおぉおおおおおおおおおおおおおあああああああああああッ!!!??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

慟哭。

 

 

承太郎が定明の雄叫びを聞いて感じたのはそれだ。

目の前で、大切な誰かが傷つけられた、あらゆる感情。

恐怖、不安、悲しみ――絶望。

その全てが籠められた絶叫が、承太郎の心を貫く。

あの時、時を止めて駆け出していれば――少女の呼んだ”名”に驚かなければ。

承太郎の心に過る、後悔の念。

 

 

 

そして――。

 

 

 

『ヒッヘヘェ……後数年もすりゃあ食べ頃だったのになぁ……惜しい事をしちまったぜ。デェッヘヘヘヘヘヘヘ』

 

 

「――――野郎ぉ……ッ!!!」

 

 

 

何処かに隠れ潜んでいるJ・ガイルに対する、耐え難き怒りッ!!

 

 

 

こんなゲス野郎は、生かしておけないッ!!

 

 

 

いや、生かしておいてはならないッ!!そう思っていたッ!!

 

 

 

幼く弱い子供を、まるで菓子の包み紙を捨てるが如く殺す行為。

それは承太郎に流れる血――『ジョースターの血』が、煮えくり返る行為だ。

まるで泉のごとく湧き上がる憤怒の情念に従い、承太郎は――ジョジョは”敵を倒す為”に、一歩を踏み出す。

 

 

 

 

 

「――どせ」

 

 

 

 

 

――――しかしッ!!

 

 

 

 

 

「――”時を巻き戻せ”ぇええええええッ!!!『マンダム』ゥウウウッ!!!」

 

 

 

 

 

ギュルアァアアンッ!!!

 

 

 

 

 

少女の命は、ここで散るべきでは無いッ!!いや――散らせないッ!!

 

 

 

 

 

この場に居る”もう一人”のジョジョが、そうはさせじと、己が精神力を振り絞ったッ!!

 

 

 

 

 

時をキッカリ”6秒だけ”巻き戻すスタンド、『マンダム』。

定明は本来のスタンド使いであるリンゴォ・ロードアゲインのしていた精神的きっかけである時計のスイッチを弄らず、自らの精神力のみで能力を発現した。

このスタンドの恐ろしい所は、『どんな現象であろうとも、6秒前に戻してしまう』事である。

 

 

 

例えそれが――。

 

 

 

ルルルゥ――カチッ

 

 

 

 

 

「ジョジョ?何をして――――――え?」

 

「――――――な」

 

 

 

 

 

例えそれが、死の運命であってもッ!!

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

無我夢中だった。

目の前の崩れるリサリサの体が、信じられなくて。

左寄りに全身を半分に裂かれた事実を、認めたくなくて。

――リサリサを助けたくて。

 

 

必死に叫び、腹の底から振り絞ったスタンドパワーが、『マンダム』を時計無しで動かした。

 

 

あの惨劇からきっかり6秒前に戻り、惚けた表情を浮かべるリサリサ。

さっきまでの全ての傷が戻っても――まだ終わりじゃねぇ。

まだあのままじゃ、リサリサを助けれてねえ。

 

 

『な、なにぃ?お、俺は確かに今――』

 

 

――もう。

 

 

 

「――『世界(ザ・ワールド)』ォッ!!!」

 

 

ズギュゥンッ!!

 

 

「なッ!?」

 

 

四の五のと――。

 

 

「止まれぃッ!!時よぉッ!!」

 

 

「――馬鹿な――『世界(ザ・ワールド)』だとッ!!?」

 

 

後の事考えてる場合じゃねぇッ!!!

 

 

すぐ側から聞こえる、承太郎さんの驚愕に満ちた声。

それも仕方ねえ事だろう。

死闘の末に倒した筈だった宿敵のスタンドが、こんな小さなガキに宿ってるんだから。

 

 

ブウゥゥウン――カチッカチッ

 

 

世界(ザ・ワールド)』が腕を広げたと同時、世界がモノクロに染まりこの世の全ての時間が止まる――いや。

 

 

「……」

 

 

止まった時の世界で俺に厳しい視線を向けている承太郎さん以外は、か。

だがそれも、全部後回しだ。

 

 

「俺も後で説明しますッ!!」

 

 

『ムゥンッ!!』

 

 

ズガンッ!!

 

 

世界(ザ・ワールド)』の馬鹿げた脚力にモノを言わせ、ジェット噴射の如く飛び出す。

 

 

3秒経過――。

 

 

そのままノンストップでリサリサの側に着地して彼女の体を抱き抱える。

返す刀で再び元の場所へ『世界(ザ・ワールド)』が地を抉って飛翔していく。

 

 

――7秒経過。

 

 

ガガガガッ!!

 

 

「……9秒経過……時は動き出す」

 

 

そして未だ険しい表情の承太郎さんの傍に戻ると同時、限界が訪れた。

ギュオォオオン――という形容し難い音と共に世界は色を取り戻し――。

世界(ザ・ワールド)』が破壊した床の瓦礫が四方八方に飛び散る。

 

 

『ぬおぉおッ!?な、何だこりゃぁあ〜〜ッ!!?』

 

 

「……ッ……たまげたぜ……まさかもう一度、そのスタンドを見る事になるとはな……もう無えと思っていたが……」

 

 

J・ガイルの情けない悲鳴。

承太郎さんの驚きと疲労に満ちた言葉。

砕け散る瓦礫の音。

 

 

そんな事、全てがどうでもいい。

 

 

「――ぁ」

 

 

「……ッ……」

 

 

「ジ、ジョジョ?わ、私どうして……」

 

 

「……リサ……アリサァ……ッ!!」

 

 

ただ、目の前のアリサが無事という事実だけが――何よりも。

 

 

俺にとっては”救い”だった。

 

 

唇が震えて、情けない声を出しているのは自覚してる。

けど、その震えが止めらんねえ。

自分の意思じゃどうにもなんねえから――。

 

 

「えっ、ぁ……ぁ、あの、ジョジョ……は、恥ずかしいわ……」

 

 

「……無事で……良かった……ッ!!」

 

 

俺は力一杯、アリサを抱きしめて震えを誤魔化した。

背後から感じる承太郎さんの視線なんて、気にもせずに。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

(しかし、やれやれ……今度の使い手は……もう倒す事は無えかもな)

 

 

 

承太郎は、目の前で地面に膝を付きながら少女を抱きしめ、その小さな背中を奮わせる少年に対しての警戒心を解いた。

勿論、承太郎の頭の中には尽きない疑問が残り、いや回り続けている。

 

何故この少年がスタンドを使えるのか?

 

何故『世界(ザ・ワールド)』というスタンドを理解しているのか?

 

そして、何故――”複数のスタンド”を使えるのか?

 

そういった疑問は尽きなかったが、それでも承太郎は彼が”敵になる事は無い”――そう確信している。

何故、そう確信したのか?

 

――それは、少年の『目』を見たからだッ!!

 

止まった時の中で、必死な表情で少女の元へ向かう少年の目にッ!!

 

少女の無事に安堵し、笑顔を浮かべる彼の瞳にッ!!

 

気高くも美しい”ダイヤモンド”を思わせる輝きをッ!!

 

そして何よりも、承太郎自身の直感が感じ取ったのだ。

目の前の彼は決して、”吐き気のする悪”などではないと。

弱者を利用し、踏みつける様な外道には思えない。

彼の少女を気遣う心は、人を騙す様な――外面だけの偽物では無い――と。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

『く、くそぉっ!!(こうなったら、今度はあの小僧から仕留めてやるッ!!)』

 

一方で、『吊られた男(ハングドマン)』の本体であるJ・ガイルは定明達より一つ上の階で拳を握り怒りを燃やしていた。

何故か少女を殺害した筈の結果が覆され、同時に自分の傍から連れ去られたJ・ガイルは標的を定明に変更する。

定明の正体不明の能力に恐れを抱いたゆえである。

 

(幸い今の衝撃で、鏡の”破片”があの小僧の直ぐ後ろにあるからなぁ。そこに反射して忍び寄り、あの小僧と承太郎をブッ殺すッ!!)

 

J・ガイルは知る由も無かったが、『世界(ザ・ワールド)』が巻き上げた瓦礫の破片。

その瓦礫によって定明の背中の直ぐ傍に、ギリギリ定明達が映る角度の場所に鏡の破片が飛んできていたのである。

だが定明に近すぎた所為か、二人が気付いてる様子はない。

 

(ヒエッヘへ……それに何だか知らねぇが、元に戻った事には”感謝”した方が良いかもなぁ~……さっきは勢い余って殺っちまったが……)

 

吊られた男(ハングドマン)』を反射する方向に狙いを定めながら、J・ガイルはスタンドの視界を通してアリサを見る。

幼さの残る、しかし人形の様に美しい顔立ち。

まだ女として色づく前の未成熟な、誰も穢す事を許されない清らかな肢体。

知らず知らずの内に、J・ガイルの口の端から唾液が垂れ、無意識に喉を鳴らして唾を飲み込む。

 

(ごくっ……じゅる……ケヘ……偶には、そういうのもアリかもなぁ(・・・・・・・・・・・・)~~)

 

力及ばず無力な少女を、力づくで辱める。

泣きじゃくる顔を想像するだけでJ・ガイルの心がとても踊った。

下種な妄想を頭に思い浮かべ、J・ガイルは涎を舌で拭いながら、定明の足元の鏡に目標を定める。

 

後は反射して、殺すだけだ。

 

(位置は掴んだぜッ!!さっきは驚いたが二度目はねぇッ!!)

 

ニヤける表情を抑える事も無く、己がスタンドを操り、忍び寄る。

己の勝利まで、あと少しだ。

 

 

 

(今度はお前が半分こになる番だぜぇぇええええへへへへッ!!)

 

 

 

キラッ

 

 

 

(死ねぇッ!!)

 

 

 

そして、『吊られた男(ハングドマン)』が光の速度で定明の足元の鏡へ映り込み――。

 

 

 

ドシュバッ!!!

 

 

 

(――……え?)

 

己のスタンドが斬られた(・・・・)と、自らの体に奔る傷――否、綺麗に開けていく裂傷。

そして――傷口から噴き出した血で認識した。

 

ブシュオオオオオォッ!!!

 

『い――ぎゃぁあああああああああああッ!!?ば、馬鹿なッ!?なぁぜぇえぇええ~~ッ!?』

 

スタンドを通して相手側にも聞こえているであろう自分の声。

肩から腹にかけて斜めに奔る傷口を抑えてのたうち回りながら、J・ガイルは叫ぶ。

何時?どこで?どうやってダメージを負わされた?

否、自分のスタンドは光のスタンドであり、鏡の中に居る時に攻撃されても攻撃は届かない。

 

『何故俺がぁああああびえぇええッ!?ど、どこでッ!?だぁあ~~れがぁああ~~ッ!!誰がぉぉぉお俺のスタンドををぉぉおおおおッ!!』

 

体に奔る激痛に悶えなはら、J・ガイルは己のスタンドの視覚を共有させる。

鏡の中から見える、驚愕の表情を浮かべる承太郎。

定明に抱きかかえられながら『吊られた男(ハングドマン)』の映る鏡を見て目を見開くリサリサの姿。

 

 

 

――そして――銀に輝く騎士甲冑を身に纏い、レイピアを立てて構える――スタンドの姿を見た。

 

 

 

『ひッ!!?ば、馬鹿なぁああああッ!!?そ、それは――その(・・)スタンドはぁあああッ!!?』

 

J・ガイルは忘れる事の無い恐怖の出来事に体を震わせ、彼のスタンドに刻まれた痛みを思い出す。

馬鹿な、ありえない、そんな筈は――。

このビルには居ない筈の、ここより離れた場所で他の仲間から襲撃を受けて足止めされている筈の――。

 

 

ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン

 

『奴のッJ・P・ポルナレフの――『銀の戦車(シルバーチャリオッツ)』ゥッ!!?』

 

自らが思い描かなかった事態に遭遇して恐怖に怯えるJ・ガイル。

そんな彼に見せ付けるかの様に、件のスタンドはレイピアを頭上で高速で回転させ続ける。

 

『ひ、ひうぇぇええッ!!?な、何で奴のスタンドがここにぃい~~~ッ!?』

 

「――足りなかったんだろ?」

 

居る筈の無い、自分に死を刻んだ男のスタンド。

その光景に錯乱するJ・ガイルに向けて、ポツリと呟かれた言葉。

それは他でもない、リサリサを抱きしめて震えていた定明だ。

吊られた男(ハングドマン)』の映るガラスからは、定明の背中しか見えない。

しかしその背中は――震えてなどいなかった。

 

「あれだけされても、テメェにゃ反省も、後悔も微塵たりと無かったから――リサリサを狙ったんだよな?」

 

床に膝を付いていた定明は、リサリサをお姫様抱っこしたままに立ち上がり、ゆっくりと振り返る。

定明の言葉はまるで、J・ガイルの今を再確認しているかの言葉に聞こえる――。

 

しかしッ!!それは『間違い』だッ!!

 

定明の言葉はそう――J・ガイルの『罪』を述べているのであるッ!!

 

「だったらよぉ……もう二度と、戻ってこれねぇ様に――もう一度ッ!!!」

 

振り返り、足元のガラスに目を向けた定明。

何時もの気だるさ、面倒くさいという感情を表していた定明の目は――その全てがッ!!純粋にッ!!

 

 

 

「この俺が貴様を絶望の淵へッ!!」

 

ビシィイッ!!!

 

「ブチ込んでやるッ!!!J・ガイルッ!!!」

 

 

 

怒りに燃えているッ!!

 

 

 

『ヒエェエエエエエエエエエッ!?(こ、ここはマズイッ!!もう一度別の鏡に隠れなくては――)』

 

定明の言葉に倣ってレイピアを構える『銀の戦車(シルバーチャリオッツ)』を見て、J・ガイルは情けない悲鳴を漏らしてしまう。

しかし恐怖に怯えながらも、いや恐怖による生存本能の働きか。

J・ガイルは傷付いた己のスタンドを別の鏡に避難させようと企む。

確かに『銀の戦車(シルバーチャリオッツ)』は光すらも切り裂けるスタンドである。

だが、下のフロアの床一面には、大量の鏡があるのだ。

その中のどれに紛れるか相手に予測されなければ、斬られない自信はあった。

故に、J・ガイルは他の鏡にスタンドを移動させ、再起を図ろうと計画する。

 

 

 

――それが、取らぬ狸の皮算用でしかない事に気付けないのが、彼の”不幸”と言えるだろう。

 

 

 

ズザザザァ……。

 

『ッ!?な、なんだこりゃぁ……ッ!?』

 

突如、承太郎達の居るフロアに、何処からか大量の”砂”が現れ始める。

その砂はゆっくりと、しかし確実に”床一面を覆い隠してしまう”。

 

――そう、床の”全て”を、だ。

 

『か――かか、鏡がぁああ~~ッ!?』

 

床一面に散りばめられていたガラスの破片や鏡。

吊られた男(ハングドマン)』が反射して移動する為の”映るモノ”全てを、覆い隠した。

 

『こ、これじゃ移動が出来ねぇええッ!?な、何で砂がいきなり現れ――』

 

パラパラパラ――

 

『ハッ!!』

 

J・ガイルは突然現れた砂に驚きながらも、『吊られた男(ハングドマン)』の潜む鏡の真上から聞こえる音に反射的にそちらを見る。

先ほどまで定明の傍に居た筈の『銀の戦車(シルバーチャリオッツ)』が居なくなり、『別のスタンド』を従えた定明へと。

そこには、本来彼が”死んだ後”に現れたとある”動物”のスタンドの姿があった。

インディアンの様な羽飾り、タイヤの付いた後ろ足部分。

そして――石で作られた仮面の様な風貌。

 

「ッ……これは……まさか、”イギー”の……ッ!?」

 

『ガオォーーンッ!!!』

 

「……『愚者(ザ・フール)』……地面を砂で覆った……もう移動はさせねえ」

 

承太郎の言葉に応えるかの如く、”砂のスタンド”――『愚者(ザ・フール)』が咆哮をあげる。

定明は本来『愚者(ザ・フール)』にある筈の前足を地面に伸ばし、そこから範囲を広げて砂をバラ撒いたのだ。

更に定明は自分の傍に砂で椅子を作り、その上に抱えていたリサリサを優しく座らせる。

先ほどまで定明に、こういった事を絶対にしない彼に抱かれていたリサリサは、最早リンゴの様に顔を赤くしていた。

 

「リサリサ」

 

「……(ポー)」

 

「……アリサ」

 

「――ッ!?は、はいッ!?」

 

普段からもう一人のアリサと混合しない様にと名付けられていたニックネームから、本名を呼ばれる。

たったそれだけの事でリサリサは声が裏返ってしまい、更に先ほどまで夢見心地だった自分を思い返して恥ずかしさが跳ね上がっていた。

しかし緊急事態、そして先ほどの”死んだショック”の所為で驚いていると定明は考えてしまう。

それだけ定明にとってもショックだった出来事であり、物事を冷静に見れない理由にも充分であった。

 

「少し、ここに座っていてくれ……砂の上で嫌かもしれねえが……床の上よりマシだろうからよ。少なくともそこなら、汚れずにすむ」

 

「は……はい……分かり……ました」

 

普段は気だるいといった表情の、何処か抜けている顔をしている定明。

しかし言ってしまえば、こういった時の引き締めた表情は十二分にカッコいいのだ。

リサリサが思わず敬語を使ってしまう程に――両手で心臓の爆発しそうな動悸を抑えてしまう程に。

定明の真剣な表情と先ほどの情熱的な抱擁――普段は感じさせない紳士な態度。

この3つの定明らしからぬ行動は、強烈に彼女に『キいた』のだった。

彼女が頷いたのを確認した定明はリサリサを自身の背中に隠し、鏡から視界を絶つ。

それはリサリサの瞳に、『吊られた男(ハングドマン)』を移動させない為である。

 

「もうテメェには、何処にも逃げ道はねえ……輝ける明日への道も、な……」

 

定明は鏡に目線を合わせずそう言い放ち、ポケットから一枚の”コイン”を取り出す。

”顔が映る程にピカピカのコイン”を。

 

『ヒ、ヒィ――』

 

「テメエが辿れる道は――」

 

キィンッ

 

無造作に親指で弾かれ、空中へ投げ出されるコイン。

そのコインには、この場の『全員』の視線が向けられている。

リサリサも、定明も、J・ガイルも――。

 

 

 

そして――。

 

 

 

「たった一つ、だけだ」

 

 

 

この男(空条承太郎)の視線も――。

 

 

 

ポツリと呟かれた承太郎の言葉に合わせて、砂が鏡を覆い隠す。

心の底から屑な男のスタンドが潜む鏡の上に。

鏡が覆い隠された事で、能力の法則に則り、男のスタンドは移動する。

定明が空中に弾いた”コイン”へと――。

 

「「テメーの行き先は――」」

 

自らのスタンドがコインへ移動する中、J・ガイルが”最期”に見た光景は――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァアッ!!!」」

 

 

 

 

 

『ぎげぎゃぁああああああああああああああああッ!!?』

 

 

 

 

 

「――絶望の淵――そこだけだぜ……代金の心配をする必要はねえ」

 

「俺達の奢り(・・)ッスよ……片道分(・・・)だけな」

 

『二対のスタンド』が繰り出す”拳”と”剣”が無数に迫り来る光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スタンド名――『キッス』

 

本体名――『アリサ・ローウェル(リサリサ)』――再起『可』能

 

 

 

 

 

 

 

スタンド名――『吊られた男(ハングドマン)』――再起不能

 

本体名――J・ガイル――死亡

 

 

 

 

 

特殊DHA――『俺達の奢りだ』

 

 

 

 

 

to be continued……

 

 

 

 

 

 

 

 

後書き

 

 

はい!!今回この場を借りて重大報告いたします!!

 

 

今回の話からハーメルンさんの方で存在をやっと知った特殊タグをたっぷり使ってみました!!

 

特殊タグを使えばア~ラ不思議!!

 

大文字や小文字、果ては斜め文字やら太字、なんて不思議な字体が使い放題!!

 

故に、ハーメルンさんの方が臨場感や雰囲気は出てると作者自身は感じております!!

 

TINAMIさんは小説のそういった特殊タグが無いので残念無念。

 

 

 

後、一年越しの執筆に関してのマジな感想。

 

 

 

 

 

 

話のクォリティが下がっていなければ……良いな(願望)

 

 

 

 


 
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