ひどく騒々しい音。何かと思ったら、隣家の独身女性が窓から顔を出していて、「あらやだ」、と血まみれ。どうも拳銃が暴発して、交際男性を撃ち殺してしまったそう。ついてないこともあるものだ。「でもそういう星の下に生まれついているんですよ、あたし」。彼女は言う。どっちでもよいけど、静かにしてくれよと思う。私は眠り直す。午前四時。あと一時間もすれば明るくなってくるから、私は明るさで目が覚めてしまわないよう、厚手のカーテンをもう一度閉め直す。
午前四時半。眠りかけた頃。半睡の頭の中ではさびしい狐が懇意にしている人間の元に魚やら野菜やらを届けている夢。だけどその人間はもうとっくに死んでしまっているから、狐はいつまでも撃ち殺してもらうことが出来ない。パトカーが着いた。私はドアをノックされて、おまわりさんに起こされる。
「隣の人はどんな人でしたか」
「隣の人は独身女性で、最近よく男を連れ込んでいました。金魚が好きらしく、どこかへお出かけするといつも金魚すくいで取ってきたような小さな袋に金魚をぶら下げて帰って来るのですが、累計すると50匹は持って帰って来ていたような気がします。それらがみんな飼われているとすると相当大きな水槽があるはずですが、ありましたか、おまわりさん」
「隣の住人は独身男性ですよ」
そんな馬鹿な。曰く、隣の住人は独身男性で、いつも眼鏡をかけていて、眼鏡を拭うのにティッシュペーパーでは細かな傷がついてしまっていけず、必ず専用の眼鏡ふきを使う男性で、部屋の中には小さな金魚鉢が一つあるきりで、そこには酸素を送り込むエアーだけが作動しているのだけれども、肝心の金魚は一匹もいないのだとのこと。
「確かに女性を見たんですか」
「その男性はたまに遊びに来ている男性で、むしろ女性の方が賃借人のはずですが」
「いいえ賃借人は男性です。大家の方に確認しています。その女性が容疑者だと思われますね。詳しく教えてください」
けれども私の言うことは警察の調べた事実とはずいぶん違っていて、女性も金魚も実在の存在だとは思われず、当初は私が犯人であることもだいぶ疑われたのだけれども、最終的には夢を見ていたんだろうと言うことで、何時間にも渡る取り調べの末私は解放された。
その日から私の家の空っぽの水槽に午前四時、遠くで聞こえるような鉄砲のかすかな音とともに小さな赤い金魚が増えていると言うことがあって、私は金魚の現れるたびに家の前の用水に不法投棄しているのだけれども、おそらく五十匹みんな現れるまではこの金魚は私の家の空っぽの水槽に現れ続けるんだろうという気がした。
最終的には男性の死は自殺と言うことになった。私は、その日の夢に見た寂しい狐の話をなんとなく思い出していた。
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オリジナル小説です