No.870786

紫閃の軌跡

kelvinさん

第87話 世界を渡る意味

2016-09-24 01:26:32 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:2300   閲覧ユーザー数:2111

~リベール王国 グランセル城~

 

オリヴァルト皇子とシュトレオン王子の計らいによって、最新鋭艦である『アルセイユ』によってリベール王国の首都であるグランセルに到着したⅦ組の面々。もともと伝統的な街並みを持つその街も、近年の急激な導力技術の発展により立派な街並みに発展し…空港に降り立った面々はその光景に視線が釘付けとなっていた。

 

「これが、王都グランセル…」

「ヘイムダルと遜色ない規模だな。とはいえ、向こうのように導力車が走っているわけではないが」

 

王都のスケールの大きさにエリオットとマキアスが率直な感想を述べる。王都の人口は約50万人とヘイムダルには劣るが、それでも街全体の規模は引けを取らない。導力車は元々山岳地という地理故に少ないが、その代わりに導入されたのは

 

「あ、あれって導力トラムだよね?」

「流石に王都の規模が大きくなったからな。ラインフォルト社監修でようやく実用化にこぎつけたのさ」

「ということは、大方母様のしわざってことね……」

 

市民の移動を楽にする目的でトラムが敷設され、導入数ヶ月とはいえ今やグランセルの市民にとって重要な交通機関へと発展したのだ。その導入の裏には帝都ヘイムダルでの実績があり、その敷設に関わっているラインフォルト社の協力があったと話したシュトレオン王子の言葉に、アリサがため息を吐いた。そんな光景に目をやりつつ、リィンらはこのグランセルにおいて最も目立つ建物―――グランセル城へと案内されることとなった。

 

「トールズ士官学院Ⅶ組の皆様、ようこそ遠路遥々お越しくださいました。私はアリシア・フォン・アウスレーゼ。このリベール王国を与る者として、そして先日はクローディアやシュトレオンを守っていただきありがとうございます」

「い、いえ。寧ろこちら側が助けられたようなものです」

 

その奥にある謁見の間で、リィンらはとある人物と対面することとなる。それはこの白隼の国を与る国家元首―――アリシア・フォン・アウスレーゼⅡ世その人だ。Ⅶ組の殆どがエレボニア出身という外国人とはいえ、この破格とも言える対応には一同の殆どが驚いたに違いない。畏まりつつも色々困惑しているリィン等の心境を見抜いたのか、アリシア女王は笑みを零した。

 

「数日ではありますが、グランセルに滞在されるとのこと…折角ならば、各所にいけるようこちらで働きかけましょう」

「そ、そこまでしていただかなくとも…」

「その件に関しては、オリヴァルト殿下より『彼等に最大限の配慮を』とお聞きしております。そして、シュトレオンからも同様に聞いておりますので、何かありましたら遠慮なく仰ってください」

 

どうやら、女王自身の配慮に加えオリヴァルト皇子とシュトレオン王子のこともあり、この配慮を断る方が無碍であると思い、それ以上何も言えなかったのである。なお、この場にはアスベルはいない。その当人は一体何処に向かったのかというと……その行先は王国内で最大規模を誇る軍事施設―――レイストン要塞であった。

 

 

~リベール王国 レイストン要塞 司令官執務室~

 

その最奥にある司令官の執務室では、トールズ士官学院の制服を着たアスベル、そして対面するかのように佇んでいるのはリベール王国の軍服に身を包んだ人物が二人。そのいずれもが人並外れた実力を有する……アスベルからの報告を一通り聞いた後、緑の軍服を着た人物―――リベール王国軍の事実上のトップ、カシウス・ブライト中将は息を吐く。

 

「―――とまぁ、把握しているであろう事象以外ですと、報告はこれぐらいかと」

「ご苦労だった。帝国内の状況は概ねリシャールの言った通りということか。そのテロリスト―――彼らが姿を見せたということは……」

「動き出す時は近いでしょうね。とはいえ、<百日事変>のように数日で動くとは考えづらいですから、数週間~数ヶ月後が妥当かと」

 

カシウスの近くにいる黒の軍服を纏った人物―――『天上の隼』情報局所属アラン・リシャール特務中佐はカシウスの言葉におおよその推測を述べ、カシウスやアスベルもその言葉に頷いて同意する。今まで裏で動いてきた彼らが表立って狙う場所となると…その可能性が最も高いのは

 

「可能性があるのはガレリア要塞の『列車砲』。あれを奪って発射し、宰相を葬るという可能性が一番高いでしょう。直接宰相の不意を突くというのは、流石にクロスベル警察や警備隊の手練れを考えると難しいかと」

「だろうな。マリクから大方の情報は聞いたが……よもや、リベールのみならずお前たちにまでその助力を仰ぐというのは正直意外だった。いや、万が一を考えれば妥当なのだろうがな」

 

アスベルやルドガーといった実力者に助力を仰ぐ……それは単にテロリスト対策のみを見据えたものではないと察してはいただけに、カシウスはため息しか出なかった。下手をすればエレボニアやカルバードから“内政干渉”と言われてもおかしくはない案件だけにだ。だが、現状においてエレボニア帝国やカルバード共和国の政府側よりテロリストの危険性はおろか、その詳細に関しても知らされてはいない。通商会議の開催場所であるクロスベル政府にも、さらには会議の参加国であるリベール王国、レミフェリア公国、アルテリア法国に対してもだ。カルバード共和国の方は仕方ないにせよ、エレボニア帝国の方についてはリベールもその影響を被った形であるだけにその対応は些か腑に落ちない。一通りの情報を伝えたリシャールは退席し、執務室はカシウスとアスベルの二人だけになった。

 

「『最悪の事態』は考えたくないが、現状リベールも元帝国・元共和国領を抱えている以上無視はできないな。その辺りの情報はリシャールに任せるが……ところで、アスベル。シオン―――シュトレオン王子に関連して、お前にも耳に入れてほしいことがある」

「……―――成程、そういうことですか。それは、最近の世論も反映してそう判断したと解釈しても?」

「上層部は既に了承している。議会に関しても根回しは既にな。あとは王子の決断に委ねることとなるが」

「いや、この時点で外堀まで埋めといて言う台詞じゃないですよね、それ」

 

カシウスから聞かされたシュトレオン王子に関わる事項を聞き、アスベルは冷静に言葉を返しつつも内心そういう運命に巻き込まれることに少しばかり同情したくなったのは言うまでもない。

 

 

~王都グランセル~

 

レイストン要塞からグランセルに戻ってきたアスベル。とりあえず、かなり暇を持て余した状態になってしまったため、一度グランセル城に向かおうと大通りを歩いていると、近くの店でいろいろ物色しているセリカを見つけ、声を掛けることにした。

 

「セリカ、何してるんだ?」

「え? あ、アスベル。折角ですから、兄上にリベールの土産でも買ってあげようかなと思いまして」

「ふむ……お邪魔じゃなければ、一緒に見繕ってもいいか?」

「ええ、いいですよ」

 

二人でミュラーへのお土産を見繕うことにした。なお、両親への土産はすんなり決まったのだが、あのストイックな御仁へのお土産となると、どういったものが喜ばれるのか難しい。これには身内であるセリカも同意見だったようで、苦笑を零していた。

 

「しかし、最初は俺だけかと思ってたけど……いや、再会できたから嬉しいことには変わりないんだが」

「それは誰しもがそう推察することだと思いますよ。現に、私もその一人でしたし」

「けれど、まだ解りやすかったからいいものの、これで一段落とは思えないんだよなぁ……」

 

そう、転生者という概念自体この世界では馴染みが少なすぎる。他の転生者に気づけたのも、ゼムリア大陸という世界にアスベルといった『解りやすい』面々がいたからというのもある。例外は少なからずあるものの、生前の近しい転生者には何かしら『感じる』ことはできるようだ。

 

現状においてイレギュラー要素が入り込むことは想定済みなのだが…何せ、マリク・スヴェンドがいい例だ。彼に関しては自分の知り合いと同じ飛行機に乗り合わせ、その裏で起こっていたことにも彼の知り合いが関わっていたと以前話したことがあった。彼がこの世界の知識を持ち合わせていたからいいものの、そうでなければ警戒対象に含めていたかもしれない。

 

「ま、なるようにしかならないんだけどな…お、これなんかはどうかな? 下手なものよりはこういう実用的なものの方が役に立ちそうだし」

「これですか? そうですね。これなら…アスベル、ありがとうございます」

「まぁ、お役に立てたなら光栄だよ」

 

その後、アスベルとセリカは近くの喫茶店に立ち寄ることとなった。話の内容は最近話すことの少なかった話題―――ようは『転生』に関わる話だ。当然、誰が聞いているか解ったものではないので会話内容改竄の法術を施した上で。

 

「あー……確かに、私達の様な部類の人間は世間一般からすれば少ないですからね」

「そういうこと。これは本人からも話は聞いたんだが……やっぱり、例の件がトリガーになってるみたいだ」

「例の……アスベルの、ううん…あっきーのことですよね」

「久しく聞いたな、その呼び名。ま、その認識に違いはない」

 

それは、他でもないアスベルがこの世界へと転生するきっかけとなった『ひき逃げ事件』。転生前の本来の身体能力ならば躱せたはずなのに、それが出来なかった理由……思えば、それを今まで疑問に思ったことはなかった。いや、当事者にでもならない限り転生と言う事象なんぞ夢物語なのだと、転生前の自分自身ならばそう言い切っていたであろう。

 

若干話が逸れたが、その事件をトリガーとして現状十人近くの『転生者』を確認している。だが、彼女―――この世界へと転生させた人物というか存在と言うべきか……あの条件が適応されるならば、まだいる可能性は捨てきれない。まぁ、敵対しないのならば無理に干渉するつもりなど毛頭ない。触らぬ神に祟りなし、である。

 

「つまり、何らかの干渉を受けた……ということですか?」

「それ以外の可能性が見当たらない、と言った方がいいかもしれないな」

 

なお、転生前のアスベルは『異世界』と言う存在があるということを認識している。それは身内にも大きくかかわってくることなのだが、同年代でそれを知る者はいないに等しい。禁則事項も含んでいるので当然と言えば当然なのだが……もしかすると、その辺りの存在もこの世界に紛れ込んでいても不思議ではない。ただ、彼女の言う条件が同様に適応されていれば厄介な存在が紛れ込んだりすることはないだろう……多分。

 

セリカもグランセル城に戻るということで、一緒に行動する形で戻ると、ちょうど中央広間にルドガーとシオンことシュトレオン王子の姿が目に入り、声を掛けることにした。

 

「珍しいな、二人してこんなところにいるなんて」

「お、アスベルにセリカか。何、俺らも今しがた出会ったばっかりだけどな」

「ふむ……この機会に丁度いいから、ちょっと相談したいことがあるんだが……いいか?」

「構いませんけど、大丈夫なんですか?」

 

セリカの言いたいことは解らなくもない。転生と言う事象の繋がりはあっても、現状各々の置かれている立場はバラバラであり、組織上で言えばアスベルとセリカが身を置く組織―――星杯騎士団とルドガーの所属する組織―――『身喰らう蛇』は対立関係にあるのは紛れもない事実だ。それを察したのか

 

「俺の事は気にすんな。立場上動きやすいからあの組織に身を置いているわけだし、行動の自由は保障されているからな………その対価というか、反動がヤバいが」

「反動、ですか?」

「あー、セリカは知らないんだったな……“蒼の深淵”“鋼”“殲滅天使”に好かれてるんだ、コイツ」

「その上、学院ではリーゼにエーデル先輩……この中で言えば、一番修羅場ってると思う」

「それを上司が煽るから性質が悪いんだよ……」

 

『修羅場? 大いに結構ですよ。そういう所を見るのも楽しいですので』と言い放ったのは他でもないルドガーの上司―――とどのつまり、<盟主(グランドマスター)>に他ならない。その気苦労の一端を知っているせいか、アスベルとシュトレオンはルドガーの肩に手を乗せる。

 

「ま、頑張れとしか言えないけどな……コイツのこんな事情もあるから、その気晴らしぐらいさせてやりたいんだよ」

「………正直、アスベルに恋慕して良かったと思います」

「身も蓋もないな。まぁ、元同級生として巻き込まれなかっただけでも一安心だ。……アスベル、俺にそうならない方法を伝授してくれ」

「お前が立場をはっきりさせないのが悪い」

「だよなぁ……」

 

即決即断しても、次の瞬間には世界の危機になってる可能性が高いのも事実なので、無理強いする気はなくともアスベルがルドガーに対していえることはそれぐらいしかなかった。

 

 

久々にこの要素に触れないと、テイルズ×軌跡シリーズと思われる気がしたので(ぇ

転生者に関しては、現時点確定で二人。二人とも原作キャラ絡みになります。

そこから増やしても最大五人の予定です。

 

 

で、第五章に関しては以前述べたかもしれませんが、原作とは異なる展開に持って行きます。

リィンあたりとか、通商会議あたりとか……その辺りの展開がまるっきり変わるパターンが結構出てきます。特にクローディアの原作からの変化が顕著に出ることになりますので、ご了承ください。

 

まぁ、前作でのクローディアの言動から見れば、その辺りも察しはつくかもしれませんがw

 


 
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