No.867180

紫閃の軌跡

kelvinさん

第86話 動きつつある状況

2016-09-04 10:44:44 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:2487   閲覧ユーザー数:2276

~ファルブラント級一番艦『アルセイユ』 ブリッジ~

 

シュトレオン王子より呼び出しを受ける形でブリッジに上がると、そこにはシュトレオン王子とこの艦を任されている王室親衛隊の制服に身を包んだ若き女性が話しており、アスベルが近づいてくることに気付いて二人は視線をアスベルの方に向けた。

 

「久しぶり、とは言ってもおおよそ一週間ぶりぐらいだな、アスベル君」

「お久しぶりです、ユリア准佐。大隊長も大分板に付いてきましたね」

「まだまださ。弟が築いてきたものに比べれば見劣りしてしまうほどにな」

「はは……で、シオン。態々俺だけ呼び出したのは、今月末の『通商会議』絡みか?」

「流石、話が早くて助かる」

 

この『アルセイユ』の艦長にして王室親衛隊大隊長を務めるユリア・シュバルツ准佐と会話を交わした後、ここに呼び出した本題の推測を交えつつ尋ねると、シュトレオン王子は『その通り』と言わんばかりの答えを返した。

 

「お前とレオンハルト少佐、そしてブライト中隊長…さらにはシルフィアとレイアに『例の許可』を出す。ま、ルドガーとレンにも協力は仰ぐつもりだが……議会には『二年前の事態も憂慮しての命令もしくは依頼』という説明にするつもりだ」

「結構大胆な手に打って出たな。念のため、というところか?」

「敵方にも『俺らのような存在』はいる可能は極めて高いと踏んでる」

 

『例の許可』―――それは、二年前にアスベルとシルフィア、そしてレイアの三人が猟兵らの襲撃を食い止めるために発行された『殺人許可証』みたいなものだ。本来の筋で言えば無駄な殺傷を女王陛下自身が快く思っていないために行っていないが、その時は状況が状況故に致し方なく認めた経緯がある。一国家を与るものがそこに住む民を見殺しにするようなことはあってはならない……本当に難しい問題なのは百も承知だ。それこそ、『自身の利益の為だけに自国を脅かす者』という存在相手には。

 

「(流石にアイツを悲しませると面倒事にしかならんから控えるが)……マリクや他の連中には?」

「マリクにはアネラス経由で既に伝えてある。ああ、そういやアルテリア法国に今回の会議の依頼をしたら『アスベル・フォストレイトに渡してくれ』と頼まれたから、渡しておく」

「ありがとな、シオン(ま、差出人の予想は付くけれど……)」

 

シュトレオン王子から渡されたアルテリア法国からの手紙。その差出人も大方の予想は付いているが、封を破ってアスベルは中身の便箋に目を通す。差出人は一切書かれていなかったが、中身は至極簡単な文章であった。

 

『お前に第四位“那由多”、第六位“山吹の神淵”、第七位“銀隼の射手”の指揮権限を与える。というか、義妹と結婚はよ』

 

アスベルは握りつぶして、その場で灰も残らないぐらいに燃やし尽くした。寧ろ残してかの人物に見せたほうが良かったのかもしれないが、それはそれで面倒だと思ったのでやめることにした。その行動にユリア准佐は目を見開き、シュトレオン王子はその内容の予想がついたのか苦笑を浮かべる他なかった。

 

「面倒押し付けやg……コホン。そしたら、その許可は有り難く受け取る。というか、アルテリア法国からはどうするつもりなんだ? 流石に大司教をタワーの中に入れるわけにはいかないだろ?」

「聞いたところによると、巡回神父を一人派遣するとのことだ。ライナス・レイン・エルディールと言っていたが、二年前に出会ったあの人だよな?」

「ああ。(ま、妥当な人選ではあるか)」

 

クロスベルにいるエラルダ大司教との面識がないとするならば、これ以上ないほどの人選。かの“紅耀石”に近しい人物ながらも自由奔放な性格故に騎士にすら見られないほどの人物……アスベルにしてみれば同じ立場の人間がアルテリア法国からの『特使』ということならば、ありがたいことでもあった。

 

「で、アスベル。今月末辺りにある特別実習が終わり次第、こちらに合流。その後、マリクやレヴァイスの指示に従ってくれ」

「了解」

 

 

~クロスベル自治州 クロスベル市警察特務支援課ビル~

 

「………一ヶ月か。ったく、叔父貴も一体何を考えていやがる……」

 

クリムゾン商会―――猟兵団『赤い星座』によるルバーチェ本拠跡地の買収から一ヶ月少々。ロイドらは通常業務をこなしつつ、『赤い星座』の情報収集にあたっていた。食料の買い集め、七耀石の買い漁り、帝国商人のベルガード門までの出迎え……戦いの準備をするかのように着々と根付きつつある様子に、元々はその組織…ひいては身内であるランディの胸中は穏やかではなかった。すると、彼の元に近づくのは彼と同じような立場を経験し、現在の警察のトップでもある人物だ。

 

「ほれ、コーヒーだ。ま、焦る気持ちは理解するが、その様子じゃあシグムントの術中だぞ。どうせ通商会議まで大事を起こす気はないだろうしな」

「何でそう言えるんだよ……」

「奴とは刃を交えたことがある。大胆さの中に狡猾な策を用いる……それを平然とやってのける奴だからな。それに、今の時期に失点なんかしたら、帝国政府から見限られること間違いなしだ」

 

マリク・スヴェンド。『翡翠の刃』の団長にして、現在はクロスベル警察の局長を務める傍ら特務支援課のメンバーとして活動している。その彼の言葉に嘘偽りなどないことは十分承知しているので、ランディは諦めたかのように溜息を吐いた。

 

「というか、帝国政府と契約しているというのは間違いないんですか!?」

「コイツの従妹であるシャーリィ・オルランド、そして帝国政府トップの側近とも言える“鉄血の子供達(アイアンブリード)”の一人が一緒に行動してたのはお前らも目撃したんだろ? その上でその奴さんがルバーチェ跡地に一枚噛んだ。状況証拠しかないが、この一連の流れでもそれぐらいは予想がつく」

 

更には各地を転々とすることの多い彼らが態々そうした理由、更にはルバーチェ跡地をどうしても確保したかった理由……それが加わればおおよその予想は読めたも同然だ。とはいえ、相手方―――とりわけシグムントもマリクと現在の警備隊司令である“猟兵王”レヴァイス・クラウゼルの二人を警戒するのは間違いないだろう。

 

「ま、ランディにはシグムントかシャーリィ辺りからいずれアプローチが来るだろう。冷静さを欠けば、恥を晒すのはお前自身だぞ」

「容赦ねえな……事実なのは受け取っておくさ」

「それでいい。で、午後からなんだがロイド。緊急の要請はあるか?」

「いえ、ありませんが」

「といいますか、今日の分の要請を全て片付けるように言ったのは局長でしょうに…」

「そういや、そうだったな。午後から通商会議関連の会議がある。お前たちにも参加してもらうぞ」

「成程、僕らは差し詰め『遊軍』として動いてほしい、ってところかな?」

「さぁ、それはどうだろうな? ともあれ、ティオはまだ戻ってきてないにせよ、忙しくなるぞ」

 

午後、会議室に通された特務支援課の面々と、他にも捜査一課を始めとした各課の主任が集まり、ボードの前に局長であるマリクが立った。面子が揃ったところで真っ先に言葉を発したのは今や捜査一課の主任を務めるアレックス・ダドリー上級捜査官であった。

 

「局長、通商会議の警備体制は既に整いつつありますが、何か急な問題でも発生したのでしょうか?」

「問題、といえばそうなるだろうな。先月、帝都ヘイムダルの夏至祭で起きた事件はお前も聞いているだろう? というか、主任の面々には俺が直々に話したことだが」

「ええ。―――まさか、その首謀者と思しきテロリストがこの自治州に来る可能性があるということですか!?」

「ないとは言い切れないだろうな。来賓の中には"鉄血宰相"や皇族の方もいるとなれば、再び狙いに来ることも考慮に入れる必要はあるな……やれやれ、いろいろ火種が増えるのは勘弁願いたいが」

「テ、テロリスト、ですか!?」

「おっと、ロイド達には話してなかったか。とはいえ、あまり騒ぎになるのも宜しくはないから、内密に頼むぞ」

「守秘義務、ということですね」

 

声を荒げたダドリーに対し、セルゲイは冷静にその可能性が高いことを示唆した。一方、そんなことなど初耳であったロイド達にマリクは守秘義務が課せられることを念頭に置きつつ、先月帝国で起きた事件の事を説明した。あれだけ帝都で大騒ぎになりながらもクロスベルでその話を聞かなかったあたり、帝国の情報操作には目を見開くところではあるが……幸いマリクには独自の情報収集チャンネルがあるので、それが大いに役立っていた。

 

「―――というのが、俺が聞いた事件の仔細だ。それを踏まえ……とは言っても、警察の人員配置自体はこれ以上動かせない。そこで、警備隊に話をつけ、タワー内部の警備は彼等に一任することにした。当日は警察官の服装に着替えてもらうこととなるし、形式上は“特務警護隊”という一時的な出向ということにした」

「………(パクパク)」

「相変わらず即断即決の御仁だぜ……でも、門の警備は大丈夫なのか?」

「その辺はレヴァイスにメンバーの選抜を任せているから問題ない。まさかランディ、奴の洞察眼を疑う訳じゃないだろ?」

「―――いや、逆だな。あのオッサンだからこそ最適解の人選をしてくるに決まってる」

「でも、態々警備隊ではなく出向扱いってことは……その辺りは両首脳を意識している、ということかな?」

 

先日不祥事を起こした警備隊の面々がタワーの警護ともなれば、いろいろ不満を言う輩もいるだろうが、その辺りを上手く躱せるだけの材料を揃えれば問題はないと言い切ったマリクの周到さに、周囲の人々は面を食らったような状況になっていた。そのあたりのことをワジが尋ねると、マリクは笑みを零しつつ説明した。

 

「その通りだ、ワジ。ただでさえ先日の『教団』があるわけだからな。裏を返せば、ここいらでポイント稼ぎができるチャンスとも言えるだろう。幸いにも、警察の方は警備隊より若干マシな評価を貰ってるからな」

「ふぅむ、成程……」

「そうなると、我々も職務を全うしなければいけませんな」

「気張るとことを仕損じるぞ? ここから最低でも一ヶ月は気を抜けない日々が続くこととなるが、頼んだぞ?」

 

事を進めるのは確実かつ的確に……念を押す形でマリクがそう述べ、通商会議に向けた打ち合わせが終了した。

 

 

~クロスベル市 遊撃士協会クロスベル支部~

 

更に所変わって、クロスベル市街地東にある遊撃士協会の建物。その一階では受付の男性と向かい合うようにして、二人の女性が言葉を交わしていた。受付の女性のような口調がその人物の人ととなりを示すかのように濃い個性ではあるが……その人物―――ミシェルは二人から受け取った書類の束に目を通すと、一息吐いて二人の正遊撃士―――レイア・オルランドとアネラス・エルフィードの方を見やった。

 

「二人ともご苦労様。流石に今回のようなことは新米には厳しかったからフォローを急に入れてもらったけど…報酬はその分弾ませてもらうわね」

「いえいえ、同郷出身の後輩ともなれば、これぐらいは大丈夫ですよ」

「しっかし、赤点ギリギリとはいえ、ミシェルがそこまで買っていることには驚きかな」

「ま、ヘルプに来ている貴方達がいつまでクロスベルにいるか解らない事情もあるわね。いっそのことこっちに移ってくれればやりやすいとは思うけれど、それは贅沢という他ないわけだし。貴方達がいる間までに何とか『二人で一人前』になってくれればいいのだけれど」

 

アネラスとレイアの言葉に、ミシェルはため息をつきつつそう言葉を零した。最近ようやくまともに機能し始めたクロスベル警察に任せれればありがたいことではあるが、それでもカバーしきれない部分と今まで治安維持の一端を担ってきた遊撃士協会に依頼が殺到してしまうのが現状であり、レイアとアネラスを含む正遊撃士7人でも忙しい状況である。そのために、新人の準遊撃士を二人任命したのだが……

 

片方は戦闘力こそ並以上はあるが、とある出自のせいか考え過ぎる傾向が強い。もう片方は決断力こそ早いものの戦闘力の面では不安が大きい。そのためにミシェルは二人を組ませることで互いに切磋琢磨させて成長させていこうと目論み、なし崩し的に二人を組ませたのだ。

 

「そういえば、レイアたちは会ったことがあるのかしら?」

「いえ、ないですよ?」

「と言いますか、彼らの試験の時に四人の依頼を捌くように言ったのはミシェルさんじゃないですか」

「あー、ごめんなさいね。とはいえ、その噂位は耳にしてるでしょ?」

 

そう言いつつも、実はレイア自身その二人組と会っている。その時は非番だったため、一般市民と偽って会話を交わした。その際にその片方の人物―――銀髪の少年には懐疑的な目で見られたが、彼の視線がレイア自身良く感じたことのあるものだった。まぁ、それに対抗することもしたくないので、適当に流したのだが。あの様子からすると恐らくシャーリィと顔を合わせたようであり、レイアは内心ため息しか出なかった。

 

 

というわけで、折角なので暁の軌跡の面々にも触れる形にしました。時期的には1205年7月以降の出来事をメインにしていくのでしょう……というか、公式の碧の時系列自体ハチャメチャになってて調整が大変なのですがw

 

てなわけで、次回はリベールイベントをちょっとばかし入れます。

 

本音→早く自由行動イベント済ませて特別実習に行きたい(ォィ


 
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