No.87069

夢のつづき

ユングさん

真・恋姫†無双の蜀編です。
今回は桃香が主役となります。

2009-07-29 21:58:09 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:6347   閲覧ユーザー数:4347

夢のつづき

 

(1)

 

兵士A「申し上げます!ただいま北門にて魏王曹操様がお見えになられました。」

兵士B「申し上げます!同じく東門にて呉王孫権様がお見えになられました。」

 

「分かりました。それでは失礼のない様、城内へご案内して下さい。」

威厳のある、だがとても優しい雰囲気を纏った老女が報告に来た兵士に命を下した。

 

「はっ!!承知致しました。」

そう言うと二人の兵士はそれぞれ元来た場所へと引き返していった。

 

「早いものですな。今回で何回目の平和記念ぱーてぃでしょうな。」

水色の髪を揺らしながら凛とした趣のある老女が先程兵達に命を下した老女へ話しかけた。

 

「本当ですね。5回までは憶えていましたが...」

「それは些かまずい気も...。私ですら7回までは憶えているというに。全く桃香様はあいかわらずでいらっしゃる。」

「え~~。それは酷くない、星ちゃん?」

頬を膨らませながら思わず昔の様に話す桃香に星はくっくっと喉を鳴らす。

 

「申し訳ありませんがお二人とももう少し憶えておいて頂けると助かるのですが...」

「あわわ...今回のぱーてぃで69回目です。」

遠慮がちではあるが辛辣な言葉を投げかけるのは蜀の頭脳こと朱里と雛里であった。

 

がっくり項垂れた桃香と、むむむと唸っている星に別の方向から声が掛けられた。

 

(2)

 

「まったく蜀の王と筆頭将軍が何を唸っているのかしら?」

「こんにちわ、桃香。」

曹操と孫権が2人に声を掛けた。

 

「ようこそ蜀へ。華琳さん、蓮華さん。」

ぱぁっと顔を輝かせた桃香が二人に抱きつこうと飛び掛ったが見事に避けられている。

 

「本当にあなたは変わらないわね。」

「全くだ。桃香よ、そもそも王というのはな...」

 

何やら王様レクチャーが始まりそうな雰囲気だった為、朱里が助け舟を出した。

「まぁお二人とも、あちらに宴席を用意していますから。桃香様もどうぞ。」

そう言って雛里と二人で先頭を切って案内を始めた。

 

「さて我々も参りますか、桃香様?」

「そうだね。」

「この様な席にはあやつ等が一番似合うというに...」

「うん。」

少し涙を浮かべた桃香は悲しそうにうなずいた。

それを知らぬ振りをした星は桃香の前を歩きながら空に向かって心の中で呟いた。

 

「主、愛紗、鈴々。お主達が逝って幾年月。こちらは今日も平和ですぞ。」

 

(3)

 

「もうやっと来たわね。」

遅れてきた桃香と星に向けられた声は蓮華の姉、孫策のものだった。

「ごめんなさい。雪蓮さん。」

そういいながらぺろっと舌を出す桃香。

 

「ふふっ。どうやら江東の小覇王も癖になったと見える。」

既に酒盛りを始めた雪蓮の手元には星オススメの肴、メンマが山を作っていた。

 

「本当に癖になったわ。こんなにも合うなんてね~。ところで桃香、後で一刀のお墓参りに行きたいんだけど?」

空になった杯を満たしながら雪蓮は桃香に問いかけた。

「そうね。私も行くわ。」

桃香の答えを聞く前に華琳も雪蓮に賛同した。

 

「なら皆でいっちゃおう。愛紗ちゃんと鈴々ちゃんの所にも行きたいし。」

雪蓮、華琳に一も二もなく快諾した桃香は女中さんに何事か言付けた。

 

「今お弁当をお願いしたから、出発は二刻後でいいよね?」

満面の笑みを浮かべた桃香に負けない位の笑みを湛えて皆頷いていた。

 

(4)

 

「一刀、久しぶりね。」

華琳が一刀の墓石を撫でながら語りかけた。

 

「こんな美人を置いて先に逝くなんてね~。」

そういって笑う雪蓮と少し困った顔の蓮華。

 

「でもでも、愛紗ちゃんと鈴々ちゃんもいるから寂しくないよね?」

桃香は一刀の傍にある愛紗と鈴々の墓石を抱きしめながら呟いた。

 

「本当に早いものですな。主が逝き、愛紗が逝き、鈴々が逝った。」

酒で満たした杯をそれぞれの墓石に備えながら星が言った。

 

そう、既に天の御使いと呼ばれた北郷一刀はこの世にはいない。

三年前に大陸の平和を願いつつ、天寿を全うした。

誰もが悲しみ涙を流さない日はなかった桃香達であったが、

彼女達の悲しみを癒してくれたのは一刀との間にもうけた子供達であった。

その子供達に励まされ、時に一緒に泣き、ここまで頑張ってきた。

 

二年前には愛紗が、そして去年は鈴々が一刀の後を追う様に逝った。

だがこの時代に、将軍という立場でありがなら穏やかな日々を暮らし天寿を全うしたことは

何よりの幸せであったことだろう。

 

「でも悲しいのは桃香達だけではないわ。」

俯き、目に涙を浮かべた蓮華の肩に手を置きながら華琳が言った。

「そうね。私達の子供達もどれだけ悲しんだことか。」

 

「ふふっ」

「あら?ことの張本人が笑うなんて。」

華琳が雪蓮にじと~っとした視線を浴びせてはいるが当の雪蓮はどこ吹く風。

 

「だって桃香達ばっかりずるいんだもーん。」

そう言って雪蓮は昔の記憶を紐解き始めた。

 

(5)

 

「ごめん。もう一回言ってくれるかな?」

一刀は雪蓮に聞き返した。

 

「もうちゃんと聞いてよね?いい?天の御使いの血を孫呉に入れるの。」

自信たっぷりに、これまた自信たっぷりな胸を張りながら雪蓮がやり遂げたと言わんばかりに言った。

 

「なんで?」

いまいち状況がつかめない一刀。

 

「いい?この平和ぱーてぃも三回目だけど既に二回五胡が攻め寄せてきたでしょ?

三国の間では平和は保たれているけど、いつ我らの考えも及ばない質量で攻め入ってくることか。

そうなると三国の中でも綻びのありそうなところから攻め立てられ、結果各個撃破されることとなる。

ならばお互いの国を尊重することは変えず、人としての繋がりを一つにしたほうがいいと思うの。

ということで、最適なのが一刀ってわけ。」

 

「俺は反対だな。」

雪蓮の申し出に一刀は難色を示した。

 

「あら、どうして?孫呉の王家と公認でヤレるのよ?」

「俺がいつまでも手を出し続けては駄目なんだよ。いつまでも天の御使いって旗を見続けるのではなく、

劉備、曹操、孫策というこの世界の住人が国、民を治めていかないと駄目なんだ。

最初は黄巾の乱に始まった争乱を少しでも緩和する為に天ってものを利用したんだけど、

今となっては皆でこの世界を良くして行かないとね。」

自分がイレギュラーな存在である以上、いつまでこの世界に留まれるか分からない一刀なりに出した答えだった。

 

「悪くはないわね。」

杯を干しながら華琳が言った。

 

「確かにあなたはこの世界では異物なのでしょう。

でも今後100年、200年の平和を保つ為の土台であれば天というものは有効的だわ。

その後は確かに私達の手で治世を行わなくてはいけないけどね。」

「でしょでしょ~?」

雪蓮は満足そうに言いながら自分と華琳の杯に酒を満たした。

 

(6)

 

「予定では孫呉の王家と、曹操に子を宿すのみだったのよね~。」

小首を傾げながら雪蓮は華琳に向いた。

 

「相手は一刀なのよ?あなたの見積が甘すぎたのよ。」

溜息を吐きつつ、こめかみに手を当てる華琳。

 

結局天の見識と技術を各国に取り込むという名目で一年ずつ魏と呉へ一刀は赴いていた。

だが流石天の御使い。

己の武器のを各国の諸将にも向けた為、全員が一刀の子をもうけることとなった。

 

「今では昂も丕も次代を担うだけの器を持つようになったわ。」

「登も今では呉王にふさわしくなったわ。紹も王佐の器であるし。」

華琳と蓮華、雪蓮は娘を置いてきた許昌と呉に思いを馳せた。

 

「そうですな。劉禅様も私からは武を、朱里・雛里からは智を、そして桃香様からは仁を学ばれました。

次の蜀王にふさわしい傑物となられました。」

そう力説する星は携えた酒が底をついたことを知って皆に帰城を促すのであった。

 

(7)

 

「少々お疲れではありませんか?」

玉座へと戻った桃香に熱い茶を出しながら星が気遣った。

 

「少しだけね。でも楽しかった~。」

茶をすすり、ほぅっと一息つく桃香に星は更に続けた。

 

「庶人に平和をと願った我らの時代がもうすぐ終わり、次の時代がやってくる。

少し寂しくもあり誇らしくもありますな。」

「しかし本当に大変なのはこれからですぞ?100年200年と言わず永劫続く平和を目指さなければ。」

「ん?桃香様?」

いつの間にか自分しか喋っていないことに気付いた星は桃香に寄った。

 

「少し眠くなっちゃっただけ~。ちょっとしたらお部屋に戻る~。」

眠そうな桃香に安堵した星は何か羽織るものを持ってくると玉座を後にした。

 

その頃の玉座では...

「本当に楽しかった。」

「ご主人様がいて愛紗ちゃんがいて鈴々ちゃんがいて。」

「いろんな人が来てくれて一緒に笑ったり一緒に泣いたり。」

「ねぇご主人様?私王様としてどうだった?褒めてくれるかな?」

 

「さぁ桃香様そろそろ戻りませんと。」

玉座に戻った星が桃香の傍に寄ったとき、彼女の目からは幾筋もの輝きが流れた。

 

「誰かある!!」

「はっ!!」

何事かと兵士が入ってきた。

「城内の諸将及び、曹操様、孫権様、孫策様に伝えろ。桃香様が身罷られたと。」

 

(終)

 

「あれ?」

目を覚ました桃香の目に映ったのは辺り一面の草原だった。

 

「おっかしいなぁ。さっきまでお城にいたのになぁ。」

不思議そうに首を傾げる桃香にどこからか呼ぶ声が聞こえる。

 

「お姉ちゃ~ん。はやくこっちに来るのだ。」

「桃香様、桃園はこちらです。」

見間違えるはずはない。

大好きな愛紗、鈴々がいる。

ただその姿はかつての少女であった頃のもの。

 

「あれ~?なんで二人ともおばあちゃんじゃないの?それに私も若い~♪」

一人騒ぐ桃香に

「はい?」

「もうお姉ちゃんはボケボケなのだ。鈴々は早くお酒が飲みたいのだ。」

愛紗も鈴々もただただ不思議そうにするばかり。

 

「みんな準備はいい?」

聞きたくても聞けなかった声。

逢いたくても逢えなかった人。

今すぐにでも飛びつきたくなる衝動を抑えながら恐る恐る声にする。

 

「ご主人様?」

「ん?」

 

変わらない笑顔で桃香に応えるとそっと耳打ちした。

「よく頑張ったな。偉かったぞ。」

一番言って欲しかった人に一番言って欲しかった言葉を聞いた桃香はにっこり微笑んだ。

 

 

「じゃあ結盟だね」

「ああ!」

 

桃園の誓い。

 

再び結ばれた絆。

 

願うのは庶人の笑顔。

 

物語は再び始まりを迎える。

 

~了~

 

長々とありがとうございました。

 

今回は桃香にスポットライトを充ててみました。

 

平和になった世界を題材にしてみましたがいかがでしたでしょうか?

 

別の話を作るか、一刀が魏・呉に出向いた時の話を膨らませるか...思案中です。

(思案で終わりそうでコワスギル)

 

稚文・乱文失礼しました。

 

呼んでくれてありがとうございましたm(_ _)m

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
98
17

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択