No.869749

年末

zuiziさん

オリジナル小説です

2016-09-18 00:31:56 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:668   閲覧ユーザー数:662

 もうすぐ年末だった。一年も早いなと思っていると、友人から連絡が来て、一年の総決算をしようという。友人は荒川の底に沈んでいる浚渫船の中から砂金の含まれている泥を回収しようと言う計画を立てていて、もうプランは半ば完成しているということだったが、それは今回のこととは関係がない。

 総決算というのは要するに飲み会をしようということなのだが、私も友人もお金がないので、ビールを買ってきてその辺の公園のあまり人気がなくて周囲の家も人が住んでいるんだか住んでいないんだか分からないような公園に行く。ここなら多少騒がしくしても大丈夫だろうと思ったのだけれども、私も友人もお酒を飲んで騒ぐような人間ではなかったので、じゃあどんな公園でも良いということになる。が、単純に人気のない場所が良かったのだから、やっぱりここが一番落ち着くのだ。遊具の土管の上に座って、友人が買ってきたスルメを噛んでいると、もう一年も終わってしまうなという気持ちが実感されてきた。このお金のかからない飲み会はここ数年の定例のような行事になってしまっているので、私はこのスルメをかじっている時が一番時の流れを強く感じるのだ。

「親知らずが横に生えていて、歯医者から、抜くように勧められているんだけれど、どう思う?」

 友人が聞く。私はどっちでもよいじゃないかと思う。私は歯医者など行かないから、歯も何本かはもうだめになってしまっているはずで、そんなふうに考える余裕のある友人がうらやましい。

「抜いたらいいんじゃないの」

「でも痛いんじゃないか。親知らずを抜いたことがないので分からないんだけど」

「私もないよ」

 親知らずが抜かれようがなんだろうがどっちでも良いことだ。

 そのうちに友人は再就職がなかなか出来ないということを言いだし、私はこれはもう愚痴になってくるなと思ったのだけれども、今日の友人の愚痴はそこまでひどいことにはならなくて、土管の冷たいのが尻の下に伝わってくるのを感じる余裕があるのだ。

 それから星がきれいだった。

 遠くには子供たちがいてブランコで遊んでいた。それは、親が子育てを放任していて、家に帰っても仕方のない小学生ぐらいの兄弟なのだ。私たちはいつの間にか彼らを黙って見ていたけれども、特に何もしてはやれないので、それは影絵の映像を見ているようなものだ。子供たちは何かを喋っているけれども、私には鳴く虫の鳴き声ぐらいにしか聞こえない。けれども涙もろい友人はそれだけでもう泣き出してしまい、あの子たちは毎晩この公園で10時を過ぎるぐらいまでいるんだよ、と言って、私にティッシュは持っているかと聞いた。私は友人にティッシュをあげ、この再就職の出来ない友人のことを慰めてやりたくなった。

「おばさんはまだ元気?」

「うん。元気だ。それだけが救いだよ」

 友人は言った。残っているビールを呷ると、散歩に連れて行って欲しい犬が鳴き止むようにすっと泣きやんだ。

 子供たちはいつの間にか居なくなっていた。星はきれいだった。私たちは星を数えようと言いだしたが、とりまとまりのつかない視界の中で、すぐに星の数は分からなくなった。

 


 
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