(リクエスト六)
「う~~~~~ん」
「どうしたの、一刀?」
政務が一段落して蓮華、亞莎、穏、一刀の四人は亞莎が作ったゴマ団子を茶菓子にして休憩をしていた。
「そろそろ新作の服を考えないとまずいかなあと思ってね」
「服?」
一刀は自分のデザインしている洋服の新作の案が行き詰っていた。
「主に悩んでいるのは子供向けの服なんだよ」
「子供向けの服まで考えているの?」
「そりゃあそうだろう。可愛い服は女の子だったら誰でも着たいだろう?」
「それはそうだけど」
蓮華は今まで一刀がデザインした洋服を思い出した。
子供から大人まで多種多彩な服は世の女人を魅了し、魏の于禁こと沙和が愛読している『阿蘇阿蘇』にも特集を組まれるほどだった。
だが、その一方で子供向けの洋服が少ないという意見が出ていた。
なぜ少ないか。
それは一刀の発想が今ひとつまとまらないからだった。
「イメージはできているんだけど、実際に着てもらわないと細かいところまでわからないんだよな」
大都督として多忙な毎日を送りながらまだそんなことを考える余裕があるのかと、蓮華は意外にも感心し、亞莎と穏はただ呆れるばかりだった。
「そうだ。実際に着てもらうか」
「着てもらうって…………誰に?」
自分達の娘はまだ幼いため無理があり、他に子供といえば辛うじて小蓮ぐらいしか思いつかなかった。
「呉だけだと偏ってしまうから、魏や蜀からも参加してもらうってことでどうかな?」
「どうするのですか?」
「ようするに三国によるファッションショーをするんだよ」
「すいません、天の言葉ではわかりづらいです」
亞莎だけでなく蓮華や穏も頭の中に「?」をいくつも生み出していた。
「ああ、ようは新しく作った服を誰かに着てもらって、それをみんなで品定めするんだよ」
「面白そうね」
蓮華達はどうやら興味を持ったようで、一刀に具体的な案を聞いていく。
それぞれの国から一刀が選んだ人物を三名ずつ、デザインした新作を試着してもらい、それを今度の立食パーティーですることを三人に言うと、おおむね了承を得られた。
「でも私達はともかく、魏や蜀は了承するかしら?」
「大丈夫だよ。魏だろうが蜀だがろうが可愛い服に国境はない!」
力説する一刀に蓮華達は大丈夫だろうかと不安になっていった。
そんなこんなで二ヶ月が過ぎ、三国会議が開かれた。
各国の報告と今後の方針を激論した後、一刀が解散前にその場にいた全員にファッションショーの開催について発言をした。
「面白そうね」
一番に興味を示したのは華琳だった。
「だろう。だから今晩の立食パーティーの時に開催しようと思っているんだ」
「急ね。でも面白そうだから今宵の出し物は一刀に任せるわ」
何の躊躇いもなく一刀に参加することを決めた華琳に桃香もどんなものか知りたいようで参加をすることを決めた。
「念のために言っておくけど、誰を選んだかで文句はなしだからな」
「いいわよ「はい」」
華琳と桃香がそれぞれの軍師を連れて自室に戻っていくのを見送った後、残っていた蓮華の方を見た。
「な、どうにかなっただろう?」
嬉しそうに言う一刀に蓮華はため息を一つついて、苦笑いを浮かべた。
「一刀は本当に変なことには力を入れるのね」
「変なものか。これも皆が喜んでくれるだろうと思うからできることなんだぞ」
資料を片付けていく蓮華は一刀の熱意がもっと自分に向いて欲しいと思った。
「そうだ。蓮華」
一刀はゆっくりと蓮華の座っている椅子の後ろに行き、両手を伸ばした。
「あっ」
思わず甘い吐息を漏らしてしまった蓮華。
一刀は調子にのって手を動かしていく。
「うっ」
頬を紅く染めていく蓮華は誰かに見られないかと不安になり周りを見ようとした。
「大丈夫だよ。誰もいないから」
一刀の言葉を信じるかのように瞼を閉じて彼のなすがままに身体から力を抜いていく。
「いかがですか、お嬢様」
「あっ」
「随分と肩が凝っていますよ?」
蓮華の柔らかな肩をほぐしていく一刀。
ここが閨であれば蓮華は彼に全てを委ねるが、残念なことに会議室だったためにこれ以上しないようにと彼の手を握って止めさせた。
「せっかくお姉様が残って登の面倒を見てくれているから、宴の後にゆっくりとお願いできるかしら?」
「仰せのままに」
二人はお互いの顔を見て笑いあった。
立食パーティーが始まり、いつものように和やかな空気が流れていた。
そんな中で一刀は用意された舞台の裏で、沙和に持ってきた洋服を見せていた。
彼女には新作の洋服を無料で何着か進呈するということを約束したおかげで協力してくれることになり、また真名まで授かっていた。
「誰にどれが似合うかな?」
「う~~~~~ん」
真剣な表情で物色していく沙和。
「飾り物があれば問題ないの~」
「それも一応、ここに用意してあるよ」
洋服だけではなく宝石や髪飾りなども周到に用意している一刀に沙和は満足そうに頷いた。
「うん。だいたいわかったの~」
「本当か?」
「でも、本当にこの子達でいいの~?」
紙に書かれた人物達を見て沙和は疑問に思うところがあった。
「今回はこの子達でないとダメなんだ」
妙に力説する一刀に沙和はとりあえず納得はした。
「あ、それと呼んでくるからみんなに沙和が選んだのを一つずつ渡してあげて欲しいんだ」
「わかったの~」
舞台の表に出て一刀はこれから出演する女の子に声をかけていく。
まず始めに声をかけたのは自分の妻でもある月、詠、そして音々音。
特に、月と詠はまだそれほどお腹が目立っていなかったが妊婦には間違いなかったため、当初、月達の参加をどうするか悩んでいた一刀。
「別にいいわよ?」
出発前に事情をとりあえず話すとあっさりと詠に承諾された。
「いいのか?」
「ボクはどうでもいいんだけど、月がいいって言うんだから仕方ないじゃない」
事前に月に話を通しておいた甲斐があり、一刀の提案を受け入れてくれた詠に感謝していた。
そして今も月と詠は準備のために舞台裏に行き、残った音々音はその場から逃げようとしていた。
「……ねね」
「れ、恋殿!?」
山盛りの料理を皿にのせて頬張りながら音々音の退路(恋からすれば偶然)を絶つように後ろに立っていた。
「ほら、恋だってねねの可愛いところ見たいんだぞ」
「コクッ」
自分の味方でいてくれると思っていた恋が一刀の意見に賛同している以上、音々音のとるべき選択は一つしかなかった。
「仕方ないでのです。今回だけはヘボ主人の悪巧みにのるとするのです」
音々音は文句を言いながら月達の後を追うように舞台裏に向かった。
「恋、ありがとうな」
一刀に頭を撫でられる恋は頬を紅くして頷いた。
次に声をかけたのは魏軍。
そこに風が琥珀と葵の二人と一緒に流琉、季衣と楽しく会話をしながら料理に箸を伸ばしていた。
「おや、お兄さん。どうかしましたか?」
葵と流琉を除く三人の口の周りはタレなどで汚れていたので、一刀は机の上に置いてある綺麗な布で順番に拭いていった。
「まったく、何時までも子供なんだから」
「いえいえ。風はお兄さんに拭いてもらうためにわざとつけているのですよ」
確信犯の風は何も悪いことをしてないといった感じで一刀を見返している。
「お兄ちゃん、ありがとう♪」
季衣は嬉しそうにお礼を言う。
「御主人様♪」
琥珀も喜びながら肉団子を頬張っていく。
「ところで流琉と季衣にお願いがあるんだけどいいかな?」
「はい「な~に」?」
流琉と季衣にもファッションショーに出てもらえないかと交渉をする一刀。
「それは私達でなければダメというものなのですか?」
流琉は自分達よりも美人な人物がいるのに、どうして自分達なのかわからなかった。
一刀は今回の主役は流琉や季衣のような女の子だと繰り返し、もし受けてくれるのであれば新作の服を無料で進呈すると言った。
「ダメかな?」
「いいよ」
流琉よりも先に季衣が参加を表明した。
「ち、ちょっと季衣」
「だって面白そうだもん」
季衣からすれば立食パーティーでいつもよくしてくれる一刀のことが好きで、準備なども良く手伝っていた。
そんな季衣に賛同するかのように、流琉は頬を紅くしながら承諾した。
「おや、それでしたら風も参加してみたいのですよ」
「それはいいけど、それは魏軍代表としてか?」
華琳から罷免されている風が魏軍代表になるのは華琳達がどう思うか気になる一刀に、救いの手が差し出された。
「いいわよ。今夜限りなら風を魏軍に戻してあげる」
さっきまで厨房にいたのか、華琳は一刀から送られたエプロンをつけて立っていた。
「なによ?」
一刀は惚けており、風達は目を丸くして華琳を見ていた。
「い、いやなんていうか…………」
「華琳様、可愛いです」
「これがお兄さんの言っていたえぷろんというものですか」
華琳の着ている蒼の服に白のエプロンは良く似合っていた。
「これをしていると汚れが服につかなくて助かるわ」
「喜んでいただいて何より」
一刀もプレゼントした甲斐があった。
「風、流琉、季衣。存分に楽しみなさいね」
華琳はそれだけを言い残して再び厨房に戻っていった。
ここまでは順調に人選が決まっていた。
そして蜀陣営に行くと、悠里が朱里と雛里を集めて何かをしていた。
「悠里、何しているんだ?」
「あら、一刀くん」
結婚してからも呼び方を変えることのない悠里は笑みを浮かべながら手に持っていた本を一刀に渡した。
「これは?」
「この夏の新作です」
嬉しそうに答える悠里を見て、その内容は一刀が決して踏み入ってはならない領域だと直感した。
「はわわ、お姉ちゃんの新作は凄いです」
「あわわ、さすが悠里様です」
まさに尊敬の眼差しで悠里を見上げる蜀の二大軍師。
どこをどう尊敬したらいいのかわからない一刀はとりあえず、朱里と雛里に当初の目的を話した。
「それはかまいませんよ」
朱里と雛里は快く承諾した。
だが三人一組にしているので後一人欲しいところだと思いながら周辺を見ると、一人の小さな女の子を見つけた。
「たしか、あの子は紫苑さんの娘さんだったけ?」
紫苑の娘、璃々も一刀に気づいたようで不思議そうに見返してくる。
そこへ紫苑がやってきて、彼女は娘の視線を辿っていき一刀を見つけると軽く一礼をした。
そして璃々と仲良く手をつないで一刀達のところにやってきた。
「こんばんは、一刀さん」
「こんばんは、紫苑さん」
お互いに挨拶を交わして笑顔を見せる。
「璃々を見ていたようですが、どうかなさいましたか?」
「えっと、実はですね」
一刀は無理を承知で紫苑に璃々の参加を求めた。
一通りの説明を聞いた紫苑は穏やかな表情を崩すことなく承諾した。
「本当ですか?」
「ええ。この子に可愛らしい服を着させていただけるのであれば問題ありませんよ」
紫苑は娘にもわかるように説明をしていく。
「璃々ちゃん、よかったら参加してくれるかな?」
一刀は璃々と同じ視線になるように膝を折り、笑顔を向けながら参加を求めた。
璃々は何度も紫苑と一刀の顔を見て、最後には満面の笑みを浮かべて大きく頷いた。
「よろしくおねがいします♪」
礼儀正しい璃々に一刀達は自然と笑みが広がっていった。
「よし、これで呉から選べが「にゃー」うん?」
可愛らしい猫のような声に振り向いた一刀が見たのは、あの南蛮兵達だった。
「どうしたのですか、ミケちゃん、トラちゃん、シャムちゃん」
朱里は三人(三匹?)に声をかけると、ものほしそうに一刀を見ていることに気づいた。
「もしかしてミケちゃん達も参加したいのですか?」
「「「にゃー」」」
自分達が望んでいることを正確に答えてくれた朱里に喜びの声を上げる三人。
「美以ちゃんはどうしたのですか?」
「大王しゃま、あそこにゃー」
ミケが指差す方向に全員が見ると、恋に捕まっており抱きしめられており、そして恋の反対側にはなぜか明命が至福に浸った表情を浮かべて美以にくっついていた。
「ミケたちさびしいにゃー」
「「にゃー」」
ミケ、トラ、シャムが寂しそうにしているのを見て一刀は一人頷いた。
「よし、じゃあミケ達も参加してくれ」
「いいのにゃ?」
「もちろん♪」
人数が多ければ多いほどそれだけ種類も増える。
幸いにも今回用意した洋服の数は十六着。
ミケ達を入れて余裕はあった。
「あにしゃま~♪」
「にぃにぃ~♪」
「にい様~♪」
三人は一刀に抱きつき喜んだ。
「よしよし。それじゃあ朱里、すまないけどミケ達もつれて舞台裏に行ってもらえるかな。そこに沙和がいるから、彼女の指示に従ってくれ」
「わかりました」
朱里は雛里と協力して璃々と南蛮三人娘を連れて舞台裏へ向かった。
「それにしも一刀くん」
「なに?」
悠里と紫苑の方を向きなおすと、二人は笑みを浮かべて彼を見ていた。
「もしかしなくても小さい女の子が好みなのですね」
「あら、一刀さんったら」
あまり冗談に聞こえない悠里の言葉に一刀は笑って誤魔化すしかなかった。
「もしよろしければ璃々をもらっていただいてもかまいませんよ。もちろん私も」
「え、遠慮しておきます」
これこそ冗談に聞こえなかったため、一刀は二人に礼をとってその場から逃げた。
「あらあら、一刀さんったら」
「仕方ないですね、一刀くんは」
二人はそう言って笑いあい、杯を持って酒を堪能した。
なんとか逃れ最後の三人を探す一刀。
「おかしいなあ。シャオのやつ、どこいったんだ?」
会場内を探すがどこにもいなかった。
(シャオがいないとなれば…………)
呉軍で今回のファッションショーに参加してもらおうと思っていた人物は小蓮、明命の二人だったが、一人は行方不明、一人は美以にくっついて別世界に旅立っている最中だった。
(ま、まずいぞ、これは!)
残っているとすれば蓮華、思春、穏、亞莎の四人しかいないが、残念なことに一刀が構想しているものとは別物だった。
「う~~~~~ん」
悩む一刀。
「あ、あの」
そこへ声をかけてきたのは給仕の女の子だった。
「ど、どうかなさったのですか?」
「うん?ああ、ちょっと人数が足りなくてね」
予想外のことに困った笑顔をする一刀に女の子は意を決したように頷き、再び声をかけた。
「あ、あの、よかったら私達も協力します」
「え?」
そこで初めて一刀は女の子を見た。
(あれ?この子どこかであったような…………)
はっきりと思い出せないがどこかで会ったことのあるような女の子を見ていると、
「お姉ちゃん!」
同じように給仕の女の子がやって来た。
「何しているのよ、お姉ちゃん」
「だ、だって一刀さんが困っているんだよ?」
その会話を聞いていた一刀は妙な違和感を覚えた。
(この二人は姉妹で俺のことを知っているみたいだよな?)
目の前で妹に押される姉の光景を見ながら、一刀はひとまずその疑問を置いて自分が直面している問題を優先させた。
「とりあず二人ともお願いできるかな?」
「「え?」」
二人は一刀を見る。
「二人が協力してくれるのなら何も問題ないよ」
一刀の真剣な顔に二人はもう一度話し合い、そして承諾した。
「ありがとう、二人とも」
二人を抱きしめると顔を真っ赤にする女の子達。
「よしあと一人はっと…………、あ、いたいた。亞莎」
亞莎は振り返りゆっくりと歩いてきた。
「どうかなさいましたか、一刀様?」
公式の場では旦那様と呼ばないようにしている亞莎は一刀から話を聞いて、戸惑いながらもこれから行われることに協力すると答えた。
「よしこれでそろっ「待つのじゃ」た、美羽?」
一刀は美羽を見ると風達と同じように口の周りにタレをつけていた。
「どうしたんだ、美羽」
「どうしたとはなんじゃ。妾とて一刀がしようとしていることに協力してやろうと思っておるのじゃぞ」
珍しく自分から協力的な美羽。
彼女も一刀の妻になったことで多少の変化が見られていた。
我侭なのは変わらないが、回りに大迷惑から少々迷惑をかけるに収まっており、何よりも一刀といる時は素直な一面をよく出していた。
「わかった。それじゃあ亞莎達と一緒に行ってくれ」
「うむ。亞莎、妾についてくるのじゃ」
「ま、待って下さい」
口の周りにタレをつけたまま歩いていく美羽に亞莎は布を持って追いかけていく。
「二人もよろしく頼むよ」
給仕の女の子二人にも協力してもらえたことでどうにかなった一刀は一安心した。
「あ、あの一刀さん」
「うん?」
「私達、がんばりますから」
力強くはっきりと言う女の子。
「お姉ちゃんがそういうなら私も協力してあげる」
妹も不満そうだが姉が協力をするといっている以上、反対はしなかった。
「おぬし等、はよう来るのじゃ」
美羽の声に一刀は二人に向かうように伝える。
仲良く手をつないで向かう二人のその後姿に一刀は笑みを浮かべる。
「一刀」
次に彼の元にやってきたのは蓮華だった。
「どう、上手くいきそう?」
酒で満ちた杯を渡しながら蓮華は今回の一刀のしようとしていることを気にしていた。
「なんとかね。ところであの二人、どこかで見たことないか?」
「あの二人?」
ちょうど舞台裏に入ろうとしている姉妹を見て蓮華は特にこれといって反応を示さなかった。
「気のせいでしょう?」
「そうかな」
蓮華が知らないのなら自分も知らないということで納得させた。
「一刀さん~、言われたとおり二胡持ってきましたよ」
七乃が自分の愛用している二胡を持って一刀達のところにやって来た。
「ああ、ありがとう。本当は冥琳もいて欲しかったんだけど、今回は七乃さんに頑張ってもらうよ」
「わかりました~」
そう言って所定の位置に七乃は向かった。
「そろそろ準備も出来たな」
舞台となる壇上も用意でき、あとは月達が用意した洋服を着たら全て整う。
「蓮華も楽しんでくれよ。登達に着させる服の参考にしてもらいたいから」
「ええ。楽しみにしているわ」
そう言って二人は酒を呑んだ。
それからしばらくして準備が整った。
蝋燭の灯りの数を減らして舞台に集中させた結果、雰囲気がかなり出ていた。
「それではこれより三国共同によるふぁっしょんしょーを始めるの~」
舞台進行に沙和を選んだ一刀は満足そうに頷く。
「まず始めは蜀の三人なの~」
七乃の二胡のメロディーにあわせて出てきたのは璃々だった。
「「「「「おお~~~~~~」」」」」
続いて出てきた朱里、雛里をあわせた三人はウサギの頭巾を被っており、ノンスリーブのワンピースに両手には白い手袋がしてあった。
そして一刀が何気に力を入れたのは腰の辺りについてある丸い尻尾だった。
胸がなくても十分に可愛さを表現できるまさに子供向けの一品。
三人にはピッタリな服だった。
「三人とも可愛いよ♪」
桃香は感激して舞台上で恥ずかしそうにしている二人と満面の笑みを浮かべる璃々の姿を目に焼き付けていた。
「まぁ璃々もいつもより可愛いわね」
紫苑も満足そうに舞台上の愛娘を見ていた。
「それでは最後にきめぽーずなの~」
沙和は一刀が指示した出演者に決めポーズをとらせて最後に一言を言わせることを忠実に守り、舞台上の三人は寄り添っていき前屈みになって、璃々を中心にして顔をあわせて出来る限りの笑顔を見せた。
そして三人は多少ずれたもののこう言った。
「ごしゅじんさま♪」
その瞬間、一刀は歓喜の涙を流し、紫苑は鼻を押さえつつ隣にいた桔梗から布を渡されていた。
「蜀の三人ウサギちゃんだったの~」
沙和が締めくくると朱里と雛璃は顔を真っ赤にして、元気よく手を振る璃々を連れて舞台裏に下がった。
「可愛かったわね」
蓮華も一刀のデザインした洋服を見て改めてその才能に驚いた。
「まぁそういう風に作ってみたからな」
「もし私が今のを着たら一刀は嬉しい?」
蓮華は僅かに頬を紅く染めながら一刀に聞く。
一刀はその姿を想像して問答無用で大きく頷いた。
「物凄く嬉しいよ」
素直に喜んでくれる一刀に蓮華は嬉しく思った。
「次は魏の三人なの~」
沙和の進行により次に出てきたのは風、流琉、季衣の三人だった。
「「「「「おお~~~~~」」」」」
さっきの三人に負けないほどの歓声が起こった。
風達三人の着ているのは白のブラウスに黒のベスト、黒のズボン。
首元には風には蝶結びのリボン、流琉と季衣にはそれぞれネクタイがついており、そして頭の上に小さな帽子をのせていた。
「あの姿で私の身の回りの世話をさせようかしら」
頭の中でよからぬことを考えている華琳。
「風があんな姿でご奉仕…………ブホッ」
鼻血を噴出し倒れる稟。
流琉は恥ずかしそうに両手を後ろに組み、季衣は両手を頭に当てて笑顔を見せていた。
そして風はプロのモデルのように一回転をして腰に手を当てた。
普段の風ではありえないような凛々しさがあった。
「ねぇ一刀」
「なに?」
「風をうちに戻してもいいかしら?」
華琳は舞台上に立っている風を見て一刀にそう言った。
「さすがにそれは」
すでに一刀の妻となり子を宿している風を手放すつもりはなかった。
「罷免したのは失敗だったわね」
今になって自分のしたことに後悔する華琳。
一刀は何も言わずに舞台の上で決めポーズに入る三人を見守った。
風と中心に流琉は右側、季衣は左側に立ち最後に一言。
「おかえりなさい、お兄ちゃん♪」
その言葉はどうみても一刀に向けられていると誰もが思った。
「一刀」
隣にいる蓮華は軽く睨み付けてくる。
「い、いや、これはわざとじゃないから」
苦し紛れの言い訳をする一刀にため息をつく蓮華。
それを見ていた華琳は笑いを噛みしめていた。
「続いての三人はこちらなの~」
沙和の楽しそうな声がやむと、
「「「にゃー」」」
という可愛らしい声と共に南蛮の三人娘が勢いよく飛び出してきた。
彼女達が着ている服は白のセーラー服と黒のスカート。
そしてなぜか手は虎色の手袋。
もちろん彼の考案なので虎の尻尾もついており、南蛮兵のトレードマークである虎帽子は被っていた。
「なんていうか女子高生というよりも女子中学生だな」
一刀の言葉に蓮華は何を言っているのかわからなかったが、何となくろくでもないことを考えていることは理解できた。
決めポーズは両膝に手を当てて前屈みになり笑顔で「にゃー」とあわせた。
「一刀…………」
拳を突き上げて喜んでいる一刀を見て蓮華だけではなく華琳も軽く引いていた。
((まぁ、一刀だし))
共通のことを思った二人はお互いに気がつき笑みを浮かべた。
「そろそろふぁっしょんしょーも終盤なの~。続いては呉の三人なの~」
のってきた沙和に七乃も二胡を楽しそうに弾いていた。
だが誰も舞台に出てこない。
「あれ?」
「どうかしたのかしら?」
そう言っていると舞台裏から三人が出てきた。
「あら」
「へぇ~」
「大胆~」
呉魏蜀の三王はそれぞれの言葉を漏らしていく。
三人とも極限まで短いスカートの裾に手を当てて見えないようにゆっくり歩いてくる。
そして会場の誰もが注目したのはその上のキャミソールだった。
(オヤジ、あんたは神だ!)
すでに呉国直営にまで成長した意匠家が一刀の無理難題を見事に応えていた。
キョンシー帽子に片眼鏡の亞莎は顔を真っ赤にしており、給仕の姉妹も恥ずかしそうに立っていた。
「すごくかわいいの~」
沙和も絶賛するキャミソールにミニスカート、それにニーソックスを履いていた。
「三人ともお持ち帰りしていいかしら?」
「うちにもあんな可愛い服欲しいなあ~」
興奮を抑えつつも声が高ぶっている華琳と桃香。
「私にも似合うかしら」
蓮華も自分がキャミソールとミニスカートを着ている姿を想像して顔を紅くしていく。
舞台上では給仕の姉妹は寄り添っており、亞莎は周りの視線、特に一刀からの熱烈な視線に気づいて胸が張り裂けんばかりに鼓動が早まっていた。
「亞莎」
舞台下から一刀は亞莎の名前を呼ぶ。
「凄く可愛いよ」
親指を立てて褒め称える一刀に亞莎は全身真っ赤になり、とうとう限界を超えて倒れてしまった。
「あ、亞莎!」
慌てて舞台に上がり、倒れている亞莎を抱き起こした。
「だ、大丈夫か?」
「だ、だんなさま」
一刀にしがみつく亞莎。
「凄く可愛いよ、亞莎」
「旦那様」
二人の世界に入っていく中、その横にいた給仕の姉妹はとりあえず肩を叩いた。
「あ、あの一刀さん」
「うん?」
桃色のキャミソールと黒のミニスカートを身に着けている姉の方の女の子は申し訳なさそうに横に指をさした。
「なんだか凄くまずいような気がしますよ」
「へ?」
振り返ると約一名、今にでも掴みかかってきそうなほど怒りを表しており、残りは一刀らしいという空気が流れていた。
「蓮華様、物凄く怒っているわよ?」
「あはは…………」
もはや笑うことしか出来なかった一刀は亞莎を立ち上がらせてゆっくりと舞台を下りていき連華の隣に座って、思いっきり腕を捻られた。
「え~っと気を取り直して続いてこの三人なの~」
キャミソールの三人が下がると次に出てきたのは月達だが、その姿に誰もが息を呑んだ。
世の中に可憐という言葉がこれほど似合う者はいるだろうかと、それを見た誰もが思った。
純白に等しいドレスを身にまとった月。
頭にはドレスと同じ色のボンネットをつけて照れくさそうに少し俯いていた。
一刀はまるで人形を見ているように思えた。
「えっと、他の二人も出てくるの~」
なぜか出てこない詠と音々音。
沙和に声をかけられても出てこない二人。
「詠ちゃん、ねねちゃん」
月の声にドンッと大きな音がした。
ゆっくりと詠と音々音は舞台の表にやってきた。
詠は月とは対照的に漆黒のドレスを身にまとい頭には小さなシルクハットがのっていた。
「ねね、あんたも覚悟決めて出てきなさい」
「ヘボ主人め…………」
文句を言いながら最後に出てきた音々音は白と黒を絶妙なバランスのドレスとトレードマークのパンダ帽子だった。
「三人ともなんだかお姫様みたいやな」
「月様」
「……可愛い」
旧董卓軍の霞、華雄、恋は自分達の主君と同僚の姿を温かく見守っていた。
「へぅ…………」
顔を紅くしている月。
「ふ、ふん」
こちらも顔を紅くして横を向いている詠。
「れ、恋殿~~~~~~!」
なぜか半泣きの音々音。
「これも一刀が考えたものなの?」
「うん。ただここまで似合うとは思わなかったよ」
ある程度の予測は出来ていたが、実際に見てみると予想を遥かに超えた出来栄えに満足していた。
「なるほどね。どうして一刀があの子達を人選したのか理由がわかったわ」
華琳は納得するように頷く。
そして不機嫌そうに蓮華は一刀を見た。
「蓮華?」
一刀はそっと手を蓮華の腰にまわして自分の方にそれとなく抱き寄せた。
それに気づいた蓮華は幾分か機嫌を直し、軽く肩を寄せていった。
「さ~て最後に登場するのはこの人なの~」
二胡を引いていた七乃の表情が一番輝いているが誰もそれに気づかず、舞台にゆっくりと出てくる美羽を見た。
美羽はスカートに黒のタイツ、黄色のノースリーブといったラフな格好だったが可愛らしさは十分にあった。
「あの子って歌だけでなくこういう服も似合うのね」
「美羽はいい子だよ。少し我侭なところがあるだけだよ」
甘える時はどこまでも甘えていく美羽に一刀は自然と笑みを浮かべる。
両手を腰に当てて無い胸を張っている美羽に誰もが笑顔になっていく。
「それではきめぽーずなの~」
「うむ。一刀」
「なに?」
「ちこうよれ」
一刀は蓮華から離れて舞台傍まで行く。
「どうした?」
「じっとしておれ」
そう言って両手を膝にあて、前屈みになって一刀の唇に自分の唇を重ねた。
数瞬の出来事だったが周りはしっかりと見ていた。
「大好きじゃぞ、一刀♪」
純粋な心というべきものがそこにあった。
蓮華も呆れつつも、同じ妻同士であり一刀のことが大好きな美羽に笑みを向けていた。
「妾は満足じゃ」
満面の笑みを見せる美羽に一刀も笑顔で応える。
「それでは最後に全員にある衣装を着てももらうの~」
美羽が舞台裏に下がりしばしの時間が出来た。
最後とあってどんな衣装を着た出演者が出てくるか期待を込めていた。
一刀は蓮華のところに戻ると彼女は少し疲れを感じさせていた。
「大丈夫か?」
「ええ。誰かのせいで少し疲れたわ」
半分冗談ぽく蓮華が言うと申し訳ない表情を浮かべる一刀。
「でもどれも素敵な服ね」
「まぁ俺がいた世界では珍しいってほどでもないんだけどな」
それでも日常で着るには少しばかり勇気がいりそうな気がしていたが、一刀にはそこまで考えていなかった。
「蓮華にも似合う服を作ってもらおうか?」
「いいの?」
「もちろん♪」
それぐらいは蓮華の笑顔に比べたら安いものだと一刀は思っていた。
しばらくして準備が全て整った。
「それでは準備ができたの~。一斉に出てくるの~」
十六人が一斉に出てきた。
「「「「「おお~」」」」」
そこに現れたのは南蛮衣装を身にまとった十六人の女の子達だった。
「それじゃあ、最後に決め言葉なの~」
「「「「「にゃ~~~~~♪」」」」」」
恥ずかしながらする者や元気一杯、満面の笑みでする者。
だが共通して言えることは誰もが笑顔だった。
「やっぱりこうなると思ったわ」
「道理で美以ちゃんが荷物持ってきていると思った」
華琳と桃香はある程度の予想はしていたみたいだった。
舞台上ではミケ、トラ、シャムが先頭に立って南蛮の踊りを披露し、他の参加者もそれにならってゆっくりと踊っていく。
「「「「「にゃーにゃーにゃーにゃー♪」」」」」
ますます盛り上がっていく会場の中で、一刀は目の前の光景を見ながらこう思った。
(なんだかこういうのいいよなあ~)
成熟した雪蓮や冥琳とは違って子供らしさが残る月達。
彼女達全員と一夜を過ごすことになればまた違った楽しみがあるように思え、自然と顔が緩んでいく。
だが今がまだ全員がいることをすっかり忘れていた一刀。
「へぇ~……、一刀ったらそんなにあの子達のほうがいいの?」
蓮華は笑顔だが黒いオーラを遠慮なく吐き出していた。
「あら、夫婦喧嘩?」
華琳はひどくおかしそうに笑う。
「れ、れ、蓮華!?」
ようやく自分の状況に気づいた一刀だがすでに時遅しだった。
「華琳、桃香、申し訳ないけれど一刀を連れて行ってもいいかしら?」
「「どうぞ」」
笑顔で送り出す二人。
「ま、待て、落ち着け」
「ダメよ。今日という今日は念入りにお仕置きをしないといけないみたいだから」
一刀の腕を掴んで引っ張っていく蓮華。
「ロリがなにがいけないんだぁああああああああああああああ!」
訳のわからないことを叫びながら会場から連れ出されていく一刀。
「なんていうか見慣れている自分達が嫌になるわね」
「もう少し一刀さんも考えて欲しいですね」
二人の王はまだ盛り上がっている舞台を見て笑いあった。
与えられた部屋で誰にも邪魔をされずに蓮華は久しぶりに一刀と激しく交わった。
疲れきった二人はお互いを抱きしめあって眠っていた。
そこへあの給仕の姉妹がいつの間にかやってきて眠っている二人を見下ろしていた。
「今日はありがとうございました、一刀さん」
「蓮華様もお元気そうでなによりです」
二人はキャミソールなど、舞台で見につけていた衣装を大切に抱いていた。
「雪蓮様や冥琳様とも会いたかったんですけど次にしますね」
「お二人を頼めるのはあんただけなんだからね」
二人は眠っている一刀の頬に順番に口付けをしていく。
「それじゃあまたです」
「元気でね」
そう言って二人はこの世界から砂粒のように輝きながら消えていった。
机の上には真桜が作り上げた「かめら」で撮った彼女達に囲まれる一刀が写った写真が置いてあった。
そこには給仕の姉妹、大喬と小喬もしっかりと写っていた。
「うっ」
一刀は目を覚ましさっきまで二人がいた場所を見た。
「どうしたの?」
同じように起き上がった蓮華に一刀はなんでもないと言い、再び彼女を抱きしめて眠りについた。
同時刻。
呉では雪蓮と冥琳、それに祭が孫紹達を見守りながら酒の呑んでいた。
「あら?」
雪蓮は何かに気づき、部屋の入り口の方を見る。
「どうかしたの?」
「ううん。なんでもないわ」
雪蓮はただ微笑み酒を呑んだ。
余談だが、小連は事前に今回のことを知っていたが、どの衣装を着て一刀を悩殺しようか悩んでいるうちにファッションショーが終わってしまったというオチがあった。
「なんなのよ~~~~~~!」
会場が片付いていく中、小悪魔的な衣装を着た小連の虚しい雄たけびだけが木霊した。
(座談)
雪蓮 :また作者が逃亡したの?
蓮華 :そのようですね。
冥琳 :まぁ今回はわからないでもないわね。
雪蓮 :なんたって初めて書くらしわよ。ロリっ子のお話は。
蓮華 :随分と悩んでいたみたいですよ。
冥琳 :とにかく次回までに戻ってきてもらわないと困るわね。
雪蓮 :次回はとりあえずリクエストSSは最後よ。あとは作者に聞いてね♪
大喬 :ねぇ小喬ちゃん。
小喬 :どうしたの、お姉ちゃん?
大喬 :私達って真になってから影も形もないよね?
小喬 :それは言わない約束だよ……。(泣)
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リクエストSS第六弾!
今回はティリ様のリクエストです。
実に初めて書くロリという領域なので大目に見てください!
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