帝暦601年、ついにこのユニヴェール大陸にまぞくが侵攻を開始してきた。沿岸に近いテアトール、コネサンス、シャンタールなどの主要な街はあっという間に陥落し、エクリット城も占拠されたという。
私の名はアサルシャ シャウエンブルク。ティラン帝国レジオン大修道院にある騎士修道会の剣術指南を帝国より任命され、ミニストルを初めとする周辺市街地を守護する任務を与えられた帝国軍兵長でもある。レジオンはガニアン宮殿近郊の都市、通称レジオンの門とも呼ばれている帝国の防衛線の一つ。最近になりまぞくの侵攻目標の一つになると帝都からの詔勅(皇帝の公務で行った意思表示の事)が発せられた。これを重く見た大修道院ゴットルプ大司教も近隣の領主への出兵を要請し、それに呼応した荘園領主は徴兵に応じた訳だが、帝国政府に反感を持つ者が多い辺境であるこの地域ではそれに応じる領主は少なかった。そうした訳もあって私自身も矢面に立ち周辺市町村の防衛を任務として拝命する運びとなった。
私の生まれた街はプリュイという小さな町だ。プリュイはエクレール皇国の荘園の一つ、エヴェイユ城主ミリオーレ枢機卿の治める荘園領内にある。ミリオーレ公は神体エクレール皇女を教祖と仰ぐ宗教、エクレール教の熱心な教徒だ。エヴェイユという所は風光明媚と言えば聞こえは良いかもしれないが、あるのは砂漠と荒野に囲まれたオアシスとも言える町だけで、見晴らしだけは無駄に良いところだ。皇国の援助が無ければあっという間に帝国に飲み込まれてしまうような日和見主義の国。そんな小さな国の国衆(町長のような存在)の娘として生まれた私は、父から国主の何たるかを教えられて育つにつれ、強大な力を持って所領を拡大していくティラン帝国に興味を抱き、それは次第に心酔へと変っていく。それが16の頃の話だ。兄が3人もいるのだから誰かが家を継ぐのだろう、飛び出した私は帝国に直参したいがため徴兵に参加した。家を捨て一兵卒から、そしてついに青薔薇公に認められるまでになったものの、貴族上りの騎士団員には地位、名誉共に遠く及ばないし、届く事も無いのだろう。しかし皇帝は広く実力のある者を人材登用するという。私にもその機会がいつか来ることだろう。そう思うようになってからどれぐらいの時が過ぎただろう、私は23になっていた。
剣の腕にはそこそこの自信はある。しかし剣豪とも勇者とも呼ばれる太陽神の剣さばきを見る機会があった時、これは到底かなう相手では無いと思ってしまった私はその程度の剣の腕前なのだ。いや、そもそもあれは人の技なのかと目を疑うほどのものだったのだが。
母の話も語らねばなるまい。私の母は遠い昔にイブリース大陸から疎開してきた難民の末裔だという。イブリースがまぞくとの戦乱に窮していた頃の話だ。母の家には生まれた子に三ツ星の痣があった時だけ秘密の名前をつけるという一風変った慣わしがある。背中にそれがあった私には普段は名乗る事の無いもう一つの秘密の名前が付けられている。ヴェスタルアインという名前だ。そして併せて秘密の合言葉も伝わっている。「我みささぎにこうずる時からきたるしんゆうの年、我がこういん奉じてふつのみたま授けん」子供の頃から母に聞かされてきた詩だが、それが名前を名乗る合言葉だという。小さい頃から剣に明け暮れ、学に乏しい私には何の意味があるのかまったくわからなかった。それは今も変らない。変らないと言えば父とは今も勘当の身だが、母とはたまに手紙のやり取りをしている。
そんな折母から手紙が届いた。プリュイの町がまぞくの侵攻を受け、そして陥落したという旨の手紙だった。手紙には心配は要らないと書かれているが、土台無理な話だ。私は事の次第を確かめるべくガニアン宮へ馬を走らせた。しかしガニアンでも情報は錯綜していた。ある者はエクレール城もすでに陥落し現在はアヴニールを侵攻している最中だと、そして別の者はアヴニールもすでに城下まで戦線が迫っているとも。一つ確かな事は帝国に侵攻してくるのも時間の問題だという事だけだった。宮殿からの帰路に着こうと馬舎へ赴くところで、なじみの顔に出くわした。コンラート・シュヴァリエ、まだ若いが帝国近衛騎士団に籍を置く騎士団長の一人で、その名のとおり帝国の最終防衛線とも言えるシュヴァリエ宮殿のシュヴァリエ公の御曹司だ。コンラートは以前私が剣術指南をしていた言わば教え子、とは言えエリート中のエリートの彼はあっという間に出世街道に乗って今では手も届かないような身分、雲の上の存在になってしまっている。私は敬礼しながら「サー シュヴァリエ子爵、ご無沙汰しております」と自分でも情けなく思うが上官への挨拶をすると「アティ(アサルシャの敬称)やめてくださいよ!僕はあなたから剣を学んだ身です。あなたは今も私の師匠なのですから!」ちょっと予想はしていたが期待通りの言葉をもらえたことは本当に有難い。彼は貴族出身だが他の貴族たちと違って昔から温厚篤実(人当たりの良い人)なところがあり、他の貴族連中とは違って教え甲斐のある騎士だった。あ、ちょっと涙出そうになった。「そう言ってくれて素直にうれしいよコンラート。」私は少しホッとしながらそう答えそして続けて「しかしなぜ君がここに?シュヴァリエ宮に配属ではなかったの?」と質問。「これは内々の話ですが、アヴニール皇国が降伏したとの事で私が直接各所に宣旨(皇帝の命令書)を届けているのです。」コンラートの意外な回答に私は驚きを隠すことなく「アヴニールが!それは本当の話なの?」と聞き返す「すぐに出兵の命が下ることになります。私が給しているこの宣旨がその命ですから。陛下はまぞくとの決戦の地にメディウム城を選んで奇襲をかけるお考え。各地より精鋭を集めています。」コンラートはそう答えると視線を山向こうにあるであろうメディウム王国に向けた。
母の事が気がかりだった私は「現在までに陥落した町や村の情報について何か無いの?」と尋ねる。私の生家を知っているコンラートにはいい辛いことではあるとは知りながらの質問に彼は「わかっていることは反抗勢力はことごとく制圧されていますが、無抵抗の民衆はほぼ無事らしいということぐらいです。」と答えた。それを聞いて父や母に限って無謀な抵抗はしないだろうと考えを巡らす私は少し安堵した。それにしても予測以上に早いまぞくの侵攻には驚きだ。プレーヤー少しはイベントで寄り道でもしなよ、とふと思う。何を思っているんだろう私は。
コンラートは次にノブレス宮殿へ向かうと言う。行き先は違えども途中までは同じ街道を通るので道すがら話をしながら向かう事にした。「すっかり立派になったね、初めて会った時はもやしみたいだったのにね」などとからかってみる。「やめてくださいよ!あの頃から何年経ったと思ってるんですか!昔の僕ではありません!」と言った後「アティも変りましたね、髪、伸ばしたんですね、ドレスを羽織ればきっと以前に増して淑女に見えることでしょうね」コンラートは以前一度だけ見せた私のドレス姿を思い出して言っているのだろう。別に正装が嫌いな訳では無いが、一つだけ、晩餐会に出席する時のようなドレスだけは嫌いなのだ。特に背中の痣が見えるようなドレスは決して着たくは無い。コンラートの剣術指南だった私はシュヴァリエ家で主催した晩餐会で夫人の用意したそのドレスを着なければならなかったのだ。コンラートは痣をあまり気にしていなかったが私には周囲の目が気になった。それ以来不測の事態に備えるかのように髪を伸ばしてみたが今のところ役に立った事は無い。むしろ剣を振る上で邪魔でしかないのだ。しかしなんとも貴族らしい物言いをする、根本的な中身は変ってはいないようだ。彼の口説き文句にも似た言葉をいちいち鵜呑みにしていてはそのうち顔が真っ赤になるだろう。第一身分も歳も釣り合いが取れていない。だからここは軽く聞き流す。「シュヴァリエ公爵と夫人はお元気?家令のシュタインベックさん、侍女のマリーやアンネ懐かしいな、みんな元気にしてる?私の悪口とか言ってないよね?」冗談交じりに尋ねる「元気ですよ、父も母も。給仕のみんなも変わりないです。ああっ、料理長のホーエンツさんは太ったかも」思い出すように話すコンラート。私はそれを聞いて笑いながら「そうなんだ、私がいた頃も味見だって言って良くつまみ食いしてたもんね」と言葉を返した。そんな昔話に花を咲かせていたらいつの間にか分かれ道まで着いていた。「アティ、それでは私はこれで。宣旨を発給し終えたら帰りにまた顔を出しますよ」と言って右手を上げる。私も右手を上げて「旅の無事をお祈りします。息災で。」と、送り出し家路である修道院寄宿舎への道へ歩を進めた。これが彼との最後の会話になるとはよもや考えもしなかった。
二日後、ノブレス宮殿近郊のセルヴァントという町がまぞくの襲撃を受けたという噂が流れる。情報が錯綜していて事の真相はまだよくわからないが、助かった兵の話では、突然町に現れて主要な守備施設のみを狙って襲撃してきたと言う。その中に近衛直属の伝令もい遭わせて、戦闘に遭遇したため戦ったのだと言う。一瞬、目の前が真っ暗になった。コンラートの事しか頭に浮かばない。
守備部隊はほぼ壊滅で命からがら逃げられた者の話では、左手に黒い本を携え、右手に指揮者のタクトのようなワンドを持っている全身黒ずくめの少女を先頭に、金色の髪にオッドアイの美女、恐ろしく腕の立つ鎧騎士、首なし騎士の4人であったと言う。ほとんどの衛兵は黒ずくめの少女が放つ魔法でなぎ払われたと言うのだから、これが魔王に違いない。撃ち漏らした者や至近距離から奇襲を仕掛けた者は鎧騎士と首なし騎士に斬られ、オッドアイの美女は唯何もせずに見ているだけだったという。この4人のまぞくが帝国領内に侵攻しているというのだが、ここレジオンに帝国府から流れてきた情報では、まぞくはメディウム城にすら到達していない、帝国はメディウム城決戦の準備を着々と進めているという。唯、今確かな事はここも警戒態勢を整えなければいけないという事、この4人のまぞくが不規則だが集落を見れば襲撃を仕掛けているという事実だった。私は上官のシュバーベン男爵に指令を仰ぎ、修道院へ駐屯し警備を固める事となった。
翌日、すぐ隣のミニストルが襲撃されたという一報が入ると、修道院内にも否が応にもにも緊張がはしる事となる。修道院に併設された騎士修道会の詰め所内、皆が昼夜交代で常に戦闘待機している様が、現在の事の重大性を物語っている「次はここか・・・・・あるいは宮殿か・・・・・」私の部下であるエルベがボソッと呟く。今ここにいる私の兵のほとんどは貧しい農民や町人の出身、帝国に命を捧げるなんて大袈裟な精神を持ち合わせていない者がすべてと言っていい。戦功を上げて立身出世なんて考えている者は帝国以外の国に行くことだろう。それでもここにいるのは任務だからしかたなくと言う事もあるのだろうし、中にはうれしい事に私を慕ってくれて着いてきてくれる者もいる。だから私はこう言う「遅かれ早かれここも戦場になるだろう。戦闘になったらお前たちはそのどさくさに紛れて国に帰れ。今の帝国に命を捧げるなんてバカバカしい考えだけは持つな。」16の私にも言ってやりたかった一言。私の憧れていた帝国は遠の昔現在のティラン13世が即位してもう無いのだ。「相手は多分魔王級まぞく、私でどれだけ相手が務まるか分からないがやるだけの事はやるから・・・・・」そう言うとオーデル上級兵が話を途切るように「兵長より強い剣士なんてここには一人もいませんよ!兵長にもしもの事があったらなんて言わないでくださいよ!」と叱咤されてしまった。「だから逃げろ。生きて故郷に帰れ。私の分まで生きろよ。今話した事は秘密だからな。墓まで持って行けよ。」と言って苦笑いした。そこまで言ったら私自身、涙が出そうになったので詰め所を早足で後にした。強い奴と手合わせしてみたいとは常日頃から考えてはいたが、魔王相手となれば別だ。勝ち目の無い戦に向かう事ほど陰鬱なことは無い。修道院の中庭に出て赤く腫らした目を元に戻そうと上を向いていたら、回廊を霊廟に向かうシスター・アントーニアがこちらに気づいて近づいてきた。「アティ?どうかなされました?」涙ぐんでいた私は、苦し紛れとはいえベタな言い訳しか思いつかなかった「詰め所でね、鎧とかの埃払ってたら目にね。」言い訳をどう受け取ったかは分からないが、察してくれているのだろう、シスターは祈りの姿勢に整えてからこう言った
「神の御言葉にこういうのがあります「どうか我らを助け、魔からお救いください、人々から与えられる救いはむなしいだけです」と。」私は意味が分からなかったので素直に「どういう意味です?」とシスターに尋ねると「神のお救いをただ一心にいのり、待ちなさい、そうすれば神は救いの手を差し伸べるでしょう、という御言葉です。」と言われた。現実的ではない。が、今は藁にもすがる状況なのだ。私は少し神という者を信じたくなった。
その時だ、大修道院外壁の正面入り口は中庭からも良く見える位置にある。4人の人影が横一列に並んで歩を進めてくるのが目に入った。門兵?と一瞬脳裏によぎったが全員足元に転がっているのが見える。間違いないまぞくがやってきたのだ。しかもこんな白昼堂々と。私はシスターに急ぎ修道院に残っている人々、戦闘員も非戦闘員も関係無く武器を捨てて逃げるように促すと、剣を取りまぞくと対峙するべく震える足を進めた。正面入り口と中庭の調度中間地点で私もまぞくも足を止めると、私は間近で対峙してみて全身に悪寒が走るほど震え上がった。情報通り黒衣を纏った少女、オッドアイの美女、全身鎧の騎士、首なし騎士、だった。戦場には何度も出た事はある。まぞくとも戦った事もある。しかし目の前の4人はオーラが違う。情報を聞いた限りでは黒衣の少女が魔王級、他は魔王では無いと勝手に思い込んでいた自分の浅はかさが嫌になる。4人全員魔王級のオーラを放っているではないか。私の実力では一対一の決闘でもここにいる4人のまぞくには勝てないだろう。気がふれそうになるのを堪えながら私は名乗りを挙げる「ティラン帝国レジオン大修道院剣術指南、帝国陸軍分遣隊レジオン守護兵団兵長アサルシャ・シャウエンブルクである。まぞく斥候隊とお見受けするが当レジオン大修道院に何用を持って御出でか?」名乗りを挙げるのは、己の振るえや恐怖心を殺す為であり、皆が逃げる時間を稼ぐ目的でもあり、まぞくがこれにどう答えるか探りを入れる目的でもある。4人のまぞくが顔をあわせて誰が答えるのかを見合わせている。もしかしたら戦わずして去ってゆくかもしれない、そんな淡い期待が沸いてきた。そんな思いを打ち消すかのように黒衣の少女が口を開いた。「初めましてお姉さん。私はアリス、遊ぼうよ?」と答えが返ってきた。想像もしていなかった一言に私は虚を突かれた。端にいたはずの全身鎧が消えている。5メートルはあろう間合いを一瞬で詰めて、気づいた瞬間には私の真横に切っ先が飛んでいた。剣を鞘に収めたままそれを紙一重で弾くと素早く剣を抜き構えに移るが、全身鎧は剣を鞘に収めて剣を地面に立てて何かを考え込むように数秒、その後背を向けて元立っていた場所へ戻ってゆく。すると次は首なし騎士の手に持っている首が口を開いた「ヘルアーマー殿の初撃を止めるか!帝国には中々の使い手がいるものだな。次はこの私が立ち会おうか。」そう言うと首を持っていない方の左手で細身のレイピアを抜いた。「安心しろ。利き腕は右だ存分にかかってきなさい」完全に舐められているが事実勝てる気がしない。「ああ、名乗りがまだだったな。我はまぞく七大諸侯が一つに列せられるデュラハン公爵である。以後お見知りおきを。」言うやいなや間合いを一気に詰めてきた縮地、いや紫電の速度だ。
剣を抜いていなかったら受けられなかっただろう、間合いが無かったら斬られたことも分からずに両断されていたはずだ。しかも反撃の余地などどこにも無い、只受け止めるだけで精一杯の鍔迫り合いだ。これで利き腕ではないというのが本当ならば剣を持ち替えた瞬間私はバラバラにされるだろう。「中々、流派はリヒテナウアー源流だな。ヴィルハルム流か?」そう言うと剣を引いてこう続けてきた「打ち込んで来てみなさい。」まるで指南剣舞でもしているかのようだった。私は右手に持つ首から見ていると憶測を立て、死角となる左下からの斬撃を半身捻りを入れるというフェイントを混ぜて試みる。するとデュラハンは脚でわずかに剣の軌道をレイピアに寄せて軽く弾いて見せた。本来ならこの瞬間私は死んでいただろう。デュラハンのレイピアは私の胸元をかすめるだけで、後は剣を収めて全身鎧と同じように満足げに元いた場所に戻っていった。「パウルス・マイヤー流ではないかな?」その通りだ。無意識に頷いていた。もう戦意はほぼ喪失しているところに再び黒衣の少女が口を開いた「みんなずーるーいーアリスも遊んで。」そう言って手に持っていた本をぱらぱらとめくり始めた。私は切っ先を地面に付け、両膝は地面に折れあとは死を待つそんな状態だった。そんな時だった修道院の詰め所の方から6人の部下たちがなだれ込んできた。オーデル上級兵が私の肩を引き寄せ「兵長!しっかりしてください!俺たちも戦います!立って!」それが合図であったかのように皆が剣を抜いた瞬間、その場は色めき立った。「このまま間合いを取って逃げられませんかねぇ」エルベがオーデルに小声でささやきかけるが、オーデルは「逃げ出せる状況じゃねぇ、やつらを一人でも何とかしないとこの場は切り抜けられねぇ。腹くくれ、ここに飛び出してくる時に決めたんじゃねぇか、俺たちだけは最後まで兵長と一緒だって兵長一人置いて逃げ出せるかって、俺たちは招魂場の花になるまでみんな一緒だってな。」彼らは死ぬ気だ、それを虚ろに聞いていた私はその瞬間正気に返った。「駄目だ!お前たちだけでも逃げるんだ!ここで死んでは無駄死にだ!私が時間を稼いでやる、ここで見た事すべてを帝国に報告するのがお前たちの任務だ!行くんだっ!」両足に残った力を振り絞り、再び剣を構えると、空に絶望を彷彿させるような巨大な赤い魔方陣が光り輝く。「アリスの黒の書だよ~凄いでしょ?」と、子供の悪戯の様に語っているが、しかし本物の絶望が空から落ちてくる、そんな予感しかしない。情報通りなら一番の危険人物の攻撃だ。もう部下たちを逃がす時さえ無い、そんな余裕も余力すらも無かった、魔方陣から巨大な閃光が放たれ我らに襲い掛かる。その場にいた皆がこれで終わりだと思った。しかし閃光に包まれたその瞬間、それは跡形も無く瞬時にかき消えてしまった。一瞬目の前で何が起こったのかまったく理解できなかった。「みんな無事なのか?」オーデルが確認するように言った。「何とも無いようだ・・・生きてる」エルデが答える。「奇跡なのか?」他の者も口々に安否を伝える。術者である黒衣の少女の壮大なジョークなのかとも考えたが、当の本人も首を傾げているようだ。「あれ~?お姉さん何したの?タップで回避しちゃったのかな?」私が何かしたと思っているのか?その後の一言は私にもなんだか良く分からない。
しかし形勢が少しだけマシになったような気がした。私は「端の騎士2人をお前たちで、5秒でいい動きを止められるか?」小声で皆に伝えると、まぞくを見据えたまま全員が頷く、次の瞬間3人づつ両端のヘルアーマーとデュラハンに突進、多分これが最初で最後のチャンスだ。私は黒衣の少女に狙いを定めて渾身の突きを放ちに中央に走る。オッドアイの美女がどう出てくるかは不確定要素だったが迷っている時間だけこちらが不利になるような気がした。これで間違いないはずだ。紫電の速さとはいかないまでも脚には自信がある、虚を突いて距離を詰められれば魔王といえど魔術師ならやれるはず、一気に私のパンツァーシュテッヒャー(刀剣の種類。エストックとも言われている)の間合いに入った。そこで現れたのはやはり不敵な笑みを浮かべるオッドアイの美女だった。私の剣をいなして黒衣の少女から切っ先を外す軌道に乗せると組み伏せようと左腕を掴みに来た。私もその一瞬を待っていた。先ほど皆に激を飛ばした際に、オーデルの背中腰にあったカッツバルゲル(ナイフより長いショートソード)を引き抜いて背中に当てて隠し持っていたのだ。流石のオッドアイの美女もそれには直前まで気づかなかったようで一瞬怯んだ。体を捻りパンツァーシュテッヒャーを再びオッドアイの美女に威嚇攻撃しながら、本命の黒衣の少女にカッツバルゲルで突きを放つ体制が完成した。相打ち覚悟の決死の攻撃だった。剣先が少女を捕らえ心臓を串刺しにする刹那、全身鎧騎士がそれを剣で弾き阻止した。見ると部下たちはすべて切り伏せられていた。いや、良く見てみるとのされているだけのようだ。「安心しろ。みね撃ちだ。」私に察したのかデュラハンがそう答えた。不可解に思った私は無意識に「なぜこんな事をする?」と口から滑らせた。デュラハンは答える「まあ、ゲームみたいなものだな。腕試し、情報収集、あとは暇つぶしの遊びで付いてきている者もいる。ああ、フロイライン・シュクラは何かお探しのようでしたね?」そう言ってオッドアイの美女に手に持った首が目配せを送る。すると先ほどまで沈黙を貫いていたシュクラと呼ばれるオッドアイの美女が口を開いた。「我みささぎにこうずる時からきたるしんゆうの年、我がこういん奉じてふつのみたま授けん」瞬間、私は目を見開いて凍りついた。その表情を伺っていたシュクラは口元をニヤリと歪めて私の事をじっと見ている。まぞく、いやこのシュクラの目的は私だ間違いない。何が目的なのか見当も付かないがこの私なのだ・・・・・
続く
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久々に投稿~♪
アンビションのポチポチRPGまぞくのじかん、から、ストーリーモード、ユニヴェール大陸にて密かに起こっていた事件のお話を創作。少しだけシリアスな感じを匂わせつつ書いてみました。
始まりは女兵長が特殊で「魔王の解放」を持ってドロップしてきた事がきっかけで話が膨れ上がりました。設定とか考えるのが結構しんどかったですw