No.861465

英雄伝説~菫の軌跡~

soranoさん

第107話

2016-08-02 19:18:50 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:808   閲覧ユーザー数:778

 

 

 

~夕方・トールズ士官学院・屋上~

 

「…………………………」

エリゼが走り去るとリィンは肩を落として黙り込んだ。

「ちょっと……!何をボケっとしてるの!?」

するとその時アリサの声が聞こえ、声を聞いたリィンが驚いて振り向くとアリサ達がリィンを見つめていた。

「ちょ、何で……」

アリサ達の登場に驚いたリィンはクラスメイト達を見回したが

「ああもう、聞いちゃったのは謝るけど……!早く追いかけなさいってば!」

「妹さん、泣いていましたよ?」

「!!」

エマの言葉を聞くと目を見開いて驚いた。

「色々あるんだろうけどまずは追いかけてあげないと!」

「ああ、それが兄の義務だろう。」

「……わかった。みんなも妹を見かけたら声をかけてやってくれ!」

エリオットとガイウスの言葉に頷いたリィンは真剣な表情でアリサ達を見つめた。

「ああ、とっとと行きたまえ。」

「フッ、平手打ちのひとつでも貰ってくるんだな。」

「うふふ、ひとつですめばいいのだけどね♪」

マキアスと共にリィンを促したユーシスの言葉を聞いたレンはからかいの表情で呟いた。その後リィンはエリゼを探して校舎内を駆け回り、途中で誰かを探している様子のラウラを見かけて声をかけた。

 

~校舎内~

 

「ラウラ……!もしかしてエリゼを!?」

「うん、先程連絡を受けてな。探している最中だ。」

「ありがとう……恩に着る。」

いや……まだ成果は出てない。礼など後にとっておくがよい。……それよりも、大まかな事情は聞いたぞ。」

リィンに礼を言われたラウラは首を横に振った後リィンを見つめた。

「……そうか。……悪い。身内のいざこざに付き合わせてしまって。」

「……貴族というものには様々なしがらみがある。特に、そなたの事情は貴族の中にあっても特殊だ。そなたの気持ちもわからないでもない。」

「ラウラ……」

「だが、今回の一連の話を聞いてひとつだけ思ったこともある。―――そなたの見出した道は、決して『逃げ』ではない……妹御に胸を張ってそう言えるか?」

「………………!」

ラウラの指摘によって図星を突かれたリィンは目を見開いて黙り込んだ。

「……いや、よそう。現時点で迷いのある私が偉そうに言えることでもないな。」

「そんなことはないさ。こっちはよろしく頼む。俺は別の場所を探してみるよ。」

「うん、任せておけ。」

その後エリゼを探し回っていたリィンは今度はフィーを見かけ、エリゼの手がかりを探す為に声をかけた。

 

~グラウンド~

 

「ん……ここにもいないか。」

「フィー……?もしかして、エリゼを探してくれているのか?」

周囲を見回して誰かを探している様子のフィーを見たリィンは尋ねた。

「……ん、ARCUSで連絡があったから。今のところは収穫なしだけど。」

「そうか……助かるよ。」

「……妹さんや実家のことで色々あるみたいだね。」

「……はは、聞いたか。俺は由緒正しい血は引いていない。他の貴族とは事情が全然違う。だからこそ、俺は最後には家を出なくちゃならない。エリゼも。それくらいは理解してくれていると思っていたけど……」

フィーに指摘されたリィンは苦笑した後決意の表情で答えた。

「……わたしも、猟兵団に拾われるまではひとりぼっちだった。本当の親も知らない……だから、リィンの気持ちも少しだけわかるかも。」

「フィー…………」

「……でも、団はわたしにとって”家族”だった。『自分が出て行くべき』なんて発想自体をさせてくれなかった。……リィンの”家族”はそうじゃなかった?」

「そ、それは……」

しかしフィーに問いかけを聞いたリィンは口ごもった。

「ま、わたしが言えたことじゃないのかもしれないけど。……今は妹さんを探そう。」

「……ああ、そうだな。そっちは頼む、フィー。」

「ん。」

そしてフィーと別れたリィンはエリゼを再び探し始めて一通り校舎を見回った後校門に戻った。

 

~校門~

 

「……参ったな。街の方に戻ったのか?でも、何となく学院内に居そうな気配もするんだが……」

「よ、後輩。何してんだ?」

リィンが考え込んでいたその時銀髪の青年―――――2年の平民男子学生であるクロウ・アームブラストがリィンに近づいてきた。

「クロウ先輩……いえ、ちょっと人を探していまして。」

「なんだ、Ⅶ組のお仲間か?それとも2年の女子あたりに告られてトラぶったのかよ?」

「いえ、俺の妹で学院生じゃないんですが……」

クロウの問いかけを聞いたリィンは呆れた様子で答えた。

「へ~、妹なんていたのか。俺様のカンじゃ、一人っ子っぽい気がしたんだが。」

「…………それは…………」

クロウの指摘にリィンが複雑そうな表情で答えに詰まったその時

「ああ、それじゃあさっきの子か。帝都にある”聖アストライア”の制服を着た黒髪の子だろ?」

「ええ、多分それです!どこで見かけましたか!?」

クロウの答えを聞き、血相を変えて尋ねた。

「さっき、学院裏手の道で白服と話してるのを見かけたぞ。ほら、あの偉そうな1年……パトリックの坊ちゃんだったか。」

「あいつと……!?」

先月のパトリックの自分達に対する暴言を思い出したリィンが厳しい表情をした。

 

~校舎内・裏手~

 

一方その頃エリゼが涙を流しながら学院の裏手を歩いていた。

「……兄様のバカ…………いつもいつも……自分ばかり押し殺して……わたしのバカ…………いつも…………素直になれないで………」

立ち止まったエリゼは肩を落として呟いたが見覚えのない周囲に気付いて不思議そうな表情をした。

「………………どこかしら…………ここ?」

「君は……?」

するとその時パトリックが話しかけてきた。

「帝都にある”聖アストライア女学院”の制服だったか……どうしてこんな所にいる?」

「す、すみません……ぐすっ……」

「いや、別にその責めている訳じゃないぞ?そうだ……せっかくだし名乗っておこう。―――僕の名前はパトリック。パトリック・ハイアームズだ。聞いた事くらいあるだろう?」

涙を流したエリゼに慌てたパトリックは言い訳をした後自己紹介をした。

 

「ハイアームズ家の………お初にお目にかかります。メンフィル帝国に所属しているシュバルツァー男爵家の娘、エリゼ・シュバルツァーと申します。」

「エリゼか………いい名前だな。ま、待て……!シュバルツァーと言うとリィン・シュバルツァーの妹か?」

エリゼがリィンの妹である事に気づいたパトリックは驚いた様子でエリゼを見つめた。

「?はい。リィンはわたくしの兄ですが。」

「くっ………よりにもよってあのいけ好かない男の妹とは…………待てよ、養子ということは血は繋がっていなく、この娘が本物のシュバルツァー家と言う訳か…………」

エリゼの事を知ったパトリックは唇を噛みしめた後ある事に気付いてエリゼの顔をジッと見つめたが

「―――どうやら兄と姉と何か確執がおありのご様子。ご不快にさせたくありませんので失礼いたします。」

パトリックが呟いた言葉から兄の”敵”である事を悟ったエリゼはパトリックを睨んだ後その場から走り去った。

「い、いや、別に不快ということは……」

エリゼが走り去るとパトリックは慌てて言い訳をして呼び止めようとしたが

「おい――――そっちは!」

エリゼが向かった方向―――魔獣が徘徊している旧校舎である事に気付いて真剣な表情で声を上げ、そしてエリゼの後を追った。

 

一方リィンはクロウの案内によってクロウがエリゼを見かけた所に向かい、旧校舎に辿り着いた。

 

~旧校舎~

 

「くっ……どこに行った?この建物には普段、鍵がかかっている筈だし……」

「パトリック……!」

パトリックを見つけたリィン達はパトリックに駆け寄った。

「お、お前……」

「おい、エリゼはどうした!?まさか俺の時みたいに絡んで恐がらせたんじゃないだろうな!?」

「そ、そんな事はしていない!僕はただ、彼女が涙ぐんでいたからどうしたのかと声をかけただけで……そしたらこっちに走って行ったので心配になって追いかけてきただけだ!」

自分を睨んで怒鳴るリィンにパトリックは慌てた様子で答えた。

「くっ…………」

「どうやらこっちの方に来たのは間違いなさそうだな。お前らが毎月探索してるっていうその旧校舎はどうなんだ?」

「いや、ちょうど先程扉を施錠したばかりですが……」

クロウの疑問に答えたリィンは念の為に旧校舎の扉を調べると、なんと施錠していたはずの扉が開いた!

「え――――」

そしてリィン達が旧校舎に到着する少し前、エリゼは旧校舎の中を歩いていた。

 

「……ここは……鍵はかかっていなかったけどこの建物って……?」

エリゼが周囲を見回していると猫の鳴き声が聞こえ、声に気付いたエリゼが振り向くとそこにはエマが世話をしている黒猫――――セリーヌがエリゼを見つめていた。

「猫……?」

「………………」

セリーヌはエリゼを見つめた後奥へと向かい

「あ………」

セリーヌが心配になったエリゼは奥へと向かった。

「……………」

エリゼが奥へと向かうと物陰に隠れていたレンが姿を現して真剣な表情でエリゼが向かった場所を睨み

「最悪の事態を想定して念のために旧校舎を真っ先に調べて、”何故か鍵が開いていた”旧校舎内に隠れていて正解だったわね…………うふふ、レンがいるのだからあなたの思惑通りに事が進むと思ったら大間違いよ?黒猫さ―――いえ、”魔女の眷属(ヘクセンブリード)”さん?」

疲れた表情で溜息を吐いた後意味ありげな笑みを浮かべ、エリゼの後を追って行った。

 

「これって……機械……?でも、それにしては……」

エレベーターまで移動したエリゼはエレベーターに近づいた。

「……あの猫……どこに行っちゃったのかしら?隠れるような場所なんて無さそうだけど……文字……?」

エリゼがエレベーターの装置に気付いたその時、エレベーターは動き出した!

「え―――きゃあっ!?」

「………!」

そしてエレベーターが下に向かい始めたその時レンが現れ、レンは人間離れした跳躍力でエレベーターに飛び乗り、そのままエリゼと共に下へと降り、レンとエリゼを乗せたエレベーターは現在いける最下層―――地下4階に到着した。

 

「エ、エレベーターだったのね。ずいぶん下まで降りてきちゃったけど……」

エレベーターに驚いたエリゼだったがすぐに気を取り直して立ち上がってエレベーターから離れたが

「ケガはないかしら、エリゼお姉さん。」

「え?貴女は確か兄様と一緒にいた……もしかして兄様のクラスメイトの方ですか?」

レンに声をかけられるとようやくレンの存在に気づき、レンがリィンやアリサ達と一緒に下校している様子を思い出し、レンに確認した。

「ええ、レン・ブライトよ。よろしくね♪」

「は、はい、よろしくお願いします……え?一体いつの間に私と一緒にエレベーターに……さっきまでは私一人だけだったのに……」

レンの自己紹介に戸惑いながら頷いたエリゼだったが先程まで自分が一人であった事に気づき、不思議そうな表情でレンを見つめた。

「うふふ、細かい事は気にしないで♪それよりもリィンお兄さん達が来るまで絶対にここから動かないでね。レンの予想だと―――――」

エリゼの疑問を笑顔で誤魔化したレンが真剣な表情でエリゼに忠告したその時!

 

――第四拘束解除後ノ”初期化”完了。

 

「えっ…………」

「!!」

赤い扉から謎の声が聞こえ、声を聞いたエリゼは呆け、レンは赤い扉を警戒していた。

 

”起動者”候補ノ波形ヲ50あーじゅ以内ニ確認。コレヨリ『第一ノ試シ』ヲ展開スル―――

 

そして扉が開き、巨大な人形兵器が現れた!

「…………ぁ………………」

エリスは恐怖のあまり、腰が抜けて扉から現れた人形兵器を見つめた。

「まさに”お約束”の展開ねぇ。―――すぐに片付けるから、エリゼお姉さんはそこから絶対に動かないで!」

一方レンは呆れた表情で溜息を吐いた後二振りの小太刀を鞘から抜き、地面を蹴って人形兵器に向かって行き、人形兵器との戦闘を開始した。

(チッ……まさか”小剣聖”までついてきていたなんて想定外よ……!達人(マスター)クラスだと、あんな魔導人形相手でも一人での制圧も容易に可能でしょうから、せめて”小剣聖”が制圧するまでに追いついて来なさいよ……!)

その様子を高い場所から見守っていたセリーヌは表情を厳しくして人形兵器との戦闘を開始したレンを睨んでいた。

 

「エリゼ……どこだ!?」

「んー……ここにはいねぇのか?」

「まったく、どうして僕が……」

一方リィン達はパトリックと共に旧校舎内に入ってエリゼを探していたその時、少女の悲鳴が聞こえてきた!

「エリゼ!?」

「悲鳴……!?」

「奥だ!」

悲鳴を聞いたリィン達は慌てて奥のエレベーターホールに向かった。

「下から……!?」

「な、なんだここは……!?」

「へえ、噂には聞いてたがこんな風になってたのか。」

そしてエレベーターが戻ってくるとリィンがエレベーターに乗り

「お、下に行くつもりか?ほら坊ちゃん、俺達も行くとしようぜ。」

「ぼ、坊ちゃんは止めろ!」

クロウとパトリックも続くようにエレベーターに乗り、リィン達は最下層へと降りた。

 

「!?」

「な、なんだありゃあ!?」

「きょ、巨大な甲冑ッ……!?」

最下層に到着しかけるエレベーターから見えた光景――――巨大な甲冑の人形兵器を見たリィン達は驚き

「に、兄様……」

「エリゼ!?大丈夫か!?」

エリゼに話しかけられたリィンは血相を変えてエリゼに声をかけた。

「は、はい……腰が抜けただけですから……そ、それよりも早くレンさんを助けてあげて下さい……!」

「え……レン……?――――!!」

そしてエリゼの話を聞いて呆けたリィンは目の前の光景―――1人で人形兵器と戦っているレンを見ると目を見開いた。

 

「…………」

「甘いわよ♪二の型・改――――双波洸破斬!!」

人形兵器が呼び寄せた雷を後ろに跳躍して回避したレンは二振りの小太刀を抜刀して神速の斬撃波を人形兵器の両腕目がけてそれぞれ放ち、レンが放った斬撃波を受けた人形兵器は衝撃によって両腕を上げさせられた。

「フゥゥゥ………ハアッ!!」

「!?」

自分の攻撃によって人形兵器の隙が出来た瞬間レンは二振りの小太刀を鞘に収めて一瞬で人形兵器の目の前に現れてクラフト―――零頸を叩き込み、零距離で寸勁を受けた人形兵器は怯んだ。

「斬魔飛影斬!!」

人形兵器が怯んでいる間にレンは再び二振りの小太刀を抜いて斬撃を連続で叩き込みながら人形兵器の頭上へと跳躍し

「―――龍炎撃!!」

そのまま空中で回転して態勢を整えて落下しながら炎の竜を纏った二振りの小太刀を人形兵器目がけて振り下ろした!

「―――――」

上空からのレンの強襲に対して反応した人形兵器は腕に持つ巨大な大剣で防御し、追撃を防御されたレンは大剣を蹴って後ろに跳躍して地面に着地して一旦人形兵器から距離を取った。

「レン……!」

「あら、追いついてきたのね。」

その時リィンがレンの元に駆けつけてきた。

 

「レンがエリゼを守ってくれたんだよな?本当にありがとう……!俺も加勢する……!」

「ええ、お願い。それじゃあ協力してさっさと倒す―――――」

「――――――――」

リィンの加勢の申し出にレンが頷いたその時人形兵器は自分自身を強化するクラフト―――超力招来を発動して周囲の空気を震わせると共に地響きを起こした。

「うわっ!?」

「っと!?」

「キャアッ!?」

地響きは後方にいるパトリック達にも届き、地響きによって悲鳴を上げたエリゼは先程まで腰が抜けた影響もあり、地響きに耐えられずに地面に倒れた。

 

「エリゼっ!?」

地面に倒れるエリゼを見たリィンは声を上げた。するとその時かつての自分にとって忌まわしい出来事がフラッシュバックしたリィンの胸に膨大な気が集束し始め

「オオオオオオオオッッッッ!!!」

天井に向かって咆哮した!するとリィンの全身に膨大な禍々しい何かの気が纏うと共にリィンの黒髪は銀髪に、瞳は紅へと変化した!

「こ、こいつは……!」

「ひいっ……!?」

「へえ?……うふふ、それがリィンお兄さんが恐れている”力”ね。」

「に、兄様………」

変わり果てたリィンの姿を見たクロウは驚き、パトリックは悲鳴を上げ、レンは興味ありげな表情でリィンを見つめている中目の前にいる変わり果てたリィンの姿に見覚えがあったエリゼは顔色を悪くした。

「ッシャアアアアアッ!!!」

そしてリィンは咆哮を上げた瞬間、一瞬で人形兵器の目の前に移動し

「オオオオオオッッッ!!」

人形兵器との戦闘を開始した――――!

 


 
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