これは、まだエルダーがアインへリアルになる前のお話です。
テンプレム共和国の町の一角に、ジャンヌ、ゲール、バイオレット、エルダーがいました。
現在、この4人は店の中で行動しています。
何故、こうなったのかと言いますと、事は前日に遡ります。
「……ゲール、料理は上手いですか?」
お昼くらいの時、ジャンヌが妹のゲールにぽつりと聞きました。
「人並み……いえ、神並みには作れますよ」
ゲールは命を司る女神であるため、料理を作るための食材には常に感謝しています。
そして、その感謝の気持ちを込めて、ゲールは料理を作るのです。
「一度、食べてみたいです」
「いいですよ。でも、私だけなのは面白くないですよね」
「じゃあ、一緒に料理対決をしない?」
「いいですよ、バイオレット!」
「ついでにエルダーも誘っておかなくちゃね」
翌日、三女神とエルダーは「料理王決定戦」を開催しました。
この勝負には、審査員としてギルド「WoO」の一員、
ドロシェナ・メディウム、ジンダァ・スケアクロウ、ネリー・ブリキ、リルト・レオが参加しています。
採点は一人最高5点、合計で20点満点です。
ただし、最初に選ばれた人は一人3点、合計12点となります。
何故ならば、最初に5点を出した場合、それ以上のものが出たら得点の上げようがないからです。
そして、冒頭へ戻ります。
席に用意されたものは、個人個人で買ってきた食材のみでした。
全員、やるからには勝つ、という気合が入っていました。
そして、食材の買い出しが終わり、試合が始まりました。
制限時間は30分……果たして、どんな料理が出来上がるのでしょうか。
そして30分後、皆の作った料理が揃いました。
順番はくじ引きによって、ジャンヌ→エルダー→ゲール→バイオレットとなりました。
「では、わたくしからですね。わたくしが作ったのは、これです!」
ジャンヌが作った料理は、ハンバーグカレーでした。
三女神の長女が作っただけあり、見た目はとても美味しそうです。
「中からチーズも出てくるようだな」
「手が込んでいるし、味もなかなか美味い」
「しっかり火を通した玉葱を、煮込んだルーに入れている……」
結果、ジャンヌの得点は、ルールに従い、一人3点の合計12点となりました。
「次は俺か」
エルダーが差し出したのは、少し赤みがかったミートソーススパゲティでした。
このスパゲティは唐辛子を使ってあり、辛めに味付けしてあります。
「食べる時は気をつけろよ」
「ああ」
ジンダァがスパゲティを口に運んだ、その時です。
「辛っ!?」
「だろ?」
「でも、きちんと旨味も伝わってるぜ。
俺、馬鹿だから全然分かんないけど……これはこれで、結構美味いぜ」
「暑い時、辛いものを食べると体にいいんだって!
今の時期だとちょっと早いけど、いいんじゃないかな?」
結果、全員4点を出し、計16点となりました。
エルダーは「よし!」とガッツポーズをしました。
「さて、次は私ですね。大根とイカの煮物です!」
ゲールが持ってきた料理は、大根とイカの煮物です。
これは、どこからどう見ても手間をかけたものでした。
しかし、それに比例して、食欲が増進されるような良い匂いがしました。
審査員が一言。
「へえ、本当に美味いなぁ」
「流石、料理上手な人間だな」
「でも、どうしてここまで?」
「食材だって立派な命。私はそれを大事にするために、料理を磨いたのです」
ちなみに、ゲールはこの味を作るために、数百年もかかったらしいです。
「「「「美味い!」」」」
ドロシェナ、ジンダァ、ネリー、リルトは口を揃えてこう言いました。
結果は……ドロシェナ4点、ジンダァ5点、リルト4点、ネリー5点の合計18点となりました。
「これで、私の勝利ですね」
「いえ、まだヴィアがいますよ」
「……」
「さあ、来なさいっ!」
「まったく、どうしてみんなあたしをひやひやさせちゃうのよ!」
最後に、バイオレットが出した料理は……。
「……普通の……カレー……?」
何の特徴もない、ごくごく普通の見た目のカレーでした。
最後に出したカレーが、こんなカレーとは。
思わず皆は拍子抜けしてしまいました。
しかし、それは、一口食べた時、覆されました。
「……これ……本当に……ただのカレーなの……?」
「最早カレーではない……」
「今まで食べた中で、最高のカレー……」
「……お店でも十分に通用するレベルじゃない?」
審査員の4人は、あまりの美味しさに今まで見た事のない表情をしました。
「……そ、そんなに美味しいんですか……?」
「……食べてみたい……」
もちろん、ジャンヌ、ゲール、エルダーも、バイオレットが作ったカレーを食べてみました。
「「「……美味しい……」」」
3人は、最早その一言しか言えませんでした。
それほどまでに、バイオレットのカレーは美味しかったのです。
得点は、文句なしの20点。
優勝は、バイオレットに決まりました。
「まさか、末娘のあなたがここまでカレーを作るのが上手だったなんて」
「カレー以外は、全然ダメなんだけどね」
バイオレットの料理の腕前は、カレー以外は××料理人と言えます。
しかし、何故かカレーだけは天才的な実力を見せるのです。
「それでも、ここまでカレーを作れるなんて……」
「今度、カレーを教えてくれませんか?」
「……え? まあ、暇な時ならいいけど……」
こうして、三女神とエルダーの料理の腕が分かったのでした。
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今日から本編10話ごとに番外編を書く事にしました。時系列は10話~11話です。