6月27日――――
~早朝・ノルドの集落~
「……ん…………」
翌朝羊の鳴き声を耳にしたリィンは目を覚まして起き上がった。
「ここは……そうか……”ノルド高原”だったか……(食事と空気のおかげか……かなり気力が充実している。……ユン老師もこういう場所で修行したのかもしれないな……)」
周囲の景色に一瞬戸惑ったリィンだったがすぐに状況を思い出した。
「――早いな、リィン。」
その時ガイウスが住居に入ってきた。
「おはよう、ガイウス―――って、その格好は……?」
ガイウスが身に纏っている民族衣装が気になったリィンは驚きの表情で尋ねた。
「ああ、羊の放牧を久々に手伝ってきた。そろそろ朝餉の支度もできている頃だ。」
「わかった……みんなを起こすか。―――ユーシス。アリサ、レンも。」
「朝だぞ、起きるがいい。」
「……ん……ここは……?」
「羊の……鳴き声……?」
「……えっと……リボンは……」
リィンとガイウスの声に反応したA班のメンバーはそれぞれ眠そうな様子で呟いて起床し始めた。
「はは……」
「さすがにこの時間は早すぎたのかもしれないな。」
眠そうな様子のメンバーの反応を見た二人はそれぞれ苦笑した。その後リィン達はガイウスの自宅で朝食をご馳走になっていた。
~ウォーゼル家~
「美味しい……」
「……染み入る味だな。」
アリサやユーシスはそれぞれ美味しそうに朝食を食べ
「ミルク粥……みたいなものかしら?」
朝食の正体が気になったレンは尋ねた。
「えとえと、羊の乳と塩漬け肉を使った朝粥です。」
「一応、妹達が用意したんです。」
「リリも手伝ったー。」
レンの質問にガイウスの妹達や弟がそれぞれ答えた。
「へえ、大したものだな。」
幼い子供達が美味しい朝食を作った事にリィンは感心し
「うーん、やっぱりレシピを教えてもらいたいかも。」
「あ、はいっ。えっとですね……」
朝食のレシピが気になっているアリサにシードはおずおずとレシピ内容を教えていた。
「ふふっ……気持ちのいい子達ね。」
「いい風の導きがあったみたいだな。」
その様子を微笑ましそうに見守っていたガイウスの両親達はガイウスに視線を向け
「ああ……おかげさまでな。」
ガイウスは静かな表情で頷いた。
「さて、それではこれを渡しておこう。」
その後朝食を終えたリィン達にラカンは課題が書かれてある封筒を渡し、リィン達は課題の内容を確認した。
「ゼンダー門の用事から薬草集めまで……」
「高原ならではの課題を入れてくれたのね。」
「ああ、それなりに吟味して用意させてもらった。昨日も言ったように午前中は南西部だけで終わるはずだ。」
「了解した。」
「時間配分まで考えて下さって本当にありがとうございます。」
「ありがとうございます。」
ラカンの言葉にリィン達はそれぞれ頷いた。
「――よし、それじゃあさっそく実習を始めよう。」
「必須のものを片付けたら昼までに戻ればいいわけね?」
「ああ、昼餉を取る為にな。―――それと集落を出る時は昨日と同じ馬を使おう。下手に徒歩で出たりしたら行き倒れになりかねないからな。」
アリサに視線を向けられたガイウスは頷いた後リィン達に忠告し
「あの雄大な高原を徒歩で移動するのはかなり無理があるものねぇ……」
「洒落になっていないぞ。」
忠告を聞いたレンは苦笑し、ユーシスは呆れた表情で指摘した。
「フフ、風と女神の加護を。気を付けて行ってくるがいい。」
その後リィン達はリィン達は実習内容こなす為に外に出て自分達が乗って来た馬が繋いである場所に向かった。
~ノルドの集落~
「あ、待って。集落を出る前に伝えておくことがあるわ。」
「何だ?」
自分達を呼び止めたレンの言葉を聞いたリィンは不思議そうな表情でレンに訊ねた。
「今回の実習でも魔獣との戦闘はあるでしょうけど、レンは基本魔導杖(オーバルスタッフ)での戦闘スタイルやアーツでの援護をするつもりしかないから、頭に入れておいてね。後魔導杖での戦闘の際も仕込み刀を使った戦闘もレンの所に敵が来た時以外はするつもりはないわ。」
「へ…………」
「何故そんな事をする。貴様の戦闘スタイルは確か剣、銃、無手での格闘、そして魔導杖の4種類の戦闘スタイルを変幻自在に変えながら戦う戦闘スタイルだとサラ教官も言っていただろうが。」
レンの話を聞いたアリサは呆け、ユーシスはレンを見つめて指摘した。
「あら、このメンツを考えたらレンが後方からの援護に回るべきよ。」
「それは一体どういう意味なんだ……?」
レンの説明を聞いたガイウスは不思議そうな表情で訊ねた。
「近接戦闘専門が3人もいて、導力弓による遠距離攻撃専門のアリサお姉さんがいるのだから、レンの役割は必然と魔導杖やアーツによる後方からの援護になるでしょう?魔導杖使いのエリオットお兄さんもエマお姉さんもB班だし。」
「フム……言われてみればそうだな。」
「アーツの適正なら俺も高い為いざとなれば俺が後方からの援護に回れるがな。」
「私もアーツの適正が高いから、アーツによる援護に回れるけど………」
レンの答えを聞いたガイウスが納得している中ユーシスが一言付け加え、ユーシスに続くように自分もアーツの適正が高い事を口にしたアリサは戸惑いの表情でレンを見つめた。
「……………レン。後方からの援護に徹するのはもしかして俺達の戦闘力に合わせてか?」
するとその時何かに気づいたリィンは静かな表情でレンに問いかけた。
「へ…………」
「うふふ、そういう事に関しては鋭いわね。――――実技テストの時にも言ったけど、レンは非常事態にならない限り基本”本気”を出すつもりはないの。でないとお兄さん達がレンについていけないでしょうしね。」
リィンの問いかけにアリサが呆けている中レンは小悪魔な笑みを浮かべて答えた。
「貴様……俺達を嘗めているのか?」
「ちょ、ちょっと、ユーシス。」
レンを睨むユーシスの様子を見たアリサは慌て
「別にそんなつもりはないわよ。”特別実習”で求められているものの一つはチームワーク。一人だけ戦闘力が突出したレンだけが活躍しても意味がない……というかむしろ悪い評価になると思ってレン自身の戦闘力をセーブしているのよ?」
「それは……………」
「た、確かに今までの実習の評価を考えたらチームワークが良かった班は評価も良かったわね………」
「フン…………それ以前に俺は何故貴様が以前の”特別実習”の事を知っているのか、詳細な説明をしてもらいたいのだがな。」
レンのある意味正論と言ってもおかしくない説明を聞いたガイウスは目を丸くし、アリサは戸惑いの表情で頷き、ユーシスは鼻を鳴らしてレンを見つめた。
「…………レン、一つだけ約束してくれ。」
「なにかしら?」
「通常の実習中はともかく何らかの非常事態になった場合は、力の出し惜しみはしないで”本気”を出して、かつ可能な限り俺達に合わせるようにしてくれ。大げさな話になるけど、レンが本気を出さなかったせいで非常事態を更に悪化させる事になったり、俺達の中から誰かが取り返しのつかない事になったりする事も考えられる。それは幾ら何でも看過する事はできない。」
「うふふ、本気を出してかつお兄さん達に合わせろなんてリィンお兄さんも中々我儘ねぇ?」
「レン、貴女ね……」
「先に我儘を口にしたのは貴様だろうが。」
リィンの条件に意味ありげな笑みを浮かべるレンに呆れたアリサとユーシスはそれぞれジト目でレンを見つめた。
「――ま、いいわ。非常事態の時に”本気”を出す事については元々そのつもりだったし、レンもチームワークが大切なのは理解しているからリィンお兄さんの要望通りにしておくわ。」
「ああ、レンにとっては面倒な事だろうけど、よろしく頼む。」
その後リィン達は課題をこなし始めた――――――
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第95話