第38-13話 UW決戦、勃発
No Side
戦争における勝利に必要な要素は様々である。
戦力は勿論、他にも兵装や兵器を投入するための財源、兵となる民の協力を得るための政治なども欠かせない。
だがこの際それは置いておこう、何故ならこの戦争においては戦力以外の要素は関係がないのだ。
では、戦力という面で見ると大きく二つに分けることになる、量と質だ。
定石で言えば、圧倒的な量であればまず負けることはない。
しかし、少ない戦力であっても圧倒的な質の高さがあればそれを覆すことも可能となる。
けれど戦場に必要な要素は二つだけではない。
まずは兵装や道具の類、武器や防具などは勿論のことで怪我の治療などを行うための物も戦場では必須である。
次に情報、味方に関するものは勿論だが敵に関するものも当然といえ、より精確な情報であればあるほど良い。
他には利益、戦場だから命を落とすことは勿論で怪我を負うこともある、
その反面何かしらに見合った報酬があれば士気の減少は僅かながらでも起こりにくくなる。
また戦略と戦術を込めている作戦はかなりの重要度だといえる、
これらは少数による多数への勝利、あるいは迅速か圧倒的な勝利を齎すもの。
そして統率者だ、兵を率いるもよし、策を張り巡らせるもよし、自ら戦場を駆けるもよし、
これもまた在り方は様々だが兵の士気や勝利を齎すに必要なものである。
だが、統率者とは時に自軍、または自身を破滅に導いてしまうものでもあるのだ。
起こしてしまった愚挙か暴挙、それの責任は自身に返るものだからだ。
キリト率いるUWコンバート軍とベクタことガブリエル・ミラー率いる不正アクセス軍。
両軍を量で見れば五千対三万だが、質でみれば正式なコンバートかつ年単位でVRMMOに一日の長があるキリト側に軍配が上がる。
加えて、コンバート軍には幾つか明確にされている事柄があり、それに付随するように士気が高い。
コンバートが行われる前に『SAO
その際にペイン・アブソーバーやコンバート後の敗北によるアバター消滅の可能性なども話され、それによって諍いが起きかけた。
ALOのそのプレイヤーが言ったことは、
「痛覚やアバター消滅など冗談じゃない」「別にメリットがあるわけでもない」
「デスゲームから生還した英雄気分のお前達で勝手にやってくれ」というようなもの。
勿論、全員がそう思ったわけでもなく、人によっては言い過ぎだと思う者もいただろう、
けれど彼の言っていることもまた間違いではない。
キリトの仲間達にとっては重要なことであっても、そうではない大勢にとってはデメリットしかないとも言える。
理由が他人の為であり、特に召集を呼びかけたのがSAO生還者ともなれば意識の違いが表れる。
だが“英雄気分”という言葉、それは生還者達にとっては苦痛の物でしかない。
確かに世間的に見れば絶望的な状況から生還した英雄にも見えるだろう。
しかし、実際に英雄とも呼ばれるのはほんの一握りであり、彼ら彼女らもまた苦しむか地獄を見てきたのだ。
また、現実世界に戻ったとはいえ身近に生還者が居ない世間の目は冷たい物だった。
年齢層や社会的立ち位置を見て、生還者達は社会的に役に立たないと思う者も多い。
社会意識へのズレ、学業や社会そのものへの遅れから、
補助を行うよりも自衛隊などの軍組織へ入れた方が良いという声もある。
それに月に数度行われるカウンセリングは一部の人物を除けば尋問に近いものに感じるのだ。
生還者の学生が集められた学園は保護しているのだと聞こえはいいだろうが、
果たしてそれはどのような反応を示すか経過を観察するモルモットの檻籠でもある。
それを涙ながらに話すリズベットやシリカを見て、誰がこれ以上英雄などと言えるだろうか。
この世界に体は無くてもその世界には体があって自分達と同じで心も魂もある人達が、
そこは日本の領域でもありさらに命まで好き勝手にされていいものか。
憤りなどの感情で人は動くことが多い、だからこそ彼らはそれに待ったをかけた。
「別に無理に参加しろとは言わねぇよ、言った通りみんなにはデメリットしかないからさ」
「時間は少ないですが、誰かの為と考えるよりも自分の為に考えてください」
「ちゃんと考えて上で出した答えなら、オレ達はみんなの答えを肯定するよ」
ハクヤ、ヴァル、クーハ、彼らは敢えて集まってくれたプレイヤー達に考えるように言う。
確かに戦力は多い方が良く、質も上等ならば尚更というものだが、そこに思いがないのであれば話は別だ。
これから向かう戦場は命そのものに危害は無くとも痛みを受けアバターの損失にも繋がる、
覚悟ほどのものでなくともある種の強い思いは持ってもらわなければならない。
そうでなければ敗北時の苦痛や喪失感に流されてしまうからだ、余程の事態以外に取り合うことは難しい。
なればこそ、参加後の被害による異議を申し立てない旨をここで確認しておかないといけない。
そして、その答えは集まった者と集まっていない者も含め、皆が背中の翅から鱗光を放つことが何よりの証だった。
ハジメもまた手早く道具の類を預け、ALOからGGOにコンバートを済ませた。
最初は適当なアカウントを作ってそれで話をしても良いかと思ったが、
“美少女のような美少年のハジメ”でなければ大きな信用は得られないだろうと判断したのだ。
GGOにコンバートし、フルダイブしたハジメは“キリトちゃんとハジメちゃんを応援し隊”が集っている場所へ赴いた。
M9000番系という非常に珍しいアバター、カスタムを施していない完全な男の娘、
女の子のような男の子にGGOの一部プレイヤーは心を奪われた。
キリトもハジメもアバターとはいえ美貌は凄まじく、両者戦闘時はクールなものであり、しかも人当りも良いとなればファンも増える。
そこに目を付けたのはアスナであり、便乗したのがシノンだ。
放っておけば過剰な行動をしかねないが、制御すれば統率が取れ便利というものだ。
男性と数少ない女性のファン達による構成で筆頭のアスナとシノンは知らぬことだが、
キリトとハジメにはバレている。故にハジメは利用する。
「……今日は集まってくれてありがとう…」
普段よりも抑揚が無い声は本人にすれば羞恥からなのだが、この場に集まった
空気に機敏なハジメでもさすがにこういった
この隊の名にあるキリトが戦っているから自分も行くこと、この隊の筆頭であるアスナとシノンも既に向かっていること、
ペイン・アブソーバーやアバター消滅などのデメリットなどを説明した。
そしてハクヤ達がしたようによく考えて決断してほしいことを言ったが、答えは即座に返ってきた。
「いいかお前ら! キリトちゃんの危機にハジメちゃんが駆けつけ、
「ならば、私達がすることはただ一つよ!」
「「キリトちゃんへの援軍あるのみ! 他のゲームのプレイヤーよりも功績を上げて、GGOへのログイン率を上げてもらう!」」
「「「「「「「「「「おぉぉぉぉぉっ!」」」」」」」」」」
「(……駄目だこいつ等、手遅れだった…)」
ハジメはバカ達の行く末を案じるしかなかったが、手遅れだと察した。
戦力もやる気も十分なのだが、複雑な胸中に変わりはない。
その後、ハジメは近接戦闘と
こちらは普通に好意的であり、早速実戦で試してみようという心意気、
教授してくれたキリトとハジメに恩返しをしたいという思いもあり、確りと考えた上でほとんどの者が同行を願い出た。
十人ほどは辞退したが、彼らを責める者はキリトとハジメの教えを受けた者達の中には居なかった。
そしてGGO掲示板そのものへの呼びかけで集まったプレイヤーへの説明。
こちらは人数自体がALOほどではなく、説明途中や説明後にこの場を去る者すらいた。
しかし、この場に残ったプレイヤーのほとんどはGGOのランキング上位やトップクラスの者達であった。
「相手はアメリカのプレイヤーなんだろ? 中には当然、アメリカのGGOサーバーの奴らも居るはずだ。
そいつらに日本のGGO魂を見せつけてみたくてな」
「もしかしたらサトライザーがいるかも知れない。居なかったとしても、同じGGOの戦術があれば役に立てるかもしれない」
「いまのGGO日本最強は間違いなくアンタ達だが、任せっきりなんてのは真っ平さ。俺達も日本GGOの代表にならせてもらうぜ」
彼らの多くはアメリカGGOへの対抗心であり、
特に第一回と一番新しい『バレット・オブ・バレッツ(通称:BoB)』にてサトライザーに敗北を喫した者達は相当だ。
ハジメがシノンの敵討ちついでに拭ったとはいえ、やはり自分達の力で戦いに挑んでみたいという思いもあるのだろう。
これにより、GGOからは多くの上位ランカーと少なくはないプレイヤーが参加する。
シャインとティアはまた別の方面からアプローチを掛けていた。
それはSAO時代に築いた人脈を利用した、生還者達への呼びかけである。
SAO生還後、なにも全員がVRMMOを続けているわけではなく、続けていてもALOやGGO以外のゲームに進んでいる者もいる。
そういった人達に人脈やネットで呼びかけるのは勿論、生還者以外にも呼びかけるのは忘れない。
ペイン・アブソーバーとアバター消滅の可能性を確りと書き込んでおくのも怠ってはいない。
さらに現実世界では未縞公輝と朝霧雫として行動する、それは朝霧財閥の力を動かすこと。
これらの情報が重なることで朝霧家は動き出す。
政府への援助や国民への口利き、メディアの情報操作、さらにキリトの援護に参加するプレイヤー達への報酬を行うため、
各日本サーバーを有する運営などへ連絡を取り報酬への資金提供などを実行することが決まった。
「朝霧SP部隊総員に通達! 俺と雫と共にUWへフルダイブする者はコンバートの準備を進めるように!
これは訓練ではないが、強制でもない。自分達の意思で決めろ!」
公輝からの通達を受けるが、SP部隊は総員がUWへの同行を決めた。
命令でなくとも、彼らは最初から公輝と雫に付いていくつもりだった。
「時間も時間だから非常勤扱いには出来ないが、終わったら俺手製のデザートと雫の手料理を振舞ってやるからな!」
「「「「「「「「「「ありがとうございます! 楽しみにしております!」」」」」」」」」」
笑みで以て全員が応える。
参加するのはゲームに通ずる者達だけではない、戦闘のプロでさえも戦場へと舞い降りる。
ALO、GGO、現実世界やネット上など、様々なところで行われた呼びかけにより、約五千人の協力者がUWにコンバートした。
突然現れたプレイヤーに人界囮部隊と拳闘士団、暗黒騎士団は一瞬だが困惑した、またも自分達が襲われるのではないかと。
しかし、先程とは違い今度は全員が確りと自分達と似た姿をしており、さらにはあの
キリトや女神ステイシアであるアスナと共に居ることから味方なのかもしれないと考えた。
一方で困惑したのは赤い姿のままのプレイヤー、不正アクセス組も同じだがその意味合いが違う。
まずは最初の一瞬で百数十人もの同志が斬り捨てられたこと、次に空からの光線で数百人規模がやられたこと、
そして自分達が倒そうとした者達を守るかのように数千人規模で現れ、
しかも自分達と違って確りとアバターの姿が固定されていることだった。
ガブリエルとしては同じことをしてくる可能性は考えていたがほぼ同じタイミング、さらに予想以上の人員に思考を行うしかなかった。
そして考え付いたのは、予めこちらとタイミングを合わせるつもりだったのではないかということであり、事実その通りだ。
そしてキリトはこの状況下で流れを自分の方に持っていく。
『USAからのフルダイブプレイヤーに告げる! 諸君らは現在、不正アクセス行為を行っている状況にある!
また、この仮想世界は日本政府の研究機関内のものであり、諸君らの行為は不正アクセスによる日本国法違反に抵触し、
不法入国罪、威力業務妨害罪など、他複数の罪科に問われることになる!
諸君らのフルダイブを煽った人物らには業務妨害罪だけでなく、既に不法入国罪や傷害罪などにも問われている!
この一件は既に日本政府から国際連合を通してアメリカ合衆国に通達が為されている!
だが、安易な言葉に乗ってしまったとはいえ、諸君らにも酌量の余地がある!
即刻にログアウトを行えば、注意勧告は行われるが処罰などは行われないことになっている!
また、これ以上のフルダイブプレイヤーが増えないように注意を呼び掛けてもらえば、
それは加害も被害も抑えられることに繋がる!
しかし、フルダイブと戦闘行為を続行する場合は先程のような光景を自身で体験することになり、
現実世界にて罰金や罪科が付けられ、アカウントの剥奪や懲役刑が科せられることも理解してほしい!
既に不正アクセスのフルダイブを行った諸君らのログアウト方法や時刻などは記録されているため、
逃げることは出来ないと覚えていてもらいたい!
五分待つ、それ以内にログアウトした者は注意勧告のみだが、五分以内に攻撃してきたものは反撃し、
五分以降に降参としてログアウトしても罰せられることを告げる! これは忠告ではない、警告である!』
『覇王』の『覇気』を解放し、場を支配しながら流暢な英語で不正アクセスプレイヤー達に告げたキリト。
指摘と注意、内容の説明に加えて警告も行い時間も与えた。
キリトとて敵らしい人物から言われたことをすぐに信じることはできないが、それでもやっておけば後で有利に立つことができる。
戦闘面に関してもログアウトによって戦力を削ぎ、動揺によって戦闘時の集中力を乱すこともでき、
ログアウトをするかしないかで不和を招くことも可能、しかもそこに虚偽の言葉はないのだから。
「アスナさん、キリトはいまなんて喋ったんだい?」
「神聖語のような言葉だったとは思うのだけど…」
「わたしでもいまのは全部聞き取れなかったわ。聞き取れた言葉から、警告だと思う」
ユージオとアリスの疑問は尤もだ。
キリトが喋ったのは神聖語、所謂英語でありきっとアスナなら解ると思ったのだろうが、
生憎とアスナでは少しは理解できても全ては不可能である。
そこへ助け舟がきた。
「いまのは警告だ」
「エギルさん、来てくれたんですね!それで警告って…」
「お前さん達のピンチだから、駆けつけるのは当然さ。それで警告のことなんだが…」
アスナの許へきたのはエギルであり、
生粋の江戸っ子だがアフリカ系アメリカ人の彼は英語を話すことができるため今のキリトの言葉も理解できた。
そのことをアスナ達に説明し、彼女達も理解して納得する。
「ハクヤ、ハジメ、ヴァル、シャイン、クーハ! 部隊の前面に出て攻撃に備えろ!」
「「「「「了解!」」」」」
キリトが指示を出してここに居ないルナリオを除くアウトロードの男性陣に散開するように告げる。
展開する拳闘士団、暗黒騎士団の前に出て庇うように立つハクヤ達、その後ろにALOの領主や代表が率いる各種族やギルド、
さらにはGGOのスコードロンやグループ、SAO生還者や他ゲームのプレイヤーなども展開していく。
これは予め示し合わせていたものであり、各集まりのリーダーが大まかな指揮を執ることになっていて、
第一目標はUWの住人を多く守り抜くものだと指示されている。
撤退、ログアウトは各自の判断に任されているが、戦ってもいないのにログアウトしようとする者はコンバート軍にはいない。
ここでキリトが危惧していること、それは警告時に自身で言ったように五分という時間内に敵が攻撃を仕掛けてくることだ。
既に千人単位の規模でログアウトしていく者達を見送ったが、嫌なことほどよく起こるということをキリトは身を以て体験している。
起こらない方が奇跡かもしれないなぁと思いつつ、いままさに向かって来る敵プレイヤー達を睨みつける。
「他プレイヤーは手を出さないでいい! 俺達が一度だけで止める!」
キリトが宣言した瞬間、彼とアウトロードの五人の男性陣から覇気と殺気が溢れ出し、“殺の心意”を纏わせて各々の得物を構える。
キリトは神器『夜空の剣』、ハクヤはSAO時代の二振りの鎌『アイスエイジ』と『コロナリッパー』、
ハジメもSAO時代の刀『カミヤリノマサムネ』、同じくヴァルもSAO時代の槍系統である薙刀『神龍偃月刀』と槍『アルスライベン』、
シャインもまたSAO時代の剣『ダークリパルサー』、クーハは愛用の短剣系統である短刀『宵闇』と『常闇』だ。
六人が心意を込めた得物を振るった結果、各自の武器から斬撃が放たれた。
キリトの斬撃は夜空の剣の特性もあり闇の斬撃が放たれ、ハクヤからはアイスエイジによる氷とコロナリッパーによる炎が、
ハジメからは視覚に捉えることの出来ない速度の居合いの斬撃、
ヴァルからは神龍偃月刀による輝く斬撃とアルスライベンによる直進する突きの斬撃が、
シャインのダークリパルサーからはルナリオとキリトに次ぐ力の斬撃、
クーハの宵闇と常闇からはヴァルとハジメに次ぐ速度の斬撃が十字を描いて放たれる。
――ドゴォォォォォンッ!!!
「「「「「「「「「「ぐあぁぁぁぁぁっ!?」」」」」」」」」」「「「「「「「「「「うわぁぁぁぁぁっ!?」」」」」」」」」」
数百人規模で吹き飛び、誰も彼もが激痛に悶え苦しみながらログアウトしていく。
キリトの斬撃は闇素が付加されていることで鎧などの防具を一切無視して直接攻撃されるため、
防御が意味を成さずに防具の内側から切り刻まれていく。
ハクヤの二つの斬撃は氷と炎であり、氷によって凍てつかされて炎によって焼き尽くされる。
ハジメの斬撃は最も速くに到達し、鎧や防具を纏めて斬り裂いた。
ヴァルの輝く斬撃を押すように突きの斬撃が前者を押していき、高威力の二撃が着弾して爆発を起こす。
シャインの斬撃はとにかく重く、鎧や盾などの重厚なものさえ諸共に粉砕してみせる。
クーハが放った十字の斬撃はとにかく突き進み、多くの敵を巻きこんでいった。
警告を無視した相手への反撃は既に行っていたため、これは当然の末路。
それを見ていた敵プレイヤー達はさらに千人単位でログアウトを決めたようで大幅に姿を消していく。
これもまたキリトの目論んだ通り、必ず先に仕掛けてくる者達が出てくることを予想し、
それをある程度は本気の攻撃で一気に倒すことでこちらが本気であることを示し、
相手のログアウトを促させるためであり、それは見事に成功して大幅な戦力ダウンを起こした。
五分という時間、これは敵プレイヤー達には進退を決めるものだが、キリト達にとってはここからが正念場である。
ガブリエル・ミラー、この世界では闇の皇帝【暗黒神ベクタ】である彼はキリトの言葉に舌を巻かざるを得なかった。
現実世界で自分達の情報担当であるクリッターから齎されたもの、
それは米国政府に日本政府と国連から苦情や警告が行われているというものであり、
加えてキリトが言い放った処置なども行うという声明文が発表されているとのこと。
だが、撤退の指示は出されていない、
つまりは強行してでも『A.L.I.C.E.』を奪取できれば今回の被害があってもお釣りがくるというのが上の判断である。
また、ガブリエルとしてもアリスを手に入れられるのであれば否はない。
結局のところ戦力差は未だに五倍近くはある、GOサインが出されたのならば行くのみだと判断する。
『同志達よ、懼れることはない! これはゲームであり、ゲームとは勝った者が全てだ!
勝てば良いのだ! 我らはその為にここへ来たのだから!』
ベクタのアカウントであっても、最早そこにベクタとしての行動はなく、
USAプレイヤーを扇動して戦いを有利に進めるガブリエルとしての行動しかなかった。
だがそれで十分だった、残る意思を示した不正アクセスプレイヤー達は次々とキリト達へと向かっていく。
ガブリエルもまた、飛竜に乗ったままアリスへ目掛けて向かっていった。
キリトが設けた五分という時間を待たずして、不正アクセス軍は突撃を開始した。
「やはり聞く耳は持たないか……いや、この場合はベクタの奴が上手いということかな。
ま、予想内なわけだし、あとは叩き潰すだけだな」
「わたしも本気で征くよ」
「ああ。俺達の力をその身に叩き込んでやるのみだ」
向かって来る敵を見据えながら呟くキリトの傍にアスナが跳躍してから降り立った後に同意し、二人は得物を振りかぶる。
「コンバート軍、今回の協力に先に感謝しておく!
これからの戦いは生半可なものじゃない、だからここでログアウトしても俺は責めないし他の奴にも責めさせない!
だが、それでも残って戦ってくれると嬉しい!
一応、上手くことが進めば政府を通して各自のプレイするゲームで報酬が用意されるだろうから、それも期待してくれてもいいぞ!」
迫る敵を前にしても怯えることなく余裕な様子で話すキリトに、
この戦場に居る人界軍と暗黒界軍の連合軍、コンバート軍の誰しもが耳を傾けることができた。
先程の圧倒的な力を見せたキリト達の強さに惹かれたのだ。
SAO・ALO・GGOのプレイヤーの中には彼らと共に戦えることを名誉に思う者すら居るのだから。
さらにゲームの仮想世界の説明ではなかった報酬に少しばかり期待してやる気を出す者も増えており、
キリトのノリに乗った者達が笑い声を上げている。
「良い感じだな! UWのみんなを守ってほしい……守られてばかりのみんなじゃないがそれでも頼む、俺に力を貸してくれ!」
「「「「「「「「「「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」」」」」
キリトの願いを聞き届けるかのようにコンバート軍、それに人界・暗黒界連合軍からも雄叫びが上がった。
キリトを始めとするアウトロードの男性陣が再び覇気を解放し、心意も纏う。
全軍が武器を抜き放ち、構えて最後の言葉を待つ……そして、
「行くぞ、戦闘開始!」
振り下ろされた夜空の剣から斬撃が放たれると同時に攻撃が開始された。
ここに最終決戦が始まった。
不正アクセス軍(以降『アクセス軍』)はまずその数で押し切ればいいと考えていたのか、
コンバート軍に向けて突撃を行ったまではよかった。
しかし、彼らはそもそもこれをただのゲームとしか思っておらず、
先に倒された者達のリアクションが大袈裟だったのだろうと判断してしまった。
だが、キリト率いるコンバート軍はそうではない。
これはアバター、あるいはアカウントというもう一人の自分の命が懸っている、
そしてUWの住人の命が懸っている戦争だと、全員ではなくとも確り理解している。
また、アクセス軍には整えられた指揮系統が存在せず、とにかく戦うだけであるのに対し、
コンバート軍には指揮系統が存在しているために連携などを駆使し、作戦を展開し、戦術と戦略をもって戦う。
「はっ、ここは遊びに来るところじゃねぇんだよっ!」
ハクヤがアイスエイジとコロナリッパーを何度も振るい、
心意によって放たれる氷と炎の斬撃が無数に生み出されては敵軍を襲っていく。
所々で地面ごと凍らされるように斬り裂かれ、炎が着弾すると吹き荒れた後に地面を焦げ付かせる。
数度も繰り返されるその攻撃によって幾ヶ所で凍りついた地面に足を取られて横転し、
後ろから来る味方に踏み潰されていく者を増やしていく。
「……去れ、さもなくば散れ!」
ハジメがカミヤリノマサムネを振るうことで無数の居合いによる斬撃が駆け抜け、それは視覚では捉えることの出来ないものである。
敵の身を武器と防具ごと細切れにし、時には縦か横の一太刀で真っ二つにし、肉体をバラバラにして消滅させていく。
「軽挙な行動の結果を思い知れ!」
この場で最も速いヴァルによる神龍偃月刀の斬撃は輝き敵を斬りつけるだけでなく着弾時に高威力の爆発を起こして地面ごと抉り、
もう片方の手で持つアルスライベンの突きの斬撃は直線に突き進み幾人もの敵を貫いていく。
「俺の弟分の大切なモノに手ぇ出したんだ、思い切りやらせてもらうぞ!」
シャインの持つ大盾『アイギアス』と対を成しているのはキリトも使用していた剣のダークリパルサー。
ルナリオ、キリトの順に次いで筋力値が高いシャインの一撃による斬撃はハジメのような切断性よりも破壊力を有しており、
斬られていく敵も防具ごと破壊されていくと言った方が正しい。
「死なないっていうのなら、痛い目くらいは見てもらう!」
クーハは宵闇と常闇を様々な角度から無数に亘って斬撃を放っていく。
攻撃の瞬間速度で言えばハジメ、ヴァルの順に次ぐクーハの攻撃速度だが、
そこに武器の軽量性も加わって振るえる回数も増えることで大きさはともかく、二人以上の斬撃を放つことが可能となる。
かなりの回数の斬撃により敵の武器や防具は耐久値が減少し、破壊されたところでさらに斬撃に襲われていく。
「各種族、ギルドメイジ部隊! 大規模魔法、エクストラアタック、魔法弾幕の用意!」
アスナが声を張り上げて指示を出し、参加している各妖精族の領主や代表がその指示を受けて魔法の展開を始めていく。
神聖力とは違い自身のMPを消費するのだが、練り上げられていく魔法力の量や規模に人界・暗黒界軍は目を見張る。
整合騎士や暗黒術師団が苦労して展開・発動した術よりも高度なものを、個人や十数人程度で無数に展開しているのだから。
「魔法発動後、生き残った敵を遠隔攻撃で追撃します! 弓兵部隊、魔法具投擲部隊用意!」
数百人規模の弓やボウガンを持った遠隔攻撃部隊が矢を番え、
相手に直撃すると効果を発揮する魔法具を投擲する部隊も攻撃に備える。
「GGOプレイヤーの皆さん! 最後の弾幕は皆さんにお願いします!」
「日本GGOの力を見せつけるわよ!」
前衛の
「十分に引き付けて………っ、キリトくん!」
「ハクヤ、ハジメ、ヴァル、シャイン、クーハ!下がるぞ!」
アスナに名を呼ばれたキリトは他の五人と共に後ろに跳躍して部隊の中に下がった。
「メイジ部隊、魔法攻撃開始!」
「「「「「「「「「「放てぇーーーーー!」」」」」」」」」」
様々な属性や威力の大規模魔法、妖精の種族によるエクストラアタック、数万の魔法弾幕が順に敵軍に襲いかかる。
大規模魔法とエクストラアタックで数千という敵を一気に削り、魔法弾幕の雨霰で残りを一掃する。
「弓兵部隊、次いで魔法具投擲を開始!」
「「「「「「「「「「打てぇーーーーー!」」」」」」」」」」
次々と弓とボウガンから矢が放たれ、矢の雨が降り注いでいき数百人規模でハリネズミのような相貌にされていく。
部隊が入れ替わり、続けざまに矢が放たれ、さらに交代で魔法具が投擲されて様々な効果が発動する。
各属性の魔法攻撃が込められているものから、毒・麻痺・混乱・睡眠などの状態異常を引き起こすものなど様々だ。
「弾幕を展開するわ、撃ち放ちなさい!」
「「「「「「「「「「撃てぇーーーーー!」」」」」」」」」」
シノンの言葉でGGOプレイヤー達が多種多様の銃火器による攻撃を開始。
ライフル系の銃で確実に敵を倒し、ガトリング系と通常の銃系統の乱射で弾幕を作りとにかく撃ち倒し、
止めと言わんばかりにロケットランチャー(多連装含む)で焼き尽くしていく。
これが現実世界、あるいはUWの住人であれば悲惨な光景だっただろう。
だがアクセス軍はプレイヤーとして来たため、吹き飛んだ箇所などは明確な表示はなされず、
しかし激痛に悶え苦しみながらログアウトしていった。
最初にダイブしてきたのが三万人、その後のキリトの言葉で三千人近い者達がログアウトし、
最初からいままでの攻撃で一万を超える者達が脱落してログアウトしていった。
『お、俺はこんなのごめんだ!』『こんな話、聞いてない!?』
『素直に認めて、罰金した方がマシだぁっ!』『もう嫌だぁっ!?』
いまの光景と攻撃を受けた者達はこれ以上の苦しみから逃れるため、ログアウトする。
『は、所詮はゲームなんだろ!』『この狩り場は俺らのモノだぁっ!』
『逃げる奴らは盾にするか放っておくかしろ!』『こっちの人数は圧倒的だ、技使って倒せばいい!』
それでも残り半数、一万五千人以上のアクセス軍が向かって来る。
いまのはあくまでも先制攻撃の一種に過ぎない。
「メイジ部隊と弓兵部隊はこのまま中衛と後衛を務めてくれ!
GGO一同も中衛で前衛の援護を頼む! さぁて、ここからが本当の正念場だ! 勝つぞ!」
「「「「「「「「「「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」」」」」」」」
キリト達を筆頭に武器を持つ者達が正面からぶつかり合う。彼の言うとおり、ここからが本当の正念場である。
No Side Out
To be continued……
あとがき
またも投稿が遅れてしまった上に内容が前回の予告と違ってしまった、反省…。
しかし今回の話し、コンバート前のそれぞれの様子やキリトによる警告は必要事項なのを思い出しました。
最後は戦闘開始の様子、次回こそある意味本当に戦闘になりますがまずは皇帝ベクタからいきます。
その次がみなさんのアバター戦、原作キャラ系戦、キリト&アスナVS原作の奴ら、という感じ。
それでは次回で!
Tweet |
|
|
11
|
3
|
追加するフォルダを選択
第13話目です。
前回の予告とは違う内容になってしまいましたが必要内容だったもので。
どうぞ・・・。