『乱世』
乱世とは、
秩序が乱れ戦乱や騒動などの絶えない世の中のこと。
申し出に承諾した呂布に、
張遼は笑みを浮かべて、
「了解や。アンタは黄巾の将を討ち取った上党の民の恩人でもあるからなぁ、手厚く歓迎するでぇ」
と、部下の一人を呼び、
その乗っていた馬を呂布に貸すよう伝える。
呂布は張遼に促せられるまま馬に乗り、
張遼たちについて行った。
上党城に向かう道中、
呂布は張遼にいろいろ話を聞いた。
上党城に居る丁原も女であること。
今、黄巾の乱真っ只中であるということ。
呂布は張遼の言葉から鍵になる部分を取り出し、
現在の自分の状況を簡単にまとめるが、
その締めは休んでからしよう、
と自身に言い聞かせ呂布はそれ以上考えるのを止めた。
そうしている内に、呂布の目に上党城が映る。
遠目から観た上党城は、若かった頃に居た上党城と全く変わっておらず。
変わっているのは、
「…女になっている者がいること、そして俺か」
呂布はそうボソリと呟き、
そのまま張遼たちと共に上党城に入城した。
「「「張遼様ッ、お帰りなさいッ!!!」」」
張遼の姿を確認した民たちが歓喜の声を上げる。
呂布は上党城の城下街が笑顔で満ち溢れていたことに驚きを隠せなかった。
「…民に笑顔が絶えないな」
「そりゃそうや、太守の丁原は人望厚い奴やからな。んでもって、かなりの別嬪さんやで」
呂布の言葉に張遼が民の声援に手を振りながら笑顔で答える。
呂布は、そうか、と答えて張遼の後に続いた。
そして、宮殿前に着くと騎馬隊は張遼に一言挨拶して隊列を組みながら兵舎へ駆けていく。
張遼と呂布はそれを見送った後、
馬を入口の守備兵に任して中へ入っていった。
上党城宮殿に入った張遼と呂布は、
一先ず此処の城主である丁原に顔を出す事にした。
宮殿内も呂布が知っている造りのままで、
呂布は何処か不思議な気持ちで張遼の後をついていく。
そして、ある個室の扉の前に着くと張遼が振り返り、
「此処が丁原の部屋や」
と一言言って、ゆっくり扉を開ける。
部屋は広くなく、
大きな机と寝所、
物入れなど生活に最低限必要な物のみ置かれており、
どれも綺麗に整頓されていた。
その部屋の奥にある窓から外を眺める一人の女性。
おそらく、あの人物が丁原であろう。
呂布はそう思いながら彼女を見つめる。
「朱椰ぁ、還ったでぇ」
張遼は笑みを浮かべながら外の景色を観る丁原に話し掛けた。
その声に丁原はくるりと振り返り、
張遼の顔を確認するなり口許に笑みを浮かべる。
「お帰りなさい、霞」
呂布は振り返った丁原の顔を見て、愕然となった。
張遼が別嬪と言っていた事も頷けれる、
と呂布は思う。
「…貂、蝉?」
丁原の顔は、人生で初めて心奪われた女性である貂蝉と瓜二つであったのだ。
呆然とする呂布に張遼と話していた丁原が気が付き、
張遼に尋ねる。
「…霞、その方は?」
「あっ、そうや、コイツめっ…ちゃ強いんやで!!是非、仲間になってもらいたくてな、呼んだんやけど」
張遼は愉しそうに跳ねながら話し掛けるが、
「お名前は?」
「あ…」
丁原の言葉に張遼は動きをピタッと止め、
ゆっくりと首だけ呂布に向け苦笑いする。
「…呂布。呂奉先だ」
呂布はこちらを見る張遼の表情で察したのか、
自分の名前を丁原に伝える。
丁原は呂布の名を知ると、
腕を組んで呂布の身体を下から上へ舐める様に見た。
そして、一言。
「…よし、私の好み」
丁原の言葉を聞いた呂布は“顔は似ていようと中身は全く違う”と直ぐに気持ちの切り替えを行うのであった。
呂布が上党城に入ってから時が過ぎ、日が落ちる。
既に城内には灯籠に火が燈され闇夜を照らしていた。
その中でも一番闇夜を照らしていた場所が一カ所。
「………」
「パァーッと盛り上がりぃ、今夜は無礼講やでぇ!!」
宮殿内にある宴会場。
そこには先の戦いに参加していた騎馬隊の兵士たちと張遼、丁原、そして呂布がいた。
わいわい騒ぐ兵士たちに張遼は立ち上がって酒を口に流し込み、
丁原も周りの兵士たちと話をしながら酒を少しずつ飲む。
ただ呂布はこの雰囲気に慣れないのか酒は余り飲まず、
ただ黙って料理に手をつけていた。
暫くすると、そんな呂布の隣に丁原が座る。
一人孤立する呂布の為に兵士たちとの話を切り上げたのか、
直ぐに呂布に話掛けた。
「どう、愉しんでる?」
「…今だに混乱している」
丁原の言葉に呂布は箸を止め、今の心境を伝える。
勿論、丁原は別の意味でその言葉を捉え、
「それはそうよね、無理矢理宴会に参加させてしまったんだから」
「…いや、違う」
「え?」
首を傾げる丁原。
呂布は言葉を続けた、
今自分が体験している状況をまとめる時が来たのである。
「…俺は一度死んだ。だが、今、俺は生きて再び同じ時代に戻ってきている、生き返っている。これが夢なのかどうかは解らん。だからこそ、混乱している」
「……貴方、仙人か何か?」
呂布の話を聞いた丁原は、
杯を持ったまま怪訝そうな顔をして少し身を引く。
だが、それは冗談だったのであろう、
丁原は直ぐに身体を呂布の隣に戻して口を開く。
「ま、仙人でも何でも構わないわ。貴方はこの上党城の民たちを助けてくれた恩人、是非こちらで優遇させたい…それに、その“生き返った”“同じ時代”のどうこうって話、気になるし♪」
丁原はそう言うと、
ニッコリと笑みを浮かべて呂布の前に自分の杯を差し出す。
呂布はそれを暫く眺めた後、
ゆっくりと自分の杯を手に取り、
丁原の杯に軽く当て金属音を鳴らした。
それから呂布は丁原にあらゆる事を話した。
時代の流れ、必ず頭角を現すであろう人物、
勿論自分が前の世界で丁原を殺した事も。
それに対して丁原は、最初呂布の話を面白そうに聞いていたが、
彼女も“漢”の武将であったので呂布の話す頭角を現す人物の名を聞くと、
流石に杯の動きを止めそれに聴き入った。
そして、極めつけの丁原殺害の言葉。
丁原もこれには杯を机に置いてしまう。
「…お前が俺の話を信じるかどうかは任せる。が、お前と同名の人物を殺したと言う俺を、それでも待遇するか?」
呂布は黙る丁原に苦笑しながら言う。
直ぐにでも自分を追い出すなり、殺すなりすると良い。
最後に別人とはいえ、
最愛の人物の顔を見れたと思えれば、これから消えても構わない。
呂布はそう思っていた。
だが、丁原はその思いを無視し、
呂布の両手を力強く握る。
「そんな話を聞いたら、尚更貴方が欲しくなった。貴方が殺した丁原と私は違うわ、私は貴方を信じる。だから…」
丁原の言葉に呂布は力が抜けた。
裏切りの人生を歩んだ自分を信じる、と初めて言われ。
「…俺は消えないのか?」
気付かぬ内に呂布は、丁原に下丕城での言葉を再び尋ねていた。
丁原はその言葉にキョトンとした顔を一瞬するが、
直ぐに笑みを浮かべ、
「消えるわけないじゃない、私が護ってあげる」
と言った。
呂布はその言葉に何かを得たのか、
フッと目をつぶり微笑を浮かべると丁原にしっかり向かい合った。
前の世界では一人孤独にただ戦って、ただ裏切って…それの繰り返し。
貂蝉と出会った時一瞬何かが変わったが、
それも彼女の死と共に直ぐに戻った。
そして、そのまま死んだ。
だが、この世界で初めて『信じる』と言われ、“孤独”という言葉が消えた呂布は心にあった何かが変わる。
初めて明確な人生の目標が出来た。
護りたい者が出来た。
―飛将†夢想―
呂布の新しき物語が始まる。
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呂布は張遼と共に上党へ向かう。
そこで出会ったのは…
再版してます。。。
作者同一です(´`)