「司馬懿様、客人が参られました。どう対応致しましょうか?」
一軒の屋敷の中、一階から一人の女性の呼ぶ声がする。
「毎度伝えているはず。病を理由に遠ざけよ、と」
二階の私室で椅子に座りながら書物を手にしてそう答えたのは短い白髪を持った小柄な少女。
この少女こそ名門司馬家の当主、司馬防の次女、司馬仲達である。
姓を司馬、名を懿、字を仲達。
そう名付けられた彼女は名門司馬家に生まれ、幼少期から厳格な環境で育った。
彼女には一人の姉と六人もの妹がおり、姉妹全員の字に「達」が付き、全員の優秀さもあって「司馬八達」と言われたこともあった。
その優秀さを耳にし、数多くの太守や高官などが出仕を求めたが、全て病を理由に断ってきたのだ。
理由は簡単。
まず、彼女はもうじき乱世の時代が訪れることを予測していた。
民を蔑ろにする官僚達、それをどうにもしない漢に対する怒りを抱いた農民達による大反乱である黄巾の乱。
そしてつい最近起きた洛陽で暴政を敷いた董卓の討伐を目的とした諸侯達による反董卓連合。
連合軍が勝利し、これまで起きた数々の大乱、そして漢の力が弱りきった今、群雄割拠の時代が訪れて、戦続きの日々となるのだと彼女は考えていたのだ。
今の不自由がない生活はもうじきなくなるかもしれないが、どこかの勢力に参加すれば静けさのある今とは確実に永遠の別れとなるだろう。
故に自らの安全を優先する彼女は誰かに登用されるのを嫌がったのだ。
「その……客人についてなのですが……」
本も読み飽きたので、階段を降り始めると先ほどの声の主であった女性の使用人が困ったように言う。
「何者であろうと構わん。断っておけ」
冷徹に言い放つ司馬懿。
「曹操様の使いの者ですが……今回は少し違う人物がやってきまして……」
「また、か。彼奴も懲りぬな」
顔の表情に変化はなかったが、声音からして少し不機嫌だと伺える。
司馬懿は過去に曹操から何度か出仕を求められたが、全てを他の事例と同じく病で断った。
しかしそう簡単に諦める曹操ではなく、最後の登用目的の出会いではいずれまたやってくると言って立ち去ったのだが、今日に限って来るとは司馬懿にとっても予想外だったのだ。
「ん?少し違う人物だと?」
普段の彼女なら追い払えと言っただろうが、今回は違った。
使用人が言った「少し違う人物」の意味が気になったのだ。
いつもの場合は曹操が直接来るか使者を寄越していくかのどちらかだったが、使用人の言葉の通り、今までとは違う人物を送ってきたのだとすれば予想できるのは軍の幹部かそれに値する人物。
「はい。男性の方ですけど、なんというかすごくキラキラした白い服をきていまして ……」
「白い服?男性?」
ここで大きく予想が外れた。
曹操軍の幹部級の人物は皆女性であることは知っている。
しかし男性で軍の重役というのは初耳。
そんな人物がいるとは思えず、司馬懿は一旦思考を巡らせる。
そして考えの末にたどり着いたのが。
「(まさか……天の御使い?)」
都で噂になっている天の御使いの存在。
流星と共に現れ、大陸の平和をもたらす存在だと言われており、大陸のどこかにいると噂されているがまさか曹操軍にいたとは考えもつかなかった。
司馬懿自身は曹操軍に奇妙な男性がいるとの話を聞いただけで、どうせ与太話だろうと聞き流していたが、これがまさかの噂の存在。
本当にそうかは直接この目で確かめることしかないと確信した司馬懿は、
「見てくる」
すぐに扉まで向かっていった。
「え、司馬懿様!?」
主人の予想外の行動に思わず驚いてしまう使用人。
扉を開いた途端、司馬懿の目に一人の男性が映る。
使用人の言った通り、確かに輝いている白い服を着ている。
二人の目線があった途端、男性が口を開いた。
「えーと、司馬懿さん、だよね?」
「いかにも。そういう貴下は何者だ?」
「俺は北郷一刀。一応天の御使いって呼ばれている存在らしい」
この二人の奇妙な出会いが、近い未来に全てを巻き込む出来事へと発展することになるのは、誰も知ることはない。
あとがき
まだ物語は始まったばかりですが、いかがでしたか?
地域や設定などは完全に覚えきっていないので、wikiを見たり原作ゲームをやりながら執筆していこうと思います。
余談ですが、未だに物語に合うタイトルが考えられないのでタイトルは仮です。
コメントお待ちしております。
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真・恋姫†無双の二次創作です。今までは読み専に徹していましたがこのサイトや他の二次創作サイトで公開されている数々の恋姫のssの素晴らしさに影響されて執筆はじめました。何ぞと宜しくお願い致します。時期としては反董卓連合から群雄割拠の時代が訪れるまでの間です。