“アイドル”
それは多くの人達が持つ、一つの理想の姿。
テレビで、雑誌で、ライブで、彼女たちの輝きはとどまるところを知らない。
その輝きに魅了され、女の子だけでなく、男の子ですらアイドルに憧れて夢想する。
しかし、そんな夢のような舞台に立つことができる者は、限られている。
そのアイドルたちの頂点、トップアイドルの座に立つことができる者は限られたものたちの中でも、さらに一握りの存在。
そんな中、アイドルに憧れた女の子たちが、短い期間と言えどアイドルになってみたいと願い、叶えるために始めたのが部活としてのアイドル、スクールアイドル活動。
ある時は路上でライブをし、ある時は学園祭の講堂でライブをし、それらの活動を動画の投稿サイトにアップロードしたりもした。
少しずつではあるが、その活動は確実に衆目にさらされ知名度を上げていった。
それに触発されたのか、元々アイドルに憧れている人たちが多かったのか。
一人、また一人とスクールアイドル活動を始める学生が増えていった。
それがいつしか世間に広まり、今やスクールアイドル活動は日本中で大流行していた。
……そんな中、俺の目に留まったスクールアイドルユニットが一つ。
“μ’s”
前世で見ていた学園アイドルアニメ、“ラブライブ”に登場したスクールアイドルユニットだ。
ネットを見ている際に偶然知った俺は、“μ’s”がこの世界にあることに驚きつつも喜び、その舞台を一目見ようと音ノ木坂学院のオープンキャンパスに来ていた。
女子高のオープンキャンパスなんて関係者や女生以外入れないイメージがあり、生徒でも父兄でも女性でもない俺が入ることができるのか少し不安ではあったが、どうやら一般公開もされているようで普通に入ることができた。
……それでも、やはり男一人ということで訝しげな視線を向けられてはいたけど。
場所はグラウンド。
観客は生徒とその保護者が数人という、そこまで多くはなかった。
しかし、μ’s全員がそろった初ライブで少ない観客を前にして、それでも彼女たちの表情に不満などなく、かといって不安も恐れもないようだ。
今までみんなで一緒に頑張ってきたことによる自信、そしてその成果をこれから披露することへの喜び。
それらを彼女達からは感じた。
「これからやる曲は、私達が9人になって、初めてできた曲です。スタートの曲です!
聞いてください!」
『“僕らのLIVE 君とのLIFE”!!!』
軽快な音楽が鳴り響く。
そして、彼女たちの初ライブが始まった。
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「いやぁ、やっぱり生で見るとまた違った楽しさがあるなぁ」
オープンキャンパスでの生μ'sの舞台で心がホクホクとしながら、自然と軽快な歩調になってしまう。
オープンキャンパスが終わったその夕方、記念にスクールアイドルの専門店でμ'sのグッズを買おうと秋葉原にやってきていた。
ここは、アニメでもμ’sの面々が自分たちのグッズが並べられていることを知って驚いていた店だ。
……μ'sの活動なんてそこまで多く行われていないはずだが、なぜか彼女たちのグッズが存在していることにこの店の流行の先取り加減がうかがわれる。
缶バッチやTシャツにプリントされている彼女たちの表情はどれも笑顔が可愛いものばかりだ。
(……まぁ、基本的にCD系統しか興味ないから見るだけだけど)
こちとら空間収納アイテムがあると言えども限界があるし、着の身着のままで旅をしてるからして自由に持ち歩ける量にも限度はある。
俺の趣味を優先に、買う物は何かと厳選しなければならないのだ。
小さいμ’sのストラップだったら、別に邪魔にはならないし思い出として買ってもいいかと思いじっと見つめる。
複数あってどれにしようか迷いどころだ。
(……さて、どれを買うか)
……そう悩んでいると、少し離れた所にある路地から女性の叫び声が聞こえてきた。
しかも、どういうわけか低位ではあるが認識阻害系統の力の気配まであるしまつ。
そのせいで、俺以外ではこの叫びが聞こえた様子もない。
(……ここで放っておくと寝覚めが悪いじゃないか)
流石に放っておけないと思い、首を突っ込むことにした。
μ’sの舞台で小躍りしたい気持ちが、一気にドブにでも落とされたような不快感。
若干イライラを募らせながら買い物を後回しにしてその路地に入ってみる。
すると、不良風の男たち3人に組み敷かれている女性の姿を見つけた。
(まったく、認識阻害系統の力は便利っちゃ便利だけど。だからってこういうことに使うなし)
ゲスい目的のために力を使う輩はどこにでもいるものだ。特に認識阻害は、こういうことをする際には便利な技でもある。
だからこそ、認識阻害を利用した犯罪行為は裏の社会においてそこそこ罪が重かったりする。
見つからなければ犯罪ではないと考える奴もいるらしく、こういった犯罪は後を絶たないが、現状こういう風に俺に見つかってるというこいつらの運の悪さ。
俺はあきれた気持ちを抱きつつ、手加減をして男たちをボコッって女性を助ける。
……なんともあっけないものだ。手加減したと言えどワンパンで沈黙とか。
(……能力に目覚めたばかりで、調子に乗ってたやつらだったのか?)
まぁ、とりあえずだ。
女性に対する性的な犯罪というのは俺も毛嫌いする所だけど、俺が必要以上に手を出していい問題じゃない。
さっさと関係機関に連絡を入れて対処してもらうとしよう。
「あ、あの、助けていただいてありがとうございます」
「ん、まぁ、流石にね、見過ごせんでしょ」
少し脱げかかっている服を直しながら、女性がお礼を言ってくる。
……なるほど、確かにお近づきになりたいような美人だ。
こいつらが襲いたくなった気持ちもわからなくもない……が、実際に襲ったら犯罪ですよ、犯罪。
何処にも怪我がないのを横目で確認しながら電話で連絡を済ませる。
電源を切って、これで一安心。
……そう思っていた矢先、男たちの体から魔力が噴き出してきた。
「きゃ! な、なんなの!?」
「……なぁるほど。そういうことか」
驚いている女性とは裏腹に、俺はこの様子を見て少し納得した。
何気に、認識阻害というのは覚えるのが難しい術だったりする。
それを、こんな力もあまり感じなく、不真面目そうな不良然とした奴らに覚えることができるものなのかと疑問だったのだ。
しかし、これならば確かに使えるだろう。
魔力と一緒に体から出てきた異形の存在、“悪魔”を見ながらそう納得する。
「ひっ!」
悪魔の鬼のような形相に女性は小さく悲鳴を上げる。
それを気にも止めずに、その悪魔は俺に殺気を向けてきた。
「……貴様、人様の楽しみを邪魔しやがって」
「趣味の悪いことするんじゃねぇよ。マジ胸糞ものですわ」
しかも、お前は人じゃなくて悪魔だろjk。
「ふ、人の不幸は蜜の味とは人間の諺だったか? 特に下等な人間の雌が泣き叫びながら犯されるところを見るのは格別なのだよ」
怯える女性の方を見るとニヤリと表情をゆがませる。
それを見て女性は一歩下がってしまう。
……まぁ、確かに気持ち悪いわなぁ。
今のこいつ、強面に加えて不気味に歪ませた下卑た笑みを浮かべていて、嫌悪感が増している。
なんというか、まさしく吐き気を催すような邪悪? みたいな?
「くくく、今ならばその女を引き渡せば見逃してy(ボシュ」
「はいはい、もう喋んなくていいからねぇ」
これ以上気持ち悪い表情見てるのも精神衛生上よろしくないため、さっさとぶっ飛ばすことにした。
とりあえず炎を込めた拳をおもむろに叩きつけてみたら、一瞬で消滅してしまった。
あんなに思わせぶりなこと言ったり、強そうな強面であったのにかかわらずこちらの攻撃に反応することもできずに一発で。
(……まぁ、低位の悪魔だったらこんなもんか)
手配書を見る間もなく滅してしまったけど、この程度なら手配されてるかすら怪しいレベルだし。
人間に取り付いて悪さをする悪魔というのもそこそこ多いが、基本的にそこまで強い奴は今まで見たことないし。
「……い、今のは」
「ん?」
どこか呆気にとられたような声を聞き振り返ると、女性が呆然と俺を見つめていた。
(……あぁ、そっか。俺も力使っちまったしなぁ)
さっきまで普通の人間だと思っていたはずの男が、急に手に炎を纏って悪魔を倒すなんて、普通に生きてきた人間には思いもよらない出来事だろう。
(さて、どうするか)
定石で言ったら記憶を操作して日常に返してやるものだろうか。
だけど、記憶を改竄させる系統の魔法なんて俺は覚えてない。
関係機関に引き渡せば適切な処置をしてくれるはずだが、個人的にあまり記憶の操作というのは好きではない。
上手く記憶を操作したところで、どこかつじつまが合わずに違和感を覚えることもある。
自分が知っているはずなのに身に覚えがない、自分が知らないはずなのにどこか既視感がある。
記憶を改竄された人間の中には、そんななんとも言えない気持ちの悪さを感じていきなり記憶が戻ってしまい、パニックに陥ってしまう人間もいるらしいしな。
とりあえず簡単に説明して、公にしないようにしてもらうとするか。
「……あー、いろいろと頭こんがらがってるかもしれないし、簡単に説明させてもらうよ。
その前に、どこか落ち着けるところに移動しようか。流石にいつまでもこんなところにいたくないだろ?」
「え、えぇ、わかりました。それでしたら、ついてきてください。助けてもらったお礼にコーヒーくらいは御馳走させてもらいますから」
「……あまり気にせんでもいいんだけど。まぁ、ありがたく御馳走させてもらうよ」
金に困ってるわけでもないし、別に御馳走なんてしてもらわなくてもいいのだが、好意はありがたく受け取っておくとしよう。
どこかの喫茶店にでも連れて行ってくれるのか、彼女の案内に従いついていくことにした。
……しかし、ついて行った先は、なぜか先ほどまでライブを見ていた音ノ木坂学院だった。
しかも自分の部屋だという“理事長室”にだ。
(……どこか見覚えあると思ったら、ことりママさんかよ!)
実は最初に会った時から、どこか見覚えがある気がしていたのだ。
ま、まぁ、理事長はアニメでもそこまで登場回数多くないし、忘れてしまっていても仕方ない、よな?
彼女はソファーに座る俺の前にコーヒーを置いて、自分の分のコーヒーを持ち対面に座る。
一口コーヒーをすすると、真直ぐ俺の方を見てきた。
これでようやく話を聞ける準備ができたというところか。
「それじゃ、話をさせてもらうとするかね」
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「……なぜこうなったし」
ありのまま今起こったことを説明するぜ!
簡単に裏の世界のこと、悪魔や神や妖怪といった人外の存在を説明したら、その後なぜか俺はこの学校の用務員に就職していた!?
何を言ってるかわからねぇと思うが、俺もどういう理屈か……はわかるけど。
いきなりの急展開で内心俺も動揺していたのかポルナレってしまったけど、実際に了解したのも俺なのだしいい加減に現実を見るとしようか。
要は自分の娘が心配だからということだ。
今まで人外の存在など信じていなかったが、今回のことでそのことを信じざるを得なくなった。
そうなるともしかしたら自分の娘、南ことりがその被害にあってしまうかも知れない。
だから、俺という力のある人間(半人半魔だが)に守ってほしいということだ。
もちろん一生を費やして守ってほしいというわけではない。
せめて娘が卒業するまで、その学生生活の間だけでも無事に過ごさせてほしいということらしい。
「……本当なら受ける気なんてなかったんだけどなぁ」
そもそも、俺は自由気ままにいろいろなところに行ってみたいと思ったから家出したわけで。
別に就職なんてしなくても、協会の依頼ですでに懐は潤ってるわけだから気にしなくてもいいわけだし。
……それでも彼女の依頼を受けてしまったわけだが。
今思うと、彼女の真剣な思いに絆されたせいかもしれない。
あの純粋に娘を心配する親心、とても気持ちのいいものを感じさせた。
理事長という立場上、全ての生徒に平等に接しなければならないだろうに、それでも一人の親として娘のことを考えて俺に頭を下げてきた。
親の育児離れがささやかれている昨今では、中々いないと思うよ。言葉だけでなく心からあそこまで子を思うことができる親というのもね。
……俺の偏見かもしれないけど。
「確か、南ことりって今は2年生だったよな。つまり大体1年くらいの滞在か」
まぁ、受けた依頼はしっかりこなすのが流儀だしな、1年くらい気にすることもないか。
そもそも、依頼としては学院で生活している時であって、24時間ずっとということではない。
もちろん学外で何か問題があれば対処はするが、それ以外だと基本俺の自由にしていて構わないというのだから、冥界で狂暴な魔獣を討伐するのに比べればそこまで大変な依頼内容でもない。
それに、これからもμ'sのライブを生で見ることができることを考えると、依頼でもらえる報酬と合わせても十分すぎる報酬だ。
(……今回はいつも以上に楽しい依頼になりそうだな)
一人ほくそ笑むと、理事長名義で借りられたアパートに向かって歩き出した。
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数日後、理事長から就任の準備ができたという連絡を受けて学院に赴いた。
指示された用務員の仕事をしつつ気を配って様子を見ていたが、特に何事もなく平和に一日が過ぎていった。
実際の所、一般人が裏関係の事件に遭遇することはそう多くはない。
昔から一般人に対して裏のことを知られるのはタブーのようになっている。
それに一般人に対して何かしらの問題を起こしたら、裏関係者に対して起こした時の罰則と比べてもかなり重い罰則が敷かれているのだ。
これはいがみ合っている天界や冥界、そして人間界の裏関係者全てに共通した認識だ。
ほとんどの人間だと、裏関係の問題に遭遇することもなく、知ることすらなく一生を終えていく。
そんな中、理事長と出会った時のような問題はかなりレアなケースといえる。
「ま、こんなもんだよな。仕事もあらかた片付いたし、後は影からμ'sの活動風景を観察しますかね」
大体は屋上が活動場所になっていたと記憶にある。
屋上へ向かおうとした矢先、理事長からもらった仕事用の携帯から着信が入った。
いまどき珍しいガラケーだが、まぁ、仕事用なんてこんなものだろう。
電話をかけてきたのは、案の定理事長だった。
「ども、お疲れさんです。オルトです」
『はい、お疲れ様です。今日は何か問題はありましたか?』
「特になしです。平穏無事な一日でしたよ」
『それは良かったわ。これからもよろしくお願いね』
「えぇ、それはもちろん。依頼は受けたからにはしっかりこなしますよ」
『ふふ、頼もしいわね。ところで、なんでそんな微妙に敬語になってるの? ちょっと違和感がすごいんだけど』
「これが、仕事上の俺の口調なんですよ。あくまで金貰って仕事する立場ですんで、依頼主には多少は丁寧にした方がいいかっていう俺なりの考えです。
もうずっと前からなんで、今から治せって言われても難しいんで、そこは諦めてやってください」
『……まぁ、分かったわ。違和感がすごいけど、慣れることにするわ。違和感がすごいけど』
何回も言うなし、俺もわかってるんだから。
「それはそうとて、その確認だけです? 他に何か用事があったり?」
『実はそうなの。これからちょっと一緒に来てほしいところがあるの』
「はぁ。まぁ、仕事もあらかた片付きましたんで、大丈夫ですがね」
『そう。それじゃ、玄関の所で落ち合いましょ?』
「了解です」
通話を終えると携帯はポケットに突っ込む。
それにしてもどこに行くのだろうか。時間も時間だし、飲みの誘いではないだろうが。
(まぁ、行ってみればわかるか)
そう結論付け、指定された場所に行くのだった。
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「はい、ということで後任の顧問として彼についてもらうことになりました」
「「「「「「「「「……え?」」」」」」」」」
「……どういうことだってばよ?」
落ち合った理事長と一緒に向かったのは、かのμ'sのメンバーがいるアイドル研究部の部室だった。
そこに集まっていたμ'sのメンバーを前にして、理事長いきなりの爆弾発言。
それには流石に俺も苦笑い。
μ'sのメンバーも今初めて聞いたようで、一同疑問の声を上げていた。
「前の顧問がね、今度退職することになったの。だから、彼に後任としてついてもらおうと思ってね」
「退職って、何かあったんですか?」
「……彼女ね、今度結婚することになったらしいの。それで、主婦業に専念したいからって先週あたりに辞表持ってきてね」
「そんな、いきなり……」
「……あの、私たち何も聞いてないのですが」
「たぶん、忘れてたんじゃないかしら? 彼女、結構いい加減なところがあったもの」
「……あぁ、確かに」
前の顧問のことを思い出しいていたのか、どこか妙に納得した感を出している彼女達。
というか、どんな顧問だったんだよ前の先生って?
アニメ見てた時に顧問の“こ”の字も出てこなかったから、てっきりいないものとばかり思っていた。
(……って、流石に顧問がいないと部として成り立たないか)
「彼は今日付けで音ノ木坂の用務員になったの。私の知り合いでね、とてもいい人だから何か困ったことがあれば頼ってあげてね」
そういって唐突に俺の紹介を始める理事長。
なんというか、皆が微妙な表情で俺を見てるのだが……。
今日入ったばかりの俺がちゃんと務まるのかとか、見ず知らずの男性に対しての不信感とか、俺が何者なのかとか、いろいろな意味が込められていそうな目をしている。
「……というか、理事長? 俺自身、初耳なんですが?」
「えぇ、実は今朝起きた時にふと思いついたの。前任の顧問がいなくなるから誰か新しい人を見つけないといけなかったし。じゃぁ、オルトさんに任せればいいじゃない! ってね」
と、ウィンクをしてくる理事長。
流石美人、ウィンクも様になっている。
……呆れ加減が増し増しで、トキメキなんて微塵も起きないけど。
「……他の先生とかは」
「今の所みんな、それぞれの部活で顧問についてるのよ。一応、顧問になっていない先生もいるけど、外出も多くて中々彼女たちの面倒を見ることもできないし。
流石にね、以前の彼女のように放任が過ぎるというのも体裁的によくないのよ、活動的に世間への露出も増えてくるでしょうしね。
その反面、オルトさんは用務員でいつも学院にいるし、放課後も大体時間があるでしょうから丁度いいと思って、ね?」
「いや、ね? って言われてもですねぇ?」
つい、ため息を漏らしてしまう。
なんというか、いろいろといきなり感がパネェっすわ理事長。
前任の顧問がいい加減というが、理事長も理事長でいい加減な人でしょほんと。
まぁ、俺も俺でいい加減なところがあるし、人のこと言えないけど。
とりあえず、依頼主の決定なら仕方ない。別段無理難題というわけでもないし、受けない理由もない。
少し面倒そうな役割が増えただけだ。
俺は視線を彼女たちに向ける。
「……あ~、まぁ、とりあえずそういうこと、らしい。
改めて、俺の名前はオルト・H・焼鳥。今日付けで用務員に就任して、お前たちの顧問に抜擢されてしまったらしい。
流石に男の俺にそう簡単に気を許せないかもしれないけど、顧問になったからには役目は果たすつもりだ。何か問題があったり、困ったことがあったら相談に来てくれ。基本的に、俺は用務員室にいるから。
……まぁ、お前たちなら問題や困ったことがあっても自分たちで解決しそうだけど。
とりあえず、これからよろしく頼む」
「「「「「「「「「よ、よろしくお願いします」」」」」」」」」
依頼主とは変わって砕けた口調で言う俺に、戸惑いながらも返事を返してくれた。
とりあえず受け入れてもらえたということで、いいのだろうか?
……なんか、こそこそと話しているが。
『焼鳥?』
『“やきと”とかじゃなくて普通に“やきとり”なのね』
『偽名?』
『というか、外国人?』
『め、目つきが怖そうです』
『大丈夫でしょ? 仮にも理事長が認めた人だし』
『えーと、なんだか前に見たことあるような』
『……あぁ、確かオープンキャンパスの時に見た覚えがあります』
『なんかおいしそうな名前だにゃ!』
こそこそしているようで、普通にこちらにまで聞こえているのだが。
隣で聞いている理事長も、なんだかほほえましそうに見ているし。
……とりあえず最後のは全力で聞かなかったことにしよう。
なんか少し涎を垂らしているのは育ち盛りだからしょうがない、しょうがない……。
「さぁ、挨拶も済んだことだし、皆は練習頑張ってね。オルトさんは少し話があるので」
諸々のことを気にも留めずに、普通に笑顔で話を続ける理事長がどこか大物に見えてしょうがない。
まぁ、こんな状況の中に残されていくのも困るし、おとなしくついて行くけどさ。
理事長に伴われて理事長室へやってきた。
促されるままにソファーへ座ると、先程とはうって変わって真剣そうな表情を浮かべる。
(こういう裏表を分けられるというか、切り替えが早いというか。とりあえず、流石は理事長を任されるだけはあるってことか)
と、少し感心した。
「顧問のこと、急に決めてごめんなさいね。でも、顧問とした方がいろいろとやりやすいと思うから」
「……まぁ、それに関してはもういいですよ。確かに、その方が彼女たちに近づきやすいですからね」
実際、顧問という立場になっていた方が様子見に行きやすいし、遠出をする時にも付き添いとしてついて行きやすい。
……まぁ、アニメで覚えてる限りだと大抵のことを自分たちでこなしてたし、わざわざ遠出する為だけに俺を呼びには来ないかもだけど。
「それでね、ここに呼んだのは他にもお願いがあるからなの」
「ん、お願い?」
人がいるところで言えず、二人きりで話ができる理事長室に呼んでするお願い。
「……裏関係、ですか」
「えぇ。少なくとも私はそう思ってるわ」
確証はないけどね、と続ける。
流石に先日に続いて、裏関係が日常での仕事の際に舞い込んでくるとは。
どれだけレアな環境にあるんだ、音ノ木坂は。
あれか? 毎週事件に遭遇するコナン君みたいな場所なのか?
まぁ、本人からして確証はないようだから、まだ本当に裏関係のことかはわからないが。
「……この音ノ木坂の裏手には雑木林があるの」
「あぁ、それなら見回りしてる最中に見ましたよ。なんか先に続く道があったけど、立ち入り禁止の看板が立ってましたね」
「その先にはね、かなり昔に使っていた旧校舎があるの」
「……旧校舎、ね」
なんでも、数十年前に起きた地震の影響で一部が崩れたり脆くなったりと危険だということで、新しく新校舎として建てられたのがこの音ノ木坂の校舎だという。
本当は早くに取り壊そうとしたのだが予算の関係上後回しにせざるを得ず、なんだかんだで理事長の代まで残ってしまったらしい。
それで、ある程度予算も工面できるようになってきたため取り壊そうとしたのだが、なぜか工事を始めようとすると重機が動かなくなったり、現場の作業員が体調不良を訴えたりと奇妙なことが立て続けに起こっているという。
「……」
「今まではただ偶然が重なっただけと思っていたのだけど、先日のことを考えると幽霊や悪魔みたいな存在が関係してるんじゃないかと思って」
これは確定かな? たぶん裏関係の問題の可能性が高い。
“旧校舎”で“工事中”に起きる“奇妙な現象”。
……まぁ、定番と言えば定番か。
「……とりあえず事情は分かりましたよ。俺はその現象の原因を解決すればいいんですね?」
「えぇ、もし解決できるなら解決してほしいわ。もちろん、無茶はしないでね?」
「わかってますよ。俺だって自分の身がかわいいんでね。無理なら無理で、別の頼りになる人呼びますんで」
「……頼りになる人? まぁ、それは任せますけど」
「えぇ、お任せあれ」
まぁ、人でない奴もいるけど。
餅は餅屋、俺が見て駄目なら霊障においての専門家、霊能力者に頼るとしよう。
とりあえず善は急げ。ちょっと様子見をしてこようかと立ち上がる。
「……あ、そうそう、聞き忘れてたんですけど」
「あら、何かしら?」
「その旧校舎って、最悪壊しちゃってもいいんですかい?」
「……え?」
「いや、ですからね? 調査の途中に戦闘が発生した場合、勢い余って旧校舎壊しちゃうこともあるかもしれないじゃないですか?」
「……」
なんか、「何を言ってるんだこの人は?」という顔をされてしまった。
(……あれ、ない? いや、あるよね? 勢い余って壊しちゃうことって)
しかも旧校舎はかなり傷んでるっぽいんだし、余計壊れる可能性もあるだろ? むしろその可能性が高いだろ?
「……まぁ、えぇ。元々壊す予定だったので、仮に壊れてしまっても構わないのですけど」
「ん、了解です」
冗談か何かだと受け取られたのかもしれない。眉をハの字にして少し困ったような表情を浮かべられてしまう。
とりあえず、了承をもらえたのでさっさと行くことにした。今日中に片付けられるなら片付けておきたいところだし。
なんとも言えないような視線を背に受けながら、理事長室を後にする。
別にその視線に耐えられなかったから逃げたわけではない。
……ないと言ったらないのだ。
補足
1)顧問
元々の顧問については、アニメでまったく出てこなかったのでコミックの方の顧問を参考にしています。
……もしくは出てきていたのかな? 私が気付かなかっただけで。
3)グッズ
μ'sのグッズに関してはいつごろ製作されたのか、アニメでも全くわかっておりませんでした。
穂乃果たちも行ってみたら「私たちのグッズが出てる!?」状態でしたし。
なので、店の店長が流行の最先端を先取りでグッズ製作を業者に依頼してるという感じの設定にしています。
……本編ではどうかはよくわかりませんが、この世界ではスクールアイドルの商品を扱う時は
スクールアイドルがラブライブ運営委員会に登録→一定ランク以上のスクールアイドルの商品取り扱いをラブライブ運営委員会が承認→グッズを扱いたい商店がラブライブ運営委員会に申請→売れた商品から何パーセントかを運営委員会に支払う→その中から該当のスクールアイドルに活動資金として支払う
こんな感じの流れになっているという今後使うことのない、いらない裏設定としてなっております。
感覚的にはラブライブ運営委員会に登録したスクールアイドルはアイドル候補生みたいな? で、活動資金は一種の給料のようなものかなぁ、と妄想してました。
……小説の方までまだ手が回っておりませんが、そこらへん小説の方で語られてるんでしょうかね?
3)旧校舎
数十年前(大体明治時代位?)まではこの旧校舎を使用していたという設定です。
なんだかアニメとかコミック見てると、学院がめちゃ広くてめちゃ新しそうという印象を受けました。この作品では現在の音ノ木坂学院は新校舎という設定になっております。
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今回はラブライブ! の聖地巡礼シリーズです。
毎度のことながら変に地の文が多く、文章力が低く拙い作品だなぁと思う今日この頃。
今まで見ていただいた方にもラブライブ!ファンにも、少しでも面白いと思ってもらえるような作品であればと思います。
……行く時間がなかなか取れないけど、いつかはリアルで聖地巡礼行きたいものです。