―――依頼―――
「銀さん、こんな朝早くからどうしたんですか?」
「大体この時間なら二日酔いでグダってるはずネ」
時間は大体6時ごろ。
朝日が出始めて、人通りがまばらな時間帯。
そこに出歩いている数少ない人のうちの3人が、この万事屋メンバーの銀時、神楽、新八である。
「まったく、寝不足は美容の大敵って知らないアルカ? ふわぁ~」
まだ寝たりないらしい神楽が、欠伸を噛み殺しながら愚痴をこぼしている。
「うっせーよ、仕事なんだから仕方ねぇだろ」
「そういえば、今日はどんな依頼なんですか? 銀さん」
「なんでも源外の爺さんが、新しく開発した発明品の試運転をしてぇらしい」
「源外さんの依頼、ですか……あの、なんか僕、嫌な予感しかしないんですけど」
新八はかつて源外の発明品で起きた、様々な嫌な出来事を思い出して冷や汗を浮かべる。
しかしそんなことはわかってると言いたげに、銀時は頭を掻きながら大きくため息を吐く。
「ここしばらく他に依頼も来てねぇし、稼げる時に稼いどかねぇと。じゃねぇと、いつまでたってもうちの家計は火の車だ」
「火の車になってる原因の一端は、銀さんですけどね」
「銀ちゃんは1ヶ月くらいパチ禁(パチンコ禁止)した方が良いアルヨ。それとジャンプも。それだけで、多少はマシになるネ」
「いや、神楽ちゃんの食費もだからね? 自分は関係ない、みたいに言わないでよ」
「そうだぞ、神楽。お前が言うんじゃねぇ。てか、俺からジャンプとパチンコ取り上げたら何が残んだよ。酒と糖分の権化だよ? 少年の心が抜けただけで、ただの駄目な大人になり下がっちゃうよ?」
「じゃぁ、酒と糖分も取り上げればいいネ。そうすれば「まだ少しはマシな大人」、略してマダオになれるヨ」
「結局最後に残るのは長谷川さんじゃねぇか」
「マダオ=長谷川さんっていう連想も大概ですけどね」
―――見知らぬ地へ―――
「よう、銀の字。朝早くにわりぃな」
「わりぃと思うなら、ちゃんと報酬払えよ」
「なんなら酢昆布でも可アル!」
「いや、酢昆布が報酬なんて嫌だからね!? 僕にとって、まったく得にならないから!」
「安心しろ、これでもお前らよりは儲けてる方だ。依頼が終わったら、ちゃんと払うさ」
「……指名手配犯の癖に(ボソッ」
「なんか言ったか?」
「いいや別に?」
「……まぁ、いい」
こっちに来てくれと、源外の案内に従い3人は奥に進んでいく。
そこには何やら以前見たような発明品、ぶっちゃけ全自動卵かけ御飯製造機が置いてあった。
「……おい、爺さん。俺、これに少しトラウマ入ってんだけど? なに、また入れ替われと? もう嫌だぞ、他人と入れ替わるなんざ。あの時も、新八たちを元に戻すのにかなり時間かかったんだからな? リアルだと翌週には元に戻ってただろうけど、こっちの体感じゃあ何週間にもわたる苦労の末に、ようやく何とかなった事件だったんだからな?」
「銀さんメタいです。てか、銀さん以上に僕たちの方がトラウマ入ってますって」
何があったのかはDVD、もしくは単行本で確かめてみよう。
だけど決してご飯時に見ない方がいいだろう、家族に怒られるからね!
「安心しろ、別に入れ替わってもらおうなんざ思っちゃいねぇさ。これは前に作った「全自動卵かけ御飯製造機」を改良して作った新作で、物質を好きな場所へと転送させることができる装置だ。これが完成すれば、某ドラ型ロボットのどこでもいけるドアみたいなもんが、一般的に普及されるのもそう遠くはないじゃろう!」
「要するに、その転送の実験台になれってこったな?」
「おう、察しがいいじゃねぇか」
「……帰っていい?」
「依頼料、元の3倍出すが?」
「新八、神楽! さっさと終わらせて、今日は焼き肉だ!」
「キャッホォォォォォイ!!!!」
「いやあんた、心変わり早すぎでしょ!? もう少し迷えよ!」
新八の突っ込みも、金と食に飢えた2人には届くことはなかった。
源外の指示に従って、3人はポットの中へと入っていく。
「ったく、3人一緒に入れるなら、もう少し広く作れってんだ!」
「ちょっと、誰ぇ!? 今、私の胸触ったの!?」
「神楽ちゃん!? お願いだから、余所でそういうこと言うのはやめてね!? 下手すれば問答無用で僕達、豚箱行きになるからね!?」
『おう銀の字。さっそくで悪いが、入口の傍にあるパネルを見くれ』
そこを見ると、赤、青、黄の3つのボタンが付けられていた。
『いいか銀の字、まずはその赤いボタンを……』
「ホアチャァァァァ!!!!」
刺突。
力強いその指先で、あえなく赤いボタンは粉砕された。
「ちょ、神楽ちゃんんんんんん!?」
「おい、神楽! なんか前にもあったよなこれ!? てかどうして毎回、全力全開で秘孔ついてくんだよ!」
「ごめん銀ちゃん。なんか窮屈すぎて早く終わらせたかったから、つい」
「つい、じゃねぇよ!!!」
「……って、なんか変な音してませんか?」
『ビー、ビー』という、甲高い音が鳴り響いている。
その耳障りな警報のような音に、冷や汗を浮かべる男二人。
『……絶対押すなよ! それを今押すとエネルギーが急激に高まり、下手すりゃ暴走しちまうからな!』
「「もう少し早く言えぇぇぇぇぇ!!!」」
そして、エネルギーが限界まで高まったのか、徐々に光が強くなり周囲の空間が歪んでいく。
「ちょ、まずくないかこれ!? おい新八、神楽、一回出るぞ! ドア開けろ!」
「はい! って、ロックが掛かってて開きません!」
「なに!? じゃぁ、神楽! さっきみたいに、ドアぶっ壊して開けろ!」
「銀ちゃん、私だってちゃんと学習するアル。さっきの今で、私だってそうそう壊さないヨ?」
「時と場合を考えて言えぇぇぇぇぇ!!!」
「二人とも、そんなことやってる場合じゃ!」
―――ピカッ
「「「……あ」」」
その瞬間、3人の姿は発生した光にのまれて消えてなくなった。
―――新たな出会い―――
「いやぁ、本当に助かりましたよ! 本当にありがとうございました!」
「まぁ、困ってる時はってね。気にしなくていいよ」
いきなり見知らぬ土地に飛ばされた銀時、新八、神楽。
土地勘も何もなく一日中彷徨い続け、疲労困憊と空腹で倒れてしまった。
こんなわけのわからない土地で死ぬのか、まだ道場再興の夢も果たせていないのに。
そんなもはや読者にもほぼ忘れ去られているだろう、当初掲げていた目標を新八が思い返しているところ、偶然通りかかった少女に命を救ってもらった。
そして今は一人の男と、その助けてくれた少女が経営している茶屋で団子を奢ってもらっていた。
「それにしても異世界か、それはまた面白そうだね。天人っていう妖怪みたいな種族のこともまた話を聞いてみたいな……そうだ、どうだい? 俺の城に来ないかい?」
「へ、城?」
「なんだ? あんた城持ちって、殿様かよ」
「凄いネ! 正真正銘一国一城の主アル! うちのボンクラとは月とすっぽんネ!」
「ちょっと神楽ちゃん? 流石にそれは言いすぎじゃないかなぁって、銀さん思ってみたり?」
「否定できませんけどね」
「ははは。まぁ、それほどでもないよ。それに、俺は今少し体調を崩しててね。今は影番にほとんどを任せてるんだよ。おかげで、こうして団子屋の方にも来れてるんだけど」
「……影番、ねぇ」
立場が偉くなってくるとその分、それが気に食わないという敵も同時に増えてくる。
だから身を守るために影を本物と入れ替えておき、命の危険をその影に向けるのだ。
銀時たちの世界の将軍(徳川茂々)も、同じように影を本命と入れ替えて難を逃れたことが何度もあった。
「そんじゃま、行くあてもないし少し厄介になるか」
「あぁ、歓迎するよ」
「あ、今更だけど、あんた名前は?」
「あぁ、そういえばまだ名乗ってなかったね。俺は信長、織田信長っていうんだ」
「「……信、長?」」
その時、とある温泉宿で会ったブリーフ姿のおっさんの姿が銀時と新八の脳裏をよぎった。
「……新八よぉ。現実って残酷だな」
「な、なんですか急に?」
「だってよぉ、俺らの世界の信長ってあれだろ? ブリーフだろ? 現代じゃ赤鬼だの魔王だのすっげぇ異名が伝えられてるけど、ふたを開けてみればただのブリーフだよ。「こんなのってないよ、あんまりだよ!」ってやつだよなぁ」
「いや、ブリーフじゃないですからね? 確かにブリーフ履いてはいましたけど、その言い方じゃブリーフが本体みたいじゃないですか。ほら、良く思い出してみてくださいよ。あの時の信長さんだって、なんかこう歴戦の将軍っていう佇まいしてたじゃないですか?」
「そうだね、歴戦のブリーフ履いてたね。股間のところに黄色い染みできてたもんね」
「だからブリーフから離れてくださいってば! それにそんなことばかり言ってると、原作みたいに歴史偉人ファンから苦情来ちゃいますからね!」
「……二人して、いったい何の話をしてるんだい?」
「あ。い、いえ、別に!? 何でもないですよ!?」
「そうかい?」
「はい! ほんとなんでもないですから! ね、銀さん?」
「そうだな、こっちの世界の信長とは何の関係もないな。だってこっちの信長は柿ピー見ても何の反応もしねぇし」
そういい、懐から柿ピーの袋を出してポリポリと食べはじめる。
信長はそれを見て、ただ首をかしげるだけだった。
「……銀さん、なんでそんなもん持ってるんですか?」
「10時のおやつにしようと思ってな。甘いもんは医者に止められてっから、律儀に従って銀さん今日は辛いのにしてみた」
「……なんで空腹で倒れる前に、それ出さなかったんですか?」
「さぁ? 作者の都合じゃねぇのか? そもそも本来の銀さんがさぁ、律儀に医者の言いつけ守って甘いもん控えるわけねぇだろ?」
「メタなこと言ってんじゃねぇよ! つか、誰だよ作者って!」
「ゴリラじゃねぇ方の作者だよ」
「……ほんとに君たちは面白いね。あ、それはそうと、そちらの御嬢さんが食べた分のお金、ちゃんと払ってね?」
「「……え?」」
信長が指をさす方に視線を向ける。
「あー、えーと、香ちゃんの作った団子、美味しい、アル? なんか独特の味付けで、宇宙を感じさせるネ」
「ふふ、意味はよく分かりませんけど、ありがとうございます神楽ちゃん。もう一皿いかがですか?」
「すんません、勘弁してください」
「え?」
和気藹々と話す香と神楽。
どうやら香が作ったという団子を食べているらしい。
まだ会って間もないというのに、もう長年の友のように打ち解けあっているように見える。
なんと微笑ましい光景だろうか……神楽の周りにある、空になった皿の山が無ければだが。
それを見た銀時と新八は視線を交わし、スッと立ち上がると同時に頭を下げる。
「「……出世払いでどうか」」
「あぁ、うん。まぁ、しょうがないか」
そのあまりにも様になっている見事なお辞儀に信長は苦笑する。
こうして万事屋一行は、織田家に迎え入れられることになった。
「……にしても、あの子凄いね。香の団子を平然と食べれるなんて」
「え、どういうことです?」
「こう言っては何だけど、香の団子はその……所謂殺人団子なんだ」
「殺人、団子?」
「毒でも入ってんのか?」
「いや、毒は入ってない、と思うんだけど。他の料理の腕は一級品なんだけどね? なぜか団子を作る時だけは、どうしてか食べた人が倒れるくらい酷いものが出来上がってしまうんだよ」
自分の妹のことだからか、些か言いにくそうにしている信長。
それを聞いて、銀時と新八は顔を見合わせて。
「はぁ、そうなんですか」
「ふーん」
平然と何でもなさそうな反応を返した。
「……その反応、信じてなさそうだね。だけど、本当なんだよ?」
「いや、信じてねぇわけじゃねぇさ。あんな虹色のタレ、見せられちゃなぁ。ただ、なぁ?」
「えぇ、僕たちの身内にもそういう人いますから。しかも一品だけじゃなく、作る料理全てがダークマターになるような人が」
お前の姉ちゃんだけどな、と銀時が目で訴える。
新八はソーっと視線を逸らす。
「まぁ、だから仮にあの嬢ちゃんの団子がダークマター団子だったとしても、神楽なら問題なく食えるだろ」
「元々食いしん坊で、姉上の手料理も食べさせられ慣れてますからね」
「だーくまたー? なんだかよくわからないけど、凄い子もいたもんだね」
話しを聞いて、逆に信長の方が信じられない気持ちだった。
香のあの殺人団子だって、どうしてああなるのか調べてもわからないというのに、それと同レベルの料理を作る人間が他にもいるとは。
しかも一品だけでなく、全品である。
その人間は本当に人間なのかと疑問に思うも、他人の家族を悪く言うのも憚られた信長は、そのことを口から出すことはなかった。
「……ところで、そんな危ない団子を出されたってことで、代金の方はチャラになったりは?」
「うん、いいよ。香の団子はあの一皿だけみたいだから、それは抜いておくよ」
「「ですよねー」」
―――迫りくる女の敵―――
「ほぉ! 少し若いが、十分可愛い子じゃないか。よし、俺様と一発にゃんにゃんするぞ!」
出会い頭に神楽に対してそう言い放つのは緑の戦士。
彼こそがかつて大陸で英雄となり、そしてこのJAPANに可愛い女の子を自分の物にするためにやってきて、その一心で織田の影番の地位にまで上り詰めた男、ランス。
そのかわいらしい容姿がランスの目にかなったらしく、ガシッと神楽の両の肩をつかむ。
「……おいおい、やめときな」
その様子に待ったをかけたのは、神楽の仲間であり保護者役であり上司である銀時。
ランスの肩に手を置き、彼を制した。
「あん? なんだ貴様は? 男に用はないわ!」
「悪いことはいわねぇ、痛い目見る前に本気でやめといた方が良いぜ」
「なにぃ? 貴様ぁ、俺様の邪魔をするというのか!」
そういきり立つランスに、イヤイヤと手を振る銀時。
ランスに耳打ちするように近付き、小声で話しかける。
「違うっつうの、あんた神楽のこと知らないからそう言ってられるんだ。いいか、こいつは外見は可愛いかもしれねぇけど、中身はとんだ薔薇餓鬼だぜ? 力もめっぽう強いから、下手にナニを近づけると……」
―――グチュッ
「……」
「どうなるヨ?」
「……へ?」
突然の出来事に、ランスは一瞬思考停止していた。
目の前で起きた出来事を、女の事しか考えていない脳が受け付けなかったらしい。
なぜなら、目の前にいる可愛い女の子が……道端に落ちているゴミを見るかのような目で自分に耳打ちしていた男の股間に足を振り上げていたのだから。
「……」
「お、おい? 貴様、大丈夫か?」
普段なら男のことなど心配しないランス。
しかし、目の前の白目をむいて微動だにしない男に、なぜか自分でもわからないがつい声をかけてしまっていた。
しかし、銀時は反応しない。
神楽が足を退けると、ゆっくりと地面に倒れていく。
銀時は何の反応も見せない……ただの屍のようだ。
「……」
「……それで」
「ッ!?」
瞬間、ランスは一歩後ずさり無意識に股間を手で隠していた。
足をばっちいとばかりに地面にこすり付けていた神楽が、そのゴミを見るかのような目をランスに向けていた。
「私と一発が、なにアルカ?」
「あ、えーと、その……」
すぐに二の句が告げられない。
下手なことを言えば自分のビッグマグナムが、ゴールデンボールが、目の前の男のように蹴り潰されてしまうのではないかと容易に想像できてしまったから。
魔人すら圧倒した英雄ランスはこの時、魔人に対した時以上の恐怖を感じていた。
「……が、がはは、ははは。お、俺様少し用事を思い出した! それじゃぁな!」
そう言って、ランスは踵を返して行った。
その後ろで「かぶき町の女王をなめんじゃねぇよ、三下が。ペッ!」と、唾を吐きながらなぜかいきなり標準語でドスを利かせた声が聞こえたが、それを全力で聞こえないふりをしてただただ走る。
少しでもこの場所から、あの悪鬼羅刹の申し子から遠ざかるように。
この日、ランスの心に一つのトラウマが生まれた。
―――分かり合えない二人―――
「……」
「……」
とある一室。
二人の男が互いに得物を片手に睨みを利かせていた。
「……流石の俺様も堪忍袋の緒が切れたぞ。そもそも、最初に会った時からして、貴様のことは気に食わんかったのだ」
「そうかい。人なんて結局はどこまで行っても他人だ。気の合うところもあるだろうが、どうしても気に食わねぇところが出てくる。だけど、そんな気に食わねぇところがある奴とだって、折り合いをつけて生きていかなくちゃならねぇ。そうしねぇと人は生きていくことなんてできねぇんだ……それでも、今回のことは流石に我慢がならねぇ」
本気の殺気が場を支配する。二人の男、白の夜叉と緑の戦士の闘気が渦巻く。
その場にいる者全てが固唾をのんだ。
これから始まるであろう、恐らくこの世界でも最高峰の戦士たちの激しい戦いを予感して。
すでに話し合いをする空気ではない。そんな段階など当の昔に過ぎ去ってしまっている。
銀時は木刀を、ランスは魔剣カオスを構えて足を踏みしめる。
……そして。
「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」
一瞬の内に互いの間合いに踏み込み、木刀と魔剣が交差する。
その衝撃は凄まじく、畳は破れ襖は吹き飛んでいく。
しかもそれが一撃では終わらず、何度も何度も交わされるのだ。
徐々に部屋の中がめちゃくちゃになっていく。
しかし、二人は止まらない。周囲にどんな被害が出ようと自分の信念の前に立ちはだかる、目の前の障害を打ち砕くまでは。
「俺は認めねぇ!」
「俺様は認めねぇ!」
「「最高のヒロインはビアンカ(デボラ)に決まってるだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」
「いや、何の話してんだあんたらはぁぁぁぁぁぁ!?」
新八が突っ込む。
殺伐とした斬り合いは相も変わらずだが、シリアスな空気が一瞬であほらしくなった。
しかし、これはとても大切なことなのだ。
そう、この二人(馬鹿ども)にとっては。
「幼馴染属性が最高に決まってるだろうが! 朝のおはようから、夜のお休みまで! 甲斐甲斐しく世話をしてくれるような幼馴染キャラが俺は大好きです!」
「強気な女が見せる一瞬のデレこそ至高だろうが! 個人的に、強気な女を屈服させる時が一番興奮するがな! 悔しそうな表情を浮かべて、涙を浮かべながら睨みつけてくるところなど、そそるだろうが!」
「わからなくもない!」
「俺様もわからなくもない!」
「「だろう!?」」
「……あの、フローラは」
「「金持ちビッチなど論外! アンディとよろしくやってろ!!!」」
「……」
元々のランスの目的だった雪姫の、なぜか咄嗟に出てしまった一言を両断。
もはや、今のランスに雪姫など見えていないようだ。
そして、二人の発言になぜか落ち込む雪姫。
自分がなぜそんなことを言ったのかもわからないが、どこかその名前の女性に親近感でも覚えたのかもしれない。
「……なんなのだ……これは?」
敗戦国の当主義景は、負けてこれから自分が守ってきた国が蝕まれ、そして最愛の娘である雪姫が辱めを受けると考えていたのに、見せられているのはわけのわからない主張のぶつけ合い。
そしてなぜか落ち込んでいる雪姫。
「ビアンカって誰? デボラって誰? そして雪よ、フローラとはいったい誰なのだ?」
もはや何が何だかわからないといった心境だ。
「ある意味いつもの光景ですよ」
「……わけがわからん」
そんな義景に同情するかのように、肩に手を置く新八。
この場で義景の一番の理解者は新八なのかもしれない。
―――友との約束―――
「……貴様、銀時か」
「……銀時、さん?」
「よぉ、香。なぁに辛気臭い顔してやがんだ。おめぇにそんな顔は似合わねぇよ」
魔人と化した実の兄に追い詰められ、今まさにその命が風前の灯となっていた香を救ったのは、かつて道端で野垂れ死にそうなところを香が見つけて助けた男。
普段はだらしなく面倒臭がりで死んだ魚のような目をした男、坂田銀時だった。
そんな彼は今、普段のように死んだ魚のような目はしていない。
目の前に広がる彼の背中は大きく安心感を覚え、一瞬だが自身の兄の姿が重なって見えた。
「てめぇもてめぇだ、信長。まったく、シスコン兄貴がこんなことしちまうなんて、世も末だ。いつものシスコンっぷりはどこ行ったんですかねぇ?」
「……信長なぞ、もうここにはいない。ここにいるのはザビエル、魔人ザビエルだ!」
すでに信長の意思などなく、この体は自分の物だというザビエル。
薄々わかってはいたが、それを聞いてもう兄はいないのだと嘆く香。
しかし。
「……いなくなってなんか、いねぇよ」
「なに?」
銀時だけは違った。
「短い付き合いだったけどよ、一緒に酒を飲んで、馬鹿な話もして。そして妹について馬鹿みたいに語っていたあのシスコン兄貴は、まだそこにいる」
銀時には聞こえていた。
もはや虫の息となった信長の意思ではあるが、ザビエルに乗っ取られた体の内からこの場に現れた友に、銀時に強く訴えかけているのを。
「ふん、何を馬鹿な事を」『……頼む、銀時』
「……兄、上?」
「奴はもういない。そう、信長の魂はすでに」『……香を』
「……」
「この世から消え失せておるわ!」『……守ってやってくれ!』
「……へっ」
その心の叫びを確かに聞いた銀時は不敵な笑みを浮かべ、木刀の切っ先をザビエルに向けて構える。
「家事手伝いから、人探しまで何でもござれ。一事が万事、頼まれたからにはその依頼、この万事屋銀ちゃんが引き受けた。今度あの茶屋で団子を奢りやがれ、それが報酬だ」
『……ありがとう、銀時』
「……(どういうことだ? なぜこやつには信長の声が……)」
信長の魂は確かにまだその中に生き残っていた。
しかしその脈動はすでに薄く、いやそうでなくとも外に魂の呼び声が聞こえるはずもないのだ。
それなのになぜ、この男には信長の声が聞こえているのか。
「……まぁ、よいわ。どちらにせよ、やることに変わりはない」
銀時が現れてから、信長の魂の輝きが色を少し取り戻しているように感じる。
ならば、ザビエルがすることは一つ。
銀時共々、信長の妹である香をむごたらしく殺すこと。
そうすれば信長の魂もその現実に耐えられず抵抗も弱まり、この体が完全にザビエルの物になるはずだ。
「いくぜ、ザビエルぅぅぅぅぅぅ!!!」
「来るがいい、銀時ぃぃぃぃぃぃ!!!」
片や完全なる復活の障害を取り除くため、片や友の魂とその背に守る少女を救うため。
魔人と化した信長と銀時が、今ぶつかり合う。
―――変化―――
ふわふわと宙に漂うように浮かんでいる、山のように大きな白い鯨のような形をした存在。
それは退屈を紛らわせるためという、ただそれだけのためにルドラサウム大陸を創造させた、ルドラサウム大陸の最高神ルドラサウムだった。
「……誰だよ、お前……」
「……」
ルドラサウムがいつものように大陸の様子を眺めていると、突然目の前に見知らぬ存在が姿を現した。
目の前に現れたのは、それは何とも奇妙な存在だった。
「……」
「おーい、なんとか言えよー」
それは全身毛むくじゃらで、人間のように二足歩行しているゴリラのような姿をした存在。
ゴリラというだけならルドラサウム大陸にもいるから、何の関心すら示すことはなかっただろう。
しかし普通のゴリラが、いきなりこんなところに現れるわけがない。
普通のゴリラが、こんな変な黄色い服を着て、アホヅラで鼻をほじってるはずがない。
「……」
「……」
暇を持て余していたルドラサウムは、この状況に些か興味が湧いていた。
だから気まぐれに話しでも聞いてみようかと、ゴリラに話しかけてはいるのだが一向に言葉を返してこない。
ゴリラだからこちらの言葉がわからないのかと、ゴリラでもわかる言語にして伝えても意味はなかった。
全てが、ただの独り言で終ってしまう。
それに段々イライラしてきたルドラサウムは、もう面倒だから心の中を読んでしまおうとゴリラの心を読むことにした。
すると。
『めんどくせぇ~』
「は?」
ゴリラの心の中から最初に聞こえてきたのは、面倒臭いという言葉だった。
頭に?を浮かべていると、まるで洪水のように次々といろんなことに対する愚痴が流れ出してきた。
ルドラサウムの疑問などお構いなしに、ただただ自分の愚痴ばかり。
今までで初めての体験で、ルドラサウムはしばらく開いた口が塞がらなかった。
そして。
『……チーズ蒸しパンになりたい』
「……じゃあ、そのチーズ蒸しパンっていうのにしてあげるよ」
流石にこれ以上聞いているのもつまらなくなってきたルドラサウムは、とりあえず自分に初めての体験をさせてくれたお礼に、そのゴリラが最後に願ったことを叶えてやろうと思った。
そしてさっさと大陸の様子の続きを見ようと。
―――ポンッ
ルドラサウムが少し力を使うと、ゴリラはあっという間にパンの姿に変わってしまった。
強大な神々を創造してきたルドラサウムにとって、この程度のことはさしたる労力も使わない簡単な事だった。
さて、これでゆっくり大陸の様子を見ることができる。
そう思って大陸の方に目を向けようとした時、そこに残されたパンに目が留まった。
「……」
パンと名前が付くものはルドラサウム大陸にもいくつもある。
だけどこのチーズ蒸しパンというのは初めて見た。
一体どんな味がするのか。
そんな好奇心に負けて、ルドラサウムはおもむろにそれを口に放り込んでいた。
「むぐむぐ……ふーん、なるほど、こんな味なんだー。不味くはないけど、自分がなりたいって思うほどおいしいものかなぁ? ははは、ゴリラって変な生き物だなぁ、ははは、はは、は……」
ルドラサウムがおかしそうに笑っていると、次第にその笑い声は途絶えていった。
何が起きたのか、それはルドラサウムにもわからなかった。
何か違和感を感じたと同時に、すべてのことに対してやる気が削がれていった。
表情はどこかボンヤリとし、ダラーっだらしなく口を開き、ボーっと眠そうに目が半開きになる。
いつもつまらなそうにしているルドラサウムが、まるで休日のおっさんのようにやる気なさげだ。
そしてその口から飛び出したのは。
「……めんどくせー」
そんな言葉だった。
「……ふあぁ~……ねむ……」
ぼりぼりと体を搔きながら大きな口で欠伸をするルドラサウムは、半開きになっていた目をゆっくり閉じて寝息を立て始めた。
―――スー
そんなぐーすかといびきを立てて眠るルドラサウムの額に、薄っすらと浮かびあがるものがあった。
それはさっきルドラサウムにチーズ蒸しパンにされた、アホズラで鼻をほじっているゴリラの姿だった。
それから間を置かず、ルドラサウム大陸では様々な奇怪な出来事が起こることになる。
だが、それはまだ誰にも知らないことだ。
~fin~
ランスの世界観が気に入り、いろいろと探したのですがランスの二次創作物って結構少ないんですね。
おまけに何気にありそうで、マッチしそうな世界観なのに全然見つからない銀魂とのクロス。
もっと読みたい、私も一読者として気に入った作品の二次創作がもっと読みたい!
そう思う限りです。
p.s.
作中でフローラディスってますけど、作者自身に他意はありません。
むしろ、個人的にフローラが一番好きだったり……。
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短編。
戦国ランスの実況を某所で見て、ちょっと頭に浮かんだ展開です。
<誰か続きを書いてくれることを希望>
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