No.846630 真・恋姫†無双 異伝「絡繰外史の騒動記」第五話2016-05-08 13:17:48 投稿 / 全15ページ 総閲覧数:5338 閲覧ユーザー数:3875 |
「そう、結局張角達を見つける事は出来なかったのね…青州からこっちの方へ逃げた
という噂だったけど、所詮噂は噂という事だったのかしら」
曹操はそう言ってため息をつく。彼女は黄巾党の首領の張角達が三人組の旅芸人で
ある事を知り、さらには青州の根拠地から兗州方面に逃げたとの噂を聞き、大規模
に捜索させていたのだが、結局身柄どころか何一つ情報を得る事すら出来なかった
為、ため息もより大きい物になっていたのであった。
「とりあえず、今まで以上に詳細に領内の村々の位置を知る事が出来たのが幸いって
所かしらね」
「そうですね、特に桂花が最後に行ったという山奥の村…今まで麓の村を通してちゃ
んと税は納められていたとはいえ、文官の中にも村の存在を知らない者も多かった
ようですし」
「秋蘭、今回の調査の結果は改めてまとめておくよう桂花と話を詰めておいて」
「御意。ところで、桂花と同行していた季衣から一つ報告が…少々不確定な話なので
すが」
「不確定な話?」
「はっ、季衣は桂花が今話していた山奥の村へ行っている間、麓の村で待機していた
らしいのですが、その村には踏車があったそうで…」
「へぇ、僅か数ヶ月前に突然もたらされたあれがそんな所にまで普及しているとはね
ぇ…確かにあれは良い物だわ」
「ところがその村にある踏車は他の村や街にある物に比べて遥かに完成度が高かった
らしく、季衣がその村の者に聞いた所、どうやらその山奥の村の者からもたらされ
たとの事で…」
その話を聞いた瞬間、曹操の顔色が変わる。
「…まさか」
「そこからは私の推測になりますが、もしかしたら以前に華琳様がおっしゃっておら
れた『無尽灯』とやらを作った物と関係あるのでは思い、今改めてその村に調査の
者を向かわせております」
「桂花は何も言ってなかったわよ?」
「私も桂花に確認しましたが…どうにも話の要領を得る事が出来ませんでしたもので」
「ならば、その調査の者が戻り次第すぐに私の所に呼ぶように…無論、桂花も」
・・・・・・・
二日後、夏侯淵が調査の為に派遣した者が戻って来たので、曹操はすぐに夏侯淵・
荀彧・許褚の三人と共にその報告を受けていた。
「では…その村に絡繰に長けた者がいたのね?」
「はっ、名前は北郷という青年との事でした。村の者の話では祭りの度に奇妙な動き
をする絡繰人形を披露していたとか。踏車も間違いなくその者がもたらした物であ
る事に間違いありません」
「…だ、そうよ。桂花」
曹操が発したその一言に荀彧の顔が一瞬にして青ざめる。
「も、申し訳ございませんでした…ならばすぐにでもその者を此処h『既にそれは手
遅れです』…えっ?」
「その北郷という者、荀彧様が訪れた三日後に村を発ったとの事です」
その報告を聞いた荀彧の顔はますます青ざめる。
「そう…また手遅れだったというわけ『…報告はそれだけではありません』…まだ何
かあるの?」
「…その北郷なる者と一緒に旅立った者達の中に『張梁』という名の女がいたとの事。
しかもその女、荀彧様が村を訪れた一ヶ月程前に行き倒れていた所を助けられたら
しいと…」
「張梁…まさか?」
「おそらくは張角と何らかの関係があったのではないかと…『そんな事は!公達は怪
しい女なんて来ていないと!!』…畏れながら、荀彧様はその時に『三人組の女性
は来ていないか』と問われたと聞きました。その時点で既に張角達は三人で行動し
ていなかったのではないかと。そして、荀彧様が今おっしゃられた『公達』なる人
物は荀彧様の御親戚にあたる荀攸という方で、件の村で相談役のような事を務めて
いたらしいのですが、その方も北郷や張梁と一緒に村を発ったとの事」
その報告を聞いた曹操の顔は苦虫を噛み潰したかの如くに歪み、荀彧は卒倒寸前か
の如くに青ざめていた。
「桂花…あなたは一体何を見に行って何をしてきたのかしら?」
「わ、私は…その、あの…」
「曹操様、村人の話ではその荀攸なる人物、荀彧様を挑発するかのような言動を取っ
たとの事。おそらくは全てを分かった上であえてそのような行動に出て荀彧様が冷
静に対応出来ないようにしたのではないかと思われます」
「…おそらくはそうね。親戚だけあって桂花にどういう言葉をかければどのような対
応が返ってくるのか全て分かっていたという事でしょう…しかし、分かっていたと
はいえ桂花をそこまで手玉に取れるだけの弁舌と知能、なかなかの物を持っている
ようね」
「華琳様、もしや…」
「ええ、その荀攸という男、是非に幕下に加えたいわ」
「いけません、華琳様!あの男は荀氏一族の面汚し、決して華琳様の役に立つような
者ではありません!!」
「桂花、それは私が決める事よ…少なくとも桂花を煙に巻くだけの弁舌は持ち合わせ
ているわけだし、一度会ってみる価値はあると思っているわ。それに、北郷という
絡繰に長けた男も一緒という事は、私の目的にも合致する事になるわ」
「しかし!」
「秋蘭、その荀攸と北郷という者達が何処に向かったか調べなさい。良いわね、誰が
何と言おうとこれは命令よ」
「御意」
「秋蘭!」
「桂花、これは華琳様の命令だ。それにお前の言っている事は単なる感情論に過ぎん。
それだけで華琳様を説得など出来ない事はお前も承知の上だと思うが?」
夏侯淵にそう言われ、荀彧は苦々しく顔を歪ませながらもようやく引き下がる。
「ではこれにて解散!」
最後の曹操のその一言でその場は解散となったわけだが…。
「何でボクが此処に呼ばれたんだろ?結局、何も聞かれなかったし何も発言出来なか
ったし…」
許褚のその疑問に答える者はいなかったのであった。
所変わって、此処は平原の地。
この地には黄巾の乱の鎮圧に義勇軍として功を挙げた劉備がその地の相として配下
の者達と赴任してきていた。
劉備は民の立場に立った政を行い、軍師として補佐にあたる諸葛亮と鳳統の二人の
能力もあって、概ね民からは高評価を得ていた。そしてさらに…。
「みんな~、今日もありがとう!!」
『天和!天和!天和!!』
劉備達が赴任してきてすぐの頃に領内を巡回中の劉備の義妹である張飛が助けた行
き倒れの『天和』と名乗る女性が舞台に立って歌を歌うや、そこには多くの人間が
集まり、それに伴い僅か数ヶ月の間に劉備の軍勢は既に二万を超えるまでに増えて
いたのであった。
「お疲れさま、天和ちゃん。今日も大盛況だったね!」
「あっ、桃香ちゃん!来てくれてたんだ!」
「ふっふ~ん、領主として当然の事でしょ?」
舞台袖に降りた天和は出迎えに現れた劉備と親しく話す。劉備は既に天和に自分の
真名を預ける程の仲で、領主であり保護者でありながら天和がちゃん付けで呼んで
もまったく気にもしていなかったのだが…。
「天和、何度言ったら分かるのだ!桃香様に対してのその物言いを改めろ!!」
横にいた劉備のもう一人の義妹である関羽はそれを苦々しく思っており、何度もそ
れを改めるように天和に言っていた。しかし…。
「もう、愛紗ちゃんってば~…私が良いって言ってるんだからそんなにガミガミ言わ
ないの!」
「桃香様のその御心は分かっておりますが、それとこれとは別です!我らの保護の下
にいる以上、それ相応の礼儀という物が必要だと言ってるのです!」
「愛紗ちゃんの言ってる事は分かってるから、ね?さあ、天和ちゃん、行こう!新し
いお菓子屋さんが出来たんだ!」
「本当!?行く行く!!」
天和を庇おうとする劉備に対し、関羽はそう訴えるのだが、劉備は何処吹く風とば
かりに天和を連れて逃げ出すように行ってしまったのであった。
・・・・・・・
「…というわけでな。桃香様にも困ったものだ」
「はぁ…愛紗さんでもダメですか」
半刻程後、関羽は諸葛亮の自室を訪れ先程の劉備や天和達とのやり取りを半ば愚痴
気味に話していた。
「朱里、私も決してあの者を邪魔扱いしているつもりではないのだ。天和の歌のおか
げで平原に多くの人が集まって、大いに潤っているのも事実だしな。ただ世の中に
は最低限必要な礼儀というものがあるのではないかと思っているだけなのだが…私
の考えがおかしいのだろうか?」
「いえ、そんな事は…愛紗さんの言っている事の方が正しいのは他の皆も分かってい
るとは思います。けど…肝心の桃香様が」
「ああ、桃香様が分かってくれぬ以上これ以上何ら進展は無いのだろうな…はぁ」
関羽はそう言って盛大にため息をつく。
「ところで朱里、あれから天和の事で少しでも分かった事はあったのか?」
「いえ…雛里ちゃんと一緒に色々調べているのですが、ほとんど何も…どうやら青州
の方にいたというのは天和さんの言う通り本当だったようですが」
実は関羽と諸葛亮は、張飛が天和を助け劉備が行き倒れで行き場の無い彼女を自分
の保護下におくと宣言した時にその身許の調査を行っており、今もそれは続行中な
のだが…詳しい事は何も分からないままなのであった。
「とりあえずは様子見で行くしか無いかと。今の所、私達や民の皆さんに何かしらの
迷惑や被害が出ているわけではありませんし…ただ、何が起こっても対処出来るよ
うに愛紗さんも気を付けていてください」
「ああ、分かった…何かあればすぐに連絡する」
愚痴を聞いてもらって少しすっきりした感じの顔になった関羽はそう言って部屋を
出て行く。
(しかし、歌だけであれだけの人を集めるあの力量…未だ確証こそありませんが、天
和さんはおそらく…しかし今それを愛紗さんに言ったら桃香様といらぬ諍いを起こ
してしまうだけ。しばらくは様子見しか出来ませんが…少々歯がゆい話です)
そう一人思い悩む諸葛亮なのであった。
・・・・・・・
その頃、一刀達一行はというと…。
「北郷、あれが洛陽だ」
「おおっ…さすがは都、まだ結構距離があるはずなのにあんなに城壁が大きく見える」
住んでいた村を発って数日後、洛陽の近くにまで来ていたのであった。一刀は初め
て見る洛陽の威容に感嘆の言葉を洩らす。
「あの~、公達さん?本当に私がこのまま入っても大丈夫なのですか?」
「あんただって見ただろう、あの『張角』の似顔絵を。おそらく本当の姿を知ってい
るのはほとんどいないんじゃないかな。まあ、堂々としてれば分かりゃしねえって」
公達の言う通り、洛陽に着くまでに立ち寄った村々で『黄巾党の首領・張角』の人
相書きが出回っていたのだが…そこに書かれていたのは背丈は2mはあろうかとい
う全身毛むくじゃらの大男であり、実際の張角が女性である事を知っているのは一
部の人間であるようなので、皆に堂々としていれば分からないと言って来ていたの
であった。
しかし、城門の所にまで来たその時…。
「そこの者達、止まれ!!」
門番の兵士に呼び止められる。その瞬間、張梁はもしかしたら自分の身許がばれた
のかと身体を固くする。
「どうしました?私どもが何か…?」
「規則により荷車の中を点検させてもらう!荷物を全て出せ!!」
…おかしいな。此処に来る手前の街で聞いた時にはそのような点検があるなんて話
は無かった。しかも俺達の他にも荷車を牽いている人達がいるが、全てそのまま素
通りしてるし。
「おや、我々だけですか?今しがた後ろを通っていかれた方々の荷物は点検しなくて
も良いのですか?」
当然、公達もそれに気付いていたので門番にそう問いかける。
「う、うるさい!!良いから言う通りにしろ!!さもないと牢屋にぶちこむ『何の権
限があってお前達がこの者達を牢に入れるのだ?』……か、華雄将軍!?」
門番が居丈高に叫ぼうとしたその時、門の中から出て来た女性がそう話しかけると
門番が焦った声を出す。どうやら偉い人が来たよう…うん?今『華雄』って言われ
たよな、この人。華雄って何処かで聞いた名前…ああ、そうか。董卓の配下の武将
で確か関羽にあっさりやられた人だったな、確か。
「もう一度聞く、何故お前達がこの者達を牢に入れようとするのだ?この者達が何か
したのか?見た所、人相書きに書かれているような顔は一つも無いようだが」
「い、いえ…その、あの…」
華雄さんが再びそう問いかけると門番達はこれ以上分かり易い物は無いという位に
言いよどむ。
「どうした?答えろ。もしや言いがかりをつけてこの者達から金品をむしり取ろうな
どと考えていたのであるまいな?」
「い、いえ…そのような事は決して。少々怪しい者達のような気がしましたもので…
ど、どうやら私どもの勘違いのようです!申し訳ありませんでした!!」
「そうか…ならば良いのだが。そういえば、お主らは元は十常侍に仕えておった者達
だったな。改めて言っておくが、董相国閣下は不正を嫌う御方。それ故、陛下の命
を受け、国を私物化しようとした十常侍どもを葬り、今まさに新たな政を始めんと
する大事な時である。その時に官の兵である者達の中に民より不正に搾取する者が
出るのであれば全て厳正に処罰するよう厳命が下っている。お主達、十常侍に仕え
ておった者達も心を入れ替えて働くと誓ったが故にこうして働けているという事を
努々忘れるなよ」
華雄さんがそう言っている間、門番達の顔は青ざめたままであった…十常侍って確
か三国志の最初の方に出て来た私利私欲で国政を壟断した宦官達の事だったよな?
それに仕えていたという事は…間違いなくこの門番達は俺達に言いがかりをつけて
金をむしり取ろうとしたって事だろうな。
「分かったのであれば職務に戻れ!」
『はいっ!!』
「まったく…まだまだ性根の腐った者達もいるという事だな。月様に報告をせねば…
おっと申し訳ない。洛陽に来て早々不快な思いをさせてしまったな」
「いえ…ところで、本当に点検とかは良いのですか?」
「此処まで来れたという事は、既に手前の街や村で点検を受けたという事。ならば問
題は無い。怪しい者達のほとんどはそこで止められるようにしている」
そういえば昨日泊まった街でそんな場面を見たし、俺達も点検みたいな事を受けた
ような…それじゃ俺達は問題無しって事で良いのかな?木牛に関しては胡車児が引
っ張ってるって形で公達が誤魔化してたけど…そもそも木牛そのものが動くという
絡繰を言っただけでは信じもしないだろうが。
「では、本当にすまなかった。私はこれで失礼する」
華雄さんはそう言って颯爽と去ろうとするが…此処はちょっと頼ってみようかな。
「あの~、華雄…将軍。少々よろしいでしょうか?」
「うん?どうした?」
「私どもは洛陽は初めてでして、泊まる所の充ても無くてですね…しかもこんな荷車
まであるもので、何処か良い場所を知らないものかと」
俺の言葉に華雄さんはちょっと考えていたが、
「そうか、それは大変だな。よし、そこは私が何とかしてやろう。少し此処で待って
いろ」
はっきりとそう約束してくれる。よし!
「おい、北郷。いきなり何を…『公達には他に何処か充てがあるのか?』…そう言わ
れるとな…『良い人そうだし、此処は頼ってみるのも手だろう?』…まあ、それも
そうか」
公達が口をはさもうとしてくるが、俺がそう言うと不承不承ながらも最後は賛同し
てくれる。
「おお~い、待たせたな。丁度良い場所があってな、すぐそこだからこのまま案内し
よう…ええっと?」
「ああっと、申し訳ございません。私は北郷、こちらは荀公達と申しまして、徐州で
行商をしている者でございます。この度一念発起して洛陽で一旗揚げんと参りまし
た次第でして…ちなみに後の二人は下働きの者達です、はい」
「そうか、それははるばる遠い所からご苦労な事だ」
華雄さんは俺の取って付けたような台詞を特に疑うそぶりも無く聞いてくれる。本
当、人の好さそうな方で良かった。
・・・・・・・
「此処ですか?」
「ああ、その荷車も入るし丁度良いだろう?」
「それはそうですが…随分と大きな家というかお屋敷に見えますが?」
「それはそうだ。此処は元々それなりの貴族が住んでいた屋敷だからな」
貴族の屋敷って…っていうか此処に住んでいたその貴族の方とか家族の方とかはど
うしたんだろう?
「此処に住んでいた貴族とその家族は十常侍どもの弾圧で処刑されてな、それからず
っと空き家のままだったのだ。とりあえずこの家の中では処刑だの殺人だのは起き
てないから安心してくれ」
…一体、それの何処をどう聞いたら安心出来るのだろうか?華雄さん位の強さがあ
れば安心も出来るのかもしれないが。
「でも、そのようなお屋敷にいきなり余所からやってきた人間が入ったら色々問題が
あるんじゃないのですか?」
「大丈夫、私がお前達を信用したからな」
…いやいや、それはおかしいと思うのは俺だけではあるまい。そもそもどうやった
らついさっき知り合ったばかりの人間を信用出来るというんだ?
「細かい事は気にするな。とりあえずこの屋敷は北郷と荀公達と下働き二名の者が住
むという事で登録しておくのでな。では私はこれで」
華雄さんはそう言うとさっさと何処かへ去って行ってしまった。
「どうする、公達?いきなりこんな屋敷になんてあまりにも予想外過ぎる展開なんだ
けど…」
「まあ、さっきの華雄殿も一応ちゃんとした書付も置いて行ってくれたわけだし、し
ばらくは此処でゆっくりさせてもらう事にしよう」
公達はそう言うとさっさと奥に入っていってしまう。公達もなかなか図太い神経し
てるな。
「あの…私はこのままで良いのでしょうか?」
張梁さんがおずおずとそう問いかけてくる。
「まあ、一応、華雄さんは下働きという事で納得してくれて…っていうか、張梁さん
はそれで良かったですかね?今更ですけど…」
「変に名を覚えられるよりは一下働きとして認識される方が良いと思いますのでその
辺は気にしてませんが…あまり長い事此処にいたら、いずれ知られてしまうのでは
ないかと…」
「そんなに外出をしなければ…でも、そうするとあまり張梁って名前を連呼するのも
問題かな?」
「それについてなのですが…これからは私の事は『人和』とお呼びください」
「えっ?…それって真名、だよね?」
(一応、真名の概念については公達から聞いている。今まで直接それに会う機会は無
かったが)
「はい、此処まで良くしてくれた事に対しての礼ですからお気になさらずに…それに、
少なくとも人和という名を知っているのは姉達だけですから」
「そうか、それは確かに…それじゃ、改めてよろしく、人和。俺の事は一刀で良いよ」
「はい、よろしくお願いします。一刀さん」
こうして人和の真名を預かったのであった(無論、彼女は公達や胡車児にも真名を
預けていたのだが)。
・・・・・・・
数日後、所変わって宮中にて。
「華雄、ちょっと」
「うん?どうした、賈駆」
「あんた、数日前に空き家になっていた屋敷を一軒、人に貸したって本当なの?」
「ああ、何でも行商に来たとかで結構大きな荷車を牽いてきていたからな。この間の
朝議で空き家をそのままにしておくと胡乱な輩が入り込んで問題になるとか言って
いただろう?丁度良い機会だと思ってな…何かまずかったか?」
「まずいも何も…そういう事はあんたが勝手に決めて良いわけないでしょうが。ボク
か月に一言先に欲しいんだけど」
「そうか、それはすまなかった…でも、もう貸してしまったんだが、今からまた追い
出すのか?」
「いや、あんたが勝手に決めるのは問題だけど、決めてしまった以上今更覆せないの。
でも、念の為にこの書類にあんたの署名が欲しいのよ。署名したらまたボクの部屋
に持って…『今此処で署名するからちょっと待っていろ』…えっ?待って、あんた
の血書なんかいら…何あんたの持っているそれ?」
賈駆の視線は華雄が懐から取り出した物に注がれていた。それは竹で出来た筒のよ
うな物であったのだが…。
「ああ、その屋敷を貸した者から礼としてもらった物でな。『矢立』とかいうそうな
のだが、此処に筆が入っていてこっちの中の綿に墨を染み込ませてあってな、なか
なかに重宝な物だ」
「ちょっとそれ見せて!」
賈駆は華雄から矢立をひったくるようにして取ると、しげしげと眺める。
「こんな物が…ねえ、華雄。行商人とか言っていたけど、これも売り物なわけ?」
「さあ、それはその者達に聞いてみないと何とも…ところで、それを返してもらわん
と署名出来ないのだが?」
「ああ、ごめん」
賈駆が華雄に矢立を返すと華雄は書類にさっと署名する。
「ほら、これで良いか?」
「うん、大丈夫。手間を取らせたわね」
賈駆のその言葉を聞いた華雄はそのままその場を立ち去っていったのだが…。
「あんな風に筆記出来る道具を何時も持ち歩ければ便利よね…一度、その行商人とや
らの所を訪ねてみようかしら」
賈駆はその場に立ち止まったままそう一人ごちていたのであった。
続く。
あとがき的なもの
mokiti1976-2010です。
毎度毎度投稿が遅れてもうしわけございません。
今回は曹操・劉備陣営の話と一刀達の洛陽入り、そして
今後関わりがありそうな董卓陣営の人達の登場(一部だ
けですが)をお送りしました。
今回登場した『矢立』の素材は真鍮や陶器など色々ある
ようですが、今回は竹にさせていただきました。或いは
他の素材の分も今後登場するかもしれませんが。
次回は賈駆が一刀達の家を訪れる所からお送りする予定
です。
それでは次回、第六話にてお会いいたしましょう。
追伸 人和と地和の再会はもうちょっと先ですので。
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お待たせしました。
今回は一刀達の洛陽到着と
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