三虎争う
C1 懸念
C2 前フリ
C3 家督
C4 割譲
C5 骨肉相食み、三虎争う
C1 懸念
ユランシア大陸テウシンの地。バカイ王国中央にある首都クラ。バカイ王国大将軍ソゲンの館。寝室で鎧兜を身に着けるソゲン。部屋の隅に座り、ソゲンを見つめるバカイ王国国王ダンジョンの医務官を務める女性のシンタン。シンタンはソゲンを見つめる。
シンタン『そのお体であまり無理をすれば…。』
ソゲン『死した後に鎧兜をつけられるのは情けないものだ。』
シンタンの方を向くソゲン。
ソゲン『王が直属の医務官の貴女を差し向けるとは、わしの息子達では不安ということなのだろう。
後継者選抜の為の地域統治。それぞれの王子にクド、パノパス、ユといった王国を目付にしたな。』
首を横に振るシンタン。
シンタン『いえ、そういうわけでは。王はただ大将軍にずっと元気であらせられるようにと…。』
ため息をつくソゲン。
ソゲン『それはありがたいが、命数というものがある。寿命は必ず来る。できれば、わしも長く生き、バカイ王国を盛り立てていきたいが、そうもいかん。』
シンタン『御冗談を。』
ソゲン『冗談ではない。今、こうして立っているのもやっとの状態だ…。』
ソゲンの傍らによるシンタン。
シンタン『あまり無理をなさらずに…。』
ソゲン『無理をしなければならぬ時もある。もはや命数いくばくも無く、息子達にこの国の未来を託さなければならない。
ミゼのユミル、ユラル…。ツァのツァグトラ…不審な動きを絶えず繰り返している。』
シンタン『心配のしすぎなのでは?』
シンタンを見つめ、鼻で笑うソゲン。
ソゲン『…ユミル、ユラルは妖女討伐の時に合法的に政敵を抹殺した。他の奴の眼がごまかせてもわしの眼はごまかせん。ツァグトラは外交で貴族連合はおろか虎の威を何枚も用意している…。あいつらは危険だ。そうわしの直感がつげている。だからこそ、わしはここで息子達にわしの意志を伝えなければならんのだ。』
C1 懸念 END
C2 前フリ
ユランシア大陸テウシンの地。バカイ王国中央にある首都クラの中央府。夜。バカイ王国大将軍ソゲンの館。
道場中央で鎧甲冑を身にまとい、将棋椅子に座るソゲン。隣にはシンタン。ソゲンの前には、彼の長男のソユル、次男のソラル、三男のソシルが座る。息子達をそれぞれ見るソゲン。
ソゲン『お前達に遺言を言い残す。』
ソゲンを見つめるソラル、ソユルにソシル。
ソユル『遺言!?』
ソラル『いったい何をおっしゃっているのですか?』
ソシル『御冗談を…。』
息子達を見つめ、頷くソゲン。
ソゲン『我が命数、今尽きようとしている。』
眼を見開いてソゲンを見つめるソユル、ソラル、ソシル。
ソゲン『三人ともよく聞け。』
ソゲンを見つめる息子達。
ソゲン『三人とも協力してバカイ王国を盛り立てよ!決して争ってはならぬ!』
頷くソゲン。
ソゲン『ソユルは義理堅く、ソラルは才があり、ソシルは志が高い。それぞれ異なった個性だが、兄弟協力して欠けたる部分を補い合え。
いいか。決して争ってはならぬぞ。』
頷く息子達。頷くソゲン。
ソゲン『バカイ王国を頼む。』
天を見上げた後、眼を閉じるソゲン。
ソゲン『思えば長い…道のりであった。』
眼を開き、息子達を暫し見つめるソゲン。
ソゲン『…バカイ王国を頼む!では、逝くぞ。』
眼をゆっくり閉ざすソゲン。暫し沈黙。シンタンがソゲンの傍らに寄り、脈をとる。
シンタン『…御臨終です。』
顔を見合わせるソユル、ソラル、ソシル達。彼らはソゲンの遺体に寄り添う。
C2 前フリ END
C3 家督
ユランシア大陸テウシンの地。バカイ王国中央にある首都クラの中央府。ダンジョン王の宮殿。王の間。玉座に座るバカイ王国国王ダンジョン。その隣には大臣達。ダンジョンの前に跪くシンタン。ダンジョンは2、3回頷く。
ダンジョン『そうか。大将軍は逝ってしまわれたか。』
深く頷くシンタン。
シンタン『はい。国家の行く末を案じておられました。』
ダンジョン『分かった。大将軍に恥じぬような国家に必ずする。』
一礼するシンタン。ダンジョンは大臣達の方を向く。
ダンジョン『国葬の手配を。』
頷く大臣達。
昼。ユランシア大陸テウシンの地。バカイ王国中央にある首都クラの中央府。ダンジョン王の宮殿の医務官室に集う医務官達。薬草を引く女医務官Aと女医務官B。
女医務官A『ねえねえ、聞いた?ダンヅー様がクド王国に袖の下を渡していたんだって。』
女医務官B『えっ、本当?』
女医務官A『ええ、だって王様の怒鳴り声が聞こえてきたんだもん。』
女医務官B『あら~、それじゃあ…ダンヅー様の王位継承は絶望的だわ。』
街の方を見つめるシンタン。中央府の街道を歩いていくソゲンの棺を担いだ一行。シンタンはそれを見つめた後、黙とうする。
朝。ユランシア大陸テウシンの地。バカイ王国中央にある首都クラの中央府。ダンジョン王の寝室。扉の両脇に立つ屈強なダンジョン王の護衛官Aとダンジョン王の護衛官B。彼らの前に立つシンタン。
シンタン『王のお薬の時間です。』
頷くダンジョン王の護衛官達。ダンジョン王の護衛官達の間を通り、寝室の前に跪く。
シンタン『王。お薬の時間です。』
暫し、沈黙。
シンタン『王。お薬の時間です。』
暫し沈黙。
ダンジョン王の護衛官達の方を向くシンタン。シンタンを見た後、顔を見合わせるダンジョン王の護衛官達。彼らは王の寝室の扉を開ける。駆けこむシンタン。
シンタン『王!』
布団の中にあるダンジョンの亡骸。シンタンはダンジョンの遺体を見つめた後、脈をとる。彼らを見つめるダンジョン王の護衛官達。
シンタン『…御臨終です。』
眉を顰めるダンジョン王の護衛官達。
ダンジョン王の護衛官A『…王が。』
ダンジョン王の護衛官B『まずいな。後継者を選ばずに先立たれるとは…。』
ダンジョン王の護衛官A『ともかく大臣に連絡を。』
頷くダンジョン王の護衛官B。
C3 家督 END
C4 割譲
早朝。ユランシア大陸テウシンの地。バカイ王国中央にある首都クラの中央府。ダンジョン王の宮殿の医務官室寝室。騒音。目を覚ますシンタンと他の医務官達。彼らは周りを見回し、窓から外を見る。中央府の街道を埋め、宮殿を包囲するクド王国の旗を掲げたカッシャ級人型機構達。
眼を見開く医務官達。
医務官A『これはいったい…。』
宮殿へ続く階段を歩いていく。ダンジョン王国第一王子のダンヅー、隣を歩くソユルとクド王国の軍務官シサダ。
ソユル『王!このやり方はあまりにも卑怯です。』
ダンヅー『何を言っとる。わしゃ、正式にクド王国から国王任命の書状を貰っとるわい。のうシサダ殿。』
頷くシサダ。
シサダ『御尤も。』
ソユルの方を向くダンヅー。
ダンヅー『どうじゃこれでも文句があるか?』
ソユル『…中央府の半分をクド王国に割譲する条件では誰も納得致しません!』
ダンヅー『なっ、ソユル。主もわしのことを王として不適格と思っておるのか!あの時の言葉は嘘だったのか?』
ソラル『いえ、そのようなことは…。しかし、これはあまりにもあくどすぎます。』
ダンヅー『わしの味方は国内ではそなただけなんじゃ。』
頷くソユル。
彼らを見つめる医務官達。
朝。ユランシア大陸テウシンの地。バカイ王国中央にある首都クラの中央府。ダンジョン王の宮殿中庭。玉座に座るダンヅー。その横にはソユルにシサダ。彼らの前には宮廷内の全ての者達が座る。彼らを取り囲むクド王国のカッシャ級人型機構及びクド王国の兵士達。シサダは隣のクド王国兵士Aの方を向く。
シサダ『これで全員か?』
頷くクド王国兵士A。玉座に座り、宮廷内の全ての者達を見下ろすダンヅー。
ダンヅー『皆の者、苦しゅうない。今日から余がこのバカイ王国の王じゃ。』
眼を見開き、眉を顰める宮廷内の全ての者達。
ダンヅー『早速だが、政務がある。我が父ダンジョンの国葬じゃ。手配を頼む。』
立ち上がるバカイ王国の文官A。
バカイ王国の文官A『…ダンヅー王子。』
バカイ王国の文官Aを睨み付けるダンヅー。
ダンヅー『王子ではない!!!王じゃ!!!!』
バカイ王国の文官A『…では王…いやしかし…。』
ダンヅー『まどろっこしい。はよ話せ!』
バカイ王国の文官A『…協議も無しに王に就任するのはいささか無理があるかと。』
ダンヅー『多くの王国は長男相続が基本。現にテウシンもそのせいのゴタゴタで滅んだではないか。』
立ち上がるバカイ王国の文官B。
バカイ王国の文官B『しかしですな。王はあなた様を含め、割り当てられた地域で一番優れた統治を見せた王子を次期国王にするとおっしゃっておりました。入城の仕方もクド王国の武力を使ったもの。これは…強引すぎでは…。』
バカイ王国の文官C『やはり、ダンガン様とダンヅー様と協議のうえで、どの王子が王になるか今一度話し合った方がいいかと…。』
ダンヅーの方を向くソユル。
ソユル『そうです。王子。今一度、お考え直しを…。』
歯を食いしばるダンヅー。一歩前に出るシサダ。
シサダ『あなた方は勘違いしておられる。王子は、王になるために我々にこの国の中央府の半分を譲り受けることを条件に王として認めたのだ。』
唖然とする一同。シサダは彼らを見回し、剣の柄に手をかける。
シサダ『反論するのもよろしいが、この宮廷から一歩出れば、そこはクド国の領地であるということをお忘れなく。』
ざわめき。
駆けこんで来るクド王国の兵士B。彼はシサダの傍らに駆け寄り、耳打ちする。眉を顰め、舌打ちするシサダ。シサダの方を向くダンヅーにソユル。
ダンヅー『どうした?シサダ殿…。』
シサダ『…外交が失敗した。』
眼を見開き、口を大きく開けるダンヅー。
シサダ『ファグラめ。口先だけか…。仕方ない。陣を張れ、向かい撃つぞ。』
シサダはソユルとダンヅーの方を向く。
シサダ『ダンヅー王には士気高揚の為、ソユル殿には敵の情報を得るために来ていただく。』
ソユル『敵の情報?』
シサダ『敵の第一陣はソラル率いる軍勢とパノパス王国の軍勢、奴らの援軍にソシル率いる軍勢とユ王国の軍勢だ。』
ソユル『…しかし、それならば彼らと和解すべきかと。そして協議にて今一度王を決め直すべきかと。』
シサダはダンヅーの方を向く。
シサダ『ソユル殿はそうは言っているが、協議でダンヅー様が王になれる可能性はあるのか?』
ソユルに泣きつくダンヅー。
ダンヅー『ソユル!なあ、お前と俺の付き合いだろ。助けてくれよ。』
ダンヅーを見つめるソユル。
ダンヅー『なあ、見捨てるのか?ソユル!』
顔をしかめ、頷くソユル。
ソユル『分かりました。』
彼らの方を向くシサダ。
シサダ『では、出立する。』
シサダの指示で動き出すクド王国の軍勢。
C4 割譲 END
C5 骨肉相食み、三虎争う
昼。ユランシア大陸テウシンの地。バカイ王国中央にある首都クラの中央府。ダンジョン王の宮殿医務官室。撤退して行くクド王国の軍勢を見つめる医務官達。
医務官B『どうやらクド王国が負けたらしい。』
女医務官C『これでダンガン様とダンファン様が入城して、後継者を決めるわけね。』
街の方を向き、唖然とする医務官C。
医務官C『お、おい。あれは…。』
中央府の領民を家から叩きだし、金を奪うダンガン配下の傭兵達。女の服を脱がし、抵抗する領民を切り捨てる光景が繰り広げられる。
医務官D『なんということだ。ダンガン様の兵士は…。』
口に手を当てるシンタン。バカイ王国の兵士達が宮廷内から出て、ダンガン配下の傭兵を多数切り捨てるが、数に押されて次々と討ち取られていく。宮廷内に突入するダンガン配下の傭兵達を窓から見て震える医務官達。ダンガン配下の傭兵達と目があうシンタン。シンタンを見て笑みを浮かべるダンガン配下の傭兵達。青ざめる一同。
シンタン『…逃げなきゃ。』
一斉に医務官室から駆け出ていく医務官達。彼らはまばらな方向へと逃げていく。横を向くシンタン。質のいい着物を着た文官達がみぐるみをはがされている。
ダンガン配下の傭兵A『流石に宮廷だからっていいもんもってんじゃねえか。よこせオラ!』
シンタンの体が先程見たダンガン配下の傭兵の一人にぶつかる。
ダンガン配下の傭兵B『おお、お嬢ちゃん。奇遇だね~。』
後ずさりし、駆けるシンタン。彼女の前に現れ、彼女を捕らえるダンガン配下の傭兵C。
ダンガン配下の傭兵C『へっへ、捕まえた。』
舌打ちするダンガン配下の傭兵B。
ダンガン配下の傭兵B『おいおい。この女、先に目をつけていたのは俺だぜ。』
互いに睨みあうダンガン配下の傭兵Bとダンガン配下の傭兵C。彼らの前に現れるダンガン配下の傭兵隊長。
ダンガン配下の傭兵隊長『おいおい。なにやってるもめごとか?宮廷内にはお宝が沢山だぜ。』
ダンガン配下の傭兵隊長の方を向くダンガン配下の傭兵B。
ダンガン配下の傭兵B『頭。この女俺が眼えつけてたのにこいつが横取りしやがった。』
抵抗するシンタン。
ダンガン配下の傭兵C『おいおい。俺が先に、いて。捕まえたんだぜ。クッソ、抵抗すんなこのアマ!』
2、3回頷くダンガン配下の傭兵隊長。
ダンガン配下の傭兵隊長『なるほどな。何簡単なことだ。』
ダンガン配下の傭兵隊長の剣の一閃がシンタンを上半身と下半身に斬る。
シンタン『えっ…。』
地面に落ちるシンタンの肢体と腸。
ダンガン配下の傭兵隊長『おい、これで穴五個分だ。他の奴らでも呼んで楽しめ。下んねえことで争うな。馬鹿ども。』
ダンガン配下の傭兵達の悲鳴。宮廷の方を向くダンガン配下の傭兵隊長。ダンガン配下の傭兵達が次々とダンファン、ソシル率いる軍勢とユ王国の軍勢に切り捨てられる。舌打ちするダンガン配下の傭兵隊長。
ダンガン配下の傭兵隊長『ちっ、ずらかるぞ。』
ダンガン配下の傭兵B『ええ、まだヤってもねえのに!』
ダンガン配下の傭兵隊長『てめえら死にてえのか。このままいれば俺達は斬られる。』
ダンガン配下の傭兵Cはまだ息をするシンタンの上半身を投げ捨てる。質のいい着物や財宝を持ち逃げていくダンガン配下の傭兵達。宮廷内の廊下に転がるシンタンに駆け寄るバカイ王国第三王子のダンファン。後に続くソシルにユ王国の軍務官ユハにダンファン軍の兵士達とユ王国の兵士達。ダンファンはまだ息をするシンタンの横にしゃがむ。シンタンの傍らに立つソシル。
ソシル『シンタン殿…。』
ダンファン『…これはシンタン。』
シンタンの口から洩れる息の音。
眉を顰めるダンファンとソシル。
ダンファン『かわいそうに…。』
歯ぎしりするダンファン。
ダンファン『これが兄の軍なのか!』
舌打ちするソシル。
ソシル『精強とは言えどこれでは夜盗、強盗の類!とても軍隊とはいえません!これを我が兄が…。』
ダンファン『このような狼藉は許されん!たとえ兄の軍であろうと!ソシル。』
ソシル『は!』
ダンファン『中央府、宮廷内で乱暴狼藉をする我が兄ダンガン配下の兵士を一人も逃がすな!すべて切り捨てよ!!』
ソシル『了解しました。では、ユハ殿。』
眉を顰めるユハ。
ユハ『どうも乗り気がせん。このままダンガン様配下を切り捨て続ければ、バカイ王国は骨肉相食む状況になりかねん。ここはダンガン様への報告が先かと…。』
ダンファン『この惨状を黙って見過ごせと!』
ソシル『兄とダンガン様はこの後、十分に追及させていただく。』
顎に手を当て、眉を顰めるユハ。
ユハ『…むぅ。』
ソシル『奴らのような鬼畜を生かしておいては、多方面で被害が出ます。例えダンガン様が処罰をしたとしても身内にはあまいものになるでしょう。ユ王国もここから近い…。』
頷くユハ。
ユハ『分かりました。ご協力いたしましょう。』
息をしなくなるシンタン。シンタンの眼を閉ざすダンファン。
C5 骨肉相食み、三虎争う END
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