この物語は、主夫な武将とちょっと我儘な君主、最強の動物系武将に未亡人も加えたいなぁ~あと江賊はやっぱ彼の嫁だよなぁ~~とかだんだんとカオスになって来ているほのぼのアットホームストーリーである。
………訳がない。
『孫呉の王と龍の御子・四~此処にいる意味と黄昏の賢者~』
「成程…つまりあなたが朝起きたらこの世界にいたと、あ、味噌汁のおかわりいります?」
「あ、ありがとうございます…。はい。それで途方に暮れていたところを」
「わたしが助けたわけだ」
呂布邸の食卓。囲むは龍泰と二人の来訪者。
一人は言わずもがな、我等が天の御遣い・北郷一刀殿。
そしてもう一人、桃色の髪の少女が彼の隣に座る。
「はは、白蓮に助けてもらわなかったら今頃野垂れ死んでいたかもな」
「そうか?案外お前の事だから図太く生きていたかもしれないぞ」
「なんだよそれ……」
軽口を叩き合う一刀と白蓮こと北方の雄・公孫賛。
二人の姿を見ながらふっと龍泰は微笑み湯呑に口を付ける。
「……熱」
猫舌の彼には少々熱かったようだ。
「で、龍泰さん…でしたよね。あなたはどうしてこの世界に?」
「私もあなたと似たようなものですよ。ある雪の日に道場…あ、実家が古武道の道場だったもので。そこから帰っている途中、不意に目眩がしたと思ったらそのまま意識を失い気付いたらこの世界へ」
十年前の話ですが。とここで再び茶をすする龍泰。
「……熱」
やはりまだ熱かった。
「十年…そんなにこの世界に」
「まあ、大抵の環境は馴れてしまえばなかなか居心地が良いものですよ。私も幸いな事に親切な方に拾われましたから」
ふと思い出すのは、途方に暮れていた彼を助け武術や学問、農業にいたるまでを叩き込んだ師の姿。
筋肉モリモリマッチョマンで白いビキニパンツを愛用していた変態紳士。
(……思い返してみると凄い人でしたね王老師)
三年前に霊山に登り帰ってくることの無かった男の歪みない後姿を龍泰はまだ覚えている。
話がそれた。元に戻そう。
「まあ、その後縁があってこのように雪蓮殿…孫策様の傘下に入ることになったのですが」
飲むのをひとまず諦めたのか湯呑を卓に置き龍泰がいう。
ほんのりと漂う茶の香が僅かに揺れる。
「それで…北郷君はこれからどうするつもりなのですか?」
言っておいて唐突な質問だったと龍泰は思う。
同じ境遇の人間に会えて、心なしか興奮しているのかもしれない。
「どうする…ですか。そうですね。とりあえず白蓮に助けてもらった恩を返したいと思います」
「つまり…公孫賛様と共に天下を目指すと?」
聞きながら龍泰は横目で白蓮を様子を伺う。
天下を狙う。いかに漢王朝の権威が失墜した現状とはいえ、それを公にすることは逆賊の汚名を背負う事を覚悟せねばならない。
その意思が果たして白蓮にあるのか?
「さあ…それは白蓮次第です」
「う~ん。そりゃあ天下を纏めて人民を安んじたいって思いはあるけど……私にできるかなぁ……」
自信無さげに頬を掻く公孫賛。その姿には三国志演義にある猛将の姿は無い。
若干拍子抜けしながらも、龍泰はもう一つの疑問を一刀にぶつけるべきか悩む。
そう、それは彼が三国志で公孫瓚が辿った運命を知っているのかという事。
袁紹に破れ妻子と共に燃える城閣にその姿を消した最期を。
それを知って彼女と共に歩んでいるのかと。
ここまで考え一刀達に気付かれない程度に龍泰は小さく笑った。
(何を馬鹿な…私とて同じではないですか)
志半ばで暗殺者の凶刃に散った小覇王に仕える自分。
報われることの無かった英雄の大望に身命を賭ける…そう言う意味では二人とも変わらない。
(いや…むしろ……)
「そう言う龍泰さんは…」
「……南斗清十郎(なとせいじゅうろう)」
「え?」
「私の本名であり…この世界における真名です。あなたが本名を語ったのに私が教えないのは不公平でしょう?」
「あ、解りました。それじゃあ俺の事は一刀って読んでください」
「解りました。私のことは『南斗』でも『清十郎』でもお好きな方で」
微笑みを一刀に向けて、龍泰は静か湯呑を取り傾ける。
「………ちょっと熱」
まだですか。
「それで、あなたの質問への答えですが…そうですね、私はこの世界に来た意味を探したいと思っています」
「この世界に来た意味?」
「ええ。そう言うと大仰に聞こえるかもしれませんが…まあ、自分がこの世界に飛ばされたのは運命の悪戯や神の戯れ…それらが存在するとすればですが、そういうものかもしれません。ですが、ここはあえて私が此処にいるという意味を探してみたいと思うのです…少し気障かもしれませんが」
十年。十年間静かに生きてきた。
武術を磨き、学問を修め、村を守り過ごして来た。
それだけでも幸せだった。それでも心が天下に向いたのはやはり知りたかったからだ。
自分がこの世界に来た意味、この世界での役割を。
(そしてそれは、もう始まっているのかもしれない……)
北郷一刀が出会ったのが公孫賛であり、南斗清十郎が出会ったのが孫策。
死の定めにある英雄の運命を変える。
それが歴史の異端者の役割ではないのか。
そんなことを龍泰は考えていた。
(………)
おもむろに湯呑を傾ける。
「……よし」
やっと適温になったお茶を、龍泰は美味しそうに啜った。
時刻は少し進み、その日の夕暮、黄昏刻。
洛陽の外れにある小さな公園。
戦乱の爪痕が癒え始めたとはいえ、こんな辺鄙なところにある公園には人影は少ない。
いや、厳密には人影は一つ。
先で纏められた長く艶やかな黒髪。健康的でいながらどこか儚さを孕んだ褐色の肌。見る者の心を奪う美貌を飾るは真紅の下縁眼鏡。瞳に宿るは理知と憂い。
江東に咲いた静寂と熱情の真紅の花。
孫策軍の筆頭軍師・周公謹こと冥琳は静かに沈黙の公園を歩く。
静寂と沈黙。静と静。黄昏の朱も彼女が身に纏う紅も共に静に彩られる。
彼女が何を思いこの公園にいるのか、それは定かではない。
戦後処理の混迷の中で盗賊に荒らされた皇室の陵墓を修復するという彼女の仕事はとうに終わっており、すでに彼女達が拠点としている恋の屋敷に戻っていてもおかしくは無い。
それなのに彼女はここにいる。
それはこの洛陽を去ってから彼女達を待つ天下への第一歩への昂る思いを鎮めるためなのか。
それとも、他に理由があるのか……。
沈黙は字の如く黙して語らず。
彼女もまた語ることなく……。
「晩上好、小姐(こんばんわお嬢さん)」
沈黙だけが破られる。
「そんな浮かない顔をして何事かお悩みかな?君がこの公園の内周を回った回数は四回。歩数にしておよそ百六十三歩。その距離は一里(三国時代の尺度で四百メートル)にも及ぶ……」
声の主は冥琳の背後。彼女と落陽の狭間に立っているようだ。
なれなれしく…それでいて不快ではない声音に、静かに冥琳は背後へと振り返る。
「ここで愚かな提案があるのだがどうだろう。俺でよければ君の……」
振り向き、女は息を呑む。
視線の先にいる男が、ボロボロの燕尾服を着た猫髭の紳士だったらとりあえず話を聞き、白ビキニのマッチョマンだったら警備兵を呼んだであろう。
だが、そこにいたのは……。
「軍師(話し相手)になりたい」
落ちゆく淡い橙の夕日を背に灰色の衣と長い黒髪を流し、外したばかりの青白い仮面で顔の右半分を隠し笑う、柳の葉を垂らした青竹のような美青年だった。
かくして三者三様、物語の扉は開かれた。
~続く~
後書き
どうも、冒頭に書いた通りネタ多めでお届けしたタタリ大佐です。
もう最後とか書いててやりすぎかな~と自嘲の笑みを浮かべてました。それでも書くから自分は末期です。
本来なら帝記北郷の方をあげるつもりだったのですか、ちょっと一身上の都合によりこちらを先にあげることになりました。あちらも鋭意制作中ですのでお待ちの方はよろしくお願いします。
とりあえず、今回の話までがプロローグ。ここから盛り上げていく予定です。原作キャラも大活躍です。
一刀の所属勢力は公孫賛こと白蓮の所にしてみました。結構意外な選択だったんじゃないかと思います。個人的にやりたい事がありましたのでここは隠れファンの白蓮殿の所に我等が御遣いを派遣してみました。
龍泰の真名は…かなり古風になりました(笑)ああいう名前って好きなんですよねぇ、帝記・北郷の龍志の本名も古城龍志郎(こじょうりゅうしろう)っていう設定がありますし。
そして仮面の男の正体は…まだまだ先という事で。
しかしあれですね。どうして自分はこの世界に飛ばされたのかってのは恋姫みたいな話では避けて通れない気がします。無印みたいに北郷一刀自身が話の起点だったというのも有りですし、真みたいに歴史を変える為(特に魏ルートはそうですね)というのも有り。でもここで私はもう少しつきつめてみたい。歴史をどのように変えるのか、その為の手段に捕われる男の話、ただ流れの中で歴史を変える男の話、新しい歴史を紡ぐ方法を模索する男の話……そんな話をフラットに書いていきたいと思います。
……いや、重い話は書いていて私も辛いもので。
というわけで、ところどころにネタを散りばめながらも孫龍(タイトルの略です)頑張らせていただきます。
冥琳の命で荊州・長沙城に潜入している呂蒙の補助をすることになった龍泰。
彼が長沙で出会ったのは、長弓を携えた一人の女武人。
何故か彼女に命を狙われた龍泰は、長沙で進む陰謀を知る。
娘を人質に取られ逆らう事が出来ないという女武人の言葉に、龍泰の侠の心に火が付いた!!
次回
孫呉の王と龍の御子・四~未亡人とコマンドー~
「あの男はどうしました?」
「放してあげました」
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諸事情により帝記・北郷ではなくこちらをアップ
予告とサブタイトルが違っていますがご了承ください。
この作品には、オリキャラ、パロネタ、ガチムチなどが含まれます。不快な方はご退出くださいませ