No.83274

~真・恋姫✝無双 魏after to after~side春蘭・秋蘭

kanadeさん

ええ~っと長いです
最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
感想・コメント待ってます
それではどうぞ

2009-07-08 23:57:39 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:23486   閲覧ユーザー数:16362

 ~真・恋姫✝無双 魏after to after~side春蘭・秋蘭

 

 

 

 人気のない早朝の練兵場で風を切る音が何度も響いている。

 「ふっ、ふっ、ふっ・・・・・・・」

 魏が誇る最強の武将――夏侯惇元譲、真名を春蘭。

 彼女が一人で大剣を振るっていたのだ。しかし、どれだけ剣を振ろうとも彼女の心の中には振り払えない靄がかかっていた。

 (くそっ!何故だ・・・何故、私はこんなにも)

 消えない靄と苛立ちが彼女をさらに不快にさせていく。

 (全て、全て貴様が原因なのだ!)

 「北郷ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 凄まじい破壊音と共に、剣が振り下ろされた地面に大きなくぼみが出来上がってしまっていた。

 「はぁ、はぁ、はぁ・・・・いかんな、このようなことで八つ当たりなど・・・クソっ!一体なんだというのだ?この不快感は」

 肝心なところで鈍い彼女であるが、今回ばかりはただの言い訳で口にしているにすぎなかった。

 

 そんな姉の姿を遠くから見つめる影がひとつ。

 弓の女神――夏侯淵妙才、真名を秋蘭という。

 「姉者・・・今回ばかりは、私が手伝ってやることは出来ぬ」

 妹である彼女は、一番近くで一番長く春蘭をみてきたからこそ、姉が言い訳を口にしていることも気が付いていたのだ。

 「とはいえ、このまま事が運んだ場合・・・最悪の場合、北郷が死んでしまうな」

 容易に想像できる未来に思わず苦笑してしまう。が、今回ばかりは笑い話にならないか可能性が非常に高いと踏んだ秋蘭は先手を打つために行動を起こすことにした。

 

 「!!」

 城の庭の隅っこで凪と鍛錬をしている一刀は、得体のしれない悪寒に身を震わせた。

 「一刀様、どうかされましたか?」

 「いや、急に寒気がして・・・・・・何だろう?嫌な予感がする」

 「では、今日は切り上げた方がよろしいでしょうか?」

 「いや、続けよう。万が一の時の助けになるだろうしね」

 笑顔をもって凪に言葉を返すと、凪は顔を赤くしてしまう。

 「わ、わかりました。でででは、続きを始めましょう」

 しどろもどろになりつつ凪に一刀は当然気付くはずもなく、結局最後まで凪は顔を赤くしたままだった。肝心なところで鈍すぎるこの男は至る所で女性に溜め息をつかせているのだ。

 

 朝の鍛錬が終わって体を休めていると、凪が隣で話しかけてきた。

 「持続時間こそあまり長くはありませんが、一刀様の実力はすでに私と互角かそれ以上だと思います」

 突然の告白の内容に一刀は驚きすぎて言葉が出てこない。しかし、構うことなく凪は続きを話し始める。

 「もともと、一刀様は基盤といえるものがすでに出来上がっていました。以前お話しいただいた祖父殿との鍛錬が、その基盤をより確固なものにしていたのではないかと思います。後はより多くの相手との実戦で経験を積まれれば、さらに高みを目指せる・・・と私は思っています」

 「より多くの実戦・・・か。ここにいる限りその心配をせずに済みそうだね、凪?」

 「ええ、私だけでなく、華琳様を初めとし春蘭様に秋蘭様、季衣と流琉・・・霞様、真桜、沙和と相手には事欠くことはありませんが・・・」

 「最後の二人以外は、確実に手加減なんてものと無縁だし、まあだからこそいい経験になるんだろうな」

 見上げれば、そこに広がるのは朝日が昇り始めた空だった。

 

 鍛錬を終え、凪と別れた後に一刀は、一人で部屋に戻った。とそこには寝台に腰かける秋蘭の姿があった。

 「早朝から鍛錬か、精が出るな一刀」

 「珍しいね、秋蘭が一人で俺の部屋にいるなんて」

 「そうか?ふむ、そうかもしれんな」

 氷のような涼しい雰囲気は彼女によく似合って、その美しさをより引き立てたいる。

 それは言葉をなくし魅入ってしまうほどに美しかった。すると、それを見た秋蘭は口元に手を当てて苦笑する。

 「一刀よ、聞いてもらいたい話があるのだがよいか?」

 声に含まれていた真剣さに、一刀は何も言わずに頷くのであった。

 

 

 「それで・・・春蘭が無茶なお願いをするかもしれないってわけか」

 「すまぬな、私がどうこうできる問題ならよかったのだが、今回ばかりはそうもいきそうにないのでな」

 申し訳なさそうに謝る彼女の姿を見て、心から感心してしまう。なんてよくできた妹なのだろう、と。だからこそ、一刀はそれに応える。

 「わかった。俺に出来る限りの事はさせてもらうよ」

 「頼む。それと、これはその礼だ」

 「んっ・・・・・・」

 秋蘭の唇が一刀の唇と重なった。ほんのわずかな、それでいてゆっくりとした時間が、二人の間に流れる。

 「びっくりしたなぁ、もう・・・でも、ここまでしてもらったからには頑張らないとね」

 「ああ、是非そうしてくれ。私の唇は安くはないのでな」

 「了解」

 ほほ笑んだ秋蘭に見惚れているうちに、彼女は退室していった。

 

 「人が悪いわね、秋蘭。下手をすれば死ぬわよ?一刀」

 「華琳様、お人が悪い・・・今の北郷ならば大丈夫では?朝の鍛錬をご覧になっておられたと思うのですが」

 「流石にあなたには気づかれてしまうわね。まぁ、見ていたのは私だけじゃないみたいだけどね。それとね秋蘭、一刀には一つだけ欠点があるわ」

 「と、申しますと?」

 「武器よ。あの〝菊一文字〟では、春蘭の攻撃に耐えきらないでしょう。真桜が今作っているという新しい刀が要よ」

 ああ、と納得した秋蘭はそれでも心配はいらないというのだった。

 「何故かしら?」

 「姉者は生粋の武人です。であれば、武器を持たぬうちからそのようなことにはならないと思います」

 「流石ね秋蘭」

 「恐れ入ります」

 そのまま二人は何処かへと歩いて行くのだった。

 

 時を同じくして、春蘭のほうはというと、真桜のところに武器の点検をしてもらうために、彼女の工房を訪れていた。

 「で、どのくらいかかりそうなのだ?」

 「これくらいやったらすぐ終わりますから、まっとってもらえません?」

 「すまんな、頼む」

 「了解です。やったらどっかに座っといてください」

 「うむ、そうさせてもらう」

 あちこち見まわして、結局入り口の柱に背を預けるのであった。ただじっとしているのも退屈だった春蘭は辺りをちらちらと眺めていると、気になるものが彼女の視界に入る。

 「真桜よ、あの武器は一体何なのだ?」

 「ああ、あれですか?あれは隊長の新しい刀ですわ」

 「北郷の?」

 「せや、隊長のもっとった〝菊一文字〟を基に、よりしなやかに、より丈夫に・・・ウチが腕によりをかけて作った一品や」

 「そうか、銘はなんというのだ?」

 「・・・・・・隊長に教えてすらないんやけど・・・どうしても聞きはります?」

 「可能であれば、だが・・・無理だというのならがよい。・・・そうだ、刀身を見てもかまわないか?」

 「それやったら、ええですよ」

 「うむ、すまんな」

 すらりと鞘から抜かれる刃は鋼色ではなく、淡い薄紅色・・・桜色だった。光が反射して優しい輝きを放ってはいるが、やはり刃の鋭さは決して損なわれていない。

 現に春蘭は先程からその美しさに見入ってしまっている。

 「桜石っちゅう特殊な素材を使うたんでちょぉっと値打ちもんになってしもうてますけど、それだけの価値がある逸品や」

 「・・・・・・・・・」

 そこでしばらく春蘭が何も言わずにいたかと思えば、突然真桜に提案を持ちかけた。

 「――、――――」

 「ええっ!?隊長、アカンのと違います?」

 「そこは私とて考えていないわけではない。信じてはくれまいか?」

 「せやったら・・・・・・わかりました。この隊長の武器、銘は――――」

 

 

 「それで、姉者はそのまま一刀の武器を持って行ってしまったというわけか」

 「そういうことになりますけど・・・ウチが伝えに行った方がようないですか?」

 「いや、一刀には話しておきたいこともあるのでな・・・まかせてくれ」

 「それやったら、お願いします」

 「うむ、すまんな真桜」

 「ええですって、ウチらはもうたいちょ・・・一刀に愛してもらいましたし」

 「そうか・・・では私と姉者も愛してもらうとしよう」

 「一刀が無事やったらええんですけど」

 お互いに苦笑し合っていると、真桜の台詞の中に気になるフレーズに気がついた秋蘭は、そのことを真桜に聞いてみることにした。

 ちなみに秋蘭は真桜と食事をしている。

 春蘭に刀を預けた後、一刀を呼びに警備隊の詰め所へと向かいつつ、プライベートな絡繰の部品を買い出しにいった真桜は、道中で秋蘭に出会い、事情を話すと、食事でもしながら詳しく聞かせてほしいと言われて今に至ったというわけだ。

 「真桜は北郷の事を一刀と呼ぶようになったのだな?」

 その後も談笑を続けた後、二人はそれぞれの目的地へと向かった。

 

 秋蘭は城に戻り、華琳の私室を訪れた。

 「――というわけで練兵場の使用許可をいただきに来たのですが・・・よろしいでしょうか?華琳様」

 「ええ、構わないわ。けど、私も貴女に同行させてもらうわよ?どうせ様子を見に行くつもりなのでしょう?」

 流石は自分が認めた覇王、こちらの考えなどはすべてお見通しだとも思ったが、この流れではわからないという方が難しいなと思う秋蘭であった。

 

 真桜は詰め所で仕事をこなしている一刀のもとを訪れていた。

 「ん?真桜は今日は工房のほうで仕事じゃなかったっけ?」

 「そのはずですが」

 「ああ、さぼりなの~」

 「「お前が言うな!」」

 凪と一刀による同時攻撃を受けしょんぼりと肩を落とす沙和を真桜は苦笑しながら肩を軽くたたいた。

 「ちょっとな、必要な部品の購入のつもりやってんけど、春蘭様から伝言を預かったもんやからこうしてやってきたっちゅうわけや」

 「春蘭の伝言って・・・・・・なんだろう、嫌な予感がひしひしとする」

 「多分、当たらずも遠からずや。『北郷、練兵場で待つ』・・・確かに伝えたでー」

 手を振って詰め所を後にしようとしていた真桜を一刀が引きとめた。

 「真桜、刀のほうはどうなってるかな?」

 「もう出来とるで。春蘭様のとこ行ったあとにでも取りにきたらええよ」

 「そっか、わかった。練兵場だな?・・・じゃあ、二人ともあとを頼むね。流石に魏の大剣直々の呼び出しとあっては無視するわけにもいかないしね」

 凪たちに後の事を任せた後、真桜と別れ、一刀は一人、練兵場へと足を向かわせるのだった。

 

 ――そして、この後一刀は思い知ることとなる。

 己が感じた嫌な予感は、的のど真ん中に命中していたのだと。

 

 

 春蘭は剣を地面に突き刺し構えていた。閉ざされた隻眼の下では、一人の男がやってくるのをただ待ち続けている。

 (私には、これ以外に取り柄がない。華琳様の様な器もなく、季衣のように純粋でもなく、流琉のように料理が上手いわけでもない、稟や桂花の様に風に任せることもできぬし、あの姉妹のようにふるまうことなど無理に等しいし、あの凪たちのような繋がりもない・・・・・・だからこそ、私はこれで)

 こちらに向かってくる気配を感じ取った春蘭は閉じていた隻眼を開いた。

 「来たか、北郷・・・」

 彼女の視界には、事情を呑み込めていないまま歩いてくる北郷一刀が映っていた。

 

 練兵場に辿り着いた一刀は、まるで門番のように佇んでいる春蘭と、少し自分に近い位置に突き刺してあるはじめて見る色の刀が目に入った。

 (あの刀は・・・・・でも、だとしたらどうして春蘭がアレを持ってここにいるんだろう)

 「このまま引き返したくなったけど、もう目線が合っちゃたしなぁ」

 最早回避不可能のイベントであることを悟った一刀は、一度深呼吸をしてから歩を進めた。

 「待たせちゃったかな?」

 「構わん。北郷、さっさとその刀とやらを手に取れ」

 「やっぱり俺の刀だったのか・・・でもなんで春蘭が?」

 「真桜がそのことをどう誤魔化したかは知らんが、無理を言って私が預かったのだ」

 春蘭の目は戦場にいるときのソレで、放たれる凄まじい殺気に思わず逃げ出したい気持ちが湧いてきてしまう。

 だが、その圧力に負けずに刀を手に取り、寝かせてあった鞘を腰にさした。

 じつは、一刀は数日前に真桜に専用の剣帯を受け取っていたのだ。

 見事のまでのフィット感に感嘆の声を出してしまう一刀だったが、春蘭の真剣な声に慌てて気を引き締めた。

 「銘は〝桜華〟というそうだ」

 「〝桜華〟・・・か」

 「では構えろ。お前の刀、〝桜華〟の初陣の相手をしてやる」

 「え?いや、だけど・・・・・・・・・・・・わかった。でも手加減してくれよ?」

 「断る。故にお前も私を殺すつもりで来い・・・でなければその命、無いものと思え」

 有無を言わせない圧倒的な気迫、これこそが魏の大剣の異名を持つ春蘭の真の姿だと改めて思う。

 そう思いながら間合いを開け、互いに向き合う。

 「行くぞ、北郷!!」

 「ああ、来いっ!春蘭!!」

 

 ――魏の大剣と天の御遣い、二人の刃が交わった

 

 

 「始まったようね」

 「ええ、ですが・・・」

 華琳の声を肯定した後、秋蘭は視線を自分の横側へと向けた。

 「流琉、兄ちゃん、大丈夫かな」

 「大丈夫よ。季衣は兄様のこと、信じてないの?」

 「そんなことないけど、春蘭様ってすごく強いんだよ?」

 「せやな、前の時は華琳のお陰によるところが大きいし、季衣の心配もしゃあないわ」

 「あの変態、殺されるんじゃないの?」

 「おや?一刀殿の心配ですか?」

 「だだだだだだだだれが、あんな男の事なんか!!」

 「はぁ、素直になるのはうさぎの時だけですか」

 「仕方がありませよ~」

 「一刀、が~んばれ~」

 「聞こえないって姉さん」

 「応援するのは大事よ」

 「一刀、冥福祈ってるで」

 「安らかに眠ってなの」

 「「「「「「「「「「「縁起でもないことを言うなっ!!!」」」」」」」」」」」

 真桜と沙和以外の面子の声が同時に放たれた。

 「まさか全員が聞きつけてくるとは・・・」

 「それだけ愛されてるのよ」

 「ええ、不思議な男です。一刀は」

 「そうね・・・」

 二人の視線が再び練兵場へと向けられた。

 他の者たちの視線もほどなくしてそちらに向き、誰一人として言葉を紡がなくなった。

 

 

 「はぁっ!」

 ――一閃、春蘭の七星餓狼が振り抜かれる。

 あまりの早さに回避するのに手いっぱいの一刀は、防戦一方になっていた。

 (くそっ、隙がねぇ・・・これが魏の大剣・・・これが)

 「春蘭!!」

 桜華で薙払おうとするも、いとも容易く受け止められ。

 「甘いわ!!」

 ドゴォと凄まじいけりが腹部にお見舞いされ、内臓と肋骨が悲鳴を上げる。

 凄まじいのは呼吸さえ止まり、口から泡を吹きそうになったことだ。

 しかし、膝をついてしまい絶好のチャンスだというにもかかわらず、春蘭は一刀が立ちあがるのを待った。

 「いい加減本気を出したらどうなのだ?貴様、私を侮辱する気か」

 「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・侮辱だなんて・・・でも本気を出したくないなって思った以上、そういうことになるんだろうね」

 「・・・・・・」

 「ありがとう春蘭、お陰で腹を括る時間が出来た。次からはさっきの様にはいかないよ」

 力強くい言葉と優しい微笑み。

 春蘭は言葉をなくし、頬が熱くなるのを感じた。だがそれも束の間――。

 (?刀をあれほど背後に持っていくとは・・・。しかし、この気迫は)

 春蘭が不思議に思った一刀の構えは、獣が獲物にとびかかる寸前、力を溜めこんでいる瞬間のソレだった。おまけに、先程まで感じることがなかった一刀の氣が、一気に膨れ上がっていくのを武人である春蘭は感じていた。

 (まるで、獲物にとびかかる前の獣ではないか・・・面白い!)

 「来いっ!北郷!!」

 「ああ、行くぞ、春蘭!!」

 構えなおした春蘭と一刀の気迫がぶつかり合い、大気が軋み、悲鳴を上げる。

 そこから再び始まった剣戟は、先程までの者とはまるで違うモノへと変貌していた

 

 ――そこにだけ嵐が訪れたかのような錯覚を遠くから見ていた華琳たちは感じていた。

 「強くなっているとは思っていたけど、まさかここまでとはね」

 「我々のもとを去ってからの北郷の鍛錬がいかなものだったかが窺がえます」

 「兄ちゃんすっげぇ♪」

 「兄様、本当に・・・」

 「ええなー!春蘭がうらやましいで!!ウチも一刀と戦いたいで」

 ――剣戟に魅入り、瞳を輝かせる者たち。

 「なによあの変態、あんなに強くなってたの?」

 「まさか、互角とは・・・」

 「お兄さんがどれだけ風たちの事を守りたいと思っているのがうかがえますね~」

 ――自分たちの考えていたものを上回る光景に驚愕し、感心する者たち

 「なぁ、沙和・・・あれもっとる時の隊長からかうの止めへん?」

 「気が合うの、沙和もおんなじこと考えてたの」

 「今の一刀、ちょっと怖いかも」

 「ホントにあれ、一刀なのかしら」

 「その・・・はずだけど」

 ――その武に畏怖を覚える者たち

 皆がそれぞれの感想を口にしている中で、凪だけが別の言葉を発した。

 「一刀様の攻撃は、まだ疾く、そして重くなります」

 「どういうことかしら、説明してくれる?」

 「はい、華琳様。・・・恐らくですが、今の一刀様の剣はまさに戦うためのモノ、先程まで使っていたのは恐らく護身的な技、つまり防御や回避に重点を置いたものでしょう。我が身を守り敵を払う・・・ですが、今の一刀様の戦い方には攻撃そのものの動きにさえ、防御の要素がすでに組み込まれいる感じがします。攻防一体の状態である今の戦い方こそが」

 「一刀本来の戦い方・・・と、貴女はそう言いたいのね?」

 コクリと頷いた後、凪は先の続きを話し始めた。

 「そして、あの刀が一刀様のあの膨大な氣をもろともしないのがやはり大きいと思われます」

 「なに言うとんねん!あたりしゃりきや!!アレをつくたんはウチやで!」

 刀の事を凪が褒めた途端、真桜が力強く力説を始めた。

 「あれに使うた鉱石は〝桜石〟っちゅう珍しい一品なんや。でな、大枚はたいて買うたのはええんやけど、大将たちの武器に使うにはちょっとばかし軽すぎて使われへんかってんけど、一刀の刀を見た時にな、こうびびっときたんや!!そして試行錯誤の末に辿り着いたんが一刀が使うてる刀、その名も〝桜華〟やっ!!」

 

 ――職人魂全開、真桜が輝いてますね。

 

 

 

 真桜が力説する最中も、二人の激突は止まらない。

 その途中で次第に春蘭の口数が減り始めた。すると――。

 「・・・ぜだ・・・」

 「?」

 「何故だ・・・」

 「春・・・っ!?」

 何故と口にした春蘭は泣いていた。ぼろぼろと涙を流しながら猛攻してくる。

 「それだけの力を持ちながら、何故貴様は天命などを受け入れたっ!!」

 「!!」

 今までのどんな一撃よりもはるかに重い一撃。一刀は、何も言わなくなり先程までの剣技の冴えが形を潜めてしまう。

 それでも春蘭の剣は変わらない攻撃を一刀に与え続けた。

 「貴様は、この夏侯元譲に勝利を収めておきながら・・・簡単に未来をあきらめおって」

 「春蘭・・・」

 「私や秋蘭が、どれだけ苦しんだか・・・貴様に分かるか!?」

 

 ――春蘭の想いの叫びは続いた。

 

 ――私は貴様の事が胡散くさくて仕方なかった。華琳様や秋蘭は貴様に何かを見出していたようだが、私には華琳様を誑かす男にしか見えない。

だが、時を重ねていくうちに・・・貴様のもつ穏やかな空気の中にいるのも悪くないとさえ思えるようになってきたのだ。

 我々の留守を狙った劉備たちの侵攻も、貴様がいなければ華琳様はお命がなかったかもしれないと風に聞いた時はよくやったものだと思ったのに・・・貴様は華琳様の抱擁を堪能しおって!

 「ゆるさん!!」

 「ちょっ、春ら・・・・くっ!話しが・・・・・とっとと・・・ずれてるってば」

 「そんなこと知るかぁ!!」

 ――だが、秋蘭は貴様がいなければ今もああして生きてはいなかった・・・・そのことは本当に感謝している。倒れてと聞いた時は心配さえしたのだ。

 だから、少しは素直になれと秋蘭がしつこいものだから、杏仁豆腐やらを頑張ったのだが・・・秋蘭と流琉に重荷を背負わせてしまった。

 だが、そのおかげもあって貴様は私と秋蘭をあ、ああああああ愛した。

 それから演習の時に、僅かでも私を動揺させた・・・それにも感心していたのだ。初めは何の役にも立たん男かと思えば、これほどの成長を見せたのだからな。その後の風呂の事は・・・・・・ただの事故だ。

 「いいな!!」

 「りょっ、了解であります!!」

 ――日を追うごとに倒れながらも華琳様・・・・いや、我々のために休むことさえ厭わず頑張る貴様の鬼気迫る迫力に何も言えなかった。

 だから・・・貴様が消えたときいた時、何故私は何も言わなかったのだろうと思い悔んだ。

だが、同じくらい貴様の事を憎んだ。

 「貴様は、我々をあれだけ傷モノにしておきながら勝手にいなくなったのだから・・・・・・なっ!!」

 春蘭の一振りに、吹き飛ばされて尻餅をついてしまった一刀は本当に覚悟を決めたのだが、切っ先をあてがわれただけだった。

 「春蘭?」

 「答えろ・・・何故、貴様は自身の消滅などという天命を受け入れたのだ。答えなければ・・・」

 拒否権などない。否、一刀には拒否する意思がなかった。

 だから、静かにその口を開いた。

 「ああ、わかったよ・・・俺はね、俺は――」

 

 

 ――時計の針を戻そう。

 春蘭と互角の剣戟を繰り広げていた一刀が突然防戦一方になりはじめた頃だ。

 「なんや?春蘭様が泣いたと思うたら一刀が押され始めたで・・・体力切れたんかいな?」

 「へたれなの~」

 「がんばれ~、か~ずと!」

 「ちぃたちが応援してるんだから負けちゃだめよ!」

 「一刀さん、頑張れ」

 「あ、とうとう殺されるんじゃない?」

 「さっきまでの剣の冴えがなくなっている?」

 「「「「「「「「・・・・・・・・・」」」」」」」」

 真桜、沙和、天和、地和、人和、桂花、稟は心配をしているようだったが、それ以外の者たちに至っては無言だった。

 「秋蘭・・・聞こえた?」

 「はい」

 「流琉・・・」

 「うん・・・聞こえてるよ」

 「惇ちゃん・・・ええとこ聞くなぁ。そうはおもわへんか?凪」

 「はい・・・私もそのことを聞いてはいませんでしたから・・・ですが、風様も聞こえていたのですか?」

 「はい~。でも、お兄さんが天命に逆らわなかった理由が風には分かる気がするのですよ~」

 「そうなんですか?」

 「はい。凪ちゃん、ですからもう少し待てば聞けると思いますよー」

 再び二人へと視線へと戻す。

 

 ――その中で、秋蘭の心だけは過去を見ていた。

 

 ――北郷という男は不思議な雰囲気を持っていた。

 姉者はいささか不審がっていたが、華琳様があ奴を認めたことに私は納得していた。

 奴は警備隊の案を持ちかけ、華琳様から一本とりあげた。あれには私も感心したものだ。

 だから、私は北郷の事を時折気にかけるようにした。

 結果として、姉者が言うとおり北郷にこの身を許し、愛された。

 ――定軍山での黄忠、馬超の奇襲を受けた時は、私も流琉も覚悟を決めたのだが、予想だにしなかった華琳様や姉者達の救援は何も言えなくなるほどに驚いたものだ。

 だが、姉者を叱咤したものの事情を聴いて北郷に心から感謝した。

 そして意識を失ったと聞いて心配もしたものだ。思えばこの時に一瞬でも気にかかったことが現実になってしまうなど考えてすらいなかった。

 

 ――だが、それは現実になった。

 北郷がいなくなった後の魏は私も含め、酷いの一言だ。

 私も文官としての仕事に一極集中して必死にごまかしていたが、夜になれば寂しさのあまりに泣いてしまった。それは姉者と二人の時もあれば華琳様と三人で泣いた時もあったのだ。

 その内、泣いてる暇さえ無くなるようなことが起きてしまった。

 凪だ。あの娘は北郷の喪失の痛みに耐えることが出来なくなったのだ。

 自害。

 凪が辿り着いてしまった最悪の結末、それを阻止するために魏の武将たちが躍起になったものだ。

 そして五胡の侵攻。あれの勝利に至った要因は呉、蜀の救援が間に合ったというのもあるのだが、それよりも修羅とかした凪によるところが大きいと私は今でも思っている。

 

 ――そしてそれからほどなくしての北郷の帰還。

 あれほどまでに喜び泣いたのは・・・生れて初めてだった。

 「だから、聞かせてくれ一刀よ・・・何故、お前は天命を受け入れたのかを」

 「秋蘭・・・・・・」

 秋蘭の小さな声を、華琳だけが聞いていた。

 

 

 「俺は・・・きっと大丈夫だと思ったんだ」

 「何?」

 「きっと大丈夫・・・出来る限り役に立つことを残したつもりになって、そう思ってたんだ。皆は泣くかもしれないけど・・・すぐに元気になってくれる。そして幸せになってくれるって納得してしまったんだ。華琳の・・・彼女の覇道を手伝えたことで馬鹿みたいに満足してしまったから。だから、春蘭の言うみたいに抗うことをしなかったんだ。・・・・・・最低だよ、あんなに皆に傷を残してしまうなんて考えていなかった。だから春蘭に今殺されても文句は言えない」

 「・・・・・・」

 「だから、好きにしてくれ・・・どんな結果になったとしても文句は言わない」

 正座をして目を閉じた。

 「よい覚悟だ・・・」

 振りあげられた七星餓狼、今までにない気迫に一刀は覚悟を決めた。

 

 ――その結果は。

 

 「あの蹴りがまずかったんだよなぁ」

 大事には至らなかったものの、痣になっていた。今は寝台で、華琳の看護を受けていた。

 「あら、でもカッコよかったわよ。まさかあれほどの武を身に着けていたなんてね」

 「愛しの覇王様に褒められたんなら、爺ちゃんに殺されるんじゃないかってぐらい鍛えられてよかったかなぁ」

 「あら、殺されてはだめよ?貴方の命は魏の・・・私たちのモノなんだからね」

 「ああ、わかってるよ」

 「ならいいわ・・・あとは二人に任せるとしましょう。一刀、二人をしっかり愛してあげなさい。きっと一人は可愛らしい虎になっている筈よ」

 そう言って華琳は部屋を後にした。そしてほどなくして、春蘭、秋蘭の二人が入ってきたのだが、片方はいつもの感じが全くなくなっていた。

 「かじゅと~しゃっきはしゅまなかったのりゃ~」

 「うわぁ・・・前に見たときよりすごくないか?」

 「ふふ、まあ仕方がないさ。私も大分付き合わされたのだがな・・・」

かく言う秋蘭も赤くなっていた。どれほど飲んだのかが伺えるというものだ。

 (多分、霞も絡んでるんだろうなあ)

 でなければこうも酔っぱらいうはしないだろう。

 「だいじょうぶにゃのか?痛くはにゃいか?」

 「大丈夫だよ春蘭・・・痛くないから。秋蘭もおいでよ」

 「ふふっ。そうさせてもらうよ」

 こうして三人の夜は静かに更けていった。

 

 「姉者、起きているか?」

 「ああ、どうかしたか?」

 一刀を間に挟んでの川の字で二人は静かな声で話を続ける。

 「いや、大したことではないのだが・・・な。北郷は、我らとの生きる未来を諦めぬと言った。よかったな・・・と」

 「それぐらい当然だ。今一度、華琳様やお前・・・そして季衣たちを泣かせたならば、次は容赦などせぬ。問答無用で切り捨ててくれる」

 「やりすぎれば、それこそ皆が泣いてしまうぞ。なぁ?一刀よ」

 「何?」

 「あらら、やっぱりばれてたんだ・・・でも大丈夫だよ。今度は絶対に泣かせないから」

 二人を抱きしめながら一刀はほほ笑んだ。

 

 ――愛する男の腕の中で二人は、静かに眠りにつくのだった。

 

 

~epilogue~

 

 

 

 時は流れ、春蘭と秋蘭も子を持ち親となった。

 「秋蘭、体はよいのか?」

 「ああ、もうしばらくしたら産まれるそうだ・・・楽しみだよ」

 「そうか・・・喜べ楙よ、お前に妹弟ができるぞ!」

 「よろこぶー」

 「ふふ、姉者もすっかり母の顔だな」

 「うむ、親になるとはこんなにも満ちた気持ちになれるものなのだな」

 「ああ、・・・・もうすぐあちらも終わりそうだぞ」

 「そうか」

 「ちちー、がんばれ~」

 春蘭は膝の上に次女の楙をのせたまま、秋蘭は新たな命を宿した体を開けた庭の方へと向けた。

 

 ――そこには親子の触れ合う姿があった。

 「衡、今日こそ父に勝つぞ!」

 「待て姉者、やみくもに突っ込んでも・・・」

 「甘い!」

  ステーンと一刀に足を払われて盛大に転ぶのは、春蘭の娘で楙の姉の充だ。一方のそんな充の姿を見て呆れながらため息をつくのは、秋蘭の娘で充の妹分の衡である。

 「うう~何故手伝ってくれんのだ、衡よ・・・」

 「姉者はいくらなんでも考えなしが過ぎるぞ、援護してほしいなら一声ちゃんとどうするのか言ってくれ」

 「うううう~」

 「まあまあ、衡もそれくらいにして・・・充、まだやるかい?」

 「もちろんです、父!」

 元気いっぱいなこの子は、小さな春蘭だ。きっと新たな魏の大剣となって母に負けない武人になってくれることだろう。

 そして、衡もまた充を諌める姿は秋蘭のそれで、このこもまた母のように立派な子になってくれることだろう。

 そんな未来を夢見ながら、再び構えて突撃してくる充とそれを援護する衡の相手をする。

 

 ――いつかは自分では相手が務まらなくなるかもしれない。

 それでも一刀はこの娘達の誇れる父であろうと決意を新たにする。

 

 「姉者、一刀に出会えた我々は・・・幸せ者だな」

 「ああ、まったくだ」

 

 そんな二人の呟きを楙だけが聞いていて、笑顔を浮かべるのだった。

 

 

~あとがき~

 

 

 

 ええ~っと・・・なんかやたらと長くなってしまいました。

 ごめんなさいです、はい。

 刀を活躍させる話を書いていくうちにこうなってしまったのです。

 今回ついにお披露目となった一刀の新しい刀〝桜華〟ですが、まんま〝桜花〟にしてもよかったのですが、華琳のもとに戻ってきた桜の花ということで華琳の〝華〟の字を入れてみました。

 僕は、一刀は桜のような存在だったとゲームのプレイ中におもったのです。

 ――華琳が覇道を歩んでいる時に咲き誇り、それを成したからこそ散る。散り際の桜のように儚く消えていった彼には桜が似合うと思うのです。

 真桜もまた、そんなことを考えた結果、〝桜華〟と名付けた。

 そう思い、書き上げた次第であります。

 さて、いよいよ次は華琳編。

 after to afterもいよいよ完結に向かいますが、変わらず作品を読んでいただけたら作者としてこんなに嬉しいことはありません。

 それでは次の作品で逢いましょう。

 Kanadeでした

 


 
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