「
アインツベルンの森に銀色の閃光が走る。
木々の枝や幹を切り倒すそれだが、ターゲットとなる人物を捉えるには能わなかった。
そのターゲット―――漆黒の神父服を纏った人物は闇に、そして木々に紛れて柄の短い剣を投擲、反撃を試みる―――が、これまた銀色の流体に阻まれる。
「ええい、ちょこまかと!
と、投擲剣を防いだ人物―ケイネス・エルメロイ・アーチボルトが一喝するや銀色の流体、彼の魔術礼装である『
しかし綺礼は体を捻っただけで回避、さらにそのまま拳を振るいケイネスを刈り取らんとする。
―――そこを雷鳴のような銃弾の雨が襲う。
すんでのところで綺礼はバックステップし、さながら穴だらけのチーズのようになるのを防ぐ。
ケイネスはちっと小さく舌打ちをしながら、綺礼へと問いかける。
「答えろ、アサシンのマスター。サーヴァントを失い教会へと保護を求めた貴様がなぜこのようなところにいる?」
「………」
沈黙、綺礼は答えない。
「ふん、だんまりか…。セイバーのマスター、アインツベルンよ。誇り高き魔術の名門である貴方方がなぜ銃器などを扱う傭兵を雇っている?」
「………彼女は私の護衛よ」
セイバーのマスター、アイリスフィールは苦々しげな顔で答える。
鼻持ちならないと言うようにフン、と鼻を鳴らすケイネス。
典型的な魔術師である彼にとっては護衛を雇うと言う事こそは理解できるものの、何故魔術ではなく兵器を扱う傭兵を雇ったのかが理解できない。
「まぁいい…。今はこの男がなぜ脱落した筈の聖杯戦争に置いて行動しているのかを確かめねばなるまい」
ケイネスはアイリスフィールから一端注意を外し、綺礼へと注視する。
その瞬間
「なっ―」
暗闇から短剣が投擲される。
それも一本や二本ではなく、視界全てを埋め尽くさんとする数が。
いや視界だけではなく背後や側面、果ては頭上からも大量の短剣がその切っ先をケイネスへと向けていた。
今、月霊髄液は球体の状態で自身の傍らへと待機させている。
今から防御を命じても、どんなに早くとも月霊髄液の反対側面に短剣が刺さるのは明白だ。
このすばしこい神父と、未だ姿を見せない傭兵を相手にそれは致命的だ。
だからこそ―――彼は今まで霊体化させていた、切り札たるその名を呼んだ。
「ランサー!!」
「はっ、我が主よ!」
ケイネスの前方に実体化したランサーは携えた双槍とその卓越した槍の技量で、ほぼ全ての短剣を打ち払う。
実体化した位置の関係上打ち払えなかった、背後と頭上から迫る短剣は月霊髄液によって地へと落とされる。
全ての短剣を防ぎ切ったケイネスとランサーが綺礼に向き直ると、既にその姿は森の闇へと溶けていた。
「逃げられたか…!」
「主よ、どうやらセイバーとガーディアンはキャスターを討ち漏らした様子。じきに此処へと来るでしょう」
「分かっている。…セイバーのマスターよ、キャスターを討つまでは見逃しておく。魔術師として神秘の秘匿を気にせん奴は度し難いからな…!」
と言うような台詞を吐きつつケイネスとランサーは撤退していった。
闇に潜む舞弥が使い魔を放つ気配を感じながら、アイリスフィールは深い溜息を吐く。
マスターが3人―――一人は一応『元』が付くが―――揃いながらも、誰も負傷無く戦端が終結したのだ。
戦う術を持つとはいえ拙い自分が、かすり傷一つないと言うのは僥倖だろう。
何か問題があるとすれば、キャスターを取り逃したと言う事くらいだ。
あとはセイバーと合流し、拠点である城へ戻って切嗣と後の相談を詰めるだけ。
そう考えていた彼女の目に、あり得ざるものが映る。
――――紺色のジップパーカーとダメージジーンズと言う当代風の衣装のガーディアンが、男装目的のスーツに身を包んだセイバーに引っ張られて姿を現したのだから。
今回はちっと短めです。
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第拾弐話 魔術師と神父と人造の姫