【 照鏡伏蛇の計 の件 】
〖 司隷 洛陽 郊外の原野 にて 〗
胡才「──馬鹿野郎! 新手が、俺達の居場所を曝しているじゃねえか! 複数の隊を向かわせ殲滅しやがれ!!」
白波賊「はいっ! ──────ッッッッ!!」
ーー
胡才が叫ぶと、周りの兵士が笛を吹く。
―――
―――
白波賊は、通常の者には聞こえない『笛』を三種類ほど用意している。
その中の『攻撃しろ!』の命令の笛を吹いた。 向かう先は、吹く者の合図で決まり、その合図は桂花達の場所を示す。
一種の犬笛みたいな物だが、モスキート音かどうかは──作者も知らない。
―――
―――
その笛に呼応するかのように───
───ムクッ!
ーーー!
ーー!
ーーーー!
白波賊「「「 我らの邪魔をする者は、死ねぇえええ───っ!! 」」」
まだ闇が濃い地面より……数百の伏兵が現れ、桂花達を襲いに向かった!!
★☆☆
桂花達と白波賊の間は、二里(約0.9㌔)ほど。 怒濤のように攻め寄せる白波賊対して曹操軍約三百人。
しかも、季衣や流琉達が、既に別れて左翼、右翼と軍を率いて行動を起こしていた。 だから、桂花の手許の兵は───曹操軍百人足らず!!
しかし──今度は、冷静さを忘れない桂花は……静かに佇む。
そして、誰かと………ボソボソと会話をする。
ーー
桂花「……………まだよ、まだ引き付けて。 この策は、相手を最大限に引き付けて、仕掛けるのが要なんだから……」
??「分かってるって! あたしが、そんなに猪武者に見えるのか? あれから、かなり抑えるようにしたのに……落ち込むなぁ……… 」
桂花「…………落ち込むのは後にする事ね。 敵が近付いてきたわ……そろそろ準備して頂戴。 私達も一旦、銅鏡を半分下げて光を落とすわ! 」
??「───了解! あたしらは、前方の確認が……ハッキリと見えないんだ。 だから、早めに合図して送ってくれよっ!? あたしらの命も懸かってるんだからな!」
桂花「勿論よ! だけど、貴女も合図通り動きなさい! 合図は一回限り──二回目なんて無いんだから──!」
ーー
白波賊は、桂花達の照射する光を、眩しそうに手で遮りながら、剣を片手に持って迫る。 一里(約400㍍)の範囲に賊が近寄ったのを見て──桂花は、鐘を一つ鳴らさせた!
鐘の音は、白波賊の耳にも聴こえたが……別段何事も起こらない為、そのまま突っ切る事にした。 『もし、何かあれば連打をして知らせる筈。 だが、この原野で一体何ができる!!』……そう考えていたのだ。
───そして、七歩(約9㍍)に入った瞬間、銅鑼が一つだけ、鳴り響く!!
白波賊は、急な大きな音に驚き、足の動きが鈍る!
桂花「───今よっ!!」
桂花は、銅鏡を下げている兵士に照射を開始させた!
白波賊の目に、先程とは増えた光が入り動きが止まる───!?
ーー
白波賊「ぐっ───!」
??「今だ、これでも……喰らいやがれえぇえええっ!!」
白波賊「ぶほっ! ───ごがぁあああっ!?」
ーー
あと少しで、曹操軍の兵士に届く地面から、急に槍が伸びて白波賊を串刺しにする。 その槍『銀閃(ぎんせん)』を突き出したのは、馬孟起こと……翠!
他の白波賊も、伏せていた翠の軍勢に槍で刺されで倒れる! 後続の賊は、急な軍勢の来襲に驚き、逃げようと準備を始めた!
ーー
翠「よおーしぃ! 大陸を騒がせる白波賊なんて、この錦馬超率いる西涼軍が蹴散らしてやる!! 全軍、槍を前に出して……一旦待機だ!!」
★☆★
桂花の策 『照鏡伏蛇の計』
一刀から『天の国に《真田》って凄い人が居て……』という話から着想を得た策。 具体的には『大阪夏の陣』を語ったらしいが、うろ覚え過ぎて桂花の質問責めにされ、話が少ししか進まなかったという。
ただ、この作戦が……『独眼竜』の騎馬鉄砲隊を破る為に、編み出された物だという事だけ理解できたそうだ。
照射の源が狙われると、この行動を開始した時から気付いた桂花は、翠達を自分達の目前に伏せた。 これにより、光による目潰し、照射の死角に入る事で、伏兵の姿が完全に消え去る事ができる事になる。
しかし、伏せているため相手が見えず、攻撃するタイミングが分からない。
その為、最適な間合を把握できるよう『鐘と銅鑼の音で知らせる』と、事前に打合せて攻撃を成功させた。
★☆★
翠率いる西涼馬騰軍は、白波賊の伏兵を蹴散らすと、五百の槍兵を前方に向けて構えさせ──待機。 次の攻撃の機会を待つ為である。
白波賊の本隊は……依然として存在し、その正式な兵数は不明。 力を貸していると思われる……深海棲艦の数も、姿も、攻撃方法さえも……解らない。
無闇矢鱈に突っ込めば、被害拡大の損失は免れないのだ!
しかし、打開策は───既に開始されていた。
翠達……西涼馬騰軍が現れた事。
これが、策の開始を示す合図であったからである。
◆◇◆
【 一刀の行動 の件 】
〖 洛陽 郊外の原野 にて 〗
明命に連れて来られて、身を潜める一刀の場所にも銅鏡の照射が届き──疎らながら廻りの状況が確認できた。 黒装束に身を固めた白波賊数十人が、黒色のマントに似た物を被り、主戦場に向かっている。
ーー
一刀「(…………確か、情報だと……五十名の集団と聞いていたけど……)」
明命「(私も聞いています。 ですが……既に五十名を越えていますよ!?)」
ーー
明命の応えに、一刀は推測をする───
『情報が間違っていた? それとも……偽情報をワザと捕まえさせ、俺達を亡き者にする謀略か? だけど……諸侯にも同じ情報を与えるなんておかしい。 情報の信頼が薄れる可能性があるのに。 ならば──どう……むっ?』
何気無く視線を変えれば……少し離れた先に、一刀から叩きのめされた白波賊が、泡を吹きながら転がっている。 装束も同じような黒装束で、マントのような物も身に付けているようだ。
明命「(一刀様は潜んでいて下さい! 私が取ってまいります!!)」
一刀の見詰める物を察した明命は、急いで近寄り、賊からマントを剥ぎ取ると一刀に手渡した。
ーー
一刀「(ああ……ありがとう! んっ……普通の布かと思っていたけど……これって、何かの革かな? いやにゴワゴワしているし、結構厚みがあるんだけど──)」
明命「(そうですね……う~~ん、どこかで触った感触が。 ………ああっ、解りました! 牛の革でできた『練革』ですよ! 牛の革を何枚も重ね膠(にかわ)で煮詰め、最後に固めて黒く染め上げているんです!!)」
ーー
明命が触りながら答える。 牛の革は、軽くて丈夫な為、鎧の補強材……もしくは革その物で鎧を造るという。 一刀も、戦国時代の甲冑で、それが使われていた事を思い出す。 それと同時に──相手の策が理解できた!!
ーー
一刀「そうか………これが……奴等の術策だ! は、早く──皆に伝えなければ! ────ごめんっ! 俺、行って来る!!」
明命「ああぁ───待って下さいっ! 一刀様!!」
ーー
一刀は自分が隠れていた理由も忘れ、飛び出す! 明命も、一刀の急な行動に止める暇もなく、慌てて追い掛けて手を掴む!
その時、主戦場より離れた場所で、落雷に似た轟音が断続的に響き渡った!
ーーーーーーーー!?!
ーーーーーー!!
ーー
明命「───っ!? な、何ですかぁっ!? 今の轟音は───」
一刀「あれは──扶桑の砲声! 艤装を使用するなんて、まさか───!」
明命「あ、あの轟音は………一刀様の………」
ーー
『音は味方からだから、心配いらないよ』と説明したのち、明命を促して行き先を轟音が発せられた場所へと変更する。
主戦場になっている白波賊は、聞いた事の無い壮絶な音に、思わず棒立ちになり、立ち竦む。 夜目が見える者とはいえ、原因が判明しない初めて聞く『音』では、役には立たない。 平静に戻るには……しばし時がいるだろう。
その点、一刀は普段聞き慣れている分だけあり、砲撃音で誰だか分かるのだ。
一刀に促され、初めて周りの戸惑いを肌で感じた明命は、この隙に乗じて行動を起こす事を決意し、一刀の目指す場所へと向かう。 一刀は、相手より剥ぎ取った皮製のマントを被り、白の軍服を隠して明命の後を追い掛けた。
ーー
明命「あの………一刀様。 白波賊の策………判ったんですか?」
一刀「多分………間違いない。 白波賊の策は……『埋伏計』! しかも──薩摩島津の御家芸『釣り野伏』を──夜戦型に特化した戦術だ!!」
◆◇◆
【 冥琳の深謀 の件 】
〖 洛陽 郊外の原野 にて 〗
少し離れた場所で、連続した砲撃音が響き渡る!
まるで、落雷が……連続して落ちたような地響き、真っ赤な閃光が走り、周辺の者達を驚かせた。 だが、白波賊の頭目となる三人は……余程、肝が据わっているらしく、かのような砲撃音を無視して、酒を呑み交わしている。
ーー
韓暹「ひゃはははっ! 天の御遣い……っても、案外弱いじゃねえか? あの大頭目を、散々な目に遭わせた奴らだって──聞いていたんだがよぉ?」
胡才「へへへ……! まあ──鬼灯の姐さんが呼んだ『先生』の力が凄かったのがあるんだろう? あの美貌……豊満な身体で……襲いかかった俺達三人を、あっという間に投げ飛ばしやがったからな! まったく……怖い女だぜぇ」
韓暹「まったく……女は見掛けに依らねぇ! 新手で現れた猫耳頭巾の女に、胡才が攻めさせた奴ら………呆気なく全滅しやがるしな! まあ……まだ兵隊は居るから大丈夫だが……あの明りが目障りだ!! おっ……李落、どうした?」
李楽「…………コジキに曰く………『 非常に明るいトウダイの真下は、かえって見にくい 』……実際行うとは………侮れん女だ。 むっ………まさか……俺と同じコジキを伝承する……者か!? 面白い……どちらの策術が上か試して……ゴホッ!」
韓暹「───ったく………相変わらず………………お、おぉぉっ!?」
ーー
敵に対抗心を燃やす李落の様子に、韓暹は苦笑をするが……突如照らしていた両陣営より兵が現れて、驚きの表情を露にした。
左右に別れた軍勢が銅鏡の光を閃かせる中──数百人規模の兵士達が、季衣と流琉の軍勢より現れた為だ。
★☆☆
その軍勢は、季衣達が照射する光から隠れるように進軍し、二人の軍勢後方に回り込み、合流した──『曹孟徳率いる将兵、約三百名』と『孫伯符率いる将兵、約三百名』……その勇姿を見せつける!
ーーー
華琳「あの北郷達を出し抜いた白波賊相手に、このような鬼謀を献策するなんて……流石は我が子房。 その軍略の冴えに、私は感服するしかないわ!」
左慈「………言っておくが、北郷達は負けた訳では無いからな。 アイツらの牙や爪は、起死回生の一撃を狙って伏せている。 ………奴らの恐ろしさを見るのはこれからだ!」
春蘭「それにだっ! この夏侯元譲の勇猛果敢な戦い振り、華琳様に御覧して頂くのも──これからだ! そうですよねぇ、華琳様!!」
秋蘭「だが……姉者、急いては事を仕損じるというぞ? 大胆かつ繊細に……これが、今回の戦での戦い方になるだろう!」
ーーー
雪蓮「 曹操軍の軍師も……中々やるようね。 だけど、この策に手を加えたのは冥琳なんでしょう? 私達の軍師だって負けてなんかいないわよぉ!」
冥琳「まあ……私も、天の軍略を授かった事があるのでな。 彼女の策に……私の知る軍略を、ほんの少しだけ加味した結果だ!」
穏「冥琳さまぁ~狡いですぅぅぅ! 穏にも、教えて下さぁ~い!!」
祭「………じゃがの……策殿達も、お気付きかと思うが、辺りに未だ殺意が充満しておる。 気を抜けば……儂らも只では済まされませんぞ?」
于吉「ふふふ………ご心配なく。 既に手を幾つも打ってありますので……」
ーーー
季衣の陣からは、曹孟徳率いる曹操軍、控える将は夏侯元譲、夏侯妙才。
流琉の陣からは、孫伯符率いる孫策軍、控える将は周公瑾、黄公覆、陸伯言。
そして………それぞれの陣営に加わる左慈、于吉!
準備は整ったと言わんばかりに、攻撃態勢を向ける!
布陣は、桂花の軍勢から見て『コの字形』、左に季衣、右に流琉が銅鏡で照らし、華琳、雪蓮達の軍勢が、その前に現れる。
白波賊を、ほぼ包囲する形を取った。
ーー
左慈「(…………………于吉、本当にやるんだな?)」
于吉「(当然ですよ? そうでなければ、北郷達を救えません。 そのままにすれば……北郷達も私達の役割も終わりですけどね?)」
左慈「(────くっ!)」
ーー
双方の距離が離れている為、念で会話する左慈と于吉だが、于吉の言葉により、左慈は嫌そうに押し黙る。
ーー
左慈「(…………わかった、やってやる!)」
于吉「(それこそ左慈ですよ! 私の愛しい相棒ですっ!)」
左慈「(五月蠅い、気持ち悪い事をほざくなぁあああっ!!)」
ーー
そして、曹操軍の前に左慈が、孫策軍の前に于吉が現れ、各々が叫んだ!
ーー
左慈「お、俺は───『天の御遣い 北郷一刀』だっ!! 文句を言いたい奴は前に出ろっ! 即刻、蹴り倒して喋れないようにしてやるっ!」
于吉「私こそ、眼鏡の美少年『天の御遣い 北郷一刀』ですよ! ついでに一つ、言わせて貰いましょうか。 そこの『北郷一刀』は私のモノです。 ……もし……おかしな真似をすれば、安らかな死など……保障できませんよ?」
ーー
これが、桂花の『釣り野伏』に冥琳の進言で加味された──『水影三伏の計』の戦術であった。
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あとがき
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
『文字数が多くて読みのが大変』という……意見があったため、何時もの半分、五千文字数にしてみました。
作者としては、書くのは楽なんですが……御覧の通り……一年経過して黄巾の乱に入った状態ですので、長めの文章にしないと……終わりが見えないので。
もし、ご意見ありましたら……お願いします。
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桂花と冥琳の策です。 今回、文字数を何時もの半分程で投稿しました。