一方洛陽では涼州謀反の報を聞き早速出兵準備が進められていたが、しかし精強で名高い西涼軍。中央にいる官軍やこちらに付いた韓遂だけで戦うのは心許ない皇甫嵩は何進に優秀な将兵を付けて欲しいと依頼した。
何進も今回の出兵は失敗が許されない物とあってこれを承諾し適任する人物を探していたところ二人の人物が浮上した。
まず一人目は孫堅文台、勇猛果敢な将で許昌の乱を始め各地の盗賊や海賊などを討伐し名を上げていたが、ある日不仲であった荊州刺史の王叡を口論の末殺害してしまった。
朝廷内では孫堅を死刑にする話が出ていたが、今までの功績もあり官位剥奪の上故郷である揚州呉郡で謹慎処分を受けていた。
そこで何進は孫堅に対し謹慎処分を解く代わりに今回の西涼遠征に参加する様に要請したところ、孫堅はこれを素直に承諾した。
そしてもう一人は曹操孟徳、元々洛陽を守る洛陽北部尉に着任すると同時に違反者に対して厳しく取り締まりを行った。ところが任務中に皇帝劉宏の寵愛を受けていた蹇碩の叔父が門の夜間通行の禁令を犯した為、曹操はこれを捕らえ即座に処分した。これを聞いた十常侍たちは曹操を処分しようとしたが法に乗っ取り適正に処置した為に口実が見つからず、逆に栄転させることで洛陽から離れさせた。
そして栄転先においても厳格な統治を行い民から人気があった。そこで何進から西涼出兵の要請の話を聞くと曹操は出世の好機と見てこれを承諾したのであった。
二人は承諾すると速やかに洛陽に軍勢を引き連れ出陣、そこで皇甫嵩・韓遂らと今後の方針を打ち合わせを行った。
軍議を終えると曹操や孫堅はそれぞれ自分たちの陣へ戻った。
「戻ったわ、秋蘭」
曹操は陣に帰ると秋蘭と呼ばれた女性に声を掛ける。この女性は曹操の腹心の一人である夏侯淵の真名であり、姉の夏候惇と共に曹操軍の要でもある。
「お疲れ様でした、華琳様。それでどうでしたか会議の結果は?」
「今のところ特に変わった事はないわ。このまま涼州に進軍して途中で董卓軍と合流、向こうで再度打ち合わせを行う予定よ…それにしても中央には大した人物はいないようね」
「と言いますと?」
「先程会ってきた皇甫嵩将軍は確かに軍人としては優秀かもしれないけど政治手腕については何進に良い様に使われている段階で知れているわ。あと西涼の韓遂は小人そのもので、孫堅は武力だけなら私も負けるかもしれないけど、あの野心の強い性格では色々と敵が多そうね」
「そうですか、では今回、乱を起こした『天の御遣い』についてはどうお考えですか」
「そうね…所詮『天』の名を騙る偽者でしょう。精々私の出世の踏み台とさせて貰うわ」
自分自身に自信を持つ華琳はこの時点では一刀の事など眼中に無かったのであった。
「はぁ――生き返るわ!この一杯」
一方、孫堅の長女である孫策(真名は雪蓮)は孫堅が軍議の出ている隙を狙って陣中で大好きな酒を飲んでいた。
「ほう…昼間から酒を飲むとは良い身分だな、雪蓮……」
「げっ!冥琳!!」
雪蓮の背後に孫策の盟友で断金の交わりを交していた冥琳こと周瑜が立っていた。
「ちちちち違うわよ、冥琳!これはお水よ、お水!」
雪蓮は慌てて酒が入った徳利を自分の後ろに隠して否定するが冥琳は呆れた表情をしながら
「はぁ…雪蓮、私がここにいる事は炎蓮様も一緒にいるということを忘れていないか?」
「あっ…」
雪蓮は冥琳が母親である孫堅と共に軍議に出ていた事をすっかり忘れていた。
「水ね……雪蓮この部屋に充満している匂いを私に分かる様じっくり説明してくれないかしら」
雪蓮は怒気を含んだ母の炎蓮の姿を見ると部屋の温度が熱くも無いのに顔や背中から汗が噴き出していた。
「それで……反省したかしら、雪蓮?」
「ごめんなさい~~もうしませんから~~」
雪蓮は炎蓮から制裁を受け涙目になって反省しているが、また時間が経てば懲りずにまた同じ様な事をすると思いつつも何時までこうしている場合ではないと炎蓮は説教と制裁を取り敢えず止めた。
そして先程軍議の内容を雪蓮に告げると雪蓮は戦が近い内にあるのが嬉しいのか先程の涙目と違い目を爛々と輝かせていた。
「炎蓮様。一つ聞きたい事が」
「何だい冥琳」
「炎蓮様、今回の戦いに何故参加したでしょうか?別に涼州に出兵しなくても何れ謹慎が解けたのでは?」
冥琳の疑問は以前からあった。確かに今回の出兵で炎蓮の謹慎が解けるのは喜ばしい事ではあるが、だがその戦の相手が噂の天の御遣いやと強兵で名高い涼州兵なると幾らこちらが大軍とは言え苦戦は必至。
しかし孫堅が即決で出兵を決めたのは、何らか理由があるのではないかと冥琳は敢えて疑問をぶつけてみた。
炎蓮のその質問には答えず、微笑を浮かべながら
「ふむ…冥琳。それじゃ聞くが今の王朝はどう思う」
「炎蓮様、こんな所でそのような話は!」
「心配症だねアンタは、誰も居ないし周りはウチの兵たちで固めているんだ。それでどうなんだい」
冥琳は幾ら自分の陣とは言えここで朝廷に対する批評をしようとする炎蓮を諌めようとするが炎蓮は気にすることなく冥琳の回答を待つ。
「うーん。このままだと長くは無いんじゃない」
「雪蓮!」
冥琳が回答を渋っていると雪蓮が素直に答える
「ほう…雪蓮。何故そう思うの」
「勘かな」
「ったくアンタは勘に頼らず、もう少し頭を使えっと言ってるでしょう!」
「イタタタタ!!」
炎蓮は何の根拠も無く勘で答えた雪蓮の耳を引っ張りながら再び説教をする。
「炎蓮様、雪蓮の勘はともかく、私も雪蓮と同じ意見です」
「ほう…冥琳、その意見聞かせてくれないかしら」
炎蓮は雪蓮の耳を離して冥琳の説明を聞く。
「色々と理由はありますが、今回の様な乱を鎮圧するのを中央の官軍だけではなく我々の様な地方の豪族の助けが必要になっているというのはその証ではないでしょうか?」
冥琳は何進や十常侍の確執や政権の不安定な部分を上げようとしたが、敢えてオブラートを包む様な言い方をしたが、炎蓮もそれを察してかそれ以上の事は聞かず
「私も二人と同じ意見よ。だからこそ今回の遠征に参加したの、それにもし『天の御遣い』の力が本物だったらどうする」
炎蓮の問いに雪蓮と冥琳は答える事ができない。だが炎蓮は二人に構わず話を続ける。
「漢が勝てばそれはそれで良いが、万が一御使いが勝つ様な事があれば、御使いたちに私たちの力を見せつけておく必要があるわ」
炎蓮の説明を聞いて冥琳は炎蓮の構想が分かった。炎蓮は今回の戦いで孫呉の名を大々的に売り出し、自分たちの存在を内外に宣伝する絶好の機会と捉えていたのだ。
冥琳はその事を雪蓮に説明すると
「お母様、じゃあもし御使いが味方になって欲しいと言ってきたら、御使いと手を組むつもりなの?」
「それは分からないわ。ただ手を組むにしても安く売るつもりは無いわよ。それに相応しい実力がある事を示してからね」
一刀の檄文は各地に広まっていたが、一刀の檄に応えて朝廷に対して謀反を起こそうという諸侯は居らず、周りは野次馬もどきの見物又は一刀の力量を見極めようとしての様子見という感があった。
一刀たちも日和見の諸侯を当てにはしておらず、取り敢えずは官軍を迎え撃つ準備に取り掛かっていた。
だが戦の準備の中に一刀や紫苑、それに璃々、蒼、蒲公英たちの姿が無かった。
これより少し前に一刀は戦いの前に自分と璃々の能力向上の為、修行を行いたいと碧に申し出ていた。
今回の戦いは涼州の存亡が懸っており当然激戦が予想される。そんな中である程度の実力はあるものの実戦経験が浅い自分や璃々が足を引っ張る可能性がある。それを少しでも払拭させたい為に碧に話を持ちかけた。
すると碧から予想外な答えが返ってきた。
「話は分かったよ。だったらその訓練に鶸、蒼それに蒲公英も加えてビシビシやってくれないか」
碧の説明では、今のところ一軍の将として頼りになるのは一刀や紫苑、碧を除くと翠と渚の二人しか居ない。今回の戦いでは鶸たちにも場合によっては一軍を率いて戦って貰う可能性がある。しかし翠と比べるとどうしても不安が先立ってしまう為、だったら翠に勝った実力がある一刀や弓が得意な紫苑に鶸たちを鍛えて貰い、そして逆に一刀たちは不得手である騎馬技術を鶸たちが教えればお互いの実力が上がって一石二鳥になっていいのではないかと碧から提案された。それを聞いた一刀は承諾し一刀たちに配属された新しい部隊を率いて訓練に出て行った。
一刀たちが不在の間、城の修復工事や領内の警備については翠や渚たちで行われていたが、翠は余りの忙しさと新婚になって早々一刀が居ない事で早速愚痴を零していた。
「ったく…ご主人様や鶸たちは何処まで訓練に行っているんだよ…」
「おや翠、アンタもう欲求不満かい。この間まで処女だったのにもう股を濡らしてご主人様を待ち侘びているのかい」
「だだだだ、誰がそんなことするか!」
碧のとんでもない突っ込みに翠は明らかに動揺して大声を出し、そして周りの兵も必死に笑いを堪えている。
すると一人の兵が碧の元に駆け寄り一刀たちの帰還の報告をする。
「翠、アンタの旦那が帰ってきた。出迎えに行くよ」
碧は翠に告げ城門に向う。
そして訓練から帰還した兵は生傷が多かったが、兵たちの目は獣が得物を狙うかの様にギラギラしており、そして兵の動きや統率なども訓練前と比べ明らかに変わっていた。
「へぇ…ひよっこが少しは成長して帰ってきたようだね」
碧はその中に居た一刀や紫苑は勿論、訓練前とは顔付きが変わった璃々や鶸たちを見て嬉しそうに呟いたのであった。
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仕事の都合や創作意欲が低下したため、しばらく作品を放置プレイして申し訳ありませんでした。
取り敢えず再開しますが、また作品を放置プレイする可能性もありますので、なるべく創作意欲が体内に残る様願っといて下さい(笑)
では第9話どうぞ。