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「改訂版」真・恋姫無双 ~新外史伝~ 第8話

今回は朝廷サイドの動きが中心で、英雄譚メンバーもちらほら出ていています。

では第8話どうぞ。

2015-07-01 06:00:01 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:7338   閲覧ユーザー数:5102

「ほう…失敗したと」

 

「も、申し訳ありません。張譲様!」

 

この部屋にいるのは現在、漢を影から支配していると言ってもいい十常侍筆頭の張譲、そしてその張譲に必死に詫びているのが先日漢の使者と共に同行していた韓遂であった。

 

どうしてこの二人が結びついたのか、これにはお互いの思惑があった。

 

韓遂は碧や一刀たちを失脚させ、自分が涼州を支配しようと考えたが既に碧や一刀たちの評判は鰻上りで付近の豪族たちも碧に味方する状態で、このような状態で韓遂は単独で碧に戦いを挑む事は無謀であると判断した。

 

韓遂がそこで考え付いたのが十常侍の張譲に近付き、その権威を利用して碧を蹴落とすことであった。普通であれば張譲と韓遂では官位の差があり相手にされない可能性があったが、韓遂にはある程度の勝算があった、それは張譲が無い物を韓遂が持っているからだ。

 

張譲が持っていない物…それは武力であった。

 

現在、張譲たちは皇帝劉宏の寵愛を受け権力を振ってきたが、ここに来て大将軍である何進が何皇后の権力を利用しながら勢力を伸ばしてきていた。

 

軍事面では何進が圧倒的有利である為、軍事面で劣る十常侍としたら誰か有力諸侯の後ろ盾が欲しいところであったが、残念ながら朝廷内の軍部は何進が殆ど掌握しており、各諸侯も朝廷の勢力争いには積極的には介入しようとは思わなかった。

 

そこで韓遂が張譲を尋ねて協力を申し出れば、武力が欲しい張譲も韓遂が西涼を支配すれば精強な涼州兵が後ろ盾となり何進を牽制できるので絶対に無下にされないと青写真を描いた韓遂は張譲に面会を求めた。

 

張譲は韓遂の事を色々と知っており、取り敢えず会うことにした。

 

韓遂はここで一刀が『天の御遣い』を騙り、馬騰が一刀たちを匿っている事を張譲に話した。そしてその時に馬騰を始末した後釜に自分を据えて欲しいと。

 

自分が涼州の支配者になった暁には、涼州は張譲側に付くことを約束する旨を告げた。

 

張譲は韓遂の申し出を聞いて悪く無い話だと思い、それに「天」を名乗るとは無礼者がいるものだと一刀たちの事を詐欺師くらいしか評価せず、韓遂に馬騰の洛陽召喚並びに一刀たちの捕縛を命じた。

 

だがその結果、碧が一刀の捕縛並びに洛陽召喚を拒否し任務に失敗、韓遂は仕方なく洛陽に引き上げてきた。

 

張譲は今後についてどうするのか韓遂の事を無視して、しばらく考えていたが漸く考えが纏まると

 

「ほっほっほ」

 

男の象徴を失ったことでその笑い声は甲高かったが、その声に韓遂には不気味に感じていた。

 

「韓遂」

 

「はっ!」

 

「天の御遣いを騙る者を討伐する必要がある。そなたには道案内をして貰おう。そしてこれ以上の失敗は許さぬぞ」

 

「は、はい!」

 

張譲は韓遂の返事を聞くとすぐさま宮中に向った。

宮中に向うと張譲は文武官を集め、碧の一刀の捕縛命令並びに召喚拒否を告げる。

 

すると他の文武官たちの一方的な罵詈雑言が並び、全ての文句が出切った時に張譲が口を開いた。

 

「そこで何進様。陛下が蔑ろにされる事など、軍としても許す訳にはいかないでしょう。当然、このような不忠者と『天の御遣い』と名乗る偽者を討ち取って戴けるでしょうな」

 

張譲は何進に嫌味をチクリと言う。何進という女性は字を遂高、真名を傾(けい)と言う。現在漢における大将軍であり、軍部における実力者でもある。

 

元々は姉妹で肉屋を経営していたが、妹の何太后が今の劉宏に認められ側室に上がり、そして娘である劉弁を出産するとその力を背景にトントン拍子に出世して今や大将軍まで昇りつめていた。

 

すると今まで皇帝に仕え権力を振ってきた張譲たちに取って何進は身の程知らずという存在で、一方何進に取っては張譲たちは皇帝に蔓延る虫な様な物と考えており、お互い相容れるはずも無く水面下で対立が続いていた。

 

張譲は今回の件を利用して一刀たちを討ち取れば涼州が韓遂の物となり、討伐に失敗すれば何進の責任を追及して勢力を弱める事ができるというどちらに転んでも良いように考えた。

 

何進は自分の姪に当たる劉弁が何れ皇帝になる可能性が高いので、勿論一刀たちを討伐する必要はあるが成功して当然、失敗すれば責任問題に発展する恐れがあり一瞬躊躇したが拒否する理由がどうしても見つからず渋々受けるしかなかった。

 

何進の苦渋の顔を見て張譲は精神的に満足したのか

 

「ほっほっほ。流石大将軍様、成果を期待していますぞ」

 

張譲の勝ち誇った様な声が宮中に鳴り響いていた。

 

何進は部屋に戻ると張譲の勝ち誇った顔を見て腹の虫が治まらず

 

「あの玉無しどもめ!」

 

文句と共に部屋に備え付けの椅子を蹴り飛ばす。

 

「チッ!義真」

 

「はい、何でしょうか。何進様」

 

「貴女に『天の御遣い』の討伐は任せるわ」

 

「えっ!私ですか…」

 

部屋にいた義真と呼ばれた女性は名を皇甫嵩(こうほすう)、字が義真、真名を楼杏(ろーあん)で漢王朝の使える武人で、現在の漢王朝の中では三本の指に入る現場指揮官であるが猛将、智将でも無いが自分ができる事を真面目にコツコツやるタイプで大きな野心も無く、このような重大な役目が回ってくるとは思っても見なかった。

 

「それで…何進様はどうするつもりですか?」

 

「私は洛陽に残る。私が洛陽から出陣したら、張譲や十常侍の奴等が影でコソコソと何をするのか分かったものではないわ」

 

皇甫嵩の問いに何進は自分が出陣した場合、留守中張譲達に後方を任せる不安もあるが、本音は自分の戦能力に自信が無いのが一番の理由で、それで今回の指揮を楼杏に押し付けたが本音である。

 

「あと兵の編成とか全て貴女に任せるから」

 

何進からそう言われると楼杏は断る事ができず、そして討伐の準備に追われそのお蔭で心労が祟りしばらくは胃薬のお世話になる羽目になってしまった。

一方その頃武威ではある人物の訪問を受けていた。

 

「どうかお願いです。御使い様、碧様お二人の事は私が命に代えてもお守り致します。ですから謀反という真似は止めて下さい」

 

戦いの準備を始めていた一刀たちは訪問してきた人物の名前を聞いて驚いた。

 

何と訪問してきたのは月こと董卓本人だったからだ。

 

月は同じ涼州の隴西郡で太守をしていたが、先の漢からの使者と韓遂が洛陽に戻る際に馬騰謀反、そして何れ馬騰討伐の軍を繰り出すので出兵準備をする様に告げていた。

 

元々碧と月は顔見知りであり、月は涼州内の内乱を避ける為、自ら赴き一刀たちを説得して、何とか戦いを回避しようと試みた。

 

当然月の親友である詠こと買駆は危険であると反対したが、月は戦で民が苦しむと考え詠の反対を押し切りここに来たのであった。

 

一刀は月の心根を聞いて嬉しく思ったが

 

「董卓さん、君の言葉は嬉しいけど、もうこちらは既に朝廷から討伐の対象になっている。仮に頭を下げても朝廷は決して許しはしないだろう。寧ろこれ以上こちらに関わったら君も危なくなるからもう帰った方がいい」

 

「月、この兄ちゃんの言うとおりや。そやから次会う時は戦場やな」

 

月は尚も説得試みようとしたが、月の警護の為同行していた張遼こと霞が一刀の言っている事が間違っておらず、更に月をこれ以上この事に首を突っ込めば危険に晒すと判断して月に説得を諦める様に言う。

 

「分かりました。では最後に聞かせて下さい。御使い様はこの国で乱を起して一体何を目指しているのですか」

 

月は一刀の真意が何処にあるのか敢えて聞いてみた。もし私利私欲の為なら討伐の時は躊躇することなく討ち取る事を考えながら。

 

「そんな大層な物じゃないけど、大事な物を守るためかな」

 

「大事な物ですか?」

 

「そう、俺や紫苑、それに璃々は全く知らない世界からやって来た。そして碧さんたちはそんな俺たちを世話してくれて何時しか俺たちは『天の御遣い』と呼ばれる様になった」

 

「だけど朝廷は『天』を名乗った罪として碧さんに俺を捕縛して洛陽に送る様に言ってきたんだ。最初は俺が洛陽に行って事を収めるつもりだったけど皆が反対して、碧さんたちはこんな俺たちに一族を賭けて家族になってくれたんだ。その家族を守るためなら俺の手が汚れても構わない」

 

「それに…この大陸の『天』は間違っている。『天』は皆の物で空を見上げれば皆の上に『天』

はある。生きている人の数だけ色んな『天』があるんだ」

 

「だけど、今のこの国には『天』を名乗る事を認めない『天』がいる。だけどそれは変だと思うんだ。俺たちの世界では「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず(意味:人間はすべて平等であって、身分の上下、貴賎、家柄、職業などで差別されるべきではない)と言われ、これが全てこの世界に当てはまる物じゃないけど、本来『天』は上に立つものじゃなくて、皆の直ぐ身近にある物なんだよ」

 

「だからもし向こうが『天』を名乗った俺たちを殺しに来るのであれば、こちらも皇帝と刺し違える覚悟はある」

 

月と霞は一刀の言葉を聞いて驚いた。

 

この国の人間なら漢王室に対してそんな言葉を吐く事はまずありえない。

 

政治批判はあっても皇帝を殺すとは余程の悪人でないと言えない言葉だからだ。

 

それを聞いた月はただ一言「分かりました」と言って引き下がった。

 

そして帰りの廊下で月は霞にポロっと一言

 

「霞さん…あの方が言っていたことは確かに過激ですが、でも間違った事を言っているようにも思えないですよね…」

 

「月…アンタ」

 

「あっ!さっき私が言った事忘れて下さい!単なる独り言ですから!!」

 

月は今の朝廷に対して傍観の立場を取っているが、民の生活を顧みない政治を行っている朝廷に対して不満を持っているのは事実だ。だから霞も月の気持ちが分かっていたし、ただ武人としても一刀が言った言葉が本物かどうか確かめたい事もあり笑顔で

 

「月、さっきの言葉忘れるわ。その代わり御使いとの戦いウチ参加でよろしく頼むで」

 

月たちが去ってから、一刀たちは引き続き会議を行っていた。

 

今回の反乱が単なる一過性な物では無く不退転の決意を示し、そして民衆の賛同を得なければならないと一刀や紫苑は考えていた。

 

だからただ叛くのではなく、より良い新たな世界をできる事を信じて捨て身で戦う。それに相応しい言葉である『維新軍』と正式に名乗ることを決め、翠たちは嬉々として同意した。

 

そして更に各地の街にこのような檄文を掲げた。

 

「蒼天唯一の天に有らず、涼州新たな天立つ。民憂う心ある草莽の者今こそ立ち上がれ」

 

この檄文は各地に広まり、これが新たな戦乱となるこの世界での「涼州の乱」が幕を開けたのであった。

 

 

 

 

 


 
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