「あいつ・・・なにしてるんだ?」
桃子さんに頼まれ喫茶翠屋のちょっとした買い出しに出たものの近所のスーパーでは手に入らなかったこともあり。
八神家にほど近いスーパーマーケットに来たのだが。
視線の先にはセミロングのブロンドの髪をせわしなく揺らし。
あたりを迷子の子供のように見回しているシャマルを発見した。
見る限り「どうしよ!どうしたら!?」という風に困っている。
それに気がついている店員さんも近くに居るが
なんせ容姿が完全に外国人で日本語が通じるか怪しいとなれば。
声を掛けるのには勇気がいるだろう。ともあれ、放って措くわけにもいかない。
「なにやってるんだ?」
「あ・・・ノワールさーんッ!」
「んぐっ!?」
近くにより声を掛けると迂闊にも肉食獣の前に出てしまったうさぎのように捕らえられ。シャマルの腕の中基、胸の中に捕らえられてしまった。
白地のセーターと刺繍のあしらわれた橙色のスカート姿のシャマルと俺は、黒のYシャツに同色のスラックスズボン。
そんな俺とシャマルが抱き合う姿を見て、主婦を中心に人集りが出来始めていた。
「んががっ!ええいッ!離せ!」
「うわーんっ!」
俺の言葉も空しく。シャマルは年甲斐もない子供のように騒ぎ立てた。
辺りではヒソヒソと勝手に話が進み。外国人の子供が迷子になってお姉さんもしくは、母親がやっとの思いで子供を見つけたようなシナリオなどが勝手に話が作られ。
良くも悪くもシャマルが落ち着くまでそのままにされ。落ち着いた頃にシャマルの手を引いて急いでスーパーから立ち去った。
「で?あんなところで何してたんだ?」
「これ・・・」
落ち着いて話をするためにスーパーに並列して店を構えていた喫茶店に入り。
適当な物を注文してからシャマルに話を切り出した。
四角いテーブルに取り出されたのは文字が書かれた片手ほどの小さな紙切れ。メモのようだが....
「お使いか?なになに....鶏肉400g 玉ねぎ3つ 人参2本 大なら1本 カレールー2箱....エクセトラエクセトラっと。これがどうかしたのか?カレーの材料だろ?」
「ゎ・・・」
「ん?」
とても言いにくそうにシャマルは俯いて言葉を発して聞き取れず。顔を近づける。
「わからないんです。鶏肉だってモモやらムネやら・・・。ノワールさんはどっちが好みですか?それとも尻ですか?」
「鶏肉で尻ってシャマル・・・(また変な番組見てやがるなこいつ)」
「あぅ///」
俺の言葉に顔を真っ赤にするシャマル。
はやてとまた違った面白さがあるなこいつは。天然というかなんて言うか。
「カレーの材料だからムネ肉でいいだろ」
「そうなんですか!?」
「いや、この料理はどれを入れてもいいと言えばいいが。定番は厚みのある肉かな。キモとかは流石に入れないだろうけど。って・・・もしかして?」
「はい?」
「おまえ、カレーがどういう物か知らないんじゃないか?」
「え~と~『お待たせいたしました』」
途端に視線を泳がせるシャマルを尻目に注文していた飲み物がウェイトレスによってテーブルへ運ばれて来た。
シャマルへは普通のホットコーヒー。
俺には縦に20cmほどもあるグラスにモリモリと盛られたバニラアイスやらクリーム、頂点には真っ赤なチェリーが鎮座していた。
まあ、こんな餓鬼がコーヒー飲むとは思えないわな。
「フンッ」
「わぁ」
すぐさまコーヒーと物を交換すると一瞬で花が咲いたような笑顔を咲かせるシャマル。
「っと」
「ぇ・・・」
徐に俺が再びパフェを自分の手前に持ってくると今度はこの世の終りが来たような顔をするシャマル。
再びシャマルへ戻すと笑い。さらに奪うと落ち込む。
なにこいつ.....面白い!!
「意地悪しないでくださいよぉッ!!」
「わ、悪かったって」
素直にパフェをシャマルの前に置くと空かさずスプーンを手に取って食べ始めた。
俺は静かにカップを傾け、コーヒーを啜る。
ほのかな苦味と風味...若干だがエグミが入っているように感じる。やはり士郎が入れる珈琲の方が美味しいな。俺が入れるより美味しいけど。
「あの?」
「ん?」
シャマルの差し出した手にはスプーンが握られており。先には一口サイズのパフェが乗っていた。
「あ~んです」
「誰かするか」
無視してコーヒーを飲もうとしたが。カップを掴んだ右手が緑の輪っかに包まれる。
「なっ...バインド!?」
びくりともせず逃げられない。それに周りに見られてはかなわない。慌てて空いている左手で光りのリングを隠した。
「おいこら。なんのつもりだシャマル」
「あ~んです!」
「いや、だからな?」
「あーん!ですッ!」
すごい剣幕に他の客の視線がこのテーブルに集まる。
そして、小さな呟きでこう告げられるのだった。
[もしかして恋人同士?お姉×ショタ?いや、百合?・・・どちらにしても羨ましい]
[あんなお姉さんが「あ~ん」なんてしてくれてるのにこんガキが・・・。]
[私はあ~んする方もいいけど。される方もしたいな~。可愛い子が恥ずかしながらスプーンを差し出すの・・・。たまらない!]
客層を考えると早く店を出たほうがよさそうだ。だが.....
「あ~ん駄目ですかぁ?」
「いや、駄目じゃないが....」
すでに攻防を続けた結果からか。シャマルの瞳にはじんわりと涙が溜まっていた。
「はぁ...一口だけだぞ?」
「はいっ!あ~~~~ん♪」
口に放り込まれたスプーンから運ばれたクリームとアイスは苦味が残っている口を甘く蕩けさせる。
甘いのも嫌いじゃないが。こう、子供っぽい食べ物はどうも苦手だ。
「今日はありがとうございました。ノワールさん」
「ま、礼は別にいらないけど。受け取っとくよ」
「む~。素直じゃないですね。ノワールさんはっ」
おつかいの買出しも二人とも終わり。夕焼けの道をゆっくりと歩いていく。
スーパーでは故一時間ほど掛けて細かな説明をしながら回り。どんな物がどういった場所で売っているかや、国内か外国産での値段の違いなども説明し。主婦とまでは行かないだろうが、おつかいに出ても問題ない程度の知識は身に付いたはずだ。
「ねぇ?もう少し寄り道していきませんか?」
そう口にしたシャマルの視線の先には木々が生い茂る小さな自然公園が移っていた。
「ああ、別に構わないぞ」
俺はそう答え。ゆっくりと人気の無い公園へと歩みを進めた....
「ねぇ?ノワールさん」
「んっ?」
「気づいているんでしょう?」
「ああ、まあな」
ビニール袋を提げたまま。公園の道である大きなタイルブロックを左右にステップしながら
さながらタイル目を飛んで子供が遊ぶように歩いていた。
「なぜ?なにもしないんですか?」
後ろを歩いていたシャマルが突然止まり。いつもの明るい声が平坦な感情を伴わない冷たい者へと変わっていた。
周囲の空気も、もう6月だというのにひんやりとした風が吹く。
「何かしたほうがいいか?いや、俺にそうさせないでくれ」
「そう、ですか....」
《ピキィン!》
周囲に無数のライムグリーンの火花が散り。周囲に数種類の光りの花が咲く。
その光りは設置型の魔方陣が砕けて出来た光りだった。
「降参です。罠に誘い込んでもそれを知られている限り、私に勝ち目はありません。
貴方の危機回避能力を侮っていました。二人の(シグナムとヴィータ)言葉以上ですね。
これでも上手く隠して設置したつもりなんですが....。ノワール様、この風の癒し手 湖の騎士シャマル、如何様な処分も甘んじてお受けいたします」
「この勘が無ければ俺は大昔に死んでいたさ。
それより、あの喫茶店でのバインドで俺の解除能力の数値を図っていたな?
それから、俺がスーパーに入る前からサーチャーを付けていたんだろう?
サーチャーには気づかなかった。流石だな」
「なんの慰めにもなりませんよ。ええ、すべてお察しの通り、おつかいの件も嘘です。」
そう、すべては俺を試し。場合によっては始末するつもりだったのだろう。
この公園に張り巡らされたトラップ群によって。
「なぜ、そんな事を?」
「ノワールさん。私はこの世界...主はやて様に御使いしてから分からないんです。
今の主は戦いも望まれない。争いも好まない。力も望まれない。
そんな主に私達の存在って必要なんですか?」
「シャマル?」
その場にシャマルは荷物を投げ出して崩れ落ち、頭を抱えて叫んだ。
「私達は守護騎士ですッ今まで戦わなければ行けなったんですッ!それなのに、今のはやて様に御使いしだしてから私達は可笑しいんですッ!!美味しいものを食べて喜んで。ちょっとした事で笑うようになって。シグナムは、正規のマスターでもない貴方が...ノワールさんに会うたびに嬉しそうに喜ぶんですよ?
今までみんなの中でリーダーを務めて。切り倒した敵に哀れみの目も向けず。ただ静かに命令どおりに動いて...他のみんなもそうやって生きてきたのに・・・・。ごめんなさい、話がずれましたね」
シャマルは息を大きく吸い込んで深呼吸し、俺に顔を上げた。
「この感情がただの正常な活動なのか。それとも異常なのか。それを試したくて私はこの世界に来てから多くの事を学ぶようにして気がついたんです。はやて様やシグナムに入り込んだ貴方とあらゆる接触を試せば答えが見つかるんじゃないかって」
シャマルはこの世界に早くに馴染んでいたと思いきや。不安を隠すための行動で。
内心は変化に大きく戸惑っていたのだろう。その大きな瞳には大粒の涙が溜まっていた。
「それでこの行為か?」
「ええ。でも結局無駄になりました。馬鹿らしいです「無駄じゃないさ」はい?」
「お前の感情は本物だよ。俺に抱きついてドキドキしたり。パフェを食べて笑ったり。
綺麗な服を着てはしゃいだり。主であるはやてに怒られて落ち込んだり。
この行動も悩んだ末に答えを求めた結果だろう?
そうやって楽しんで悩んで苦悩して後悔して人っていうのは生きていくんだ。
自分に正直に生きればいいさ。そうやって何者だとかどういった存在だとか。
そう自分を枠に嵌めない方がいいぞ、馬鹿らしい。」
座り込んでいるシャマルの前に右手を差し出す。
「自分が何者かなんて誰にも分からない。俺もそうだ。ゴミ同然に生きていたと思ったらいつの間にか魔導士でこんな世界にいる。人生って分からないよな」
「ノワールさん....」
ゆっくりとした動きで俺の手を握り。シャマルを引っ張り立たせる。
「もうお前にはもう、帰る場所も家族もいるだろ?さ、帰ろうぜ」
「はいっ!」
荷物を持った二人はゆっくりと八神家へと歩き出した。
家へたどり着くその間もシャマルはノワールの手を握ったままだった。
side シャマル
シャマルは家の前であまり遅くなるわけにはいかないからと言うノワールと別れ玄関から中へ入ると丁度、出かける身支度を済ませた、はやてとシグナムと出会った。
「おかえりシャマル。どこ言ってたん?」
「あ、いえ。ちょっと料理の練習をしようと買出しに」
咄嗟の嘘ではあったが。買い物袋の中身からそう言い訳するほか無く。
ノワールを観察して戦闘行為(殺傷未遂?)を仕掛けた事などいえるはずもなかった。
「ほう、料理か。なら買出しは必要無さそうですね我が主」
「うん、そうやな。なに作るんや?」
シャマルは内心冷や汗を掻きながら買い物袋の中身を見せる。
「お~カレーやな~」
ノワールに見せたメモはテレビなどの料理番組などで紹介されていた物を人数に合わせて書き出したものであり。コリアンダーなど本格的な香辛料も同時に購入していた。
中身を確認するはやては、本格的な物の多さに驚き。分量なども概ね丁度良いと判断し。
「よっしゃ!なら、シャマルの練習がてらにカレーつくろっか!」
「なっ!?」
実のところシャマルの料理の腕前は既に把握済みであり。シグナムが隠すことなく声を漏らしていた。
それが振舞われた日には食いしん坊のヴィータが死んだ魚のような目なっていたとか。
「あ、で、でも~。大丈夫です、かね?」
「大丈夫や。多少不器用でもカレーは美味しくできる。世界の軍人さんがサバイバルに持っていくのはカレー粉って言うくらい、カレーは万能なんや。手伝いや味見とかはわたしがするさかい、心配せんでええで」
この日、八神家では少々、具の形が歪だが美味しいカレーが夕食に振舞われたのだった......
この間クーラーを使い出したと思ったら一瞬でお払い箱になるような時間の過ごし方をしている作者ですが皆さんいかがお過ごしでしょうか?
今回はお姉×ショタ....じゃなかった。シャマルの話でしたね。(間違ってもいない)
案外、落ち着きがあって急に環境が変わって戸惑いを見せない人のほうが案外、心の奥でストレスなどを抱えこんでしまったりする、そんな心理描写を描いてみました。
次回は一応はあの赤い人の話。
今年中にAS本編行きたいな~と思いつつも全然筆が進まない作者をお許しください。
AS本編までによく考えたら結構な話数入れるプロットになってるんですよね....
タブレットPC来たら本気出す!お出かけ先でも執筆や!
※読んでくれてありがとうございます!感想などなどはお気軽に!
※誤字脱字などの指摘もどんどんお願いします。
※また誤字脱字や妙な言い回しなど見つけ次第修正しますが特に物語りに大きな影響が無い限り報告等は致しませんのであしからず。
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神様などに一切会わずに特典もなくリリカルなのはの世界へ転生した主人公。原作知識を持っていた筈が生まれ育った厳しい環境の為にそのことを忘れてしまい。知らず知らずの内に原作に介入してしまう、そんな魔導師の物語です。 ※物語初頭などはシリアス成分が多めですが物語が進むにつれて皆無に近くなります。 ※またハーレム要素及び男の娘などの要素も含みます。さらにチートなどはありません。 初めて読む方はプロローグからお願いします。