No.807134 Another Cord:Nines = 夏祭り騒乱篇 =Blazさん 2015-10-09 21:36:40 投稿 / 全4ページ 総閲覧数:723 閲覧ユーザー数:637 |
狭間と間
世界の狭間
世界の狭間には何がある
何も無いと人は言う
しかし、狭間に意味はある。
全てを別つ大事な線。
そしてその線の間にもほら
―――狭間の世界が…
次元世界の数ある事象。
その中には特異的空間というのが数多く存在する。
その一つが後に旅団の拠点となったり、それに敵対する組織。そして極秘裏にではあるが時空管理局もそれに気づき始めている。
しかしこれはその中でも飛びぬけて特異と言える例
次元世界と次元世界の狭間
そこに新たな”世界”が誕生したのだ。
真実は定かではないが、その生れ落ちた世界はいわば楽園といえる環境が整った世界。
自然豊かで、砂漠が広がり、荒野が照りつけ、大海が見える。
そんな世界に生きる者が現れればどうなるか。
何時しか環境を破壊し、自分たちの物とする…
そう思われたことがあったが、今ではそんな考えは当の過去のものとなっている。
人と自然と生物と。その全てが共存し、奇跡とも言えるバランスを保つ小さな世界。
科学・魔法・魔術・術式・精霊
歪な存在が微妙なバランスを取り合い、均衡を保つ世界。
これはそんな世界での幕間の物語―――
= 狭間の世界 ノイシュタット市 =
狭間の世界に幾つか点在する人々の住まう街。
街の風景は中世的なものが多く、現代的科学に溺れた世界に居る者が来れば、たちまち自分がタイムスリップしたかファンタジーの世界にでも迷い込んだのではないかと思える光景がそこには広がっている。
無論、その考えは半分は正解ではあるが同時に正しいとも言いきれない。
その理由はこの世界が主に三大の力が存在しているというのが大きな原因だ。
人が永い間に確立した科学。
人ならざる者達などが扱う魔法、魔術。
更にそれらとは一線を引き、科学とも魔法とも異なる神力の精霊。
これらがこの世界で混ざり合い、絶妙といえるバランスを保ち続けこの狭間の世界は均衡を保たれているのだ。
そして。その世界で今日、年に一度の夏の大祭りがノイシュタット市で行われており、そこには馴染みのある彼らが姿を見せていた。
「お。やってるやってる!」
「夜の八時回ったってのに活気あるなぁ」
「確か連日十時まででしたっけ、夏の大祭り」
「うん。場所はノイシュタットの中央広場から第二円形環状道路まで。店は…」
「んなの後でいいだろ。先に楽しんどけよ」
まるで和と西洋が混ざり合ったような屋台と賑わいのある街道の道をBlazたち一行は目を輝かせて歩いていた。
年に一度、四季の祭りの中でも一、二を争う規模のものであり、そこには文化や人種。種族といった隔たりはなく皆、活気溢れた様子でそれぞれ祭りを楽しんでいた。
典型的といえる食べ物系。醍醐味といえる射的やくじ。魅力あるものばかりが並び、どこも人だかりが多く集まっていた。
「しかし、今年も凄い人数だな。確か遠くの街からも出店者いるんだろ?」
「和式城下町の連中も、年に一度のこの大祭りだ。死に物狂いで張り切ってたってよ」
互いに祭りの出店を見ながら言葉を交わすBlazとアルトは何か興味のある、面白そうな店はないかと見回しており、彼らの鼻や目にはそれだけでそそられる香りや煙があちらこちらから立ち上っていた。
「おまつり~♪」
「ニューは相変わらず張り切ってるね」
「何せ、最近はミィナに浴衣着せられてるからな」
「え。強制?」
「多分本意でだろ?」
そう。面々の中でニューは一人身の丈に合った水色の浴衣を着込んでおり帯にはどれだけ楽しみにしていたのかと言うのが分かるように祭り用のうちわが入れられている。
髪型も長いロングストレートから可愛らしいサイドテールになり、浴衣とロングヘアーで動きにくいという事にならないようにしている。
ただ、矢張り浴衣姿という事で軽い音を立てる下駄をはいているという事で普段のように走れるという事だけはできないようだ。
「ニューちゃんかわいいなぁ~♪」
「アーチャー、ヨダレよだれ…」
「あ、スミマセン…」
「こりゃ連中と会うころにゃどんな反応になってるか…」
今回、Blazたち一味は狭間の世界での祭りがあるということでしばらくそこに居を構える事にして、其処に居る知人たちを頼りに管理局などから雲隠れしようと思っていた。
が。何処から漏れたのか、ディアーリーズたちにも知れ渡ってしまい、結局彼らと共に祭りを楽しむという事になってしまったのだ。
「まさかラヴァーズ連中が揃って参加とはな…」
「それに他の奴も来たんだろ?」
「まさかの大円団だなこりゃ」
そんな彼らとの待ち合わせは、街の中央に位置する巨大な噴水広場で祭りなどの時には主にメインイベントの会場などに使われる場所で、その広場を中心にこの街は広がっている。
また、広場は街の中でも名所に数えられる場所であり、そこでの恋愛はかならず成就するという噂が実しやかに囁かれている。
それ故にBlazたちは広場を待ち合わせ場所にしたのではないかと思えてしまい、あながち間違いではないという事でどうにも素直に笑えなかった。
「ディアは大変だなぁ…」
「全くだ。つかアイツのトコ日に日に増えてないか?」
「ディアーリーズさんの変な性質ですよね…」
街の中心に位置する噴水広場。街に住む者や知っている人々はその辺り一帯を「セントラルエリア」と称している。街の中心地でありノイシュタットから一帯の街の中ではこの街が一番大きい、なので中心地という表裏のある意味からとられた称し方だが、殆どの住人たちはこの表の意味のみを受け取っている。
そのセントラルエリアではイベントの用意が着々と進められる傍ら、彼ら以外にも多くの人が待ち合わせの場所として使っていた。
「ですが、凄い場所ですね。ココ…」
改まった様子でぼやく朱雀は、中心にある巨大な噴水を見て思わず口を少し開けたまま周囲を見回す。活気ある街の中心に青々とした水を出す噴水の水は、地下で蒸留されたもので飲み水としても最適なものだという。
そして、その水を湧き出す噴水の周りを囲むように住宅が並び、殆どの窓から明るい光が照らされ、その中には人が顔を出して外を眺めていたりもしている。
夏の風物詩である祭りということで住む人々も興奮と歓喜に溢れていたのだ。
「人の集まりも凄いが…その人や活気も劣らないな」
「ええ…人だけじゃなくて、それに近しい種族やエルフもちらほら見かけますね」
素直に驚く顔をするげんぶと刃はまだ集まっていない面々を探しつつも辺りを歩いたりしている人々の姿や身なりを見てそう声を漏らす。
現代的な身なりをするものが居れば、中には中世的なものや古風な服装をした者。魔術師や魔導師といった者。剣士と呼べそうなものなども紛れ、更には時折ではあるがエルフと呼ばれる者達も刃は見かけたようだ。
「ここは節操無く全てを受け入れる世界。故に、時代にも種族にも隔たりはないのだよ」
「――よく知っているな、白蓮」
「ああ。まぁな」
げんぶの隣で先に出店で買ったチョコバナナをほお張る白蓮は得意げな顔で答えるともう一口、チョコだけのとなったバナナをかじる。甘いチョコとバナナの味がクセになるチョコバナナだが、買ってきたチョコバナナは普通の縁日のとは比べ物にはならない味わいで、嬉しそうな表情で彼女は見つめて食べる。
「………。」
「旨いか?」
「んむ?」
「いや、旨そうに食べてるからな」
「ああ。そこそこにな」
「夫婦団欒ですね…」
「なんか僕らお邪魔というか…なんというか…」
「そういう見られ方に…なっちゃいますね…」
夫婦団欒の光景を見せ付けられている朱雀と刃は、速く他のメンバーたちが来ないかと、出店せに買いに出た者達が戻ってこないかと。
自分たちだけ、居る場所に気まずさ感じていた二人は無言ながら願っていた。
そこへ彼らの願いを叶えたかのように出店に行っていたキリヤたちが小さな袋を抱え、彼のパートナーであるリリィと一緒にげんぶと白蓮の娘である蓮も連れて戻ったのだ。
「あ、キリヤさん」
「おう。二人共またせたな。注文どおり、焼きそばととうもろこしだ」
「すみません、わざわざ買いに行ってくださって…」
キリヤたちが戻ってきたことにホッと一息する二人は、彼に頼んだ(というよりも頼めといわれた)出店の食べ物二品を受け取り、刃はトウモロコシ、朱雀は焼きそばをそれぞれ食べ始める。出来立てという事でまだ湯気が立つ食べ物に冷ましながら食べ始めた二人だが、ふと戻ってきたのがキリヤだけというのに気づき、本人にパートナーと蓮はどうしたのかと訊ねる。
「って…リリィさんの蓮ちゃんは?」
「ああ。二人はもうすぐ――」
「キリヤさん!!」
「っと…」
「あら」
すると、キリヤのすぐ後ろから肩で息をするリリィがようやく追いつき、体力が消耗しているにも関わらずその怒りをキリヤへとぶつける為に声を張り上げた。
「もう、一人で先に行かないで下さいよ!」
「わりぃ。二人に先に渡そうって思ってたからよ」
「だからって…わたし、浴衣は慣れてないんですから…!」
疲れた声で顔を上げたリリィの浴衣姿に、思わず刃と朱雀も一瞬見とれてしまい、互いに口の動きを止めていた。
黒と青の下駄を綺麗な足で履き、薄い青と白の浴衣を着ているリリィ。しかしそれだけではなく、彼女のストレートヘアーは今回は髪を後ろでまとめて白いバレッタで止めているというので、少し普段よりも可愛らしさが強調されている。
青帯と小さな巾着を持ち彼女自身もかなり祭りを満喫していたようだ。
「り、リリィさんですか、アレ…」
「ああ。手伝いはミィナにしてもらったけどよ」
「え、髪までも!?」
「本人が動きにくかろうって言ってよ。んでものは序でにって錬金術でバレッタも作ってもらったって理由さ」
「へえっ……」
「買って来たよ~♪」
「ん。よかった、無事に戻ってこれて」
「ああ。何を買ってきたんだ、蓮?」
「りんごあめだよ」
口の周りを赤くしながらほお張る蓮はそういってかじった後のあるりんごあめを二人に見せる。白地にハスの模様がある蓮の浴衣はもしこぼしてでもすれば白地に付いてしみになってしまう。それだけはどうしても避けたいと思っていた白蓮は、一旦彼女からあめを預かると持って居たハンカチを使い彼女の口元についたあめの後を綺麗に拭き取る。
「食べるのはいいが、こぼしては駄目だぞ」
「はーい」
「にしても白蓮さんの浴衣姿…」
「ええ…」
「自分たちも正直最初は驚きましたよ。海の時といい、白蓮さんはスタイルいいですからね…」
と言って恥ずかしそうに答える刃は、白蓮のほうへと振り向きたくないのかその言い訳のようにとうもろこしを回しながら食べ続ける。
リリィもそれは同じようで特にリリィは男性はああいうのが好みなのかと感じているほどで頬を赤らめながら何度も白蓮の浴衣を凝視していた。
白蓮の浴衣は蓮とは逆に黒い浴衣でアサガオの模様が綺麗に散りばめられている。
しかもそこから彼女の生足が大部分出ており、しかもポニーテールに結ばれているとなるといよいよ誰でも見惚れるものになってしまう。
たとえそれが男性であっても女性であっても、スタイルのいい彼女のそのすわり姿を一目見れば二度見、三度見は確実だろう。
「白蓮さんの趣味なのか好みなのか…見るに見れませんね…」
「ははは…若いな青少年諸君」
「そういうキリヤさんは鼻血垂れてますよ」
素直に恥ずかしがる朱雀と刃の隣では思わず凝視して硬直しているキリヤが鼻から鼻血を出しながら答えており、その姿はまったくと言って説得力が無いものであった。
そんなキリヤの姿をみてリリィは怒りを覚えると同時に「やっぱり男の人は…」と独り言のように呟き、自身の体へと目を落としていた。
しかし、彼らの周りではリリィや白蓮の浴衣姿に目を止める者が多く、中には欲求をかき立てられたような様子で見る者や気持ち悪く息を吐く者も居た。
が。周りにはげんぶやキリヤたちが居ることから彼らを羨ましがったり、ねたんだり、果ては殺意を抱く者も居たのだった。
そこへ、漸くBlazたちも到着し彼らも浴衣姿のリリィや白蓮に驚いたり目を輝かせていたりしていた。
「おまた…って、お前等気合入りすぎだろ…」
「白蓮の姉さんは相変わらず狙ったような服装だな」
「ん。来たか、若人ども」
「あ。皆さん」
ちなみに今回、Blazたちの中で浴衣を着ているのはニューのほかにミィナとアーチャーの二人。しかしミィナは別件で現在不在で残る参加メンバーと共に集まることになっている。
アーチャーはワインレッドの浴衣で銀色のラインで十字の模様があしらわれてり、更に胸元の辺りにも銀色の十字の紋様が付けられている。
何故そこまで十字に拘るとアルトに突っ込まれたらしいが、本人曰く好きな紋様だからということらしい。
「アーチャーちゃんも浴衣なんだね」
「はい。お祭りは大好きですから、ね」
「にゅ♪」
「浴衣は大丈夫なんだね、リリィ・マッケージは」
「はい。まだ慣れないんですけどミィナさんには感謝してます。バレッタも作ってくださいましたし浴衣の手伝いもあの人のおかげですから」
「イタズラ好きだけど、こういうのは真面目にやる奴だからな」
「にゅ~」
「にゅ!蓮だ~♪」
集まったBlazたちは互いの浴衣などについてを話していたが、ふとリリィはその浴衣を手伝ってくれた人物。ミイナが居ない事に気づくとそれを知っているだろうBlazへと訊ねる。
「あ…Blazさん。ミィナさんは?」
「ん…ああ。ミィナの奴は今祭りの委員会だ。アイツや俺たちは何かとココの街の連中にゃあ重宝されてるらしいからな」
「重宝…ですか?」
「俺たちは流れの雇われとしてこの世界に居る。んで、街の周囲やこの世界で並の連中じゃ出来ない依頼を頼まれるって事になっててな。
その条件として俺たちはココに居を構えられてるし生計も立てられてるって事だ」
「生計?指名手配とか討伐とか…ですか」
残った焼きそばをすする朱雀の質問に縦に顔を動かすBlazは続けて説明するように彼らへと話す。
「この世界じゃ、流れた生き物が独自の進化を遂げたりする。中にはそれで危険な奴等もいるからな。オークや竜。幻獣や
「覇獣?」
「覇王の獣。動物の生態系の中でも最上位を争う奴等だ。主にそういう奴等が居そうな場所に居るぜ」
「……まさか、シュレイドのモンスターとかじゃ…」
「居るにゃ居るがあいつ等ここじゃ大人しいぞ?」
「え…」
シュレイドなどの世界から漂流したモンスターたちは先ほどの覇獣や幻獣たちとの覇権争いに落とされ、その殆どがそれらから離れた場所に居るという事が確認されている。
例にあのティガレックスもその一つで、雪山に居る草食獣を捕食しようとしたところを幻獣に追い返されるということがあり、それによって雪山の一角が破壊。ティガレックスは大怪我を負い、その雪山の一帯から去ってしまったという。
「じゃあ古龍も…」
「さてな。あいつ等はここじゃみねぇからな」
話が逸脱し始めていたところを、ところで。と話を切り替えたアルトに対し全員が耳を傾けるか顔を向かせると全員が彼女の問いに聞き入る。
「あと二人、来るんじゃなかったか?」
「ああ。支配人さんとディアーリーズさんですね」
残る参加メンバーである支配人とディアーリーズ。
しかし刃曰く、両名ともどうやらついて来た
当然。ある程度は分かっていた彼らだが、案の定ともいえるその在り方に頭を抱え、一応何人来ているのかとBlazは彼らと共に来た朱雀へと訊ねた。
「で。アイツ、何人連れてきてた?」
「八人…と咲良ちゃんですから…」
「ディアを合わせて十人…えげつないな…」
日に日に増えるような感覚のディアーリーズの周りの女性人についてある種の恐怖を覚える一同。しかもそれが現在進行形で増えているとなればより戦々恐々とするだろう。
なにせ彼の周りには個性豊か過ぎるのが集まり、しかも戦闘能力もそこそこにあるという者達ばかり。
更にはもし彼に何かあれば、危害を加えれば呉越同舟で結束して殲滅にくるなど。
(しかもプラス二人だからなぁ…面倒になるのは確実か…)
それが日を経つほどにとなれば、果たしてどうなるのだろうかという興味とそれによる恐怖が考える者達の脳裏を過ぎていく。
過去にもラヴァーズ全員からの一斉攻撃というのはあった事で、その時の被害者は蒼崎とkaitoの二人。kaitoはそこそこの傷で済みはしたが、蒼崎の場合は全治五ヶ月となり、しばらくは病室に文字通りにくくりつけられていたという……
「……Blazさん?」
「…多分。アイツのことだからそろそろ……」
Blazが独り言をいい、この後に起こるだろう出来事を予想していたとき。
凍り気味だったその場に支配人が合流し、彼らへと声を掛けた。
「おーい!遅れてすまーん!」
「あ。支配人さんだ」
「…って。アレ?」
「妙に人数が……」
が、妙に支配人の周りに人が集まっていると思い、目を凝らしてみてみると彼の周りに三人。見たことのある女性がついてきていたのだ。
彼女達を見たキリヤは「あー」と声を漏らし納得げな顔で見ており、支配人も少し申し訳なさそうな様子で彼らの前に立ち止まった。
「スマン。こいつ等の浴衣に手間取ってなぁ…」
「こいつ等って…」
「あ…」
「やっほー!」
「んむ?見慣れん奴らがちらほら居るのぉ…」
黒地に赤い椿の花の模様をあしらった浴衣を着る少女が支配人の後ろに一人、彼の袖を引っ張るように立っており、逆に彼の前には白地に撫子の花をあしらった浴衣を着た天真爛漫な少女が両手に一杯の食べ物を持ち、その近くには赤いワンピース姿の女性が一人。手に綿あめを持ってほお張っていた。
Blaz一味の中には彼女を見たことが無い、見たことの無い者も居たようで互いにそれに近しい反応を見せて顔を見合わせていた。
「あ。フィアちゃんとユイちゃん!」
「あ!リリィだ!」
「あ…その…」
「相変わらずの人見知りだね、ユイちゃんは」
「………。」
しかしリリィたちとは面識があるのか、先頭にいた少女は彼女に気づくと真っ先に向かっていくと親しげなようすで自身の浴衣の自慢を始める。
その彼女になにを思ったのか溜息をする白蓮は、連れてきた本人である支配人へと呆れた様子で訊ねる。
「また馬鹿喧しそうな奴等を…理由はお前か、支配人?」
「ああ…本当は土産だけでもって思ってたんだが…」
「興がわいたのでな。ものは序でにと来たしだいじゃよ。本郷の妻よ」
「……しかもよりによってそこの女もとは。いやはや…旅団の男どもは女に節操が無いと見たよ」
「それは言わんでくれ白蓮さん。そんなのはディアだけでいい…」
白蓮はどうやら彼女達の性格が気に入らないのか、不満げな顔で支配人へと目を向ける。その目は脅迫的なものもあるのか、にやけた顔だというのに彼の額からは汗がにじみ出ていた。
そんな彼らの話についていけないBlazや刃、朱雀たちは白蓮たちに彼女達は一体誰なのかと問いを投げる事にした。
「…白蓮さんよ。支配人が連れてきた奴等は…?」
「僕達も初見ですね…」
「ん?ああ。そうか。お前等、タイミング悪く居合わせないときがあったからな」
「――なら。順に紹介するぞ」
最初は、と言って自身の袖を掴んだまま警戒したようすの少女を自分の側面まで誘導すると、彼女を安心させる為にと軽く頭に手を乗せる。
恥ずかしげな顔をしつつも懐いたような様子でいる彼女はそのまま彼に成されるがままで、その間にと支配人は紹介する。
「コイツはユイ。俺の妹だ」
「え、妹さんですか!?」
支配人の紹介に驚いたアーチャーと鈴羽そして刃と朱雀はあからさまに信じがたいという顔で支配人とユイの顔を見比べる。
それも一度や二度ではなく何度も見比べで顔を頭の中に記憶させ、それが終わると最後にはジッと支配人と顔を睨み続けていた。
記憶に焼きついたユイと支配人の顔。
結果は…
「「「………似てない」」」
「いやそりゃそうだって」
否定することなく兄妹似てないことをすんなりと受け入れた支配人は理由を知らない者達に言い訳をするかのように説明を始める。
「ユイとは血は繋がってない。訳あって俺の家族であるってだけ」
「ワケ…ねぇ」
目を細くしてユイを見るBlazは彼女の身なり姿を調べるように見ていき、視線を感じたユイは恥ずかしげではなく怖がったようすで再び支配人の後ろへと下がってしまう。
(…見た目は誤魔化してっけど。なんかアイツ…)
(もしかして…バレ…てる…?)
「で。次は…」
「フィアレスだよよろしくねー」
「………って事でフィアだ」
イカ焼きを食べながら軽々しく挨拶をするフィアに苦笑する支配人。
どうやらあれが彼女フィアの性格のようで朱雀は正反対ですね、と若干引き気味に呟いていた。マイペースというより前向きな性格なのだろう。
当の本人はイカ焼きを食べ終えると直ぐに次のたこ焼きに食べかかり、出来立ての湯気を立たせるたこ焼きに息を吹きかけて冷ましていた。
「ってまだ食うのかよフィア…」
「んむ……だって…んぐっ…そのために買ったんだし」
「……後になって満腹になってもしらんぞ」
「既に腹七分目辺りじゃろうて」
「…で。その、仙人のような話し方をする方は…」
「ん。フレイアじゃ。まぁ
老年の人物のように話すフレイアはその言葉とは似つかぬ容姿を持ち、彼女を一言で評するなら若い女性だ。
だが服装はどちらかというと時代遅れの感じがあり、着たとしてもその違和感だけは彼らは拭えなかった。
(大抵「のじゃ」とか言ってる奴って見た目若くて中身は老人なんだよなぁ…あの駄狐みたいに)
(また年齢層が上がりそうな人が…)
(……寒くないんですかね?)
ちなみに今日の気温は28度。肌寒いというにも少し寒すぎる気温だ。
それをワンピース一枚でとなれば見ている方も肌寒さを感じてしまう。彼女はそれを祭りの熱気か何かで補おうとでも考えているのだろうか。
外の寒さに身震いを感じた刃は残っていたトウモロコシを食べてまだ暖かい粒を身体の中へと落としていった。
「…んじゃ顔合わせとか終わったし、しばらく自由行動にすっか」
「あ。Blazさんココでのイベントって何時からですか?」
噴水広場では今回の祭りにあわせて大きなイベントが催しされている。
祭りということで音頭など、とまでは行かないが音楽イベントだったり景品が貰えるイベントだったりが開催され、祭りの中では一番の目玉となっているのだ。
特にその時間に合わせて花火も打ち上げられる予定になっており、それもまた目玉の一つでもあった。
一応ミィナが祭りの関係者ということでBlazも正確な時間は聞いており、リリィからの問いに自分の持ち金を確認しながら答えた。
「十時半だ。会場は噴水広場の北側」
「イベント参加の用意は終わったのか?」
「はい。私とアーチャーちゃん。ニューちゃんと蓮ちゃん。それとフィアレスちゃんとユイちゃんも」
もう六人も参加したのかと苦笑する支配人とキリヤはやる気満々な彼女達の姿を見て微笑ましくも心配な様子で見ており、げんぶは娘である蓮が張り切っている姿を見てあまり無理はするなよ、とだけ言った。
「今、丁度八時半だからそれまでの二時間、適当に出店とかで潰しとけよ。店の数だけは尋常じゃないからな」
「あと普通の店も開いてるから、少し飽きが来たらそこでティーブレイクとればいいぜ」
「オッケー隙を見てそこで休憩するさ」
恐らく特定の一名に振り回されるだろう事を悟っていた支配人は隙を見て逃走する決意を固め、それを教えてくれたBlazたちに涙を見せた目でサムズアップをしていた。
しかし当の原因たる本人は気づいておらず、黙々と次のタコせんべいを食べている。
ちなみにこれで四品目だ。
「……?」
「……で。皆さん一緒に行動するんですか?」
「別にディアじゃねぇんだからそれは無いぜ、朱雀よ」
前もってげんぶたち夫妻とキリヤたちは別行動と言っており、彼らだけで楽しみたいということからBlazもそれを了承していた。
ただ、その代わりげんぶの方では蓮を預かって欲しいということで残るBlaz一味、支配人たち。刃と朱雀というメンバーが残る集団行動ペアとなった。
「んじゃ。あめ娘は預かるぜ」
「頼むぞ、Blaz。だが…」
「だが?」
「もし蓮に何かあったら……」
強面の顔が前面に押し出され近づいてくる様にBlazは落ち着けと制し、大丈夫だって、と本心ではそう思っているのかどうか分からない事を口走ってしまう。
だがBlazの場合、怖いと思っているのはげんぶよりも妻の白蓮のほうで彼女からの無言の圧力に無意識に言葉が先に出てしまったのだ。
「……承知せんぞ」
「お、おう。任せとけ…」
「Blazさんも大変ですね…」
「全くだな…」
「何言ってる。お前達もだぞ。男共」
「「「え!?(僕もですか?!)」」」
そして。何時の間にやら支配人たちも巻き添えを喰らったのだった…
所変わり、南側の第二円形環状道路。
ここでは俗に言うB級グルメというものが多く立ち並び、他の場所に比べ熾烈を極めていた。
だがその勢いに負けず劣らず、というより勝る勢いで騒ぎ立てる一行がそこで騒ぎと言うなの何かを起こしており、それに触発されて料理人たちの熱すぎる戦いが繰り広げられていた。
「おっちゃん、そっちの野菜斬って!!」
「調味料の量は…」
「オラオラオラオラオラオラオラ!!!」
「ボラボラボラボラ…!」
「…………。」
それぞれの出店の中で店員たちと共に暴れる少女達。
そしてそれを呆けた顔の死んだ目で眺める青年。
熾烈を極め、熱気に包まれる中で青年は独り言のように呟いた。
「………どうしてこうなった」
頭を抱え、そう呟いた青年ディアーリーズは一人自分の状況に無責任さを呪い落胆した。
ことの始まりは今から数時間前にさかのぼる…
偶然、狭間の世界で夏祭りを行うと耳にしたディアラヴァーズたち。
ディアーリーズに好意を持つ彼女達は少しでも彼と距離を縮められたらと思い、夏祭りを千載一遇のチャンスと捉えていた。
この機会を逃せば次は何時このようなイベントが行われるかわからない。争奪戦さながらな雰囲気の中、ラヴァーズはディアを無理矢理にでも狭間の世界に連れて行こうとした。
が。当の本人は二百式から頼まれていた旅団内での仕事が残っていたのでそれを行うと拒否。
しかし諦めきれない彼女達は強引無理矢理にディアを連れて行き、げんぶたちの乗った次元航行機に密航する。
元々げんぶたち広場に集まった面々とディアに頼まれてBlazが預かった咲良だけだったはずで彼も一応は後で合流するはずだった。
だがラヴァーズたちの阿吽の呼吸にディアは成す術なく拘束。密航後はげんぶたちが西から入ったのに対し南側から入った。
大規模な祭りということで楽しむ彼女達の傍ら、ディアは残してきた仕事に未練と罪悪感を残しつつ彼女達に連れられて行った。
そんな中、積極的にアプローチを行う彼女達に触発され出店を開いていた店員たちも釣られてヒートアップ。遂には店の間で対立状態になり火種であったラヴァーズたちも加わり現在の混戦に至る。
「はぁ……帰りたい…」
ちなみにディアが危惧している仕事については二百式も同じくある人物に無理矢理連れて行かれたというのを後で知ることになったという。
「待ってなさい、このデカチチ共ぉ!!」
「寝言は寝て言えこのスットコドッコイッ!!!」
「あらあら。五月蝿いハエどもですねぇ…」
「…………。」←無言の威圧
「帰って良いですか……いいですよね?」
何時も以上に殺気立っている女性陣にディアは居心地が悪く今すぐに帰りたいと思い落胆していた。
無理矢理連れて行かれ、しかも自分の自由行動が縛られているとなると彼でなくても気を落とすのは無理も無い。だが彼の場合は更に「それでも逃げてはいけないだろう」という優しさも付与されている為よけいに動きを制限されているのだ。
故に。現在ディアは審査員席といえるテーブルの上で涙ぐんだ声でうつぶせていた。
《ヴィー、ヴィー》
「………!」
そこにディアの懐に忍ばせていた端末が振動し何かの知らせを報じる。
誰かかの連絡かメールかな、と振動数で考えていた彼は端末を取ると画面に表示された着信画面に嬉しくも出にくい複雑な思いを顔に見せていた。
「………もしもーし?」
『あ、お兄ちゃん!咲良だよ!!』
「うん。咲良どうしたの?」
電話相手は妹の咲良。
一応彼女にも携帯端末は持たせているが操作に慣れなかったりするのか中々電話をかけてくることがない。
しかも今回はもう一つ理由があり、それを察したディアはあえてそこを言わずに罵倒罵声が響く外から嬉しげな咲良の声に耳を傾けていた。
『ふゆ。お兄ちゃん、お仕事終わったかなって。それででんわしようかなって思ったんだけど…』
「美空さんから借りた?」
『うゆ…』
「大丈夫だよ咲良。きっと慣れるって」
着信画面に咲良ではなく彼女に同行した美空からの電話だったことにディアは大体の予想は付いていた。
恐らく操作が余り慣れていない咲良に変わり電話とメール程度なら問題のない美空が変わりに自分のを使って連絡を入れた、という事だろう。
咲良と美空の携帯端末は高性能な通信性とGPS機能をつけている。
これはokakaやawsたちが付けてくれた機能であり、二人とBlazそしてUnknownが「その気になれば投影式の
「今何処に?」
『えっとね…
「ああ。東の第一円形環状道路……たしか的当てとかが一杯ある所だね」
『うん。フィアおねえちゃんと一緒にやって楽しかったよ♪』
「そっか。あまり迷惑かけちゃ駄目だよ?」
『はーい♪』
「…よし。なら後は美空さんに代わってくれるかな?」
『うん!』
スピーカーの向こうでは「お兄ちゃんが代わってって」と咲良がいい、おぼつかない様子で答える少女の声が聞こえた。そして手に移された音が聞こえるとスピーカーの向こうからは少し落ち着きつつも緊張している声が聞こえてきた。
元は仕事終わりに一緒に行く予定だったが先に楽しんで貰いたいからと言って支配人たちに頼み咲良と共に先に行かせた少女、篝美空の声だ。
『お電話代わりました』
「美空さん。そっちはどうですか、楽しめて…?」
『は、はい。ちょっと驚いたりする事もありますけど支配人さんが気遣ってくれているので…』
預かりはBlazであるが一応連帯責任を押し付けられているようなものなので、ディアにとっては彼女達二人が楽しめていれば旅団メンバーの誰でもいいと言うことらしい。
しかしそれが本心として漏れれば確実に団長のクライシスだけでなく他の参加していたメンバーからの粛清が行われる。
「そうですか…何か美味しいもの食べられましたか?」
『はい。色々と…いっぱい…//』
「………。」
久しぶりに思い切り出来たのだろう。
恥ずかしがる声に嬉しさが混じっているのに気づきディアは小さく息を吐いて安堵する。
彼女も色々とあり少し気を落としがちであったが、今回がそのいいガス抜きになったのだろうと嬉しそうな声を出していた彼女の顔を思い浮かべた。
『ウルさんも…きてくださいね』
「え、ええ…僕も仕事が終わったら直ぐに向かいます」
『…はい……!』
「ディアーリーズの奴と連絡は終わったか?」
「あ、はい…」
「アイツも災難だな。蒼崎と青竜の仕事を押し付けられて二百式にも頼まれて…」
その二百式が現在、一人の女性に振り回されていると知らずに並んでいる店を回る支配人たち。
賑わいは良く、様々な時代の人々やエルフたち。更には人外といえそうな者達も紛れて楽しんでおりこれがこの世界の雰囲気なんだと支配人は改めて思い知らさせる。
「まぁアイツのことだ。直ぐに終わっておっつくさ。それまでに腹は開けと、け…」
「…?…どうしたの?」
突然、硬直した支配人にユイは彼の裾を引っ張りつつ訊ねるが、彼は固まったままで彼女の声にもぴくりとも動かず、心配になった美空とフレイアは彼の視界に回って手を振った。
後ろを振り向いた瞬間に固まってしまった支配人が一体どうしたのか。
それは彼女達が支配人に呼びかけた直後に分かることとなった。
「あ、あの…」
「なに呆けてるんじゃレイよ?」
「…うしろ?」
支配人と一緒に行動していたメンバーはユイ、フレイア、フィアレス、美空そして咲良の計六人。
だが。その中で。
「「「………………あれ?」」」
= 市内第二円形環状道路・
「あれ?」←ソーセージを銜えている
「にゅ?」←綿雨を食べてる
「うよ?」←たこ焼きをほお張っていた(口にはソース)
まさかの天然三人トリオが迷子となった(蓮のみ迷子ならず)
しかし問題はこれだけでは留まらなかった。
彼ら旅団メンバーに降りかかるトラブルは、何時も唐突に且つ盛大に行われるのだ。
「見つけたよ…ウルティムス……!」
新たな役者が一人。ディアーリーズを狙い、その時を迎えようとしていた。
オマケ。
終了時の各メンバー行動一覧。
Blaz一味
蓮と刃を加えて東側を遊山。しかしニューが突如居なくなる。
支配人チーム
美空と咲良を加えて西側を行動。同じくフィアと咲良がどこかに行ってしまう。
キリヤ三人チーム
朱雀を入れて行動。現在南側へと移動。しかし間が悪いのか途中で朱雀は東側へ。
本郷夫妻
西側を遊山。時折支配人たちの姿は確認している。
ディアとラヴァーズたち
南側で食戟。咲良が迷子なのは知らない。というか知る事もできない。
迷子トリオ
現在北側に集結。気にせず徘徊。
狭間の世界について。
始まりは次元世界間で起こった
近くには無人世界で管理局からも手が届かないところに位置する。
環境は非常に良く、多少人の手が加えられても問題がない、というよりも共存が殆どで人類最強という価値観はあり得ない。
その理由にこの世界で変異した生物や異世界から漂流したモンスターなど。更に覇獣が君臨している為に自然に成り立ったもの。
ノイシュタットのように人々の殆どは街や村を形勢し自警団を組織しているが、覇獣などの手に負えないこともあるのでそこをBlazたちが請け負っている。
イティイティ島から拠点を移したBlazたちはこの世界に住んでおり、自警団などでは解決不可能な案件を請け負って生計を立てている。
ちなみに住んでいるのはノイシュタットから北東に離れた小さな町「タウンメリア」。
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大変遅れての投稿。
元は九月辺りに出そうかなと思ってたんですがね…
時間は戻って夏のお祭りに起こった事件です。