No.80034

帝記・北郷:十八~二雄落花:二~


お久しぶりです皆様。
ここのところ体調を崩してずっと伏せっておりました。遅くなりましたが、帝記・北郷連載再開と参ります。

オリキャラ注意

2009-06-20 06:26:13 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:4118   閲覧ユーザー数:3509

『帝記・北郷:十八~二雄落花・二~』

 

 

城壁の爆破。それに続く数に勝る蜀軍の侵入。

この状況を打破することなど、稀代の神将をもってしても到底不可能。

かくして龍志率いる呉軍の立てこもる柴桑城は蜀の攻勢の前に今当に落城の憂き目を見んとしていた。

柴桑城西門。爆薬によって吹き飛ばされた城壁の惨状の一望できるそこの城壁に佇む、黒き男が一人。

未だに漂う火薬の臭いが男の西洋風の外套に絡みつき、男は見えるはずのないそれを振り払うかのように外套を鳴らす。

それに合わせて、男の赤みのかかった黒髪がさらりと揺れた。

「琥将軍!!」

男の元に駆けて来る兵士が一人。

彼もまた先程まで戦場にいたのだろう。鎧の所々が裂け歪んでいる。

「報告します。城内における呉軍の掃討はほぼ終わり、唯一龍志率いる僅かな兵が軍事府に立てこもっており、趙将軍と交戦中です」

拱手の礼をとりはっきりとしいた声音でそう告げる兵士に、琥炎は静かに頷く。

「結構…他には何かありますか?」

「は…関将軍が城壁を破壊した兵器についてお聞きしたい事があると……」

やっぱりですか。と言うように琥炎は肩をすくめる。

爆薬の使用…いや存在すら琥炎は直属の者たち以外には告げておらず、爆破の際には蜀軍の兵にも少なからぬ被害が出ている。

(やはり結果オーライ…とはいきませんよねぇ……)

そもそも火薬が実用化されたのは三国時代よりもはるかに後。科学の産物である火薬もこの時代では左道の邪術に過ぎない。

そして左道の邪術は王道に反する存在である。

柴桑にいたるまで徐福は幾度となく妖術の行使により城を落としてきている。しかし琥炎はあくまで人力による戦にこだわっていた。

そこに別に深い意味は無い。そちらの方が楽しいから。

自らの脳髄と武技で戦を乗り越え弾ける命に酔いしれる。それが琥炎が自己存在を感じることができる最高の一時。

とはいえ、関羽にとってみては琥炎まで邪術を使い始めたことに心中穏やかではないのだろう。

妖術、呪術の行使は劉備の名を汚す。

劉備に親愛と敬愛を抱き、髪の毛の一筋、血の一滴すら彼女に捧げている関羽にとってそれは何よりも耐えがたい存在。

「ふふ…真面目なのも考えものだ」

「はい?」

「いえいえ。なんでもありませんよ。関羽将軍には戦が終わったら何でも答えるとお伝えください」

「はっ!」

再び拱手の礼をとり、その場を去ろうとする兵士。

その兵士の背に向かって、ふと思い出したように琥炎は人差し指を立て。

「あ。あと一つ」

「は、はい」

振り向いた兵士の眼に映ったもの。それは何時もの人を食ったような笑みの中に微かに何かを含ませた琥炎の顔。

それが何なのか、兵士に読みとることはできない。

「『あなたが仕えるのは劉備か、その志か』と言い添えておいてください」

「は。畏まりました」

改めてその場を後にした兵士の背に一瞥を加えると、琥炎は所々に煙を上げる城下の街並みに視線を移す。

あの煙、屋根の下で少なからぬ人間がその命を終えていることであろう。

兵士も、商人も、鍛冶屋も、本屋も、桶屋も、雑貨屋も、八百屋も、肉屋も、その他様々な人間が。

どれだけ軍規を厳しくしようと戦の狂気は数多の人を殺す。

それが兵士であろうとなかろうと。

どれだけ徳を唱えようと戦は起こる。

それが正しかろうと無かろうと。

「戦争こそ我等が宿命。闘争こそ人の宿痾…平穏は幻想、平和は虚言。ああ、龍志よ。なのになぜあなたは北郷一刀を王とし、天下の太平などを唱えそれに命をかけるのです。五百年の歳月の間に見てきたでしょうに、人の業を。それでいて何故叶う事のない夢を北郷一刀に託したのです!!」

打ち鳴らされる外套。

狂おしく響く叫び。

戦場の片隅、数多の命消えゆくを眼下に、狂人(くるいびと)は踊る。

 

 

「……不覚だった」

柴桑城軍事府の一室で龍志はそう呟き杯を干す。

いずれ一刀の元に帰った時に彼と共に開けようと思っていた秘蔵の銘酒。その最後の一滴が龍志の喉を嚥下していった。

飲むは惜しい、敵に渡すは口惜しい。

そんなことを思って、ふっと龍志は自嘲の笑みを浮かべた。

いや、解っている。真に口惜しいのはそのような思いの原因を作ってしまった自分自身の迂闊さ。

それがどうしようもないという事がさらに口惜しさを増す。

『火薬』三国時代にはまだ発明されていない燃える粉。

三国志演義では諸葛亮が南蛮で使用した地雷などに記述がみられるが、あれは明代に書かれたもの。火薬(もしくはその原型)に関する最古の記述は唐代の『真元妙道要路』。三国時代から少なくとも四百年以上は後になる。

しかし、発明されていないという事がそのまま火薬は存在し得ないという事にはならないのだ。電球はエジソンの発明品だが、その材料はエジソンの発明ではない。彼が考えたのは既存の物質をいかにして電球というものにするかという方法だ。

そう、方法。その知識さえあればオーパーツは幾らでも作り得る。

「……悔やんでもしょうがないか」

再び自嘲の笑みを浮かべる龍志。

もはや全てが手遅れ、後悔後先に立たずとはよく言ったものである。

「龍志、入るぞ」

静かに部屋の戸を開け、腰まである紫の髪を揺らした風炎が部屋に入って来る。

見る者を圧倒し魅了する鋼の如き彼女の美貌はところどころ返り血で紅く染まっていた。

それが全て他者の血であること。それを心の隅で龍志は祈る。

「風炎…現状は?」

「ああ、この軍事府以外は完全に制圧されたと見て間違いない。残っているのは我々二人に曼珠殿、美琉、揚羽、明命、朱音。そして兵士が三百……」

「そうか…ふ、完膚無きまでにやられたものだ。もはや笑いしかでないよ俺は」

「私もだ。白兵戦じゃあこちらに不利。それは解ってはいたが、まさかこうもあっさりと……な」

城壁の爆破。それに続く電光石火の侵攻。

流石琥炎。そうとしか言えない手並に、二人は敗北感を禁じ得なかった。

「軍事府への攻撃は今は小休止のようだ。他の将はその間に最後の軍議を開くべく会議場に集まっている」

「そうか…俺もすぐに行こう。先に行っておいてくれ」

「解った。ではまた後で」

軽く右手を挙げた後、来た時のように紫の髪を揺らして風炎は部屋を後にする。

その背を見送り、龍志は小さくふうと息をついた。

軍議と言ったが、もはや話し合うことなどごく僅かしかない。

軍事府を枕に討ち死にするか、撃って出て一矢報いるか、一縷の望みをかけて血路を開くか。

すでにその殆どが蜀軍の手に落ちた柴桑城は今や龍志達を閉じ込める牢獄とかしている。

残りの要所を蜀軍が固めてしまえば、脱出など夢のまた夢となるだろう。

逃げるとしたら今。軍事府の北東にある船着場に行き船を奪うことができれば建業の方向へ逃げることも不可能ではない。

だが問題がある。三百騎では船着場までたどり着くことも難しく、ましてや船を奪うことなど……。

「…陽動がいるな」

府を包囲する軍に斬り込み攪乱させ、船着場までの備えを揺さぶる決死隊。

言い方を変えるならば生きること叶わぬ捨て駒。

そう、死兵。

果たして誰をその役にあてるのか……。

「……考えるまでもないか」

城主として司令官として、その責務を今果たさずして何時果たすというのか。

何より、かつておめおめと生き残り一刀への不義を重ねた身で再び己の使命を全うすることなく逃げるのは彼の誇りが許さなかった。

「……忠義を口に死に臨む…か。しかもこの乱世を呼んだ張本人がな」

全ては過ぎ去りし日の夢の為に。

今日何度目ともしれない自嘲の笑みを浮かべ、龍志は外套を翻し戸口へと歩みを進める。

 

リーン

 

ふと、鈴の音が聞こえた気がして龍志はその歩みを止めた。

足元を見れば、かつてあの外史で思春から貰ったあの鈴が転がっていた。

おもむろに胸元を探れば、鈴を通していた緋色の紐-外史に飛ばされる前に義姉から貰った形見の品-がプツリと切れて首に巻きついていた。

「……行くなと言うのか?二人とも」

不意に袖を引かれた……気がした。

龍志は振り返ることはない。ただその袖を引く懐かしい感覚に静かに目を閉じたたのみ。

「君も行くなと?まだ俺に生きろと?」

「………」

答えはない。冷たい沈黙の帳と時折それを震わす彼方の喧噪が昼過ぎだというのに黒煙に遮られた淡い光に浮かび上がる部屋を支配する。

「……行かないといけないんだよ。俺を信じるあいつの為に、あいつに忠義とともに託した俺の…いや、俺達の夢の為に」

鈴を拾い再び歩を進める龍志。

「……幻でも、また会えて良かったよ。華龍」

かくして龍は死地に赴く。

忠義と夢とを胸に抱いて。

 

 

柴桑城軍事府大会議場。

五十人は収容できる部屋に同じ人数が座ることができる大きな円卓が部屋の中央に座す、柴桑城軍事の頭脳とされる場所。

しかし今そこに座るは僅かに六人の女将。

彼女達の将が座るべき上座の席を開け、そこを中央に右に風炎、曼珠、明命。左に美琉、朱音、揚羽。

「…龍志が来る前に皆の意見を聞きたいと思う」

口を開いたのは風炎。

柴桑城攻防戦で龍志の参謀役を務めあげてきた智将ならば、この場にいる誰がどのような考えを抱いているかなど容易に察しがつく。

それでも聞いたのは、彼女なりに悩んだ末の結論だった。

先が見えるからこそ、残される者の痛みが解る。

ならばせめて、その痛みを先延ばしするのはやめよう。

そんな風炎の思いを察しているのか、美琉が静かに口を開いた。

「撃って出るしかないかと。このままここにいても座して死を待つようなものです。そうなるくらいならばせめて一矢報いましょう」

その言葉に反応したのは明命だった。

「ま、待ってください!今ならまだ船着場まで充分な手は回っていないはずです。ここは船着場まで血路を開き、城から脱出しましょう!!」

「明命の言う通りです。水上に出れば後は長江を下って行けば直ぐに呉領に入ります」

明命の言葉に朱音も賛同する。

確かに二人の意見はまっとうだ。しかし……。

「その為にお前たちが囮になるとでも言うつもりか?」

呉の程公と呼ばれ敬われた女の言葉に、二人はぐっと詰まる。

「囮無くして船着場までたどり着くのは不可能…それくらい誰でも解る。お前達の下らん自己犠牲精神もな」

「下らんとは何ですか!!」

曼珠の言葉に朱音が激昂して立ちあがった。

例え呉の宿将・程普であろうと誇りを傷つけるなら許さない。そう言わんばかりの気炎をあげて。

しかし曼珠は鷹揚と椅子に腰を下ろしたまま。

「下らんよ…若者が年寄より先に死を望むなど下らない」

「!?曼珠様、まさか……」

曼珠の意図を察したのか、朱音と明命は目を見開き白髪の美将を見る。

「囮には私がなる」

「だ、駄目です!!曼珠様は呉に必要なお方、そのような……」

「なら、わたしも立候補しようかしら~」

場違いにおっとりとした声で、扇で口元を隠した揚羽が言った。

その隣で、すっと美琉も小さく手を挙げる。

「自分も参加させていただきたい」

「ちょ、ちょっと皆さん!!」

ひどく軽い調子で自ら死地へ赴くという戦友達に、明命はオタオタと慌て朱音は絶句する。

その光景に風炎はやっぱりこうなったかという風に目を細め肩をすくめると。

「明命、朱音。お前達は生きているか?」

不意の質問に、二人は戸惑いながらも答えようとして…できなかった。生きているかと聞かれれば、生きているとしか答えられないのは必然である。

二人の反応も予想済みだったのか、風炎はそのまま言葉を続け。

「我々はすでに死んでいるんだよ。それぞれの不義を働いた時にな」

「不義?」

「私は維新の為に魏を裏切った時に」

そう言ったのは美琉。

「わたしはここに来た時ねぇ~」

これは揚羽。

「私は三国同盟の時…大連様の大望を果たすことが出来なくなった時」

これは曼珠。

「私も三国鼎立の時…雪蓮様、いや蓮華様を天下人にすることが出来なかった時」

最後に風炎。

「皆、一度死んでいるんだ。それでもこうして戦場に立っていたのは、一人の男がいてくれたからにすぎない」

「そして、その男は忠義と責務から逃げることは無い。なら、付き合ってやるしかないじゃない」

「桃香様のことは新魏のほうにもお願いしてもらったしね」

「そういうことです。すでに我らは死人(しびと)。死人ならば囮役はうってつけでしょう?」

そう言って笑う四人に、明命と朱音は何も言えなかった。

暴論と言えば暴論。それでも反論できないのは、四人の姿に見てしまったからだ。

覚悟と龍志への思いを。

思えば四人は形こそ違え龍志に救われている。

曼珠と風炎は乱世の再来によって死に場所を与えられ、揚羽は敬愛する君主を救う望みを与えられ、美琉はそれこそ戦場で幾度となく助けられ。

龍志がかつて華龍に、そして今一刀に救われたように。

「……俺が来る前に軍議は終わっているじゃないか」

そう言いながら会議場の入口を潜る一人の将。

言うまでもなく龍瑚翔その人。

彼は複雑そうな顔で美琉達を見ると、やれやれと肩をすくめ。

「説得しても聞きそうにないな」

「当然です」

「当然だ」

「当然よ」

「当然だな」

四人の答えに再び龍志は複雑そうに笑うと、今度は明命と朱音に向き直る。

鋭く、それでいて穏やかな深緑の瞳が二人を映した。

「二人には…辛い道を取らせる。だが、お前達はこの中で一番若い。今ここで殺すわけにはいかない」

「龍志…さん」

「先生…」

泣きそうな顔をする明命と朱音の頭を龍志は掌でポンポンと叩き。

「俺からお前達への最後の命令だ。『生きろ』生きて必ず国へ帰れ」

そして。と龍志は胸元から三通の書簡を取り出した。

「これを北郷様と蓮華殿…それから華雄に渡してくれ。これは命令であり、俺の頼みでもある」

差し出された書簡を、二人はただじっと見る。

これを受け取るということは、二人は龍志達を残してこの城を去るということだ。

もう二人には他に道はない。だが心のどこかにはまだ願望が残っている。

皆とともに戦いたいと。

もしくは皆と共に逃げたいと。

「……畏まりました」

そう言って書簡を受け取ったのは朱音だった。

「しゅ、朱音!?」

「必ずこの城を逃れてこれを届けます。ですから先生達も…どうかご無事で」

「…ああ、安心しろ。まだ死ぬと決まったわけじゃない」

そう言って笑い合う師弟二人に、明命も静かに頭を下げ。

「私も…誓います」

「…頼んだ」

かくして、柴桑城守備軍最後の作戦が決まった。

果たして作戦と呼べるものか…それは解らないが。

 

 

 

「短い間だったけど、良い夢を見たわ」

鉄脊蛇矛を肩に傾け、赤みの強い栗毛の馬に跨った曼珠がふと呟く。

彼女の夢。それはかつて孫呉の先君・孫堅とともに天下に挑んだ日々か、彼女の遺志を継ぎその娘達を天下に導かんとした日々か。

或いは再び訪れた乱世に夢の再演を夢見た日々か。

「あらあら。まるで死ぬのが決まっているみたいにいってはいけませんわ」

鉄扇片手に葦毛の馬に跨る揚羽がクスクスと笑みをこぼす。

生きることあたわず。そのようなことは解り切っている戦。

そうであるが故にこそ、彼女は笑い生を語る。

「しかし、まさか残りの兵士が全てこの突撃についてくるというとはな」

黒毛の馬の上から背後を振り返り、風炎が呆れたように言った。

彼女達の後ろには、柴桑守備軍残兵三百が闘志を漲らせて控えていた。

「兵士の膿を自ら吸い出し、兵卒の幕舎で兵士とともに歌を歌う。そんなどこかの殿方に誑かされたんでしょう」

白馬の上で弓の弦の張りを確かめていた美琉がクスリと笑って弓をしまう。

それだけの動作で、異民族から『女李広』と畏れられた将は非常に絵になる。

「まだ老成するには早い年ですが…良い人生でした」

苦労もあった苦難もあった苦悩もあった。

しかし武人としてこれほどまでに満ちた人生があるだろうか。敬愛する男の為に最後までその身を捧げることができるのだ。

「もう美琉まで。駄目よ。まだわたしたちにはやり残したことがあるでしょう?」

「ほう…それは何だ?」

「決まってるじゃない。まだ龍志さんに抱いてもらってないじゃない」

「んなっ!?」

「揚羽殿!?」

「成程…それは確かね」

揚羽の言葉に顔を赤く染めて戸惑う風炎と美琉に、感心したように頷く曼珠。

そんな光景を満足げに見ながら揚羽は。

「そ・こ・で。提案なんだけど。この戦で生き残った人が龍志様と閨を共にする権利を得るって言うのはどうかしら?」

「二人以上生き残ったらどうするつもりなのかしら?」

「その時は三人ですれば良いわ~」

それもそうかと再び頷く曼珠に、ようやく冷静さを取り戻し必死に頭を振り何かを振り払おうとしている美琉。

風炎は…まだ混乱しているのか何か俯いてブツブツと言っていた。

というか、誰も龍志の意思を考えていない気がするのだが……まあいいか。

「となると…これは死ねないわね」

「同感です」

「あ、当たり前だ!!」

あらあら。と崩れぬ笑みをさらに深くする揚羽。

「…賑やかだな」

そこに響くは朗々たる男の声。

考えるまでもない。新魏、そして孫呉の風流神将・龍瑚翔その人。

「明命と朱音の準備はもうできている。下手に人数が多いよりもあの二人だけのほうが見つから…本当にどうかしたのか?」

顔を紅くして目をそらす美琉。顔ごとそむける風炎。にやにやと笑う曼珠。笑いをこらえるように扇で顔を隠す揚羽。

そんな四人を見て、柳眉を寄せて怪訝な表情をする龍志。

「なんでもないわ~それよりも…そろそろ攻撃が再開される頃合ね」

「そうだな……」

視線を軍勢の先頭に移す龍志。そこにあるのは、軍事府の土塀へ矛先を向ける即席の衝車だった。

門から出撃しても瞬く間に取り囲まれる。ならば塀を破り敵の不意を突く。

「……機だな」

龍志の呟きに、四人はそれぞれの獲物を握り直す。

龍志もまた碧龍剣の片割を手に三百の死兵へと向き直った。

騒がしい沈黙の中、三百対の瞳が彼を見る。

「…諸君!我々は孫呉の命運を賭けてこの柴桑で闘ってきた!!しかし天は我等に味方せず、もはや我等の命運は風前の灯だ!!」

だが。龍志は碧龍剣を大きく振る。

風を切る鋭い音が、龍が飛翔するかの如く兵達の耳朶を打つ。

「我等は弱くして負けるのではない!時運無くして破れるのだ!!なればこそ、我等の力、我等の誇りを蜀に…天に示そうではないか!!」

高く掲げられる碧龍剣。

その磨き上げられた刀身に移るは兵士達の顔。

恐れは見えない。皆一様にあふれんばかりの闘志を目に宿し、将の言葉の続きを待っている。

「敵に情けをかけるな!!剣を納めることなど考えるな!!味方の事を顧みるな!!ただひたすらに斬れ、抉れ、倒せ!!鬼神の如く敵を討て!!」

振り下ろされる碧龍剣。

その速さ、その煌き、その威風。それはまさしく神将の剣。

「神よ!仏よ!我等が生き様御照覧あれ!!」

「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」」」」」

 

 

同時刻。霧の中、柴桑に程近い長江上を行く無数の船影。

「閣下。まもなく柴桑城に着きます」

「解った…何とか巧くいったみたいだね」

「私の術で軍氣を隠しての大転進…しかし問題はこれからです」

「解ってる…先鋒の華雄にはくれぐれも用心するように伝えて」

「御意」

「……龍志さん。待ってて。今度は俺があなたを助ける番だ」

 

                   

                      ~続く~

 

中書き・一

 

どうもタタリ大佐です。

長らくご無沙汰していました。前書きでも述べたように二週間ほど臥せっておりました。時折のぞきには来ていたのですが、書く程の力がなく…申し訳ありません。

 

今回も突っ込み所の多い話です。龍志が仏とか言ってます。とりあえず、三国時代にはすでに仏教は伝わってきているので、問題は無いかと…。

あと最後の、どうしてそんなところに?な話については次回で説明させていただきます。

 

しかし、夢とか平和とかってなんでしょうかね。綺麗な言葉ではありますが、同時になんとも複雑な言葉だと思います。

人に夢と書いて『儚』この二雄落花は儚い人の夢を追い続けた二人の人間の話っていうことに一様なっています。それもあってか、美琉達の会話にも夢って言う言葉出てきていましたね。

夢を追う。素敵なようでその実暗い面もあります。龍志が抱えている悩みの一つもそれです。彼は天下の為と言いながらも自分の夢の為に再び天下に大乱を持ち込んでしまったわけですからね。

恋姫の世界も、天下の太平や民の為と言いながらも民草を戦に駆り出すことでしか夢を叶えることは出来なかった。時代がそうさせたとはいえ、その大きな矛盾をしょうがないと許容するか真っ向から向き合っていくか。どちらが正しいとは言いませんが、いずれにせよ歴史の大きな流れの中ではそれもまた『儚い』ものなのかもしれません。

それでもなお、今を生きる。夢に希望し絶望しながらも今を生きて行く。そんな一刀や龍志、琥炎、華琳、雪蓮、蓮華、桃香…その他数多くのキャラクターを書けたらなぁと思う今日この頃であります。

 

さて、全四回か五回を想定しているこの二雄落花、次回からターニングポイントでございます。龍志の夢、琥炎の宿命、何より一刀の思いを感じていただけたら幸いです。

 


 
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