No.796643

「真・恋姫無双  君の隣に」 第46話

小次郎さん

建業攻略に明命が突破口を開く。
後悔しない決意があるから。

2015-08-16 21:28:30 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:10527   閲覧ユーザー数:7049

以前に穏様から命じられた偵察が役立っています。

この城は一見強固ですが、死角となる箇所が多いのです。

祭様による怒涛の攻撃で敵の目が他に集中している今ならいけます。

無事城内に忍び込めた私と兵達は、門の制御室に入り制圧。

門を開き味方の入城に成功、敵将劉繇は逃亡して建業は陥ちました。

「明命、お手柄じゃ。厳白虎や王朗が援軍に来るまでに陥としておきたかったからの」

本来なら一刀様の本軍と合流してから攻撃するはずでしたが、敵の鈍重な様子を見た祭様が電光石火で攻め込んで一日で決着です。

一刀様は一度寿春に戻られて、軍を再編してから此方に来られる予定です。

「休む間もなしですまぬが、次に攻める呉の探りを頼む。大事の前に無粋な輩を排除しておきたいのでな」

「はい、直ちに行って参ります」

一刀様は孫家に赴く前に揚州を平定すると仰られ、祭様は先陣を願い出ました。

小蓮様は長沙に戻られると言われましたが、私は揚州攻略への従軍を願い出ました。

孫家の臣下として私の行いは大変な軍規違反ですが、後に処罰されても私は後悔しません。

祭様や穏様が示して下さった様に、私も孫家の為に身命を懸けて事を成し遂げます。

 

 

「真・恋姫無双  君の隣に」 第46話

 

 

全体的に圧してはいるが、敵前線の崩壊は見られない。

チッ、陥とすにはもう少しかかるか。

劉備軍め、思ったより粘りやがる。

関羽と張飛が俺を徹底的にマークしてるから自由に動けんし、部下共も個々の力は敵を上回っているが突破を阻まれている。

成程、次の課題は連携か。

目星い奴等に百ずつ率いさせてみるか、使える奴が出てくるかもしれん。

俺の思うがままに動く最強の軍。

必ず作り上げてやる、北郷、貴様を倒すのは、この俺だ!

「なあ、左慈。私は一つ気になってる事があるんだが」

副将の公孫賛が話しかけてきた、細かな配慮が出来て意外と使える奴だ。

「なんだ、言ってみろ」

「攻めあぐねている原因の一つに、矢が大量に降ってくるのがあるだろ」

「あるな。それで?」

あれは俺でも捌き切れん、面倒なものを持ち出して来やがって。

「仕組みはともかく、あれだけ大量に矢を消費してるのに矢が尽きる様子が見えないんだ。桃香達にそんな潤沢な物資があるとは思えないんだが」

確かにな、既に相当な量が使われてる。

ならば答えは、

「・・北郷の援助か」

「おそらくそうだと思う。桃香は御遣いに心酔してたしな」

女絡みか、奴なら同じ陣営でなくても充分にありえるな。

「おいっ、細作に探らせて出来る限りの情報を手に入れろ」

「わかった。あれ、あいつチビじゃないか?」

チビ?あいつとヒゲは于吉と一緒の筈。

だが近寄ってきたのは間違いなくチビだ。

「左慈のアニキ、于吉のアニキから言伝っす。明日には正式な使者が来るんすが、その前に伝えて欲しいと頼まれたっす」

「奴からの言伝?一体何だ」

こっちだけでなくそっちでも下らん事が起こってるんじゃなかろうな。

「実はっすね・・・・」

聞いた言伝は下らんレベルを軽く突破していた。

「ふざけるなあーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 

やれやれ、今頃怒り狂ってるでしょうね。

少々手こずってはいるようですが、并州は順当に攻略してると聞いてますし。

無理もありませんけどね、并州攻略の軍を交代する事が決まったなんて聞きましたら。

そんな馬鹿げた事を告げられれば、左慈でなくても憤慨するでしょう。

まさか左慈の勲功や影響に危機感を持っている一族や重臣達が、袁紹に言葉巧みに嘆願して手柄を獲る場を横取りしようとは。

袁紹に気に入られてるとはいえ、私達は足元の地盤が弱いですからね。

その辺りに付け込んで、指揮官の交代に持ち込ませた訳ですか。

やってくれましたね、おそらくは諸葛亮あたりの仕業ですか、一連の流れに不自然な点が見られますからね。

・・ですが、物は考えようです。

今の内に私達の弱点を補強する機会ともいえます。

代わりに派遣されるのは一族の高幹、重臣の審配、郭図、逢紀、許攸。

はっきり言って邪魔者の連中が揃っています、まとめて排除する絶好の機です。

フフフ、以前の暗躍を思い出しますね。

「ヒゲさん、ちょっと頼みたい事があります」

「あいよ。于吉の旦那、何でも言ってくれ」

 

 

華は揚州、仲は并州と侵攻しており、我等が魏も遅れを取るわけにはいきません。

「華琳様、豫州の軍編成が終了しました。新たに募集した兵を加えて五万です」

「五万?思ったより少ないわね。正規兵が四万だったわよね」

「どういう事ですか、桂花?天和達に募兵の巡業をしてもらっていたなら倍は固いでしょう?」

五万では豫州の防衛にしか充てられません、一刀殿への牽制にも不十分です。

「分からないのよ。報酬を下げてもいないし、魏国に対しての評判が悪い訳でもない。今も調べてるけど、どうにも反応が悪いのよ。むしろ治安はかなりいいわ」

どういう事です?

治安がいいなら天和達の巡業は成功してますから、兵への志望もかなりある筈です。

疑問に対し華琳様が季衣殿に尋ねます。

「季衣、貴女に天和達の様子をたまに見て貰ってるけど、何か変わった事は無かったかしら?」

「そうですねー、そういえば天和ちゃん達が兄ちゃんの所から戻ってきてから歌が変わってたかなあ」

歌が変わる?確かに同じ歌ばかりなら飽きられますけど。

「どんな曲なの?」

「前と同じですよ、でも違うんです」

これが季衣殿以外なら真面目に答えなさいという所ですが、

「季衣、具体的に言ってくれるかしら」

「何ていうか、聴いてたら前より楽しいんです。僕も聴いてたら戦うより畑を耕したくなったっていうか、そんな感じです」

「確かに私も聴いた時は心地よかったな、その日は鍛練よりも華琳様のお召し物の事ばかり考えてしまった」

季衣殿に続いて春蘭殿も発言します、意味は量りかねますが。

理屈より感性で動く二人は一体何を感じ取ったのか。

「あっ、そうだ!兄ちゃんの事を聞いたら三人共真っ赤になってましたよ」

「桂花、天和達を呼びなさい。間違いなく一刀が原因よ、問い質すわ!」

真っ赤になっていた、もしや天和達は一刀殿に・・。

ウッ!いけません、危うく妄想してしまうところでした。

落ち着いて、今考えなければ為らない事は軍備の事です。

兵の追加を望めない以上、何か策を講じねば。

それにしても、本当に一刀殿は予想外なところから攻めてきますね。

おそらくは私よりも風の方が対応に向いているのしょうが、いまだに一刀殿の下に留まっています。

ですがもう、それ程時間は残されていませんよ。

風、貴女はどうするつもりですか?

 

 

西涼を出発する時に寿春の七乃へ揚州外征の準備を整えておくようにと伝者を送っておいた。

江陵の守備は祭に代わり星に任せて、寿春で遠征していた兵と留守をしていた兵を交代させて揚州に侵攻する為に。

寿春を出発して長江を越えたら、既に先行していた祭と明命の水軍が建業を陥落済み。

呉への侵攻も準備が出来ているとの事で、俺は新たに参入した桔梗に祭と共に侵攻を命じる。

早速、建業の統治に取り掛かる。

一緒に来てもらった紫苑のお陰で非常に捗る。

他の文官もテキパキと動いてくれて、最初の頃が嘘みたいで本当に頼もしい。

そのうち俺なんてお飾りになるかもしれない。

皆に負けないように頑張るけど、それでもいいんじゃないかなって少し思う。

 

今日仕上がった分の報告書を手に入室したら、一刀様はお休みになられていた。

手に持つ筆が止まられて、頭が揺り籠をされてる。

お疲れなのね、戦に政とあれだけ働かれてたら当然の事だわ。

「恋ちゃん、一刀様を寝室にお移しするから手伝って貰えるかしら」

「ん」

恋ちゃんが一刀様を抱えあげて寝室に連れて行く。

一刀様は眠ったままで身じろぎもされない。

途中で他の者達に見られたけど、私と同じ様に微笑んで静かに礼をしていく。

明日はこの噂できっと持ちきりね、フフ。

部屋に入って恋ちゃんが一刀様を寝床におろす、そしてそのまま恋ちゃんも一刀様の横について目を瞑ったわ。

あらあら、羨ましいわね。

部屋を出て行こうとしたら、

「紫苑、一緒に寝ないの?一刀の傍、あったかい」

突然声を掛けられて驚いたわ、それに言ってる内容にも。

「紫苑も一刀が好き。だから一緒」

・・真っ直ぐなのね。

亡くなった夫や璃々の事で踏み出せなかった、そんな私の葛藤を吹き飛ばしてくれる程に。

 

 

もう日課みたいになっちゃってるわね。

城から少し離れた森の中、小川に沿って目的の場所に辿り着く。

「母様、今日も来たわ」

濡らした布で墓石を拭いて、花とお酒を供える。

普段は殆んど顔を出さないのに、このところ連日で来てるから呆れてるかしら。

ごめんね、こんな時だけ縋っちゃう娘で、中々踏ん切りがつかなくてさ。

・・蓮華を代表とする降服派と、冥琳を代表とする抗戦派の論戦は益々熱を帯びてる。

尤も日に日に蓮華に同調する者が増えてるけどね。

抗戦派の主張は誇りと意地が殆んどで、具体的な勝算が出せないから感情論で終わってしまう。

逆に降服派は華の国力、外交政策、建国書とか説得力がありすぎるのよ。

それに今日は、更なる伏兵が出てきちゃったわ。

シャオが帰国して、祭と一刀の遣り取りを皆の前で一部始終話してくれたのよ。

・・少し大人にもなってたわ、余程思うところがあったみたい。

一刀に鞍替えした祭に不審や怒りを持っていた者達も、事実が分かった事で逆に謝意を口にしていたわ。

その祭に偽ることなく誠実に対応した一刀にもね。

それでも戦う選択を取る者が居るのを、私は喜んでいいのかしら?

蓮華だってそう、私の踏み込んだ言葉にも丁寧に答えてくれた。

 

「私の首を持って降ったら一番いいんじゃないかしら。貴女と私が共に倒れる事も考えてシャオを行かせたんでしょう?」

「はい。ですが私の愚かな覚悟は、此の場に居る皆が誤っていると教えてくれました」

「どういうことかしら?」

「私の考えに賛意をしてくれた皆は、お姉様を害する事など一切口にせず説得する事しか提言していません。背く行為にしか採られず極刑に処されても仕方ないのに、孫家に対して真正面から進言してくれたのです」

「貴女が旗印としているからじゃないかしら?」

「お姉様、分かっているでしょう。王でなくなっても、皆は孫伯符と共に此の地に孫家の夢を叶えたいと思ってくれてるんです」

「・・・・・・・・」

「大陸を永きに渡って支配していた漢が腐敗し、戦乱の世に突入しました。誰もが厳しい状況に諦めて理想から目を逸らしました。そんな中、理想を築こうとする国が、現実という言葉に逃げずに突き進もうとする王が現れたんです」

「・・・・・・・・」

「どうか今一度、考えてみてください。孫家の夢とはどんな想いから生まれたのかを」

 

・・・ハァ。

参るわよね、いっそ剣を突きつけられる方がマシよ。

母様なら、「黙ってあたしについて来い!」の一言で終わってたかしら。

でもそれもどうかと思うし。

実際、一刀に勝つ方法なんて全然思いつかないし、曹操や袁紹と組む?

無理ね、お互いそれどころじゃないし、他は話にもならないわ。

そもそもウチだってこんな状態で戦える訳がないじゃない。

・・大体、一刀が悪いのよ。

ウチの娘達を誑かしまくるし、親切な事ばかりしてくれるから戦意は高まらないし、陥とそうとしてた揚州を後から持っていくし。

元々兵力差は比べるのも虚しい程なのに、揚州を先に陥として得意の水戦まで封じ込んできた。

野戦で一刀だけ狙う、出来る訳無いでしょ、私じゃあるまいし後陣にいるわよ。

世間では私の事を小覇王と呼ぶけど、その称の元である項羽と一緒で私も四面楚歌よ、それも戦う前から。

今更だけど、蓮華の意見を取り入れてさっさと許貢達を始末してたら、戦える態勢ぐらいは出来てたかしら?

今更ね、結局、私は王に向いて無かったって事よ。

・・ねえ、母様。

私は母様の遺志を継げなかった愚か者だけど、妹達の為に重荷を取り除いておく事くらいは出来ると思うの。

一刀は涼州外征で、戦う意思を最期まで持つ者には意思を全うさせてくれたんだって。

だったら私もそうすれば、将来の禍根を最小限に減らせると思うのよ。

あっ、別に自暴自棄になってる訳じゃないわ。

ただ私にも意地があるのよ、孫家の最後の王としての誇りが。

だからそっちに往ったら怒るでしょうけど、少しは褒めてほしいかな。

話したい事が終わった私は、墓石にお酒を掛けて残りを飲み干す。

さてと、蓮華たちを謹慎させて冥琳に戦の準備をお願いしようかしら。

     

ビュッ、ビュッ、ビュッ!!

 

気が、緩んでたのね。

普段の私なら背後からでも気付いていたわ。

でもそんな言い訳、何の意味も無い。

私を狙う毒矢は、既に何本も放たれていたのだから。


 
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