私が家出をして、本物川と行動を共にするようになって、しばらく経った。
朝に本物川が私を迎えに来て、色んな仕事をする。
……咲さんの部屋は本物川のアジトの一つなんだそうな。
この街の色んな場所にアジトがあって、普段はそこを転々としているらしい。
なんでそんな生活なのか聞いてみると、
「やっぱり隠れ家ってのはロマンだし。」
「本当のところは?」
「空き家が荒れないように管理を委託されてる。」
そんなことだろうと思った。
この人の行動はロマンとかそういうのがあるように見えて、結局世知辛い理由がよくある。
「それで今日のお仕事は?」
「南町の児童養護施設の手伝いだな、いわゆる孤児院。」
「じゃあ子守りですね。」
「いいかハル、今度は集団だ。集団の子供を相手にするというのは……戦争だ!」
「そんなに」
その言葉の通り、暴徒と化した子供たちをまとめるのは至難の業だった。
と、いうか本物川が来たことでテンションが上がってるようにも見える。
実際、本物川は子供に人気があった。
「がわせんせーだっこー」
「がわせんせーおんぶー」
「がわせんせーかたぐるまー」
川先生と呼ばれて子供に集られている本物川。
三人抱えてのっしのっしと歩いている。
線が細いように見えてなかなかの力持ちだ。
「ああいうダイナミックな遊びは中々できないんですよね、みんな楽しそう。」
院のスタッフの人はそう言う。
女性スタッフが多いので父親っぽいものに飢えているんだろうか。
「ハルせんせーだっこー」
「ハルせんせーおんぶー」
「ハルせんせーかたぐるまー」
「どれかひとつにしなさい!」
「ハルせんせートイレー」
「先生はトイレじゃありません!」
「なじむの早えーなあいつ。」
次の仕事に向かう途中
「そういえば小さい子しか居ませんでしたけど、ああいう施設って何歳くらいまでお世話してるんですか?」
「いちおう未成年なら受け入れるはずだけど、とっとと独立しちゃう奴も多いね。咲なんかも16歳で仕事始めてたし」
「へー、咲さんもあそこ出身なんですか。」
「なんかねー、親の折檻が酷かったらしくて引き取られてきたんだよね。躾するのに針を刺したりとか。」
「お、……おー……」
「だもんで、ちょっと過激なことし始めることがあるから気をつけてね。」
「その情報もっと早くに聞きたかった。」
聞いてどうなるもんでもないけれど。
「それで次のお仕事は?」
「次はなー、木戸さんちのニート更正だ。」
「帰っていいですか」
「いいやお前だけは絶対に来てもらう」
「えー」
「オラ!約束どおり前髪ぱっつんボブショート女子中学生連れてきたぞ!」
「なんだとうっ!?」
「なんだとうっ!?」
最初の「何だと!?」は木戸さんちの引きこもり久男君(30)である。
2回のはどうやら餌として連れて来られたことを悟った前髪ぱっつんボブショートJCのハル(14)こと私である。
「本物川さん……まさか私におもてなし(意味深)をさせるつもりでは。」
「いや、ただ上目使いで『お兄ちゃん』と呼んでくれればいい。」
ある意味もっと嫌なやつだった。
「えっと……こんにちは。」
「こ、こんにちは。」
「……お兄ちゃん?」
「!!!!」
「お兄ちゃん、顔赤いよ。」
「!!!!!!、ちょ、ちょっとコンビニ行ってくる!」
ドタバタと部屋を飛び出した久男。
「ミッションコンプリート、だな!」
なぜか本物川がやりとげたような顔をしている。
「あ、ありがとうございます!久男が外出なんて半年振りです……!」
木戸さんちのお母さんが出てきた。
「いやはや、ここに至るまでは中々長かったですな。」
「これまで何度も説得してくれた本物川さんのおかげです。」
「いやいや、最後に背中を押したのはこいつですから。」
「そうなのね、どんな言葉をかけてくれたのか分からないけど、ありがとうね。」
知らないほうが良いと思いました。
「さて、今日の仕事は終わりだ、お疲れ様。はいお給料。」
「あ、どうも。」
一応、お給料ということでいくらか頂いている。
自分ではお金を貰えるほど働いてはいないと思うのだけれど、未成年を無給で働かせるとなると色々まずいということで、家賃や生活費を抜いた額という扱いで、お小遣い程度のお金を貰っている。
「じゃあ部屋まで送るか?」
「あ、今日はお買い物して帰るからいいです。」
「そうか、じゃあまた明日な。」
「はい、お疲れ様でした。」
それが、午後5時のできごと。
―そして午後8時。
「ハルがまだ帰ってきてない?」
暗雲が立ち込めようとしていた。
「ふっふっふ、本物川よ、覚悟しておけよ……!」
続く
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私、家出少女のハルはごく普通の中学生。
この街は自分の庭だと豪語する、本物川さんと出会ってから、何かが変わってきました。
※登場する人物、団体は本物川さん以外は実在しません。
引きこもりの「木戸久男」は既読さんとは何も関係ありません。
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