No.795068

現(うつつ)の庭の本物川 【結】

山畑槐さん

家出少女ハルと役所の下請け探偵本物川の不思議な生活に忍び寄る影があった。

※登場する人物、団体は本物川さん以外は実在しません。
 悪の組織ワイパーは本物川一派とは何も関係ありません。
 本物川は本物川さんです。

2015-08-09 09:20:49 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:1105   閲覧ユーザー数:1104

ハルが帰宅しないという報を受けてすぐ、事務所のベルが鳴った。

 

「悪いけど今から出るんで、用件なら明日に……」

 

「女の子をお探しですかな?」

 

「なに?」

 

訪問者は縞のスーツに身を包み、さながらマフィアのボスのような雰囲気を纏っていた。

とりあえず応接に上げて話を聞くことにする。

 

「私はワイパーという、悪の組織を束ねている者です。」

 

「正直その自己紹介はアホだと思う。」

 

「酷いなアンタは!

 ……まあ、いいでしょう。

 この子の身柄は今、我々が預かっています。」

 

そう言って写真を取り出すワイパー。

そこに写っていたのは、まぎれもなくあのハルだ。

しかも、本物川の見たことが無い服装をしていた。それは即ち、この街に来る前のハルを何らかの形で知っているということだ。

 

「……それで、何をするつもりだ?」

 

「何を、と言われれば……貴方への復讐ですな。」

 

「復讐?」

 

はて、本物川には復讐されるような心当たりが何もない。

基本的に世のため人のため、地味な活動ばかりやっているのだ。

それが悪の組織にとって都合が悪いというならばそうなのかもしれないが。

 

「貴方によってわが組織は継続的なダメージを受けているのですよ。」

 

「悪いが思い当たる節が無いな、人違いじゃないか?」

 

「とぼけるつもりですか!わが組織の合法ハーブ製造基地を潰したこと、忘れたとは言わせませんよ!」

 

「川原の掃除の時になんか畑と小屋みたいの撤去したけどあれお前のか。」

 

「他にもテキ屋からの上がりが激減したのも貴方の仕業だとか!」

 

「高齢化で地域のイベント回すの大変だから減らそうぜとは言ったけど。」

 

「オンラインのネットワークビジネスにすら貴方の名前が出てきていますよ!」

 

「木戸さんちの久男君のRMTを運営に通報した件か?」

 

「とにかく、私は貴方の存在を苦々しく思っていたわけです。」

 

「お前は悪の組織とか向いてないから転職したほうがいいぞ。」

「そんな中、ついに貴方に復讐する機会が訪れました!」

 

そして写真を指差し、

 

「貴方が保護しているこの少女、某国のプリンセスだということは既に調べがついています。」

 

なんかとんでもないことを言い出した。

 

「……ナニソレ?」

 

「とぼけなくても結構!お忍びでの滞在の間、護衛を依頼されたのでしょうが、その間にプリンセスの身に何かがあれば……貴方は破滅でしょうな!」

 

「待って、ねえ。」

 

「しかしそれでは私の気がすまない!そこで貴方にゲームを持ちかけに来たのです!」

 

「話聞けよお前……えー、ゲーム?」

 

「そう、聞けば貴方はこの街を自分の庭だと吹聴しているとか。そこで我々はプリンセスをこの街のどこかに隠します!貴方が見事見つけることができれば彼女は無事に帰しましょう!」

 

なるほどねー。

 

「よし、じゃあそのゲーム受けてやっから。他人の家に上がりこむとかは無しにしろよ。」

 

「もちろんです!それではタイムリミットは午前零時!只今よりスタートです!!」

「おーいハルー無事かー?」

「本物川さん!」

「ワイパーさん!?」

 

ハルからは歓喜の声、見張りのチンピラからは驚愕の声が上がる。

街のホテルの一室、ハルが監禁されている部屋に本物川とワイパーと、あと咲と警察がぞろぞろやってきた。

 

「よしよしハルちゃん、怖かったわね。もう大丈夫よー。」

咲に抱きしめられて安堵するハル。

 

「本物川……どうしてここが!?」

「いやー、こいつ締め上げたら居場所吐くかなって。」

「ワイパーさーん!?」

 

問うチンピラに答え、半笑いのワイパーを指差す本物川。

 

「と、まあそれは半分だ。」

 

「「「半分?」」」

 

本物川とワイパー以外の声がハモる。

 

「『他人の家に上がりこむのは無し』、そう決めたんだよ。

 そして、この街の全域が、僕の所有している、僕の家なんだよね。」

 

「えっ」

「えっ!?」

「え~~~~~っ!?」

 

「いつも言ってるじゃん。『この街は僕の庭』だって。」

 

そして、ワイパーとその部下たちは逮捕され、街に平和が戻った。

戻ったっていうか別に平和失われてないけど。

「そんでな、お前が某国のプリンセスだっていうんだけど。」

「う~ん、そういう言い方をすればそうなのかもしんないですけどぉ。」

 

咲の部屋に戻り、今日の話をする3人。

 

「私のひいお爺さんが先々代の国王とかだったらしいんですけど、その子供がたくさん居たらしくて。

 更に私の父親が遊び人で、色んなところに作った隠し子の一人が私だってことなんですよ。」

 

そう語るハル、なかなかに数奇な血筋ではある。

 

「そんなことより本物川さん、そんな大金持ちだったんですか!?市内全部が自分の土地だとか。」

 

「いやー、先祖代々このへんに住んでるってだけだよ。このへんの土地ってマジ安いし。」

 

ただの家出少女と、役所の雑用下請けの2人だったが、一歩踏み込んで見てみると意外と凄い部分もある二人であった。

 

「……お母さん、心配してるかなぁ……」

 

親の話があったからか、母親に思いを馳せるハル。

 

「気になるなら連絡だけでもしてあげた方がいいわよ、二人きりの家族なんでしょう。」

 

そう言って咲はハルに電話を渡す。

 

プルルルル、プルルルル、あ、もしもし私ハル………………え?うん…………ごめんって、でも………………

 

母親と電話するハル、しばらくして電話を切り、本物川の方に向き直った。

 

「本物川さん、なんか母が私の今の状況を既に把握してたっぽいんですが。」

 

「ああうん、僕から定期的に連絡入れてるからね。」

 

「なっ!?」

 

「君のお母さんは、ちゃんと君の事を心配して探し回ったり、捜索届けを出したりしていたんだよ。

 ハルがここに来てから、警察の捜索届けはチェックしてたから、連絡はすぐついたよ。」

 

「そっかぁ……そうなんだ……」

「お母さんは何か言ってた?」

「夏休みが終わるまでには帰ってこいって。これもう家出でもなんでもないですよね。」

 

「ハルちゃんが望むなら、ずっとここに居てもいいのよ?」

 

「うーん、でも私、やっぱり帰ります。」

 

この街に来て、色んな人と関わって、いろんな仕事をしているうちに、なんだか母親とケンカしているのが馬鹿みたいに思えてきた。

それと、ハルが大切にしていた指輪―父親から貰ったもの―を母親に紛失されたのが家を出た原因だったが、その指輪も無事に戻ってきたらしい。

それから二日後。

 

「それじゃ、お世話になりました。」

「おう、元気でな。」

「いつでも遊びに着てね~」

 

この街に来たときとは反対の電車に乗って、ハルは本物川の庭を出る。

この街での不思議な体験は、夢の中の思い出のようにも感じられるが、一つだけ確かに信じられることがあった。

 

―それは帰る場所が、あるということ。

 

少し成長したような気がした今回のハルの家出は、ひとまず終わりとなります。

 

 

おわり。


 
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