第十一話 董卓
黄巾党を倒して幾日か経った。平和な日々を送っていたが俺たちは毎日激務にあたっている。なぜなら、黄巾を倒した俺たちの名声はうなぎ上りで近隣の豪族たちが庇護を求めるため、俺たちに謁見を願うからなのである。
「しかし、こうも謁見者が多いといい加減、辟易するな。」
毎日、献上品だ、なんだ、と『気持ちの品』を渡される。正直、一刀たちは今でも十分に贅沢をしている。だから、そんな物を貰っても置く場所に困るだけだ。だから、献上品は基本的にお断りするようになった。それでも、名を覚えてもらうために賄賂を贈ってくる者もが後を絶たない。当然、その賄賂はその土地の人たちの還元した。
「一刀や~、妾はもう疲れたぞよ・・・・」
なんだかんだ言って美羽は王さま。謁見者を無下にすることは許されない。だから、謁見してくる者の話を聞いていなくてはならないのだ。
だが、ほとんどの人間は、美羽の褒め言葉ばかり言ってきて政治面での話になかなか入ってくれない。美羽も最初は調子に乗っていたが、同じ事を何十回と言われれば、さすがに飽きるだろう。
「俺もだよ。正直、この大陸の人間は何考えているんだろうな?飽きもせず同じようなことをクドクドと・・・・・はぁ。」
俺たちは疲れていた。早くこの場から逃げてのんびりしたい。そういう衝動に駆られていた。
「おお!、有難うございます。御遣いさま!・・・・・では私たちはこれで・・・・・」
「はいはーい。元気でねー・・・・・・・はぁ・・・・・七乃さん、次の謁見者は誰?」
一刀たちはこのように謁見者を待たせながら、話をしている。
「え~と・・・・・次は北方の方ですね。遠いのにわざわざご苦労なことです。」
「へ~!北方の方からも来るなんて・・・・・・いったい誰?」
「え~と・・・・・・董卓さんって人ですね。」
・・・・・・・・・へ?今、一刀の耳には董卓と聞こえた。
「と、董卓!?」
「はい、北方の方ではかなりの力を持っておられるようですね。お知り合いですか?」
「い、いや、何でもないよ。」
(董卓だと!?)
董卓、史実では『北方の怪物』と言われた人物。彼の十常時を虐殺し、帝を操り、都を火の海に変えた三国志の中でもかなりの悪役。
本人自身も、性格は冷酷無比で残虐的。そして、猛牛を素手で倒したこともあるといわれるとても恐ろしい人物である。
(なんで董卓がやってきたんだ?)
俺はかなり緊張した。何せ相手はあの董卓だ。何かしらの目的があってきたに違いない。隙を見せないように平然と振る舞わなければならない。
「では、次の方、どうぞ入ってきてください。」
もうすぐ、董卓がやってくる。俺は生唾を飲んだ。
「あ、あの~・・・・・こんにちは。」
入ってきたのはものすごい美少女だった。董卓の侍女か何かだろうか?
「私は、董卓と申します。袁術さまと御遣いさまにお目通りが叶いました事をうれしく思います。」
・・・・・・・え?今この子何を言ったのだろうか?一刀の耳が間違いなければ『董卓』と聞こえた。
「えっと・・・・・・・君が董卓?」
「はい。」
女の子はまぶしいくらいの笑顔で答えてくれた。
この子が、十常時を殺し、帝を操り、都を焼き払い、猛牛を素手で倒し、地獄のような戦乱の世を作るきっかけを与えた人?
断言しよう。ありえないと!
一刀は、董卓と名乗る女の子に釘付けになっていた。史実とのギャップに戸惑っていたからだ。
(この子が董卓だなんて・・・・・・史実を知っている人は絶対に信じないだろうな。)
「へう~・・・・・あ、あの御遣いさま?・・・・・何か?」
「え?」
「一刀さん。美人を前にして見惚れるのは分かりますが、そのように舐めまわすように見るのは失礼ですよ。」
「一刀!お主・・・・!」
何やら誤解を受けているようだった。董卓は顔を赤くして俯き、七乃さんは苦笑いをして、美羽は何やら怒っている。
「いや、見惚れていたのは認めるけど・・・・・・・董卓さん、こんな遠くまで何しに来たの?」
俺は董卓に訪ねた。彼女は真剣な眼差しで一刀に告げた。
「はい。黄巾を武力を使わずに静め、民たちからも信頼の厚いと噂される天の御遣い様を一目見たく、このように参上した次第です。」
「俺に?」
「はい。」
北方にも噂が行き届いているなんて・・・・・・黄巾党をどのように静めたか、真実を知ったら、みんなどんな反応を示すだろう?
「う~ん・・・・・・そんな大袈裟なことをしたわけじゃないんだけど・・・・」
「そんなことありません!御遣い様は、もはや力無き者たちの希望の象徴なのですから!」
董卓は、思わず声を荒げてしまっていた。それを自覚した董卓は顔を赤くして俯いてしまった。
「う、うう・・・そんな風に言われると、さすがに恥ずかしくなってきたな。」
「へう~・・・・・申し訳ありませんでした。」
俺たちはお互いに顔を赤くしながら、俯いていた。そんな俺たちを美羽たちは冷たい目で見てきた。早いとこ、話を変えなければならない。
「と、ところでさ、一人で来たの?北方から来るなんて、危なくなかった?」
「いいえ、何人かを護衛として連れてきたので大丈夫でした。」
「へえ、その御連れさんは今どこに?」
「外で待ってもらっています。」
「そうなんだ。」
さすがに一人では来なかったようだ。史実通りなら、この子は猛牛を倒せるほどの腕前なのだが・・・・・・
「ねえ、変な質問してもいいかな?」
「はい?」
「君って、猛牛を素手で倒せたりする?」
「そ、そんな!わ、私、牛さんを倒すなんて・・・・そんな・・・・」
董卓は涙ながらに答えた。
決定!この子は絶対に俺の知っている董卓じゃない!
「話が変な方向に行っちゃったけど、君が来た理由って俺に会いに来たんだよね?俺を見た感想は?」
「へう~・・・・・」
俺は少しいじめるように言ってしまった。それほどまでに可愛いのだ。この董卓さまは!
「あ、あの、想像以上に・・・神々しい方だと思いました。」
「っ!/////」
こちらも予想外の答えが返ってきた。すごく可愛くて一刀の方が赤面だった。しかし、美羽たちの冷たいし視線は増すばかり。
「おっほん!あー・・・そのように言ってもらえてうれしいよ。この街を見た感想はある?董卓さん。」
美羽たちの視線が本当に痛くなってきたので、またもや、話を変えてしまった。
「はい、民たちは覇気に満ち、商業も盛んで、皆の顔からは笑顔が見れます。・・・・ただ・・・」
「ん?ただ?」
「あ、はい。・・・・・見慣れぬ施設や建物があり、どのようなことをしているのか分からなくて・・・・」
「ああ、そういうことか。」
確かに、初めてこの街に来た人間は誰でも不思議がるだろう。なんせあの冥琳ですら説明しないと理解できないようなものだったのだから。
「だったらさ、今から街に行ってみない?いろいろと教えてあげるよ。」
「えっ!・・・・・そ、そのようなことは・・・・」
「大丈夫だって!それに見せたいものとかいろいろあるし。・・・・・美羽も行かないか?」
一刀はまた滅茶苦茶なことを言い出した。もちろん美羽と七乃さんが反対したのは言うまでもない。
「な、一刀!何を言っておるのじゃ!」
「そうですよ~。謁見者は後にも控えているのですから。」
二人は反対したが俺は美羽の耳元で囁いた。
(こんなところで謁見者と話すするより良いじゃないか。それに俺はいい加減飽きてきたぞ。ここで、休憩がてらに街に繰り出そうぜ!美羽だって、もうこんな事飽きてきたろう?)
美羽も少し悩んだ末、俺の提案に乗ってくれた。
「む、む~・・・・・七乃や、と、遠くから来たものをそのまま返すのは、少し無礼な気がするのじゃ。・・・・・・駄目かの?」
美羽の説得は上手く言ったが、問題は七乃さんだ。
「はぁ・・・・・・分かりました。そろそろお昼ですし・・・・今日のところはここで謁見を終了させましょう。・・・・・・・・ただし、私も行きますからね!」
どうやら成功したみたいだ。なんだかんだ言って七乃さんは美羽に甘い。それに自分もちゃっかり参加してくるなんて・・・・・おそらく七乃さんも飽き飽きしていたのだろう。
「それじゃ、董卓さん。街をご案内しますよ。」
「へう~////・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・
俺たちはお忍びで街に繰り出すので、町人が着るような服に着替えた。なんだか水戸黄門のような気分になる。
着替えが終わり、董卓さんを連れて、城の城門前まで来た。そこには董卓の連れの方が待っていた。
髪を両側に結び、眼鏡をかけた委員長系な女の子だった。
「月!大丈夫だった!?袁術に何かひどい事されなかった!?」
「え、詠ちゃん!」
「むっ!」
「プッ!」
女の子はここにいるのが袁術と気付かずに好き放題言っている。それに対して董卓はオロオロして、美羽は脹れっ面をしていた。その光景が面白くてついつい噴き出してしまった。七乃さんも同様に口を抑えながら笑っている。
「それに、天の御遣いだか何だか知らないけど、ホント、胡散臭いわよね。妖術か何かで街の人間を操っているんじゃないの!?」
突然とんでもない事を言い出す少女。董卓はすごく焦って、白い肌を青ざめながら少女を諌めた。一刀も一生懸命行った政策を妖術まがいのものと言われて多少、不機嫌になった。そんな一刀を見て、美羽と七乃さんはうすら笑いをしている。
「ところで、月。こいつらは誰?」
もはや礼儀の一つもない少女。ここまで来ると何か爽快感のようなものを感じる。
「こ、この人たちは・・・・・・」
董卓は口ごもっていた。無理もないだろう。これほどの無礼を働いたのだから本来は手打ちにされてもおかしくはない。ただただ困っている董卓を見て、なぜか心が和んだので助け船を出してやることにした。
「俺たちは袁術様の命により、あなた方に街を案内せよと遣わされた者たちです。もし分からない施設や建物がありましたら、何でも申しつけください。」
一刀の発言に美羽も董卓もポカンとしていた。七乃さんはただニコニコしているだけだった。おそらく一刀の考えを読み取ったのだろう。一刀は小声で董卓と美羽の二人に告げた。
「良いじゃないか。結構面白そうだし・・・・・それに俺たちが天の御遣い御一行だと知れたらあの子は物凄く困ってしまうよ。」
一刀の発言に董卓はホッとしたようだったが、美羽の方は少しばかり不満のようだ。
「じゃがの~・・・・・」
先ほど言われたことをまだ根に持っているようだ。
「それにさ、美羽。この街にはまだまだ改善しなければならない場所がいくつかあるかもしれない。だから屈託のない意見が聞きたいんだ。俺たちが天の御遣い御一行と知れたら言いたいことも言えなくなっちゃうじゃないか。」
いつも来る豪族たちは美羽や一刀の褒め言葉しか言わない。しかも具体性のない褒め言葉でいい加減ウンザリしていた。この少女はどうだか知らないけど一刀たちの正体を知ったら間違いなく態度を改めてしまうだろう。
「もし俺たちの正体がばれた時は、きっとあの子はお前のことを見直すと思うぜ。『なんて心の広い太守さまなのだろう』とね。」
この言葉が決め手となったようで美羽はもう、ノリノリである。
「うははははは!妾達がお主らを案内して進ぜよう!有り難く思うがよい!」
美羽は自分たちが袁術の使いである事をすっかり忘れているようで、王さま口調になっている。
「はあ?召使い如きが何生意気言ってんのよ。無礼討ちにするわよ。」
少女は、俺たちの気持ちも知らずにズケズケと言ってくる。さすがの美羽もこれには怒ったようで、さっそくネタばらしをしようとしたが抑えさせてもらった。
「申し訳ありません。この者にはきつく言って置きますのでどうか平にご容赦を。」
俺は、美羽の口を塞ぎながら少女に非礼を詫びた。
「ふん、まあいいわ。」
少女の方もなんとか機嫌が良くなり許してくれたようだ。だが、董卓の顔がブルーベリーなみに青くなっていたことは言うまでもない。
「申し遅れました。この子はミト。そちらの方はスケさんと言い、私はカクと申します。」
一刀は偽名での簡単な自己紹介をした。美羽も七乃さんも董卓もポカンとしたが、一刀は耳元で教えてあげた。
「ミトってのは俺の世界での英雄の俗称だよ。スケさんとカクさんってのはその英雄の御供の人たち。」
そう付け足したら、美羽も七乃さんもすごく喜んでくれている。何とも単純な人たちだ。俺たちが、簡単な自己紹介をしたら、突然少女が怒りだした。
「はあ!あんたの名前『カク』って言うの!?字はなんて言うのよ。」
「え?すみません。俺は字がないんです。」
何を怒っているのか分からなかったが、その理由はすぐに分かった。
「はあ・・・・・こんな男と名前が一緒だなんてやになっちゃうわ!」
・・・・・・・名前が一緒?もしかして、この少女は・・・・
「詠ちゃん、そんな事言っちゃ失礼だよ。それにせっかく自己紹介してくれたんだから、こっちもちゃんと自己紹介しなきゃ。」
董卓は真実を話せないまま、なんとか少女の態度を改めさせようとした。
「う~・・・月~、こんな奴らに名を名乗ったら、僕たちの格が下がって・・・・」
「え~い~ちゃ~ん~!!」
董卓はその可愛らしい顔で精いっぱい怒って見せた。でも、怒った顔もめちゃ可愛かった。
「う、わ、分かったわよ。僕は賈詡(カク)、字は文和、奇しくもあなたと同じ名前よ。」
やはり、この子はあの賈詡文和か!一刀はかなり驚いていた。董卓もだが賈詡もまた、史実とのギャップがありすぎたからだ。一刀は、この少女に気を取れれすぎていた。
「な、何よ!あまりジロジロと見ないでくれる!」
「あ、す、すまない。」
賈詡は、顔を赤くしながら怒りだした。美羽と七乃さんは怒っており、董卓はオロオロとしているのみであった。
自己紹介も済み、俺たちは街を紹介していった。学校や区役所などの施設を案内し、説明をした。説明しても理解できるかどうか分からなかったが、さすが賈詡文和。簡単な説明しかしていないのに、すぐに理解し、その施設の目的すらも看破していた。
「へえ~・・・・・なるほどね。消費税か~・・・・今までこんな方法、歴史書にも載っていないのに・・・・・本当に新しいわね。」
次々と知識を蓄え、それを自分のものにしていく賈詡。そんな賈詡を董卓は誇らしげに見ていた。
「すごいね、君のところの軍師は。」
「はい、詠ちゃんは本当にすごい子なんですよ。私はちっとも理解できないのに・・・・」
董卓は、彼女を誇らしげにしゃべる反面、悲しそうな顔をしていた。
「どうかしたの?」
「え?」
「いや、何か悲しそうな顔をしていたからさ・・・・あ、間違っていたらごめんね。」
董卓は首を横に振った。
「いえ、・・・・・・ただ、・・」
「ただ?」
董卓は言葉を濁していた。
「詠ちゃんは本当にすごい子なんです。だから、他にも士官出来るところがたくさんあったのに私のところなんかにきて本当にいいのかな・・・・と思ってしまって・・・」
なるほど、この董卓は彼女は自分に相応しくないのではないかと不安に思っていたらしい。
「大丈夫だよ。あんなに君の事を心配しているんだから・・・・・君の事が嫌いだったら絶対にそんなことしないよ。」
「でも・・・・・」
董卓は、自信がないように言ってくる。
「大丈夫だって。俺だって、士官しようと思えばおそらく、どこでも受かると思うよ。でも何で、美羽・・・・袁術から離れないと思う?」
「え~と・・・・・・袁術さまは名家ですし、力も強大だからですか?」
董卓はオズオズと聞いてくる。本当に気の弱い子だと思った。
「違うよ。俺が美羽から離れないのはただ、あの子の事が好きだからなんだ。あの子の傍にいたい、あの子の力になりたい、そう思っているから、俺は彼女のそばにいるんだ。」
「・・・・・好きだから・・・・ですか?」
「そうだよ。あの賈詡って子も君の事が大好きなんだよ。だから、他の所に行こうとしないんだ。」
おそらく自分と賈詡は似た者同士なのかもしれない。そう思うと一刀思わず苦笑してしまっていた。
「だから、そんな風に考える必要なんてないんだよ。」
一刀は董卓の頭を撫でてあげた。深い意味はない。ただこんなにも優しくて健気な女の子を励ましたかっただけだったからだ。
董卓は顔を真っ赤にして俯いてしまった。そんな彼女が可愛くてもっと撫でてあげた。と、その時、後ろから、二人分のドロップキックが炸裂した。
「ぼへあ!!」
一刀は、そのまま地面に転がってしまっていた。
「おおおおおおお主!いったい何をやっておるのじゃ!」
「月に手を出すなんていい度胸ね!これは罰が必要だわ!」
二人のドロップキックは一点のズレもなく、二撃ではなく一撃に感じた。まさにそれはかの、『二●の極み』そのものであった。
「ぐおおおおああああああああ!!!!」
一刀は、苦しみながらそのまでゴロゴロと転がっていた。美羽と賈詡は誇らしげにお互いを讃えあった。
「へえ、あなたなかなかやるじゃない。」
「お主もじゃ、見事な蹴りじゃったぞ。」
二人は熱い握手を交わした。七乃さんはそんな美羽を見て感動していた。今、俺を心配してくれるのは董卓ただ一人だけだった。
「だだだだ大丈夫ですか~!?」
董卓は俺に近づいて、看護してくれた。彼女の温もりを感じる。これがあの董卓なんて信じられない。
「月~、そんな奴ほっとけばいいにに!月は優しすぎるんだよ~。」
「もう!詠ちゃん、この人は・・・・・」
董卓もネタばらしをしようといたが、寸での所で止めることができた。
「ど、どうしてですか?」
董卓は不思議に思っていたが、一刀は男だ。一度言ったことを覆すなんてあまりにもかっこ悪すぎる。こうなったら意地でも正体を隠してやると決意した。一言で言うと一刀も馬鹿だったのである。
しばらく歩いていたら、賈詡が俺たちに提案してきた。
「ねえねえ、美羽。少しお腹すかない?月ももう疲れてるみたいだし、このあたりでお昼にしましょう。」
賈詡と美羽は先ほどのドロップキックで友情が芽生えたらしい。美羽もまた自分の真名を賈詡と董卓に預けた。なんだか、真名の神聖さがなくなってきたような気がしたが気にしないようにしよう。
「そうじゃの・・・・・どうせじゃったらここでしか食べられぬものを御馳走しようぞ!」
美羽はもうノリノリである。
「へえ、楽しみね。月はどう?」
「私は、何でもいいよ。」
二人とも同意したので彼女たちを連れて行きつけの店に向かった。
・・・・・・・・・・・・・
店に到着した一刀たちは店の主人に案内され、個室を用意してもらった。この時間帯は客が多く、賈詡たちは多少は待たされると思っていたようだが、ここは美羽と一刀の行きつけの店。だから、一刀たち専用の個室が存在する。店主にも顔を知られている。七乃さんは俺たちが店主に会う前に事情を話していたらしい。だから、いきなり挨拶される心配はなかったわけだ。
それにしても個室だなんて、贅沢な気がしたが、七乃さんが言うには建前上でも太守は特別な存在でなければならないらしい。
「それにしてもいきなり個室を用意してもらえるなんて、何でかしら?」
賈詡は不思議そうにオヤジに聞いてきた。
「へい!袁術さまが、使いの者たちと客人が来るかもしれないから、もし来たら個室を与えろと仰っていたもので。」
七乃さんが指示したらしいが、なかなかの役者ぶりである。さすがオヤジ。
「へえ、なかなか気が利くのね、袁術って。」
賈詡は美羽が袁術と知らずに褒め称えた。もちろん美羽が調子に乗っているのは言うまでもない。
「うはははーい!そうじゃろそうじゃろ!袁術さまはとってもお優しいのだぞ!」
美羽もまた話に乗り出してきた。
「そうね、でも、街の統制はまだまだね。」
賈詡はとても興味深い事を言ってきた。
「どういうこと?」
一刀が聞くと、賈詡は答えてくれた。
「この街を見てきたけど、北の方は浮浪者が多く、治安が悪いわ。せっかくの労働力なんだからもっと活用すればいいのに。」
確かに北の方は、盗賊あがりの浮浪者たちの集まりだ。いわゆるスラム街と言ったところである。
「でもさ、彼らだって好きで好きで浮浪している訳じゃないんだぜ。仕事がないのだから仕方なく・・・・・」
「僕だったら、彼らをうまく使う事が出来るわ。」
賈詡は自信満々に答えた、一刀は賈詡の話に夢中になっていた。
「そうね、まずお手頃なのは土地の開墾だけど、これは囚人たちの仕事。数は多いにこしたことはないけど暴動なんか起こされたらたまったもんじゃないわ。」
「うんうん。」
「だから、彼らにはその囚人たちの監視者兼統率者になってもうわ。その囚人たちをまとめあげて多くの土地の開墾に力を注いでもらう。」
なるほど。もともと盗賊あがりに人間だ。囚人たちの理解者にはうってつけだろう。でも、問題はいくつもある。
「でもさ、人を使うのって、口にするのは簡単だけど、とっても難しい事なんだぜ。それに囚人たちに同意して暴動なんて起こされたらもっと手の付けられない存在になる。」
俺の話にも一理あると思ったらしいから賈詡は否定はしなかった。
「そうね。だから、うまく統率できた者には褒美を取らせる。ま、試験みたいなものね。褒美があると知れば、開墾にやる気を出すし、もし統率の優れている者が現れたら儲けものだし、一石二鳥よ。」
なるほどな・・・・・褒美か。
「ま、仕事は開墾だけじゃないわ。城の修復や関の設立、そして徴兵。と、無駄にできる労働力はないんだからね!」
お見事としか言いようがなかった。国政面ではもしかしたら冥琳より上かもしれない。一刀は呆気にとられていた。
賈詡と話をしていた一刀だがいつの間にか時間がたっていたようだ。料理もいつの間にか来ていた。
「へえ、変わった料理ね。なんて言うの?」
「これは『ハンバーグ』って言う天の国の肉料理の一つだよ。」
賈詡は物珍しいように聞いてきた。
「あ、あの~、これは何ですか?それになんだか赤いんですけど・・・・」
「それは『オムライス』という米料理。」
董卓も恐る恐る口にして見た。
「あ、美味しい!」
どうやら喜んでくれたみたいだった。董卓も賈詡も上品に食べている。なんだかそこら辺のレストラン料理を食べさせているにも関わらず、彼女たちの食べ方はそれこそ上流貴族のように美しかった。
「へ~、天の国って変わった料理があるのね。『天の御遣い』って奴にも興味が出てきたわ。」
賈詡も料理自体には気に入ってくれたようだった。俺たちは雑談をしながら食事を楽しんだ。
食事が終わり、俺たちは店を出ようとしたその時、
「あっ!恋!?」
賈詡が店の隅っこで食事をしている恋を見つけた。
(あれ、あの子って確か・・・・恋だったよね。)
一刀たちは不思議がりながら恋の席に近づいて行った。恋もこちらに気がついたようだ。
「あ・・・・・・・・・詠、月。」
恋の手に中には十人前は入っているのではないかという丼ぶりを持っていた。中には大量のかつ丼が入っている。
「恋、あなた何やっているの!?」
賈詡が驚いたような口調いった。
「・・・・・・・・・・・あれ。」
恋が指をさした先には、『半々刻以内に食べられたら賞金!』とデカデカと書かれたチラシのようなものが書かれていた。
ドテン!
何ともベタな反応を示した賈詡。董卓も苦笑いだ。
「恋、護衛が仕事をほっぽって何を・・・・」
(護衛?恋と董卓たちは知り合いなのだろうか?)
俺は、不思議に思ったが恋が突然賈詡の話を遮った。
「・・・・・・・・・もうすぐ食べ終わる。・・・・・もう少し待って。」
そうする恋の手は残像を残すくらい素早い動きでかつ丼を口に押し込んだ。頬を膨らませながら食べる恋は、さながらハムスターのように可愛かった。
・・・・・・・・・・・・・
ようやく、食べ終わった恋。制限時間も守り、賞金を手にする。その時、恋は俺の存在に気づいたようだ。
「・・・・・・・・・一刀、何してるの?」
「えっ?」
賈詡は驚いたように俺を覗いてくる。
「れ、恋!あなたこいつと知り合いなの?それに一刀って・・・・・『天の御遣い』の名前じゃない!」
俺はすべてがばれたと思った。
「で、どういうこと?」
賈詡たちは一刀から詳しい話を聞くために城に戻った。今、一刀の尋問会が始まっている。
「いや、ごめんなさい。」
一刀はこれまでの経緯を話した。賈詡は呆れるばかりだ。
「そう。仕事をサボりたいがために私たちを利用したと・・・・・」
「・・・・・すみません。」
賈詡の頭には血管が浮き出ている。相当怒っているようだ。
「そうして、何も知らない僕の反応を見て楽しんでいたと?」
「た、楽しんでなんか・・・・!」
ジロ!
「ごめんなさい!」
一刀に反論は許されていない。ただただ、謝ることしかできない。
「美羽もひどいよ。せっかく友達になれたと思ったのに・・・・・僕を騙していたなんて!」
賈詡は涙目で、美羽の方を見てきた。美羽もバツが悪そうに言い訳をする。
「ち、違うのじゃ!わ、妾は・・・・・そうじゃ!一刀にそそのかされたのじゃ!」
(美羽てめ~!!裏切りやがったな!)
一刀は心の中で思ったが口に出すわけにはいかなかった。
「詠ちゃん・・・・」
董卓もまた何も言う事が出来なかった。その時、賈詡は何か諦めたようにこちらに近づいてきた。
「はあ、・・・・・もういいわよ。・・・・・ほら、さっさと連れて行きなさい!」
「え?」
俺は最初、この子が何を言っているのか分からなかったが、ようやく理解した。
「太守と『御遣いさま』に対して無礼を働いたんだから、何かしらの処罰をしろと言っているのよ。何?ムチ打ち?棒叩き?何でも来いっての!」
もう、ヤケクソになっている賈詡。董卓も美羽も青ざめている。
「か、一刀・・・」
「御遣いさま・・・・」
「・・・・・・・一刀。」
美羽と董卓と恋が一斉に一刀の方を見てきた。あまりにも痛すぎる視線に一刀は泣きそうになった。
「ごめん!本当にごめん!生まれてきてごめん!お前がそんな風に覚悟していたなんて知らなくて、本当にごめん!」
一刀は賈詡を前に土下座をした。美羽も董卓も、もちろん賈詡本人もかなり驚いている。仮にも、『天』を名乗っている人間が、黄巾党を静めた英雄が、まさか名もない軍史に頭を下げるなんて絶対にありえなかったからだ。
「ちょ、ちょっと!何考えているのよ!さ、さっさと頭を上げなさいよ。」
賈詡は、いきなりの土下座に困惑していた。しかし、一刀は、
「いいや、お前が許してくれるまで絶対に上げないぞ!これはもう俺の意地だ!許してくれるまでずっとこうしているぞ!」
もはや脅しに近い一刀の発言に賈詡はついに折れた。
「わ、分かったわよ!許すわよ!だから顔をあげてよ!」
そう言うと一刀はかなりほっとしたような感じで顔をあげた。
「で、私の処罰は一体何なの?」
いまだにしつこく処罰を求めてくる賈詡。いい加減一刀も怒ってきた。
「お前な!何でそんなに処罰を求めるんだよ!せっかく綺麗な顔をしているってのに自分を痛めつけろなんて・・・・!」
怒りながらも世辞を言う一刀に対して美羽は怒り、七乃さんはため息をついている。
「は、はあ////!?あ、あんた一体何を言っているのよ。・・・・・・・・それにこれはケジメみたいなものなんだから、そう簡単にはいかないの!ここで何の処罰もなかったらあんたは周りの人間たちに馬鹿にされるわよ!」
賈詡はケジメなんて言っていたが、本当は一刀たちの風評を気にしての発言であった。一刀も賈詡の気持ちを理解をしていたが、頑として賈詡は聞き入れない。そんな賈詡に対して一刀は、
「分かった。お前がそんなに罰を受けたいのなら受けさせてやる。」
賈詡は覚悟を決め、董卓は泣きそうになりながら青ざめている。美羽も一刀の気持ちを理解し、何も言わなかった。
「ふ、ふん!それでいいのよ!」
賈詡は強がってはいるものの、顔は恐怖に震えていた。
「じゃあ、始めるぞ。目を閉じて。」
賈詡は椅子に座って目を閉じていた。董卓も怖くて目を開ける事が出来なかった。いよいよ処罰が実行され、部屋の中は静まりかえっていた。美羽もまた七乃さんにしがみついて前を見ることができなかった。そして、
ペチ!
何やら乾いた音が部屋の中に響いた。
「・・・・・・え?」
一番困惑したのは賈詡だった。何かおでこに当たったような・・・・・
「これで、処罰は終わりだ。」
一刀は突然、処刑は終わったと言った。何があったのか分からないみんなは一刀に質問してきた。
「あ、あの~・・・・・御遣いさま?一体、何を・・・・・」
「うん?デコピン。」
一刀は指でデコピンのしぐさをやった。
「ちょ、ちょっと!処罰ってこんだけ!?」
「そうだよ。」
何やら納得しない賈詡に一刀は言った。
「もともと、こちらが悪かったんだからそんな重い処罰なんてするわけないじゃないか。本当だったら、処罰自体しないんだけど・・・・・・今のはお前の気持ちに組んだだけだよ。」
「はあ、あんたね~!あんたたちの評判がそうなってもいいの!?」
「『かわいい女の子を傷つけた酷い奴』なんて評判はこっちから願い下げだよ!・・・・それに、自分の体をもっと大切にしろよ。董卓なんてもう・・・・・・見ろよ。」
そこのは涙を流して今にも駆け出しそうな董卓の姿があった。
「月・・・・・」
「詠ちゃーん!!」
董卓は、賈詡に抱きついて泣きだした。
「詠ちゃんのバカー!とっても心配したんだよ・・・。」
「う~・・・・・ごめんね、月。」
賈詡も涙を流しながら董卓を抱きしめた。その感動的な場面に俺も美羽も涙を流していた。しかし、この件の原因は一刀のせいだということを忘れてはならない。
こうして、ちょっと人騒がせな事件は幕を閉じた。
その夜、一刀は董卓たちに部屋を与え、床に就こうとしていた。そして、今日のことを思い更けていた。
(しかし、今日はいろんな事があったな。董卓に、賈詡に、おまけに恋があの呂布だなんて・・・・)
恋の正体を知った時は驚きでいっぱいだった。なにせあの三国志最強の武将なのだから。しかし、この時期に董卓の仲間になっているのは少しおかしいと感じたが、最終的には仲間になるんだから問題はないだろう、と思っていた。
一刀は目を閉じようとした時、扉の向こうから声が聞こえた。
「一刀、起きてる?」
一刀は扉を開けたら、そこには賈詡がいた。
「どうしたんだ?こんな時間に。」
「今日のことで・・・・・その・・・・お礼を言いたくて・・・・ありがと。」
賈詡は聞こえるか聞こえないか微妙な声で言ったがしっかり一刀の耳に届いていた。
「今度から、自分の体はもっと大切にするわ。それから・・・・・・・」
何か言葉を濁す賈詡。
「それから・・・・・・・おやすみなさい。」
顔を赤くしながら言う賈詡に思わず見とれてしまっていた。だがすぐに我に帰った。
「あ、ああ。お休み。」
「じゃあ・・・・・・私、行くから。」
「ああ、また明日な。賈詡。」
一刀がそう言うと賈詡は引き返し、言った。
「僕の真名は詠だよ。その、・・・・・あんたのことをちょっとは見直したからさ・・・・ほんとにちょっとだけだからね!」
そう言って、来た道を引き返した。一刀は詠を見送りながら言った。
「お休み、詠。」
聞こえたかは分からなかったが、途中、詠が跳ね上がった。どうやら聞こえたようだ。
詠の真名をもらって、満足しながら一刀は眠りについた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・
翌朝、とんでもない事が起きた。それは、董卓たちが俺たちに謁見した時のことだった。
「御遣いさま、どうか私たちをあなた方の傘下に加えさせていただけないでしょうか?」
・・・・・・・え!?
つづく
おまけ 本編とは関係ありません。
その夜は風が強く、また冷たかった。そんな中、月明かりに照らされながら一つの影が動いている。
「う~・・・・呂布殿~・・・・どこに行ってしまわれたのですか~!・・・・へっきしょい!」
女の子はただただ歩いていた。
「う~・・・泊まっていた宿はすでに引き払われているし~呂布殿~!」
女の子は泣いている。
「う~、呂布殿と一緒に温かい布団で寝たいです~!」
「う~ひもじいです~。お腹空いたです~・・・・・へっきしょい!」
「呂布殿~!ねねはここですぞ~!お助けください~!呂布殿~!・・・・・へっきしょい!」
袁術の城
「どうした?恋。」
今は少し遅れた夕食の時間。一刀たちは食事を楽しんでいる。そんな中、恋は明後日の方を見てボ~としている。
「・・・・・・・何でもない。」
「そっか・・・・・・なあ、恋。これも食ってみろよ。うまいぜ!」
「・・・・・・・・・コク。」
一刀たちは恋の食事を見て和んでいた。
「呂布殿~!!」
彼女の声はただむなしく闇に響き渡るだけであった。
あとがき
前回はネタに走り過ぎた。ふざけ過ぎた。今は反省している。
今回はおまけをつけてみました。初めてなのでうまくできたかどうかわかりませんが。
最近、ネタが尽きかけてきた。しかし、ある作品でインスピレーションが起き、頭にアイディアが流れてきました。
発想は難しい。しかし、発想できたときの気持ちよさはたまりません。
これからも皆さんが考えも及ばないような展開にして見せます。
では、次回もゆっくりしていってね。
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こんばんわ、ファンネルです。
前回があまりにも酷過ぎたので今回はちゃんと本編を進ませました。
今回は初めておまけというものにチャレンジしてみました。気に入っていただけるかどうかわかりませんが。
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