No.787817

紫閃の軌跡

kelvinさん

第74話 一難避けてもまた一難

2015-07-06 00:52:41 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:2927   閲覧ユーザー数:2594

~帝都ヘイムダル 皇城バルフレイム宮~

 

B班の面々と別れたアスベルとルドガーは道中特に目立ったトラブルもなく、戻ってくることは出来た。とはいえ、二人の表情は優れない。というのも、その道中に感じた『もの』が彼等の表情をそうさせていたからに他ならない。

 

「明らかにこちらを見ていたよな、あれは。」

「だよな。気配と視線でモロばれにも程がある。ま、俺もアスベルもそうさせてしまう“理由”はあるが。」

「こっちとしては迷惑この上ないけどな。」

 

士官学院生というカテゴリから見れば明らかに“枠外”といっても差し支えない実力を有している事実。その力を顕示した覚えはないのだが、一度でもその力を知れば警戒されるのは目に見えていた。その結果の一端が皇城に帰る途中で感じた『視線』であろう。その視線の正体は薄々と感じているし、そもそも『知っている』のだが。

 

「本腰を入れてくるなら、『劫炎』あたりでも引っ張ってくると思うぞ…『神速』あたりがいたら面倒なことになるかもだが。」

「ルドガーがそれ言うと洒落にならないんだが。」

「口に出さないと精神的に参るんだよ。本気で。」

「お、おう。」

 

『結社』という組織自体一枚岩でない部分があるのも否定はできない、とルドガーは言いたげであった。それを言ってしまえば、アスベルの属している組織―――『七耀教会』自体もそういった側面を抱えていること自体否定できない。そんなことも含めて話をしていると部屋に響くノックの音。メイドが姿を見せ、夕食のために案内をするということであった。朝とは違う対応に少し首を傾げるも、メイドに案内された場所はアニメでよく見るような金持ちの家の大きく細長いテーブル。その奥には二人がよく見知っている人物達の姿があった。

 

「お久しぶりです、王太女殿下。お元気そうで何よりです。」

「お久しぶりですね、アスベルさん。エステルさん達からその辺りの話は伺っています。それと、この場は公ではないとのことですから、“クローゼ”で構いませんよ。」

「解った、クローゼ。シオンとは一ヶ月ぶりぐらいか。それに、お久しぶりですユリア准佐。」

「お前の活躍は報告で聞いてる。中々にハードみたいだな。」

「久しいな、アスベル君。っと、失礼した。」

「ここは軍ではありませんので、せめて年功序列的礼儀でお願いします。それに、今の『私』は士官学院生ですので。」

「ふふ、そうか。了解した。」

 

クローディア王太女、シュトレオン王子、ユリア准佐。そして、オリヴァルト皇子の姿であった。聞けば、他にも呼んだそうで、ちょっとした晩餐会を催すために企画したらしい。ふと、ルドガーは気になることをオリヴァルト皇子に尋ねた。

 

「そういやオリビエ、“例の御仁”がここに姿を見せる可能性は?」

「無いとは言い切れないね。何せ、“怪物”と謳われる御仁だ……神出鬼没ぐらいは当たり前、と考えるようにしてる。一応挨拶はしなくてもよいと釘は刺しているけど、意味をなさないだろう。」

「悟ってねぇか?ソレ。」

「セドリックやアルフィン、エルウィンもこの会に参加してもらう。まぁ、流石に父上や義母上には遠慮願ったよ。“皇帝の信任を受けている人物”とその“後ろ盾”がいたら、色々あるからね。」

 

身内+αの集まりとはいえ、在らぬ波風を今立てるのは好ましくない。国のトップを与る者同士の夕食会など別段珍しくもないが、そこに“鉄血宰相”が顔を見せるということがどういった意味を持つのか……悪く言えば『リベール王国は“革新派”を支持している』という風にも受け取られかねないことは目に見えている。

 

「それはそれとしても、一年前の佇まいからしてクローディア王太女やシュトレオン王子と対面するのは宜しくないと思っているんじゃないかな?そのようなことを少しだけ口にしたからね。」

「あの程度の事でしたら、社交辞令なのですが……」

「右に同じく」

 

オリヴァルト皇子の言葉に対し、そうサラリと言ってのけたクローディア王太女とシュトレオン王子。とはいえ、シュトレオンはともかくとしてクローディア王太女の方は数年前まで政に関わりを持っていなかっただけに、その成長速度はオリヴァルト皇子ですら驚きを隠せないものだったのも事実であった。

 

『遅ればせながらクローディア姫、王太女となられたとのことで。遅ればせながらお祝いの言葉を述べさせていただきます。』

『いえいえ、そのようなことであればお手紙でも十分でしたのに、宰相殿も遥々遠路からお越しいただいて恐縮です。それに私など至らぬ身。帝国のために粉骨砕身なされている宰相殿を見習わなければならないと思っている次第です。』

『これはこれは、クローディア殿下のお手本となれるよう精進せねばいけませんな。』

『(宰相殿相手にここまで言えるようになるとはな……)』

『(ホント、リベール王国恐るべしだね。)』

『(女性というものは、こうと決めたら強いからな。)』

 

クローディア王太女とオズボーン宰相のやり取りを見て内心で呟いたミュラー、オリヴァルト皇子、そしてカシウス。単純な押しならず、引きも織り交ぜる“外交”の上で、クローディアの成長は実の祖母であり現女王であるアリシアⅡ世も笑みを零したほどだった。その後、偶然謁見の間に姿を見せたシュトレオン王子はというと……自ら覇気を曝け出してオズボーンを推し量るほどだった。12年前アスベルが初めて会った時と比べると、かなりの成長を遂げていた。怒ると手が付けられないのは変わりないのだが。

 

「あれ?シェラ姉は?」

「ああ、『部屋でまったり飲む』とか言っていた。」

「いや、護衛の仕事しろよ……」

「ま、かの御仁と鉢合わせは勘弁だから断ったんだろうな。」

 

それを言ったら、アスベルとルドガーもシェラザードの意見に近い。用もなくかの御仁に近づきたくなんてない。向こうからすれば既に目を付けているのだろうが、彼に関われば彼に“利用される”のが目に見えてしまっているだけに、だ。そうして話し込んでいると、この国の時代を担う皇族―――セドリック皇太子、エルウィン皇女、アルフィン皇女のお三方が姿を見せた。色々挨拶を交わしていく中で、その三人はアスベルとルドガーに近づいてきた。

 

「お久しぶりでございます。お会いになるのは三年ぶりぐらいでしょうかね。セドリック殿下、エルウィン殿下。それに、アルフィン殿下も。」

「お久しぶりです、アスベルさん。」

「ふふ、ますます磨きが掛かっていらっしゃいますね。シルフィアさんも苦労されてそうですが。」

「まぁ、その辺はちゃんと労っていますのでご心配なく。」

(知り合いか?)

(知り合いっつーか、皇帝絡みの一件でな。)

 

遊撃士として関わった一件で、その過程で三人と面識があった。それなりに歳が近いというのもあって、色々な談義に花を咲かせていた。ただ、本人たちにはアスベルがリベール王国の軍人でもあることや"守護騎士"であることは伏せている。それを言ったらルドガーのことも同様なのだが。

尚、シオンに関しては同じ“転生者”ということからルドガーの事は話したのだが、その際の言葉は

 

『お前、何気に苦労人してるな』

 

とのことだった。まぁ、間違ってないというのが何とも、といったところではある。挨拶もそこそこに夕食会と相成り、伝統的な帝国のディナーを味わうこととなった。その料理も終わりかけのころにアスベルは妙な気配を察した。隣に座るルドガーも頭を少し縦に振るのを見て、席を立った。それを不思議に思ったオリヴァルト皇子に尋ねられたので、『少し夜風に当たってくる』といいその場を後にした。

 

二人はそのままバルフレイム宮のバルコニーに移動した。そして、互いに

 

「あの気配、絶対あの野郎だよな」

「だな」

 

あの雰囲気……一年前の時は遠目からその人物の風貌を見ていたが、アレは最早“人”というカテゴリに収めてよいものか解らないオーラを発していた。紛れもない“怪物”と言っても差し支えないだろう。だが、そこには二人しかいないはずの気配を遮る様に姿を見せる一つの気配。アスベルにとっては“影の国”以来、ルドガーにしてみればそれ以上の付き合いとなる人物―――傍目から見ればひとりの女性が姿を見せた。

 

「見つけましたわ、ルドガー・ローゼスレイヴ!!」

「はぁ、また面倒な奴が…一難避けたらこれか。」

「ご愁傷様……“神速”のデュバリィか。」

「え、何故そこの少年は私の名をご存じなんで……その容姿、まさか“京紫の瞬光”!?ルドガー、何故そのような人物と一緒にいるんですの!?」

 

女性―――“鉄機隊”の筆頭であるデュバリィの登場に二人からはため息しか出てこなかった。それもそうだろう。面倒な事態を避けたら、さらに面倒な人物が姿を見せたことには、もうため息しか出ないのは道理と言っても差し支えない。余計面倒なことになる前に、ルドガーは真剣な表情をデュバリィに向ける。

 

「こいつとは色々あってな。不可侵条約みたいなものだ。それに、デュバリィ。“使徒”の形式上『部下』であるお前が俺に指図するつもりか?そうだと言うなら―――力づくででも排除することも厭わない。」

 

怒らせたルドガーに触れるべからず―――それを察してしまったのか、『納得いきません』といった表情をしつつもその場から転移術のようなもので姿を消した。それを見届けると、ルドガーはもう一度溜息を吐いた。これにはアスベルも苦笑しか出てこなかったのだが。

 

―――所変わってアスベル達が先ほどまでいた部屋……オリヴァルト皇子はその人物が去った後に溜息を吐いた。

 

「やれやれ…彼等はこのことも見抜いて部屋を出たのだろうね。まぁ、気持ちは解らなくもないが。」

「だろうな。別に一施政者の事を悪く言うつもりはないが。」

 

その人物―――“鉄血宰相”ギリアス・オズボーンの突如の訪問にはオリヴァルト皇子のみならずシュトレオン王子も苦笑する他なかった。そういった神出鬼没さには流石の“怪物”としか言う以外ないのだろうが。

 

 

お久しぶりです。まぁ、リアル事情のせいで投稿が遅れました。

モチベーションはありますので、ご心配なく。

次回はリィン達にスポットを当てます。何故かと言うと、いろいろ変わってる部分があるからです。

特にこの日のイベント絡みで。


 
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