「はあ…はあ…ううっ」
金髪の少年は姿を現したかと思えば、直後に地面に倒れ伏してしまう。
よく見れば、彼の服装は粗末な白い布を纏っただけの簡素なモノだ。
「だ、大丈夫!?」
「ウル、迂闊に近づくのは危ないにゃん!」
しかし、黒歌の制止も聞かずにウルは少年へと走り寄る。
「酷く衰弱してる…。それにこれは毒?早く治癒しないと」
「やれやれ、まったく…ウルのお人よしはビョーキの域にゃん」
呆れながらも黒歌は治療のための仙術を手際よく組んでいく。
ウルもまた、魔法によって治療を行っていく。
「ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト。
魔法と仙術による治療の甲斐あってか、荒かった少年の息はだんだんと落ち着いていき、脂汗が滲み苦しそうな顔をしていた彼の顔も落ち着いてきた。
「…黒歌さん、彼はもしかして」
「ウルの考えてる通りだと思うにゃよ。この子から聖なる気配を感じ取れるにゃ。…十中八九、聖剣計画の被験者にゃ」
「…やはりですか」
返事をしたウルはしばし考え込む。
そしてしばらく考えた後、黒歌に話しかける。
「黒歌さん、リアス部長やカリンさん達に連絡してください。聖剣計画の被験者と思しき少年を保護しましたと。その後、このあたりに結界を張ってください」
「…ウルはどうするにゃ?」
その言葉に対して、ウルは答えなかった。
無言で飛行魔法を発動し黒歌と少年に背を向けて浮遊する。
ウルが見据えている方向は、先ほど黒歌が探知した研究所があると思われる方角だった。
「…行くにゃん?」
「ええ。部長たちには先行している、と伝えておいてください」
「…行くのは止めないにゃ、でも―」
何かを言いたげな黒歌が気になったのか、ウルはわずかに後ろを振り向き黒歌を見やる。
「絶対!帰ってくるにゃ!怪我もしちゃダメにゃ!怪我して帰ってきたら、オカ研全員で看病してやるから覚悟しにゃ!!」
「それは不自由ですね、怪我しても自分で治して帰ってきます」
軽口を叩きつつ、ウルは飛行魔法で研究所へと向かった。
そしてその場所には『何にゃあの態度!』と怒りながら少年の面倒を見る黒歌だけが残っていた。
★
「―――着いた」
鬱蒼とした森の中に、密かに建っている教会。
聖なる気配を漂わせながらも、どことなく空気が澱んでいる。
さらに―
「………これは、毒ガス?少年に回っていた毒はこれですか」
気付かずに進んでいたら、いくら人造の体とは言え深刻な影響を齎していたであろう程の猛毒。
あの少年が生き残っていたのは吸い込んだガスがごく少量だったからだろう。
「…こんなもの…。ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト。
魔法で突風を放ち、毒ガスを払いのける。
不自然な突風に気が付いた教会の人間たちが騒めき、ウルの姿を認めるや否や警告も無しに発砲してくる。
―が、しかし。
「な、何だ!?」
「何故被弾しない!?発砲音も、弾丸も見えない祓魔弾だぞ!」
ウルの曼荼羅のような障壁―『
「…一つだけ、忠告します」
底冷えするほど冷たいウルの声が森に響く。
「貴方たちの中で、人工聖剣使いを生み出す計画―聖剣計画について少しでも疑問を持っていた人は武器を捨ててください」
その言葉に、大多数のエクソシストが言葉に詰まる。
何故なら先ほど行われた実験体たちの『処分』―それには彼らも反対していたからだ。
しかし、少人数―神を盲信しているエクソシストは違った。
その言葉を意にも介さず、ウルに攻撃を仕掛けてきたのだ。
「黙れ異教徒め!神の家を襲撃するとは恥を知れ!!我らが主の御名のもとに貴様を断罪する!」
「…ふん」
攻撃を仕掛けてきたエクソシストは8人。
そのうち3人が刀身のない剣の柄から光の刀身を生み出し斬りかかってくる。
残りの5人は後衛のつもりか、光の銃弾でウルを狙い撃ち援護をしている。
だが、光の剣も銃弾も。
ウルの魔法障壁を突破するほどの威力は無く、刀身は甲高い音を立てて砕け散り、銃弾は先ほどの再現かのように障壁に阻まれる。
勿論のこと、ウルは微動だにしていない。
「なっ…何故だ!主の祝福を賜っている我らの剣が!」
「子供を犠牲にする実験を容認するのが貴方がたの神ですか?…それが本当ならばそれは神ではなく―本物の悪魔ですよ」
「黙れぇぇぇ!!!」
激昂した一人のエクソシストは、剣の柄を手放しウルに殴りかかってくる。
それは技術も何もない、やぶれかぶれの拳だった。
そのような拳が当たるはずもなく、ウルはひらりと身をかわす。
エクソシストは拳が空を切り、バランスを崩したのか無様に転んでしまう。
「き、貴様ァ~…!!」
「もういいです。貴方は黙っていてください。
地面に跪きウルを睨み付けるエクソシスト。
そんな彼をウルの右手から発された一条の光線が射抜く。
すると彼の体は、地面に跪いた格好のまま、瞬時に石化してしまった。
「…ほかの方々はどうします?まだかかってきますか?」
石化されたエクソシストを目の当たりにし戦意を喪失したのか、残りのエクソシスト達は全員が銃と剣の柄を放り捨てた。
「今この場に魔王サーゼクス・ルシファー様から聖剣計画の調査を命じられたリアス・グレモリー様が向かって来ています。僕たちに危害を加えない限り、貴方がたに危害を加えるつもりはありません。この施設の責任者はどなたですか?」
ウルがそう問いかけると、ほぼ全てのエクソシストが口を噤む。
まるでその事には触れたくないと言うように。
「…まあ良いです。…そうだ、先ほどこの施設から逃げ出したと思われる少年を保護しました。その少年は金色の髪をしていましたが、心当たりは?」
その言葉を聞いた一人のエクソシストが驚き、顔を手で覆った。
見るとその手の間からは涙が零れている。
「イザイヤ…生きていてくれたか…」
「彼の名前はイザイヤと言うのですか?あなたは?」
「彼の指導をしていた一介のエクソシストだ。良かった…一人でも生き残ってくれていて…」
彼はそれ以上の言葉を紡げず、とうとう地面に付して泣き始めてしまった。
リアスたちオカルト研究部が到着するまで、森の中には彼の鳴き声が響いていた―
一応教会も人でなししか居ないってわけじゃないと思うのです
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第二十四話 獅子と祓魔師達