学生の責務である期末テストを終え、終業式を終えたある日の部活。
部長であるリアス・グレモリーは唐突に言葉を放った。
「旅行に行くわよ」
「はい?」
★
―三日後―
「展開早くないですか!?」
「ウル、メタいぞー」
場所は変わり、ここはヨーロッパのとある田舎町。
いきなり叫びだしたウルティムスを町の人々が怪訝な目で見ている。
流石に恥ずかしかったのか、ウルティムスは着ていたパーカーのフードを被り顔を隠す。
「うう、恥ずかしい…」
「ま、ともかく来てしまった以上楽しむしかないさー。あ、おっちゃーん!これ一個!プリーズ!」
開き直った響は楽しむことにしたのか、露店で売られているクレープを買い頬張っている。
「美味しいぞ、これ!ウルも食べるかー?」
「じゃあ一口貰いますね。…あ、ホントだ。美味しいですね。ハムとチーズが挟まれてるんだ」
「クレープって甘いのだけじゃなくって、しょっぱいのも美味しいんだなー。外国で発見したぞ!」
傍から見ればイチャイチャしてるバカップルな二人。
町の人達はあらあらまあまあ、可愛いカップルね。と口々に持て囃すがその二人に突っ込む二つの影あり。
「なにイチャイチャしてるにゃー!ウル、私にも構いなさいにゃ!」
「…私にも構ってください」
「うわぁ!?黒歌さんに白音ちゃん!?あ、ちょ、倒れ…」
ドシーン、と二人の衝突の勢いを殺せなかったウルは後ろに倒れこんだ。
二人に怪我をさせないようにしているところは流石と言ったところか。
「イテテ…」
「うわぁっウルごめんにゃ!」
「大丈夫ですか?」
「この程度で怪我するほど軟な鍛え方はしてないから…とりあえず、どいてくれると嬉しいです」
慌ててウルから退き、二人は立ち上がった。
気になる男の子との一時を邪魔された響は若干不機嫌そうに頬を膨らます。
出遅れたみゆきもまた、一歩下がったところでアワアワしている。
離れた場所からそのドタバタ騒ぎを見ていた他のメンバーは苦笑していた。
「それで、リアス?いきなりの長距離旅行の目的は何なの?いつも夏休みは冥界へ帰るでしょう?」
「…お兄様から指令があったのよ」
リアスの兄―魔王サーゼクス・ルシファー曰く『近頃教会内部に不穏な動きがある。なんでも戦力増強を狙ってるらしいのだが…。その方法がね―』
「人工聖剣使いだなんて…。どんな研究をしているのかしら」
「聖剣使いデスカー…昔戦った聖剣使いはとても強かったですネ~。…また楽しみたいわぁ」
「聖剣どすか~。うちの妖刀とどっちが強いんやろか~」
「…頭が痛くなりますね」
怪しげに笑うアンジェと月詠、その二人に頭を抱えるカリン。
オカルト研究部もずいぶんと賑やかになってきたものである。
★
その日の深夜、オカルト研究部のメンバーは鬱蒼とした森の中で疾走していた。
とはいえ、素の戦闘力が高いわけではない響やみゆきは護衛としてカリンと月詠を伴っての移動である。
別働隊としてリアスと朱乃、アンジェの三人一組。
そしてウルと黒歌の二人である。
「さて、探索なんだけど…どうしようか」
「普通に探知すれば良いんじゃにゃい?」
「教会の連中も馬鹿じゃないでしょうし、探知術の対策くらいはしてるでしょうよ」
思案に暮れるウルと黒歌。
やがて黒歌が妙案とばかりに案を言い出す。
「あ、じゃあ気脈の流れから探知するにゃ。聖剣なんて大それたものを使ってるなら気脈の流れに何らかの異常が発生するはずにゃよ」
「気脈…それは大丈夫なんですか?」
「気脈…龍脈ともいうけど、それを扱うのは仙術の十八番にゃ。教会の奴らが気脈にも偽装を施していても、私には丸見えにゃん♪」
にゃん♪とあざといポーズで仙術を発動した黒歌。
何処となく中華風な魔方陣が背後に浮かび上がり、魔方陣の中心から波紋が広がっていく。
大地の気の流れと言われる龍脈を探るには相当な集中力が必要なようで、黒歌は目をつぶりその額には玉のような汗が浮かんでいる。
数秒か、あるいは数分かじっとしていた黒歌だが、不意に目を開いて静かに告げる。
「…南西に少し行ったところに気脈の乱れがあるにゃ。おそらくそこが―」
「人工聖剣使いの研究所、ですか。行ってみましょう。」
それは二人が目的地を探し当て、向かいだしたのと同時だった。
「はぁ…はぁ…!」
金色の髪の極度に衰弱した少年が木の陰から姿を現したのは。
コノショウネンハダレナンダローナー(棒)
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第二十三話 獅子と実験体