(アフス城・魔導研究棟・魔導研究室)
所変わって、こちらはルカをさらっていったテルの魔導研究室。アペンド達が秋葉原に向かった頃、テルもルカを抱えて、自分の部屋に到着していたのでした。
チュッ
テルはルカをベッドに寝かすと、ルカの右手の甲を口元に持ってきて、軽くキスをしました。そろそろルカを起こすことにしたのでした。
ルカ「うっ・・・・・こ・・・・・ここは・・・・?」
テル「お目覚めですね、姫・・・いや、姫代理のルカさん?」
ルカはゆっくりながらも、起きあがり、ベッドに座るような形で、ぼーっとしてました。
ルカ「えーーーーっと、確かアペンドさんの部屋に行って、そこで・・・・! そ! そうだ! 気を失って!」
テル「そう、私にさらわれたのですよ。完成版魔法陣の受け渡しのための人質としてね」
ルカ「…確かあの部屋は開放されていたし、私を“姫代理”って呼んだということは、私の事や事情は筒抜けだったってことね」
テル「Exactly(その通りでございます)」
ルカ「異世界の秋葉原から来た“対応人物”であって、姫本人ではない私なんかさらっても、国家間での取引で“完成版魔法陣”を手に入れることなんか出来ないんじゃないの? アペンドさんは事情を知っているんだし」
テル「完成版魔法陣が欲しいのは、国家ではないです。私の個人的欲求です。国家上層部には一切話をしてません。それにこの未完成版の魔法陣を頂いてきたから、当面の“侵攻作戦”に支障はないだろう」
そういうとテルは魔法の杖の先の“球体”で、床をコツンと叩くと、未完成版の魔法陣が現れたのでした。
ルカ「侵攻作戦…魔法陣…。つまり、貴方の真の目的は、自分の策略で私たちの世界を侵略すること、そういうですか」
テル「さすが、賢明なルカさん、コッチのルカ姫とは偉い違いだ。そのとおり、国家を介さずして、あなた達の世界を侵略してしまえば、そのトップは私になる。そうなれば、こんなちっぽけな国家に遣える必要もなくなる。逆に向こうの技術を使って、コッチの世界全てを統べてやるわ」
ルカ「随分と野心旺盛な方ですね。しかし、この未完成版は、“対応人物と交換”、で向こうの世界に行けるわけだから、貴方一人だけではどうしようもないのでは?」
テル「さすが聡明だな。しかし、私の野心は私だけで進んでいるわけではないぞ。待たせたな、入ってくれ」
バタン、ガヤガヤ
木戸が開いて、3人の兵士が現れたのでした。
トニオ「全く、待たせやがって!」
プリマ「まぁ、そういうな、計画は一歩一歩だ」
ミリアム「やっと出番が来た…」
ルカ「こ、この人達は…」
テル「我が帝国と国交のある“フォーリナー軍政国家”の兵士達だ。報酬の代わりに、ある依頼を頼んである」
トニオ「ルカ姫っちなんて、軽く潰してやるよ、へっへっへ」
プリマ「その魔法陣で、アキハバラって所に行けばいいんだな?」
ミリアム「謎の機械が一杯って、楽しそう…」
ルカ「…向こうへ行ったルカ姫を始末する、と…」
テル「そう。こっちと向こうの世界を支配した後は、重要な役職に就いて貰う、それと大金の報酬の代わりに姫を暗殺して貰うことになっている。取引にしても、これからの事にしても、君がいれば十分なので、本物には消えて貰う事にした。ちょうど良い好機なのでな」
ルカ「涼しい顔して、やることは残虐なわけね」
テル「何とでも言ってくれたまえ。では、フォーリナーの3人、魔法陣の中央に立ってくれ」
フォーリナーの3人は、武装した状態で、少し怪訝そうにしながら魔法陣の中央に立ちました。
テル「では。魔法陣よ! この3人をアキハバラに連れていってくれ!」
ギューーーーーーーン!!!!
金色の光の粒が3人の体を包むと、足先から徐々に3人を消していき、遂に全部を消してしまいました。そしてルカの時と同じように、フォーリナーの3人に対応する、アキバの3人が倒れた状態で魔法陣の中央にやってきたのでした。
テル「なるほど、これは凄い! コピーできるから、当面、これを使うのも手だな」
ルカ「こうやって私も来たわけね。凄い魔法というか…」
テル「さて、この3人には静かにしていて貰わないといかんな…」
テルは気絶している3人を縛り上げて、部屋の片隅に座らせたのでした。
テル「さて。これで第1段階は終了か。次はアペンド達の反応を一応確認するか。今頃必死になって“完成版の魔法陣”を作っているはずだが…」
ルカ「(あのアペンドさんが、無策でいるはずがないと思うけど…)」
テルは、部屋に設置されていた“対象を感知できる魔導レーダー”を使って、アペンドのいる位置を調べてみたのでした。
ピーーーガガガ… ハンノウナシ デス
テル「なに!? いるはずなんだがな…」
テルは感度を最大まで上げて、もう一度調査してみたのでした。
ピーーーーーーーーーーーガガガガガガガ… ハンノウナシ デス
ルカ「(やっぱり…)」
テル「あいつが未完成品を使って異世界に行くとは考えられない・・・・・・アペンドめ・・・・・・もう完成版魔法陣を完成させていたか…」
ルカ「そして、当然、ルカ姫を助けに行ったわよね」
テル「くっ! こちらに渡す前に使いおって…こっちのルカの安全をちゃんと考えた上での行動なのか?」
ルカ「アペンドさんは、私を信じた上で、行ったんだと思うわ。私ならこういう場面でも切り抜けられる、と」
テル「大した自信だな。まぁどっちにしろ、完成版魔法陣をアペンドから受け取らないと、計画は最初からコケる事になる。故に、お前を殺す事はいずれにしてもできん」
ルカ「そういう事よね。私も暴れる気はないわ」
テル「当然だ。今の時点では、どちらも動けないのだからな」
そうこうしているうちに、フォーリナーの3人と交換でこっちに来てしまった3人が目を覚ましたのでした。
トニオ「う…いてて…。なにがどうなったんだ!?」
プリマ「って! なんか縛られてる!」
ミリアム「誘拐!?」
テル「ようこそ、ファンタジーワールドへ。ここはアフス帝国の魔導研究室。私は魔導師のテルと申します」
トニオ「はぁ?」
プリマ「最近は凝った誘拐方法があるのね…」
ミリアム「そんな事より、私たちの関係者に何を要求したのよ!」
テル「正確には誘拐ではない。交換ルールで、来てしまうことになっただけだ。お前達に対応するフォーリナーの3人が帰ってきたら、自動的にお前達も帰る事になる。それまで静かにしていなさい」
トニオ「!?!?!?」
プリマ「なに、こいつ、うざい…」
ミリアム「なんなのよ、もう…。はぁ、帰りたい…」
ルカ「テル、あんたホントに国家に内緒で策を企てているのね。いずれ足下すくわれるわよ?」
テル「心配ご無用。この国は“帝国”とか言っている割に、策略が古典的で毎回クリプトン王国とインタネ共和国の連合に追い返されている。協力しているフォーリナーの兵士達にしても、私が作った魔導兵器もちゃんと使いこなせず、正直、三行半(みくだりはん)を付けていたところだ」
ルカ「じゃあ、あの兵士3人だってだめなんじゃ…」
テル「彼らは、ビジネスに徹したエリート軍人だ。貴重な特殊能力も持っている。国に仕えて最前線で戦う犬にはならん、そういう輩だ。私との繋がりも強く、特務をしっかりこなしてくれている」
そんな事を話していた矢先に、縛り付けていた3人の姿が、足下から金色の光の粒に包まれて消えていき、代わりに、先ほど向かった兵士3人が、先ほどとは違う状態で、魔法陣の中央にあらわれたのでした。
テル「こ・・・・これは・・・・・・」
ルカ「あーあー、一人は氷漬け、一人はこぶを作って気絶、最後の一人だけが足を不自由にされながらも喋れる…と」
テル「トニオ、これは、どういうことなんだ?」
トニオ「す、すまん。クリプトン王国の連中にやられた…。奴らとルカ姫は、コッチの世界に帰ってきているらしい。レーダーで調べろと言われた」
テル「まさか、あいつら…」
テルは慌てて魔導レーダーを操作して、世界間であった変化を検索した。
ピピ・・・・・ガガガ・・・・・魔導師アペンド、僧侶リン、勇者レン、ルカ姫、剣士学歩の5名がこちらの世界に戻ってきており、別に1名、向こうの世界からこちらに到着しました。
ルカ(別の1名?)
テル「あいつらはともかく、なんだ? その別の1名とは!?」
ピピ・・・緑の髪の女性で、ツインテールですね。魔導の銃を持ってます。そこのルカという人物に関連があるらしいです。
ルカ「!? もしかして…ミク!?!?」
テル「お前の知り合いか!?」
ルカ「どうして、こんな危険なところに…」
テル「くぬぬ…、姫暗殺に失敗したばかりか、よりにもよって、取引に手練れの兵士を付けてきたとは…。交換取引には一人で来る、と言ってあるが、伏兵で奴らを呼ぶことは十分考えられるな… ならばこちらの取引も、考えんといかんな」
トニオ「そ、そんなことより、俺達をさっさと助けてくれ!」
しかし、テルは冷たい目線をトニオ達に向けて、そして、手を振り上げたのでした。
テル「…隠密作戦に失敗し、あげくに、こんな事態まで作ってしまったお前達は、“万死”、に値する…」
トニオ「お、おい!!!」
テル「消えろ」
テルは振り上げた手を振り下ろしたと同時に、巨大な火炎球をトニオ達3人に向かって放った。火炎球はトニオ達3人を包み込み、そしてあっという間に3人を骨も残らない程に焼き払い、そして、消してしまった。
ルカ「あ・・・・・あなたって人は・・・・・」
テル「情報を帝国や軍政国家の上層部に漏らすわけにはいかん。まだ、こちらには内通しているフォーリナーの手練れの駒が沢山いる。そんなことより、彼らに取引の連絡をしなければいかん。時間を与えるわけにはいかんからな」
ピーーーガガガ…
机の上にあった連絡用魔法陣に力を加えることで、アペンド達の魔導研究室と映像音声連絡を取ることが出来たのでした。魔法陣の上にはアペンドが映りました。
テル「…随分な事をしてくれたな? こっちのルカの事は考えたことがあるのかな?」
映像のアペンド「考えた上で行動した。しかし完成版魔法陣の完成には時間がかかる、と思わせていたはずだが、その予想は微妙にはずれていたか。だが、知っての通り、魔法陣は完成し、更に、ルカ姫も助け出した。後はそこのルカさんを助けるだけだ」
テル「そのまえに取引があることは、わかっているんだな?」
映像のアペンド「わかっているから、この通信を受けた。ちゃんと取引は行う。場所を指定s」
映像のミク「ちょっと待って! そっちにいるルカを映して!」
テル「お前がミクか。まぁいい。向こうの世界から危険を承知でこちらにやってくる根性は見上げた物だ。我が方に欲しいくらいだ。ほれ、これがお前の友人の今のルカだ」
テルはルカに魔法陣の上に顔を映すように指示し、ルカも落ち着いて、魔法陣をのぞき込みました。そこには、あの親友のミクの泣き顔が映っていました。
映像のミク「よ・・・よかった・・・・まだ、無事だ・・・・よかった・・・本当に良かった・・・・」
気丈なルカもちょっと、うるっとしながら、ミクに話しかけました。
ルカ「ミク…なんで、こっちに…。アペンドさん達に任せれば…」
映像のミク「任せてなんていられないよ…、それに・・・・・・・嬉しいでしょ? 本当は?」
ルカ「・・・・・・・・・・ばか、嫌なわけないでしょ!」
映像のミク「絶対助け出すからね! そして一緒に帰ろう!」
ルカ「勿論そうするけど、無茶だけはしないでよ!?」
アペンドはミクを、テルはルカを魔法陣から引き剥がすと、取引の話を切り出しました。
テル「えーーー、とにかくアペンド、お前だけで、完成版魔法陣を封じた魔導物品を持って、今日の午前0:00に、中立地域にあるピーアプローの丘まで来てくれ。こちらもルカを連れていく」
アペンド「わかった。こちらも一人で行くが、くれぐれもそちらも、ルカとお前の二人で来るのだぞ?」
テル「わかっている。私の目的はその完成版魔法陣だけだ。他に価値は見出してない」
アペンド「了解だ。では通信を切る」
ビューーーーーン プチン
こうして、テルとアペンドの通信が切れました。しかし、双方、“約束を守る気がない”、のは、どうやら一緒だったようです。
(クリプトン王国 魔導研究室)
アペンド「さて。じゃあ、こちら側は、さっきササッと話した作戦の通りに行動しましょうか」
学歩「しかし、本当に大丈夫でござるか?」
ミク「ルカにあいつが何かしたら、問答無用で私は撃つよ!」
アペンド「まぁ、それも駆け引きってヤツね。どうせ向こうも約束なんて守る気ないんだし。それにこっちだって完成版魔法陣を渡す気ないし」
リン「戦闘は避けられないのね」
レン「この分だと、向こうの手練れはフォーリナーの兵士って事になるね」
ミク「それも撃つ!」
アペンド「ミクさん、まぁまぁ、落ち着いて。とにかく相手は私と互角と思うくらいの魔導師であり策士。こちらも“策を読まれない”ような、演技も必要ですよ?」
ミク「す、すみません」
アペンド「とにかく、私は完成版魔法陣を詰めた杖を持っていきます。他の方は先ほどの作戦の通りに。くれぐれも見つからないように」
アペンド以外「了解!」
(アフス帝国 魔導研究室)
バタン
テル「ソニカ、来てくれたか」
ソニカ「随分な額の報酬だけど、こんなことだけでいいわけ?」
テル「重要な役だ。頼むぞ」
ソニカ「了解だ。では」
ソニカはルカの前に立つと、じっと見つめて、そしてしばらく目を閉じ、そして目を開くと、こう言葉を発しました。
ソニカ「変身! ルカ!」
すると、ソニカは、ルカそっくりに変身してしまったのでした。
ルカに変身したソニカ「これでいいか?」
テル「ルカさんは、もっと言葉が丁寧だ。気を付けろよ」
ルカに変身したソニカ「了解…ですわ」
テル「さてルカさん、もうわかっただろうが、君の役目は、こんな取引で使い切ってしまうわけにはいかんのだよ。まだまだ活躍してもらうよ」
ルカ「…おまえらしい策だわ(ミク、アペンドさん、気を付けて!)」
こうして、お互い、策を講じた上での月夜の取引が、行われようとしていたのでした。
(続く)
CAST
ルカ姫、巡音ルカ(ルカ):巡音ルカ
初音ミク(ミク):初音ミク
魔導師アペンド:初音ミクAppend
僧侶リン(リン):鏡音リン
勇者レン(レン):鏡音レン
インタネ共和国の神威学歩:神威がくぽ
アフス帝国の魔導師テル:氷山キヨテル
フォーリナー軍政国家のトニオ&アキバのトニオ:Tonio
フォーリナー軍政国家のプリマ&アキバのプリマ:Prima
フォーリナー軍政国家のミリアム&アキバのミリアム:Miliam
フォーリナー軍政国家のソニカ:SONiKA
その他:エキストラの皆さん
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☆当方のピアプロユーザーネーム“enarin”名義で書いていました、ボーカロイド小説シリーズです。第15作目の第7話です。
☆今回は1話分を短めにした、ファンタジーRPG風味の長編です。
☆当時は2期を意識してなかったのですが、本作は最新シリーズ“Dear My Friends!第2期”の第1期という作品になり、第2期のシナリオやカラクリに、第1期となる“本作”の話も出てきますので、これから長い長いお話になりますが、長編“Dear My Friends!”として、お楽しみくださいませ。
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