王異視点
なんでだよ
凪紗「ガハッ!?」
なんでこいつらは…
秋菜「グッ!フッ!」
こんなに打ちのめしても…
凪紗「まだ…まだ!」
立ち上がって、向かって来るんだよ!?
友紀「はぁ…はぁ…もう、やめろよ!わかっただろ!?お前らじゃ、絶対に私に勝てない!だから!だからもう!」
立ち上がらないでくれ…
凪紗「嫌…だ…私は絶対に、あなたを止める…」
フラフラになりながら、腕を抑えながら立ち上がる凪紗を見て、少し気圧されてしまう
なんで、なんでそんなにも傷だらけになりながら、そんな目ができるんだ…
なんでその目から、光が消えないんだ…
友紀「もう、関係ないだろ!お前らに私の気持ちなんてわからない!全部あるお前らに、何もかも失った私の気持ちなんて、絶対にわからない!」
秋菜「はぁ…はぁ…あぁ…わからんな。お前の気持ちなんて」
秋菜が最後の矢を取り出し、私に向けて言った。
その家族譲りの鋭い目つきに、私はゾクリとしてしまった
凪紗「確かに、私達は友紀さんに比べたら恵まれている。家族に囲まれて、不自由のない生活をしている。だから、失ってしまったあなたの気持ちを察する事なんてできない」
秋菜「だが、それを取り戻そうと悪に手を染めた事もわからん。何故そうするしかなかった?損得を何よりも重視しているお前が、何故こんな危険を犯した?もっと他に道はあっただろ?」
凪紗と秋菜の言葉がどうしても正しく、その問いに対する答えなんて、私は持ち合わせていない。
私はただ、もう一度会いたいだけだったのだから
大好きだった、私の家族に…
凪紗「あなたなら分かっているはずだ。自分のしている事が、どうしようもなく間違っていると」
当たり前だ
秋菜「本当は止めて欲しくて仕方ないのだろう?だからお前は、私達を殺そうとはせず、ただ痛めつけているだけなのだろう。だがそれも、もう止めたくて仕方ない。何故なら…」
………
凪紗「何故なら、あなたの涙を見たからだ。私達を殴るたび、罪悪感に満ちた表情をしている。そんな顔する人、放っておける訳ないだろ!」
指摘され、私は目元を拭った。
すると確かに、汗とは思えない雫があったのだ
私が、泣いている?
なんで…
いや、その答えは、私自身が一番わかっているはずだろ?
ただ、それを言葉にしたくないだけだ
私はただ、自分の我儘の為にやっているのだから
凪紗「だから、絶対に止めてみせる!それが、私達ができる、友紀さんを救う方法だから!」
友紀「!?」
叫ぶと同時に、凪紗が拳に氣を纏わせて突っ込んでくる。
さらに同じくして、私の背後からゾクリとする気配を察知した。
秋菜がいつの間にか、私の背後を取っていたのだ
そして放たれる鋭い矢の一撃
私はそれを小太刀を抜いて弾いた
これで、秋菜は矢を失った
弓兵の生命線とも言うべき矢を…
秋菜「………」
だと言うのに、秋菜は私を見て微笑を浮かべていた。
まるで、仕事を終え、満足したと言わんばかりに…
その笑みの理由は直ぐにわかった
凪紗「ハァァァァ!」
ガキン!
凪紗の拳を小太刀で受け止める。とても重たい、真っ直ぐな拳を。
その拳が私の元に届く事は無かったが…
バキッ!
私の小太刀を折った
友紀「なに!?」
小太刀は今回初めて抜いたにも関わらず、たった一撃受け止めただけで折れたのだ。
手入れもして、万全だった状態の私の愛刀を…
だが、それで秋菜の笑みの理由に合点がいった
あいつは最初から、これを狙っていた
そしてそれは、今まで無駄撃ちをして来たかのように見えた攻撃にも意味を持つ事になってくる
例えば、私が小太刀を失ったと判断した瞬間、私は手元にあった槍を引き抜き、凪紗に振るったが…
バキッ
これも凪紗の蹴り技で壊されてしまった
武器破壊。
東の人間でも、特に咲夜さんが得意とする技術だ
秋菜…
あまり目立たない奴だが、敵に回るだけで、こうも厄介な存在か
じっくり時間を掛けて、確実に潰すスタイルは、兄譲りだな
ほんと、嫌な兄妹だ
秋菜「ふぅ…ようやく下準備を終えた。さぁ友紀、年貢の納め時が近いぞ」
そして秋菜の手から、新たな矢が出現した
秋菜視点
友紀「なん…だと…?」
友紀は私が出した矢を見て驚いていた
こいつの驚いた表情を見れただけでも、やった甲斐があったと言うものだな
秋菜「姉者や兄者、そして妹達に囲まれて育ったものでな。私もあまり、負けていられないのだよ」
手から出現させた矢を弦に掛け、ゆっくりとした動作で矢を放つ。
それは真っ直ぐ友紀の元へと向かうが、友紀はさっと避けて見せた
友紀「!?本物?いや違う。これは…」
間違いなく動揺はしているだろうに、たった一本見せただけで気付いたのか
秋菜「あぁ。本物の矢じゃない。私が魔力を媒介にして造った、ただの紛い物だよ」
父上の能力、想造〈クリエイト〉。
どういう訳か、私はその能力の一部を引き継いでいたらしく、矢の様な構造がシンプルな物なら、容易に造る事が出来るのだ
秋菜「矢が尽きて、私の万策も尽きたと思ったか?実際は逆だ。お前の武器は、全て私が壊してやった」
私には姉者程の武の才も、兄者程の知の才もなかった。
そんな私があの家族の次女として生きるには、技術を磨くしかなかった。
だから私は母上と、そして咲夜さんを師と仰ぎ、武器破壊に関する技術を磨いてきた。
制限がある矢の一発で、敵を確実に行動不能にする為に
秋菜「そして私には、まだまだ矢があるぞ」
魔力の大盤振る舞いだ。
矢を数本出して見せ、それを一気に放った。
友紀は驚きながらもしっかりと後ろに飛んで回避するが、その先には…
凪紗「私もいます!」
友紀「しまっ!?ガッ!」
凪紗が全速力で駆け出し、その勢いで飛び蹴りを当てた。
友紀の背中に思い切り当てて見せ、蹴り飛ばした
友紀「ゲホッ!これくらいで…!?な、なんだこれ…?」
友紀が立ち上がると同時に、友紀の両手両足に鎖が巻き付いた。
それを見た友紀は戸惑いながらも、すぐに私を睨んできた
秋菜「ほぉ、流石にわかるか。それも私が魔力を媒介にして造ったものだ」
神縛の矢。
4本以上の矢を地面に刺し、その中心点にいる対象の四肢に鎖を巻き付ける。
矢の数が多ければ多いほど、より強固になっていくという、私の奥の手だ
友紀「秋菜ァァァ!」
友紀が私を睨んで叫ぶ。
その光景を見て、私もずいぶんと気が晴れてきた
やはり、ストレスを発散させるには、そのストレスの元になった奴へぶつけるのが一番だな
秋菜「いいのか、友紀?私にばかりかまけていて」
友紀「!?」
凪紗「猛虎…」
鎖を必死に引きちぎろうとする友紀の側へ、脚に氣を纏わせた凪紗がゆっくりと近付いてきた
ようやく終わったな…
友紀「クソォォォ!」
凪紗「蹴撃!」
ドゴーン!
凪紗の蹴りが友紀に直撃し、友紀の体に絡み付いていた鎖をも引きちぎって吹き飛ばした
凪紗「友紀さん…あなたの、負けです!」
凪紗の勝利宣言とも言える言葉通り、友紀は地面に倒れたまま、起き上がれずにいた
秋菜「良くやったな、凪紗」
私は凪紗の側に行き、凪紗の頭を撫でてやる。
凪紗は嬉しそうに目を細めて、そして直ぐに友紀を見ていた
凪紗「秋菜姉さんがいなければ、絶対に勝てませんでした。本当に、ありがとうございます」
確かに、友紀との勝負がこれほどキツイものだとは思っていなかった。
私一人では勝つ事は出来なかっただろう。
それだけ、友紀の思いが強かったのかもしれない
友紀「ゲホッゲホッ!」
秋菜・凪紗「!?」
ゆっくりと、体を抑えながら、友紀は立ち上がろうとしていた。
あれほどボロボロの体で、まだ抗おうと言うのか?
友紀「お前ら…なんかに…負ける訳には…いかねぇんだよ…私は…家族に…会うんだ…」
そして立ち上がり、荒く息を吸うと、氣を体全体に纏わせて集中し始めた
これで、本当に詰みだな
友紀「瞬間…回復!」
咲希の姉者の化け物たる所以の技の一つ、瞬間回復。
その技は、細胞を活性化させ、あらゆる傷を瞬時に回復させるという、反則じみた技なのだが…
それ相応に、条件も厳しい
バタッ
友紀「……?なん…だ…?力が…」
友紀の体にあった傷は間違いなく回復したが、それと同時に友紀は倒れた
瞬間回復は、傷を治す事は出来るが、体力までは回復しないし、さらには氣の消費量もバカみたいにデカイ。
姉者は氣と魔力を併用して回復している分、氣の消費量は半分になるが、姉者以外が使おうとなると、大抵の者は今の友紀と同じ様に倒れてしまうのだ
友紀「動け…動けよ私の体!なんでだよ!なんで立ち上がらねぇんだよ!」
凪紗「友紀さん…」
友紀の悲痛な叫びを聞いて、凪紗は表情を曇らせていた。
これは確かに、見ていて痛々しい
秋菜「諦めろ友紀。お前はこれで終わったのだ」
私が言うと、友紀は涙を流し始めた
友紀「まだだ…まだ終わってない!私は…私はもうすぐ、家族に会えるんだ…こんな所で…終わってたまる…」
友紀が言い切る前に、友紀と私達の間に、一つの黒い影が割り込んだ
あの姿は…
「いや、ここで終わりだ、友紀」
友紀「…!?し…き…?」
兄者…士希だった
兄者は友紀に近付き、首に鍼を刺した。あの位置は…麻酔か?
友紀「士希…お前……」
兄者はグッタリと倒れ込む友紀を抱き留め、次の瞬間には消えてしまった
そして直ぐさま、今度は兄者一人になって戻って来た。
きっと、転移したのだろう
秋菜「遅いですよ、兄者。友紀は?」
士希「悪い悪い。ちょっと立て込んでてな。それよりも、二人ともお疲れさん。あの友紀に勝つなんて凄いじゃねぇか。ちなみにあいつは許昌に送って来た。今はグッスリ眠ってるよ」
ワシャワシャと私と凪紗の頭を撫でる兄者。凪紗は少し放心しているのか、目線があっちへ行ったり、こっちへ行ったりしている
凪紗「に、兄さん!?なんでここへ?」
お、やっと気付いたか
士希「なんでって…あのクソ姉が呼んだんだろ?それで来てみたら、ずいぶんな形相じゃねぇか」
兄者は呆れつつ、肩をすくめて言った。
そんな、割といつも通りな兄者だが、私は先程から、いつも通りじゃない見た目の兄者に落ち着かなかった
黒髪だった短髪が銀髪に、茶色だった目の色は水色に、父上と似たようなスーツを着て、その背中には羽の様なものが生えていた
秋菜「兄者…とうとう人間を辞めたか…」
士希「おいおい、俺自身は普通だ。人外の姉を見る様な目で見るのは止めろ」
それなら、もっと人らしく…
ドゴーン!
突如、天井に穴が開き、謎の光と共にガラガラと落下物が降ってきた。
その中に、一際速い速度で落ちてくる、見覚えのある物体があった
咲希「人外で悪かったな」
士希「酷ぇ様だな」
咲希と士希が揃う瞬間だった
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洛陽救出戦其五