文が話をはじめる前に良司に確認した。
「良、まず、途中で怒って帰らないで最後まで話し聞いてくれるって約束してほしい。」
文がいつになく慎重に話を始めようとした。
まぁ、私が昨日一番最初にした反応の影響かな。
私の反応から想像すると、良司はそれぐらいすると文は考えたようだ。
でも、その心配は杞憂だよ文。良司は最後まで話を聞いてくれる。
さて、良司がどうするか様子を見ていた。文にあわせられた視線を外し、私の方に視線をやり目その後、瞳を閉じ、軽く深呼吸して文を見据えて答えた。
「ん、わかった。最後までちゃんと聞くよ。」
案の定、良司の返事は予想通りのもだった。
良司の返事を聞き、安心した表情の文の口が開いた。
「あのね、今日、良にきてもらったのは相談と言うか、お願いがあるからなんだ。」
「お願いね。わかった言ってみ。」
「私ね、できてたみたい。だからね」
文が言った瞬間、周りの空気が止まった。
「……」
文も気がついたらしく、話すのをやめた。
まったく、この子は。どうして結論からいうかな。あの前置きなんだったの。
私のせいか。昨日「文、回りくどい。ようするにできたって事でしょう。」って怒ったけ。気持ちはわからなくもないけど、もうすこし順序があるでしょうに。私に話すんじゃないんだから。
ああ、良司がフリーズしてる。
そんな風に眺めていたら何とも明るい声がした。
「良司、やるー。いつの間に。」
声がした方をむくと、佳織さんがコーヒーをもって立っていた。
「バカ、お前。何言ってんだよ。って言うか、いつからいたんだよ。ビックリさせやがって。さっさとコーヒーをよこせ。」
フリーズしていた良司が再起動した。
「はいはい、アメリカンコーヒーおまたせしました。いつからと言われても、文さんが『できてた』っていったぐらいかな。」
佳織さんからコーヒーを受け取った良司は、そのままカップに口を付けた。
まったくいいタイミングで現れてくれたものだ。
現れたタイミングは偶然でも、声をかけたタイミングは意図的なんだろうな。
止まった空気を、いや良司の頭を動かすためだろうな、さすが相棒。
「違うよ。良の子じゃないよ。太一の……」
文が佳織さんに告げたとき。
「文、その言い方だと佳織が、また勘違いすぞ。まったく。」
良司が憮然としながら言った。
「ひどいな、私そこまでじゃないのに」
そう言いながら、佳織さんは私たちのテーブルについた。
「おまえ、仕事は。」
「悲しみ、喜びは分かち合う、あんたの持論でしょ。」
「そうだけど、おまえは今仕事中だろ。」
「いいの気にしない、気にしない。文さん、話の腰を折ってごめんなさいね。私も詳しく聞かせてもらっていい?」
「亜輝ちゃん。」
文が私を見た。
「いいんじゃない。佳織さんにも協力してもらおうよ。」
まぁ良司に話す以上、遅かれ早かれ佳織さんは知ることになるわけだし。
でもちょっと心配が残る。そう思いながら私は冷めたコーヒーを口に含んだ。
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どこかで起きていそうで、でも身近に遭遇する事のない出来事。限りなく現実味があり、どことなく非現実的な物語。そんな物語の中で様々な人々がおりなす人間模様ドラマ。