_真・恋姫✝無双 魏ENDアフター 華琳編_
『・・・・・・愛していたよ、華琳』
その一言が私が聞いた別れの言葉だった。
大陸を治めた覇王・曹孟徳が唯一その手から零してしまった雫。
天の御使い、北郷 一刀。
私が歩んできた時の中で、初めて心と身体を許した男。
彼は覇王と呼ばれる私に対し、〝女の子〟として接してくれた。
そして、私自身がそのことに喜びを感じていたのだから、驚きだった。でも、だからこそ自分だけを見ていてほしくて無茶を言ったりもした。
けど、そのことに関して言えば悪いのは一刀の方よ。
だって、あんなに気が多いのだから。
「全部、貴方が悪いのよ・・・一刀」
こぼれた呟きが夜闇に溶けて消える。今ここに、苦笑して返事をしてくれていた一刀はもういない。いるのは、男一人捉まえる事の出来なかった弱い女の子が一人。
それでも泣く事だけはどうにか堪えた。
-私は、もう充分泣いたから-
だから私は涙を流さない。涙を流さなければならない娘たちはまだいるのだから。
私だけがいつまでも泣いているわけにはいかない。
「こんなひどい置き土産を残していくなんて、本当に恨むわよ?一刀」
軽く深呼吸をして私は一人、小川を去ってゆく。
空に輝く満月を美しいとは思えなかった。
「皆、集まったかしら?」
「あの、華琳様・・・北郷がまだ来ておりませんが」
「ええ、知っているわ。だから秋蘭、一刀以外の者は集まっているかと聞いているの」
「はい」
そう応えた秋蘭の表情が微かに曇ったのを私は見逃さなかった。
おそらく、私の言葉に何か不吉なものを感じ取ったのだろう。
こんな時くらい、春蘭の様に気付かないでいてくれてもよかったのに、本当にこの子は優秀だわ。
「あう~いくら何でも飲みすぎやったわ~。まだ頭ガンガンしとるし、こんな朝っぱらからなんなんや華琳?春蘭は何か知っとるん?」
「ええい、よりかかってくるな霞、私が知るわけなかろう」
「ええやん別に。うち、まだ酔うとるみたいやしふらふらなんなもん」
「姐さん、さすがに大将の前やし、しゃんとした方がええとちゃいます?」
「真桜ちゃんの言う通りなの霞お姉さま~」
しぶしぶと霞がしっかりと自分の足で立った。
雪蓮達と飲んでいたのは知っていたけどそんなになるまで飲むなんて、後できつく言う必要があるかしら。
・・・その必要はないわね。私がこれから告げようとしていることはここにいる誰にとってもひどい痛みになるに決まっているもの。
「ちーちゃん、お姉ちゃん眠いよ~」
「ちょっと姉さん!ちぃだって眠いんだからそんなこと言わないでよね」
「二人とも、華琳様の前なんだからしゃんとして」
「あ~ん、れんほーちゃんがいじめる~」
少しいじけたように二人はじゃれあいを止めた。
そんな二人の姉を見て、張三姉妹の三女・人和がやれやれとため息をつくのを見てほんの少しだけ和んだ。
こうして見ると、張三姉妹を世話していた一刀がいかに大変だったかがうかがえる。
やっぱり、あなたはかけがえのない人材だったのよ一刀。
今から告げることがいかに彼女たちの心に傷つけるかを考えて、ほんの少しだけ和んでいた私の心は再び静けさを取り戻した。
「華琳様、そろそろ・・・」
「ええ、そうね。皆の者、聞こえているかしら!」
「そないに声はらんでも聞こえとるって。せやから華琳、はよう済ませてや」
「霞!貴様、華琳様に対して無礼であろう!!」
「いいのよ春蘭。霞、貴女の言うとおりすぐに済ませるわ」
そうして私は、一呼吸おいて残酷な現実を彼女たちに告げる。
「天の御使い、北郷 一刀はその役目を終え、天に帰ったわ」
「で、出鱈目ぬかすなや!いくら華琳とはいえ、言うてええ冗談と悪い冗談があるわっ!!」
最初に声を上げたのは霞だった。
さっきまで酔いでふらついていたとは思えないほどの怒気を私は感じていた。
「か、華琳様?さすがに私も霞と同感です。冗談にしては些か御戯れが過ぎるかと・・・」
「あら、春蘭は私が皆を集めてまでこんなことを言うとでも思っているのかしら?」
私は、精一杯〝覇王〟の仮面を被り覇王を演じる。
今この場で、私だけは〝女の子〟になってはいけないのだから。
「では本当に・・・」
「ええ、一刀はもういないわ。この世界のどこにもね」
静かに、冷やかに告げている自分が滑稽なものに思えてしまった。
「う、嘘だよね。一刀が天和ちゃん達のこと置いていくはずないもの~」
「何当然のことを言ってるのよ姉さん!いいから一刀をちぃ達の前に出しなさいよ」
「・・・・・・」
「人和ちゃんも何か言ってよ~」
「まさかアンタ、あんな嘘を信じたんじゃないでしょうね!?」
「・・・・・・」
それからも言い合いを続けていたが、人和は何も言わなかった。
「ははは、いくらなんでも冗談きついで大将」
「そうなの~隊長がいなくなるなんてありえないの~」
「・・・・・・」
一刀の部下である三和鳥もまた、この事実を受け入れることが出来ていないみたいね。
凪に至っては呆然と立ち尽くしている。
(でも、当然よねこの娘たちは誰よりも一刀の傍にいたのだもの)
でも、私は二人の意見に首を縦に振ることはできないの。だって、自分が告げている現実を目の当たりにしたのだから。
「ねぇ流琉・・・ボク、華琳様が言ったことよくわかんないや」
「季衣・・・」
肩を震わす季衣にそっと寄り添う流琉。一刀を兄として、男として慕っていたのだから、こうなることは予想できていた。
それでも・・・いえ、だからこそ嘘を告げることはできなかった。
「一刀殿が天に帰った?」
「嘘ですよね華琳様。あの万年発情男が、女とみれば見境なくなるあの変態が魏を捨てていくなんてありえません」
「ぐぅ~」
「「寝るなっ」」
「おおっ!あまりにも突拍子もない話だったので思わず現実逃避してしまいました」
「風、あなたねぇ」
魏が誇る三軍師、桂花・稟・風の三人も驚きを隠せないようだった。
少し意外だったのは、桂花が口に出して一刀の心配をしたことね。
形だけとはいえ、あんなに一刀のことを嫌っていたのに。
「すみません~。ですが、お兄さんがいなくなったのは紛れもない事実だと風は思うのですよ」
「風、貴女何を言って・・・」
「考えても見てください、ここ最近のお兄さんはどこか様子が変だったのですよ。風が思うに、あれはお兄さんが天に帰る兆候だったのではないでしょうか?」
「その通りよ、風。一刀は、一刀の知る私たちの未来を変えた。このところよく倒れていたのはそれが原因よ」
震えた声で意見を述べる風に、私は追い打ちをかけるように言葉を紡ぐ。
「「大局にはさからうな。逆らえば待っているのは身の破滅」許子将は一刀にそう言ったの。一刀は私に従わなかったらそうなると思っていたようだけど、真実は違っていたの」
「華琳様、まさか大局というのは北郷の知る我々の未来の知識のことですか?」
「ええ、その通りよ秋蘭。そして一刀は未来を知っていたからこそ未来を変えた」
「では度々倒れていたのは・・・我々を救ったせいだったのですか?」
秋蘭の声が震えだしていたことに私はすぐに気が付いた。
――秋蘭は定軍山で劉備軍によって危うく討ちとられるところだったのを一刀によって救われている。
もし、あのとき一刀の持つ未来の知識がなかったら彼女はこうしてここにいなかったのだ。
そして、一刀が不調をきたすようになったのも丁度この頃からだった。
「顔をあげなさい、秋蘭。もし一刀がここにいたらそんな顔をすることを望みはしないわよ」
「華琳様・・・」
今の自分にできる慰めがこの程度なんて、曹孟徳も落ちたものね。
「少なくとも一刀は後悔していなかったわ。私は背を向けていたけど、間違いなく最後の瞬間まで微笑んでいた。だからこそ、そう思えるの」
そう、一刀は後悔なんてしてなかった。
ただ、私たちを残していくことを除いては、だけど。
(本当にひどい男ね。この覇王との約束を違えるなんて)
もし帰ってきたらお仕置きしてあげないとね。
でもその前に、私にはやらねばならないことがある。
――それは、覆すことのできない現実を今一度告げること。
「最後にもう一度だけ言うわよ。皆、しっかりと受け止めなさい」
息を吸う。
たったそれだけのことだというのに、ひどく長い時間がかかった気がした。
そして。
「いい加減、受け入れなさい!一刀はもういないのっ」
精一杯の強がりを込め、声を上げた。
あとがき
どうも、kanadeです。
ストーリーの構成上ひとまずここでいったん切ります。
パート2をすぐに仕上げますのでご容赦を。
今回は華琳にスポットライトを当ててみました。
順番としては華琳を一番最初にするべきだったとは思うのですが、すいません自分。
魏の少女たちの中で凪が一番好きなんです!!
というわけで凪を一番にし、華琳を二番にした次第です。
今回の話も、ご意見ご感想をお待ちしておりますので、このお話を読んでいただいた方はよろしくお願いします。
ではパート2でお会いしましょう
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一作目に続き、魏ENDアフターです。
今度は華琳がメインです。
引き続きキャラがずれてたりするかもしれませんのでご注意を