悪魔騎兵伝(仮)
第八話 主
C1 余波
C2 新米情報屋
C3 移動
C4 城主
C5 清め
C6 身元
C7 初日
C8 新調
C9 NPO法人
C10 開かずの間
次回予告
C1 余波
エグゼニ連邦。ポルポ市。ギルド街を背に、市街の建物の壁に手を当てながら歩く泥のついた黒いドレスを着たファウス。彼は暫く歩き、路地の手前まで行く。笑い声。
男児Aの声『ツチノコなんていねぇよ。ばっかじゃねえの!』
立ち止まり、顔を上げるファウス。
女児Aの声『そんなもんいるわけないでしょ。トカゲの見間違えよ。』
ファウスは路地を覗く。路地にはツチノコハンターギルドのツチノコ人ゲインの子供でツチノコ人のエドとそれを取り巻く子供達。
エド『ツチノコはいるんだ!絶対にいるんだ!あれはミッシングリンクの蛇か…独自の進化を遂げた蛇って父さんが言ってたんだ!』
笑い出す子供達。
男児B『でも、だいたい捕まってねえじゃんか。』
女児B『そうよ。そうよ。写真だって合成ができるわ。』
男児C『目撃情報だけじゃあね。』
子供達を睨み付けるエド。
エド『違う!捕まえるんだ!父さんがきっと捕まえてくれるんだ!きっと!捕まえて僕らの元に…。』
エドを見つめる子供達。
男児D『お前、捨てられたんだよ。』
眼を見開いた後、下を向くエド。ファウスはエドを見つめる。
女児C『ねえ。そろそろコーマンさんの所に行こ。』
男児E『えへへ。あの人、行くだけで小遣いくれるから。』
笑い声を上げて去って行く子供達。その場に蹲り、拳で地面を叩くエド。
エド『ツチノコはいるんだ!絶対にいるんだ!いつの日か捕まえて…ううっ、捕まえて僕と母さんの元に戻ってきてくれるんだ!きっと!絶対に!絶対に!!』
一歩前に出るファウス。
エド『ちくしょう!偽王子さえいなければ!お金が無くなることも!父さんが出ていくことも、母さんが病気になることも無かったんだ!ちくしょう!ちくしょう!チキショーーーーーーーーー!!』
眼を見開き、エドを見つめ崩れ落ちるファウス。立ち上がり、涙を拭って去って行くエド。俯き、地面を見つめ続けるファウス。
夕日が建物の壁を染め、風がファウスの銀髪を靡かせる。歩道を行き交う人々。暫くして辺りは暗くなり、歩いている人々もまばらになる。建物の窓に明かりがつく。懐中電灯を持ち、歩いてくるアカハライモリ人のコルツ。彼はファウスの顔に懐中電灯の光を当てる。俯いたままのファウス。
コルツ『おい。おい。』
コルツは懐中電灯を左右に振る。
コルツ『お~い。』
まばたきして、コルツの方を向くファウス。
コルツ『まだ居たのか。』
ファウスはコルツから目をそらす。
コルツはため息をついて、腰に手を当て、星空を見上げる。
コルツ『まったく、通報を受けて来て見りゃ…。』
ファウスの方を向くコルツ。
コルツ『ここにはお前に恨みを持つ奴は多いんだ。こんなところに居続けると八つ裂きにされるぞ。』
下を向くファウス。コルツはファウスの方を向いた後、ため息をつく。
コルツ『…別にお前は殺されても構わないかもしれないが、お前を殺した奴は罪に問われることになる。』
ファウスはコルツの方を向く。
コルツ『その同胞を捕まえんといかん俺にも迷惑…。』
ファウスは俯き、立ち上がり、コルツの方に頭を下げ、蹌踉めきながら歩いていく。ファウスの方を見つめるコルツ。
横断歩道の信号が赤に変わる。歩き続けるファウス。コルツはファウスに駆け寄り、襟首を掴み、引く。
コルツ『ばっか、赤信号だぞ!』
ファウスは尻もちをつき、コルツを見上げる。
コルツ『…まったく。この道をまっすぐ行くとエルフル樹海市の樹海公園に出る。』
コルツはポケットに手を入れる。
コルツ『公園を出れば、エルフル樹海公園駅だ。』
ポケットから紙幣を取り出すコルツ。
コルツ『…ともかく。』
コルツは紙幣をファウスの前に出す。
コルツ『こいつでどことなりとも行ってくれ。』
ファウスは紙幣を見つめる。コルツはファウスのドレスのポケットに紙幣を入れ、肩を叩く。
コルツ『もうここには来ない方がいい。』
ファウスに背を向け、去って行くコルツ。ファウスはコルツの背を見つめ、地面に座り込んで涙を流す。
C1 余波 END
C2 新米情報屋
エグゼニ連邦。エルフル樹海市樹海公園。ファウスは気に手を当て、俯く。背後にポルポ市が小さく見える。風がファウスの銀髪と衣服を揺らす。落ちる木の葉。
少女A『お母さんってば。』
少女B『早く早く。』
顔を上げるファウス。木々の間から漏れる光に照らされたエルフル樹海市樹海駅。まばらに行き交う人々。バスターミナルに止まる夜行バスの前に立つ少女Aと少女B。駆けて来る彼女たちの母親。
少女Aと少女Bの母親『はぁはぁ。ちょっと待って…。』
少女A『早く。もうバス行っちゃうよ。』
ファウスは少女Aと少女Bと彼女達の母親を見つめる。夜行バスに乗り込む彼女達。ファウスは崩れ落ちる。扉が閉まり、動き出す夜行バス。眼を見開き、頭を抱え、蹲るファウス。
エグゼニ連邦。エルフル樹海市樹海公園。腹ばいになり、眼から涙を流すファウス。木漏れ日がファウスを照らす。エルフル樹海駅を満たす人混み。舗装された芝道を行き交う人々。
シバの声『ねえねぇ、君可愛いね。』
妖精女Aの声『え、なになに?』
妖精女Bの声『ちょっと。』
妖精女Aの声『え~、でもさ。』
シバの声『あのさ、今、メイドさんを募集していてさ。』
妖精女Aの声『メイド?』
シバの声『そうそう。ヴァンガード城のオータキ様がね。君達可愛いからさ。』
妖精女Bの声『え~あのキモオタの痛城で~?』
妖精女Aの声『まじキモい。ありえないんですけど。キモいよね。』
妖精女Bの声『ね~。』
シバの声『あ、ちょ、ちょっと待ってお姉さん方…。』
妖精女Aの声『スカウトマジうざい!』
シバの声『あ、あの話だけでも…。』
妖精女Aの声『こっち寄んなよ!うぜえんだよ。』
妖精女Bの声『オラァ!』
打撃音。
シバの声『ほげぇええええええ!』
瞬きし、顔を上げるファウス。股間を押さえてその場に蹲る書生上がりの情報屋のシバ。妖精の女Aは妖精の女Bの方を向く。
妖精の女A『行こ行こ。』
シバに背を向けて去って行く妖精の女達。シバに見向きもせずに歩いていく人々。ファウスは瞬きし、森を駆け出てシバの傍らに寄る。
ファウス『だ、大丈夫ですか。』
ファウスは座り、暫くシバの背をさする。深呼吸するシバ。大樹高層ビルの間を行き交うロープウェイ群。
シバ『ふぅ…ありがとう。ありがとう。だいぶ楽になったよ。』
立ち上がり、ため息をついて首を振り、下を向くシバ。
シバ『…やはり、この依頼は僕には向いていないのかな。』
シバはファウスの方を向く。
シバ『本当に助かったよ。ありがとう。』
ファウスはシバを見上げた後、一礼する。
ファウス『あの、僕はこれで…。』
ファウスはシバに背を向け、駆けて行く。ファウスの腕を掴むシバ。
ファウス『あっ…。』
シバ『ま、待って。』
振り返るファウス。シバはファウスの顔を見つめ、手を離す。
シバ『ご、ごめん。』
シバを見上げるファウス。
シバ『さっきのお礼がしたいんだ。』
ファウスは胸に手を当て首を横に振る。
ファウス『…お礼なんて…そんな。僕…なんて。』
ファウスはシバから顔を背ける。シバはファウスを見つめる。
シバ『美味い店を知ってるんだ。いいから来て来て。』
シバはファウスの腕を引っ張り、駆けていく。
ファウス『あ、あの、ちょっと…。』
エグゼニ連邦。エルフル樹海市。エルフル樹海市樹海駅。パン屋ブレイクファーストの前に立つファウスとシバ。シバはファウスの方を向く。
シバ『ついたよ。ここの生ハムとチーズのニョッコ=フリットは美味いんだ。スタンダードだけどね。』
ファウスはシバの顔を見上げた後、俯く。
ファウス『…僕に…僕に構わないでください。』
眼を見開き、ファウスを見つめるシバ。鳴るファウスのお腹。
ファウス『あっ…。』
お腹を押さえるファウス。
シバ『…やっぱり、お腹が空いてるんだ。』
微笑んでファウスの肩を叩くシバ。
シバ『心配しないで。僕が奢るからさ。』
ファウスはシバの背中を見つめる。
ファウス『…僕は…。』
女子高生Aの声『それでさ。』
女子高生Bの声『えー本当に。』
ファウスは周りを見回してからシバの方を向く。
ファウス『…ぼ、僕なんかが入ればお店が汚れてしまいます…。』
シバはファウスの頬の頬についた泥を人差し指で払うシバ。
シバ『そんなことないよ。』
シバはファウスに背を向けレジに並ぶ。シバの背中を見つめるファウス。パン屋ブレイクファーストのレジに並ぶシバ。
エグゼニ連邦。エルフル樹海市。エルフル樹海市樹海駅。パン屋ブレイクファースト。屋外スペースの椅子に座るファウスとシバ。机の上に乗る生ハムとチーズのニョッコ=フリット。シバはファウスの方を向き、手を伸ばす。
シバ『さ、食べて食べて。』
ファウスはシバを見つめた後、生ハムとチーズのニョッコ=フリットを口に運び、食べる。瞬きするファウス。
ファウス『…おいしい。』
シバ『だろ。』
生ハムとチーズのニョッコ=フリットを食べるシバ。
シバ『このカリッとした触感がまた美味いんだよな~。』
俯くファウス。シバはファウスの方を見つめる。
シバ『ど、どうしたの?』
涙を流すファウス。
ファウス『…どうしてお腹がすくの…。どうして…美味しく感じられるんだろう…。』
生ハムとチーズのニョッコ=フリットを暫し見つめるファウスを見るシバ。
エグゼニ連邦。エルフル樹海市。エルフル樹海市樹海駅。パン屋ブレイクファーストの屋外スペースから出るファウスとシバ。ファウスはシバに深々と頭を下げる。
ファウス『ありがとうございました。僕はこれで…。』
シバに背を向けるファウス。シバはファウスの正面に回り込む。
シバ『ちょっと待って。あのさ。家まで送るよ。』
シバを見上げた後、下を向くファウス。
ファウス『…お気持ちはありがたいのですが。』
シバ『こんな可愛い娘が、一人で出歩くなんて危険だよ。最近、この辺で失踪事件も起こってるし…。ね、お母さんやお父さんも…。』
シバを見上げるファウス。
ファウス『…家なんてありません。』
眼を見開くシバ。俯くファウス。
シバ『家出…。』
ファウス『お父様は…どこかへ行ってしまって…お母様は…お母様は…。』
両手で顔を覆うファウス。ファウスを見つめるシバ。
ファウス『お母様…僕は、僕は、僕は…。』
シバはしゃがみ、ファウスの両肩に手を掛ける。顔を上げ、潤んだ瞳でシバを見つめるファウス。
シバ『…大丈夫だよ。僕に任せて。実はこの近くに城主の方で知り合いが居るんだ。きっとその方なら何とかしてくれるさ。』
首を横に振るファウス。シバはファウスの両肩を掴む。
シバ『君の力になりたいんだ。』
ファウスは目を見開いてシバの眼を見つめる。
C2 新米情報屋 END
C3 移動
エグゼニ連邦。エルフル樹海市。カルノア線のロープェイに乗るファウスとシバ、乗客達。窓からは大樹高層ビル群の間を行き交うロープウェイ。眼下に眼下に見える繁華街。樹海駅に止まるリニアモーターカー。大樹高層ビルの窓からはオフィスに座る様々な種族の人々が見える。ファウスは周りを見ながらシバの傍らに寄りそう。
駅長の声『レンコク、レンコクでございます。お降りの方は手荷物等のお忘れ物の無いようご注意ください。次の停車駅はソーシン、ソーシンでございます。』
シバはファウスの方を向く。
シバ『この次の駅で降りるよ。』
シバを見上げ、頷くファウス。シバはファウスの顔を見つめる。入ってくる多数の乗客達。汽笛が鳴って扉が閉まり、動き出すロープウェイ。談笑する多数の客。ファウスは眼を瞑り、俯く。揺れるロープウェイ。
駅長の声『ソーシン、ソーシンでございます。』
ファウスの肩を叩くシバ。
シバ『着いたよ。』
ファウスは顔を上げ、シバの方を向く。
駅長の声『お降りの方は手荷物等のお忘れ物の無いようご注意ください。次の停車駅はゴラク、ゴラクでございます。』
エグゼニ連邦。エルフル樹海市。カルノア区ファッション経済特区ソーシン。ソーシン駅。ロープウェイの扉が開き、プラットフォームに降りる多数の人々にシバとファウス。駅構内には受付のある試着スペース。壁沿いのスペースには裁縫の後期訓練生達が並び、様々な道具を使い、着物や小物を作っている。立ち止まり、彼らを見つめるファウス。彼の後ろに立つシバ。複数の人が彼らの何人かの傍に寄る。
女性客A『ちょっとこの部分をひかけちゃって。直せる?』
後期訓練生A『はい。』
女性客A『急いでるの。できるだけつなぎ目の部分を目立たないようにして。お願いね。』
後期訓練生A『分かりました。』
周りを見回すファウス。シバはファウスの方を向く。
シバ『見慣れないかい。』
頷くファウス。
シバ『この地区は経済特区の中でもファッションに力を入れてるところなんだ。』
道行く人々の方を向くシバ。
シバ『見てごらん。皆お洒落な格好をしてるだろ。』
道行く人々を見、頷くファウス。
シバ『ここじゃ半年に一回、企業に制服の更新を義務付けているからね。無論、その服はコンペで選ばれる。』
裁縫の後期訓練生達の方を向くシバ。
シバ『熾烈な戦いさ。』
エグゼニ連邦。エルフル樹海市。カルノア区ファッション経済特区ソーシン。改札口を出るファウスとシバ。聳える大樹ビル。行きかう人々。舗装された芝道を歩いていくシバ、後ろに続くファウス。
エグゼニ連邦。エルフル樹海市。カルノア区ファッション経済特区ソーシン郊外。木漏れ日がシバとファウスを照らす。
シバ『そういえば、まだ名乗ってなかったね。僕はシバって言うんだ。今、歴史家になる為に情報屋として修行中…。』
ファウスの方に顔を向けるシバ。
シバ『君は?』
ファウスはシバの背を見つめ、芝道を踏みしめて、俯く。シバは暫く歩いて止まり、ファウスの方を向く。
シバ『どうしたの?』
顔を上げるファウス。
ファウス『やっぱり、僕…。いい…です。本当にお気持ちはありがたかったのですが…。』
シバはファウスを暫し、見つめた後首を横に振り、ファウスに駆け寄って、彼の両肩を持つ。
シバ『大丈夫だよ。ちょっと、体型と趣味はアレだけど、曲がりなりにも城主なんだからきっと何とかしてくれるって!』
ファウスの両肩を掴むシバ。
シバ『…いや、僕が城主を何とかしてみせるからさ。』
ファウスは眼を見開いて、シバを見つめる。
シバ『それに、もうすぐそこだよ。』
木々の開けた場所に建つヴァンガード城の方を向くシバ。ファウスの目に映る城の壁にライトアップされた萌キャラの絵。
エグゼニ連邦。エルフル樹海市。カルノア区ファッション経済特区ソーシン郊外。開けた場所に立つヴァンガード城に向かうシバ。続くファウス。
シバ『ヴァンガード城…ま、正式名称はエルト城。このエルフル樹海市がエルフル王国だった時の城の一つだよ。ま、今、それをグリーンアイス連邦から来て買い取り、城主になった方がヴァンガード城に改名したんだけどね。』
ファウスは城の壁に萌えキャラの絵がライトアップされているヴァンガード城の方を向く。
シバ『…樹緑革命でエルフル王国国王カデリア王が追放されてから、大半の城が廃城になったけどね。これもその一つさ。ま、カデリア王自体はその後、市民総選挙に立候補して現市長になっているんだけど…。』
シバは立ち止まり、ファウスの方を向き、城の壁にライトアップされている萌キャラの絵の方を向く。
シバ『…ああ、あの、萌キャラの絵ね。』
シバの方を見つめた後、下を向くファウス。
ファウス『い、いえ…。』
頷くシバ。
シバ『大丈夫。最初は皆、引くけどさ…あれは…城主のオータキ様の趣味だからね。元々、あの絵を城の壁に描かせようとして、近隣住民からの大量の苦情を受けてライトアップで映し出すことにしたんだよ。』
ファウス『…昼間なのにライト…。』
シバ『そう。光の魔動機を使ったね。太陽の角度によって、その光の魔動機からでる光の配合が変わって、いつみてもあの絵が見れる状況になっているらしいんだ。
よくわからんけど。オータキ様の気分によって動いたり、たまにアニメ上映もやってるよ。』
ヴァンガード城城門に着くファウスとシバ。ヴァンガード城を取り囲む柵の中ではメイド服を着た幾人かの女アンドロイド達が箒を持って掃除する姿が見える。
シバ『さ、着いた着いた。』
胸に手を当て、シバの背中を見上げるファウス。
ファウス『…シバさん。僕やっぱり…。』
ヴァンガード城城門の近くの柵に現れるメイド服を着て、箒を持ったアンドロイドのポンコⅡの方を向くシバ。
シバ『すいませ~ん。メイドさん。』
顔を上げ、シバの方を向くポンコⅡ。
ポンコⅡ『はい。』
ポンコⅡはシバとファウスの方へ近寄る。
シバ『あ、僕、情報屋のシバといいます。オータキ様とはメイド手配の依頼の件で一度お会いしているのですが、今日は別件で来たので取り次ぎの方をよろしくお願いします。』
ポンコⅡはシバとファウスの方を向く。
ポンコⅡ『分かりました。主様に伝えるので暫し、お待ちを…。』
去って行くポンコⅡ。シバはファウスの顔を見つめる。呼び鈴の音。城門の方を向くファウスとシバ。
城門の前に立つポンコⅡ。
ポンコⅡ『ポンコⅡです。主様にお取次ぎねがいますか。只今、情報屋のシバと名乗る方が来ておりますが…。』
ポンコⅡの方を暫し、見つめるシバとファウス。
C3 移動 END
C4 城主
エグゼニ連邦。エルフル樹海市。カルノア区ファッション経済特区ソーシン郊外。ヴァンガード城。中庭を歩くポンコⅡ、続くファウスとシバ。中庭を歩くメイド服の女アンドロイド達。立ち止まるファウス。
ファウス『んっ…。』
ファウスは周りを見回す。彼は同じ顔をし、無表情の彼女たちを目に映す。ファウスの傍らに寄るシバ。
シバ『どうしたの?』
ファウスはシバを見つめる。
ファウス『いえ、何か聞こえませんでした…。』
腕組みするシバ。
シバ『そうかな~。』
ファウスの耳元に手を当てるシバ。
シバ『でも、そういったことあるかもよ。だってさ。ちょっと不気味だろ。』
眼を開き、シバの方を見上げるファウス。
ファウス『えっ…。』
首を横に振るファウス。
ファウス『そんな…こと。』
シバ『ま、だから高額で生身のメイド募集しても集まらないし、すぐ辞めちゃうわけなんだけどね。』
後ろを向くポンコⅡ。ポンコⅡの方を向き、頭に手を当て笑顔を作るシバ。前を向くポンコⅡ。
シバはファウスの方を向く。
シバ『ここにいるメイド達は皆機械人形さ。』
眼を見開き、周りを見回すファウス。
ファウス『そうなんですか?』
頷くシバ。
シバ『だから皆無表情だし、同じ顔をしてる…。』
ヴァンガード城の扉の前で立ち止まるポンコⅡ。開くヴァンガード城の扉。
エグゼニ連邦。エルフル樹海市。カルノア区ファッション経済特区ソーシン郊外。ヴァンガード城の廊下を歩くポンコⅡ、続くシバとファウス。ポンコⅡは書斎の扉の前で止まり、扉をノックする。
ポンコⅡ『ご主人様。情報屋のシバ様をお連れしました。』
オータキの声『入れ。』
ポンコⅡは頷き、ノブに手をかけ、押す。ポンコⅡをみつめるファウスとシバ。扉を引くポンコⅡ。開く書斎の扉。ポンコⅡに続き、中に入っていくシバとファウス。書斎ではコンピュータのモニターを見ながら彼らに背を向けて座る眼鏡をかけた小太りでヴァンガード城城主のオータキが居る。コンピュータのモニターの画面が映るオータキの眼鏡。
オータキ『…ほう、情報屋のシバ君か。それで、その子が俺の城の新しいメイド…。』
眉を顰めるシバ。
シバ『違います!』
椅子を回転させ、後ろを向くオータキ。
オータキ『違う??』
シバ『今回は、依頼されたメイドの手配の件ではなく…。』
眉を顰めるオータキ。ファウスの方を向いた後、オータキの方を向くシバ。
シバ『この子のことなんです。この子の母親は亡くなり…。』
シバはファウスの方を向く。下を向くファウス。シバは顔を上げ、オータキの方を向く。
シバ『父親は行方不明。城主のオータキ様の力でなんとかできないものかと思いまして。』
オータキはファウスの方を向く。
オータキ『ふ~む…。』
シバ『僕も何とか助けてあげたいんですが、書生上がりで金もコネもなく、ここは城主のオータキ様のお力で…。』
立ち上がり、ファウスを見回しながらファウスの周りを回るオータキ。オータキは立ち止まり、シバの顔を見つめる。
オータキ『よし、いいだろう。』
オータキはファウスの方を向く。
オータキ『お前をこの城で雇ってやる。』
眼を見開いた後、胸に手を当て、俯いた後、大きく一礼するファウス。
C4 城主 END
C5 清め
エグゼニ連邦。エルフル樹海市。カルノア区ファッション経済特区ソーシン郊外。ヴァンガード城の扉の前に立つ、シバにポンコⅡにファウス。シバはファウスの方を見つめる。
シバ『とりあえず…良かったね。』
ファウスの耳元に手を当てるシバ。
シバ『まあ、住むところがこんな変ったところだけど…頑張って!』
頭を深々と下げるファウス。
ファウス『シバさん。本当に…ありがとうございました…。』
シバ『じゃあね。』
手を振って去って行くシバ。ポンコⅡはファウスの方を向く。ファウスは俯く。
ファウス『ポンコⅡさん。僕、オータキ様に言わなければいけないことがあるんです。』
ファウスの方を向くポンコⅡ。
ポンコⅡ『その前に…主様からのいいつけがございます。』
ポンコⅡの方を向くファウス。
ポンコⅡ『浴場にて、汚れを落とせとのことでございます。』
ファウス『…でも、どうしても。』
ファウスの方を見つめるポンコⅡ。
ファウス『オータキ様に伝えなければならないことなんです。』
ポンコⅡ『その前に…主様からのいいつけがございます。』
ファウス『だけど!』
ポンコⅡ『浴場にて、汚れを落とせとのことでございます。』
ファウス『あの…。』
ポンコⅡ『その前に…主様からのいいつけがございます。』
ファウス『えっ…。』
ポンコⅡ『浴場にて、汚れを落とせとのことでございます。』
ファウス『その…。』
ポンコⅡ『その前に…主様からのいいつけがございます。』
下を向くファウス。
ポンコⅡ『浴場にて、汚れを落とせとのことでございます。』
ファウス『…はい。』
ポンコⅡ『では、こちらへ。』
ヴァンガード城の中に入っていくポンコⅡとファウス。
エグゼニ連邦。エルフル樹海市。カルノア区ファッション経済特区ソーシン郊外。ヴァンガード城浴場。バスチェアーに座り、体を石鹸で泡立てたタオルで洗うファウス。彼は体を洗う手を止め、目を細めて俯く。
ポンコⅡの声『失礼します。』
顔を上げ、脱衣所の曇ガラスに映る影の方を向くファウス。
ポンコⅡの声『御着替えをここに…。』
影を見つめるファウス。
ファウス『ありがとうございます。』
ファウスは下を向く。
ポンコⅡの声『それからお背中を流すようにと…主様から。』
眼を見開くファウス。
ファウス『えっ!』
ファウスは脱衣所の曇ガラスの方を向く。扉を開けるタオル一枚を体に巻いたポンコⅡ。ファウスは顔を真っ赤にして、ポンコⅡから目をそらす。
ファウス『け、け、結構です。じ、自分でできます。』
ポンコⅡ『御心配なさらずに…耐水性です。』
ファウスの隣に座るポンコⅡ。ファウスはポンコⅡの方を向き、すぐに目をそらす。
ファウス『あ、あっ…あの、そういうことじゃなくて!その…ひ、卑猥です。それに僕はお…。』
ポンコⅡは自身の胸にファウスの手を当てる。
ポンコⅡ『大丈夫。鉄板です。』
顔を真っ赤にして眼を回して倒れるファウス。
ポンコⅡ『…あれれ~??どうしました??』
ファウスを揺するポンコⅡ。
ポンコⅡ『大丈夫ですか??』
C5 清め END
C6 身元
エグゼニ連邦。エルフル樹海市。カルノア区ファッション経済特区ソーシン郊外。ヴァンガード城。メイド寝室のベットに仰向けになるファウス。隣で椅子に座るポンコⅡ。眼を開くファウス。
ファウス『ここは…。』
ポンコⅡ『メイド部屋ですよ。』
眼を見開き、勢いよく状態を上げ、ポンコⅡの方を向くファウス。
ファウス『ポンコⅡさん!あ、あの…。』
下を向くファウス。
ファウス『ご、ごめんなさい…。僕、気を失ってしまって。』
ポンコⅡ『別に構いませんよ。』
ファウスは眼を見開いて、ポンコⅡの方を向く。
ファウス『あ、あの…それに僕、男…。』
ポンコⅡ『存じておりますよ。』
ファウス『えっ…。』
ポンコⅡ『機械人形はそれくらい判別できるるようにできております…。』
ファウス『でも、だったら…。どうして?シバさんは、オータキ様はメイドを探してるって…。』
ポンコⅡ『それも吟味した上で主様はあなたをお雇いになられたのでしょう。』
眼を見開き、毛布を握って下を向くファウス。
ファウス『…そうですか。』
ファウスを見つめるポンコⅡ。
ポンコⅡ『お体のほうは大丈夫ですか?』
頷くファウス。
ファウス『はい…。』
立ち上がるポンコⅡ。
ポンコⅡ『では、オータキ様のところへまいりましょう。』
ファウス『はい…。』
立ち上がり、自身の着ているメイド服を見るファウス。
ファウス『…メイド服??』
振り返るポンコⅡ。
ポンコⅡ『どうしました?』
ファウスはポンコⅡの方を向く。
ファウス『…あ、いえ、僕…男なのに、メイド服…。』
ポンコⅡ『それは仕方がないことです。ここに住んでいるのは城主様と私達のみ。男物のサイズの服であなたの体にあったサイズはございません。』
ポンコⅡを見つめるファウス。
ファウス『そう…ですか。』
エグゼニ連邦。エルフル樹海市。カルノア区ファッション経済特区ソーシン郊外。ヴァンガード城。応接間の扉の前に立つポンコⅡとファウス。扉をノックするポンコⅡ。
ポンコⅡ『ポンコⅡでございます。新入りのメイドの方の支度が整いました。』
オータキの声『よし。入れ。』
応接間の扉を開けるポンコⅡ。扉の方を向く応接間のソファに座るオータキ。ポンコⅡはファウスの背中を押す。扉の前に立つファウス。
オータキはファウスを見つめ感嘆の声を漏らす。
オータキ『ほう…見違えるほどに綺麗になったな。』
ファウスは顔を赤らめ、下を向く。ファウスは眼を閉じ、喉を鳴らして顔を上げ、目を開く。
ファウス『オータキ様…お話があります。』
ファウスを見つめるオータキ。
オータキ『何だ?メイド服の件か?』
片膝を叩いて笑うオータキ。
オータキ『今、この城にお前に会ったサイズの男物の服は無い。後日、買いに…。』
首を横に振るファウス。
ファウス『違います!僕は…。』
ネクロの声『ぴょるぴょるぴょる。』
眼を見開いて、オータキの向かい側のソファに座る黒ずくめのローブを被り、青白い肌をしたウィンダム諜兵団のネクロの方を向くファウス。
ファウス『あなたは…。』
一礼するネクロ。
ネクロ『お久しぶりですね。』
ネクロを見つめるファウス。
ファウス『は、はい。』
オータキはネクロの方を向く。
オータキ『何だ。知っているのか。』
頷くネクロ。
ネクロ『ええ。知っていますよ。』
ファウスはネクロに一礼する。
ファウス『あの時は本当にお世話になりました。』
ネクロ『しかし、女性の服を着るしかないとは。まあ、それはそれで可愛らしいですが。服の新調なら私の知り合いのデザイナーに頼んでみましょうか?』
ネクロの方を向くオータキ。
オータキ『そうか。』
ネクロ『少し変わり者達ですがね。腕は確かですよ。ぴょるぴょるぴょる。』
オータキ『ふむ。ならばそうしよう。』
オータキはネクロに金を渡す。一歩前に出るファウス。
ファウス『待って下…。』
ネクロ『流石はオータキ様。あの偽王子のファウスさんを雇うだけのことはある。』
眼を見開き、青ざめるファウス。オータキの方を向くネクロ。
ネクロ『よろしいので?』
オータキを見つめ、一歩前に出るファウス。
ファウス『申し訳ありません!騙すつもりは無かったんです!ただ…。』
ファウスに背を向けるオータキ。
オータキ『知っている。』
ファウス『えっ…。』
オータキの背を見つめるファウス。笑い出すネクロ。
ネクロ『ぴょるぴょるぴょる。知っていて雇うとは流石ですな。度胸が違います。』
オータキを見つめるファウス。
エグゼニ連邦。エルフル樹海市。カルノア区ファッション経済特区ソーシン郊外。ヴァンガード城。正門の正面に立つオータキ、頭を下げるポンコⅡとファウス。去って行くネクロ。ファウスは顔を上げ、オータキを見上げるファウス。
ファウス『知っていらしたんですね。』
頷くオータキ。
ファウス『でも、どうして僕なんか…。』
腕組みをし、正面を向くオータキ。
オータキ『一目見て気に入ったからだ。』
眼を見開くファウス。
ファウス『そんな理由で、でも僕は。』
オータキ『過去のことの情報は得ている。だが、今はこの城の一員だ。これからは過去のことは忘れ、ここで働き、励めばいい。』
オータキを見上げるファウス。
ファウス『…それでも、僕は。』
ファウスの肩を叩くオータキ。
オータキ『雇われたなら、雇われた分の仕事はしろ。今日はゆっくりと休むがいい。』
オータキを見上げるファウス。オータキはファウスに背を向け、城の中に入っていく。
C6 身元 END
C7 初日
エグゼニ連邦。エルフル樹海市。カルノア区ファッション経済特区ソーシン郊外。ヴァンガード城。食堂に集うメイド服を着た女アンドロイド達とファウス。食卓の長テーブルの端と端に置かれる二つの皿にのったサンドウィッチ。ファウスはサンドウィッチを見つめる。扉が開き、現れるオータキ。一礼する一同。
一同『おはようございます。ご主人様。』
オータキは彼女たちとファウスを見て、手を軽く上げる。
オータキ『おはよう。』
椅子に座った後、ファウスの方を向くオータキ。
オータキ『ファウス。朝食だぞ。』
ファウス『えっ?』
瞬きし、オータキを見つめるファウス。オータキはファウスに手招きする。
オータキ『いいから、来て座って食べろ。お前は機械人形ではないからな。』
ファウス『でも…、よろしいのですか?』
頷くオータキ。
オータキ『その為に二つ用意している。』
オータキを暫し見つめた後、深々と頭を下げるファウス。
ファウス『ありがとうございます。』
オータキ『いいから早く座って食べろ。』
頷くファウス。
ファウス『はい。』
椅子に座るファウス。サンドウィッチを一切れ食べるオータキ。彼はファウスを見つめる。
オータキ『どうした?食欲が無いのか?昨日よく眠れなかったか?』
オータキを見つめ、首を横に振るファウス。
ファウス『いえ、そんなこと。いただきます…。』
ファウスはサンドウィッチを一切れ両手で持ち、その角を口に含む。リモコンを押し、テレビをつけるオータキ。
テレビ画面に映るニュース番組の目覚めたテレビの女子アナA。
女子アナA『…失踪事件の発生。』
テレビの方を向くファウス。
女子アナA『ポルポ市在住37歳無職の男が生活保護及び児童支援金、年金の集団不正受給の容疑で逮捕。女性支援団体幹部たちが補助金を私的に使用…。』
リモコンのボタンを押すオータキ。テレビに映るミートボーイ精肉工場のコマーシャル。
テレビの音声『
肉 肉 肉 肉 ニクいやつ
鶏肉 豚肉 牛肉 さくら~肉
』
切り替わるテレビの画面。
女の子Aの声『アニメを見る時は、部屋を明るくしてテレビから離れて見てくださいね。』
女の子Bの声『離れすぎてボクを離しちゃ嫌だぞ。』
女の子Cの声『ちょっと!何言ってんの!あなたは!…あっ?べ、別にあなたたちのこと心配して言ってるんじゃないからね!』
一同『ご近所の井戸端議会はっじまるよ~。』
流れる音楽。テレビの画面を見つめ、サンドウィッチを噛み砕くオータキ。
オータキ『まず、お前に言っておくことがある。』
オータキを見つめるファウス。
オータキ『この城で、お前は自由にどの部屋にでも入っていい。』
眼を見開くファウス。
ファウス『どの部屋でもですか?』
頷くオータキ。
オータキ『ただ、鉱の部屋だけには絶対に入ってはいけない。』
ファウス『鉱の部屋…。』
頷くファウス。
ファウス『は、はい。分かりました。』
オータキはファウスを見つめ、頷く。
オータキ『分かったな。よし、食事がすんだら服を買いに出かけるよう。』
オータキの方を向くファウス。
ファウス『は、はい。』
エグゼニ連邦。エルフル樹海市。カルノア区ファッション経済特区ソーシン郊外。ヴァンガード城。正門に立つオータキ、後ろにはファウス、横に立つポンコⅡ。ファウスはオータキの背を見つめる。
ファウス『…オータキ様。ありがとうございます。僕なんかの為に…。服なんて…。』
オータキ『ほう。だったらそのままメイド服の方がいいか?』
眼を見開くファウス。
ファウス『えっ?い、いえ…。』
顔を真っ赤にするファウス。
ファウス『あ、あのその僕は男で、そのこの格好は、必要に応じてと言うか、成り行きと言うか…。』
笑い出すオータキ。
オータキ『冗談だ。』
オータキ達の前に止まる高級車。窓が開き、オータキ達の方を向くメイド服を着た女アンドロイドA。
女アンドロイドA『お待たせいたしました。』
ファウスの眼に映る常に違う萌キャラに変化する絵が車体に映された高級車。
オータキに続くファウス。
C7 初日 END
C8 新調
エグゼニ連邦。エルフル樹海市。カルノア区ファッション経済特区ソーシン、大樹ビル街の芝道を走り、フェアルホテルの前に止まるオータキの車。ファウスはフェアルホテルを見上げる。
オータキ『着いたぞ。』
車の扉が開き、外へ出るオータキ。
ファウス『は、はい。』
オータキに続くファウスとポンコⅡ。彼らはフェアルホテルへと入っていく。フェアルホテル受付のカウンターに立つオータキ達。
オータキ『ヴァンガード城城主オータキだ。』
フェアルホテルの受付嬢Aはオータキの顔を見て一瞬顔をしかめてから笑顔を作る。
フェアルホテルの受付嬢A『はい。オータキ様ですね。今回は…。』
オータキ『ウィンダム諜兵団のネクロさんに用がある。』
フェアルホテルの受付嬢A『ネクロ様ですね。少々…。』
オータキの隣に居るネクロ。
フェアルホテルの受付嬢A『ひっ!』
フェアルホテルの受付嬢Aの方を向くネクロ。
ネクロ『ぴょるぴょるぴょる。そんな顔をしないでください。心臓に悪いですよ。』
胸に手を当て、深呼吸するフェアルホテルの受付嬢A。ネクロはオータキ達の方を向き、一礼する。
ネクロ『お待ちしておりました。オータキ様。どうぞこちらへ。』
後ろにある中央に天秤の描かれた扉を開く、ネクロ。扉から出てくる女魔縫技術士のヌイ。
ヌイ『いらっしゃ~い。』
ライブランの声『こ~ら!御主人様!勝手に出ない!』
扉の中、窓側の椅子に座るデザイナーで美青年のライブランの方を向くヌイ。
ヌイ『いいじゃん。けちー。』
ヌイはオータキ達の方を向き、ウィンクする。
ヌイ『さ、入った。入った。』
部屋の中に入るネクロとオータキ達。ライブランは立ち上がる。
ライブラン『ようこそお越しくださいました。話は聞いております。』
ライブランは歩き、オータキを見つめる。
ライブラン『それでは始めさせていただきます。御主人様。』
ライブランにピースするヌイ。スケッチブックを取り出し、オータキを見つめ鉛筆を動かすライブラン。
ヌイ『オッケー。』
ヌイは呪文を唱え、巻尺がオータキの体に巻かれ、スリーサイズが数値で出る。ライブランの方を向くヌイ。
ヌイ『結構ウェストが…。』
彼らを見つめるヌイ。
オータキ『…俺の服ではないぞ。』
ライブラン『えっ?』
立ち上がり、オータキの方を向くライブランとヌイ。オータキはファウスを親指で指差す。
オータキ『この子だ。』
眉を顰めるライブランとヌイ。
ライブラン『あの…男物の服の新調でよろしいんですね。』
頷くオータキ。
オータキ『この子は男の子だ。』
眼を見開き、ファウスを見つめるライブランとヌイ。
ファウス『あ、はい…。』
ライブランとヌイはファウスの方を向く。
ヌイ『そう…男の子なのね。ごめんね。お姉さんとここにいる皆がかわいい君のスリーサイズ知っちゃうからね。』
ファウスの唇に人差し指を当てるヌイ。顔を赤らめるファウス。
ライブラン『ご、御主人様!僕と言うものがありながら!』
ライブランの方を向いて苦笑いするヌイ。
ヌイ『仕事よ!仕事!はら、怖がらせないようにさあ。』
ヌイはファウスの方を向く。
ヌイ『さ、はじめましょうね~。』
ヌイは呪文を唱え、巻尺がファウスの体に巻かれ、スリーサイズが数値で出る。スケッチブックを持ち、ファウスを見つめて鉛筆を動かすライブラン。
C8 新調
C9 NPO法人
エグゼニ連邦。エルフル樹海市。カルノア区ファッション経済特区ソーシン、フェアルホテルから出てくるオータキとネクロにファウス、ポンコⅡ。オータキはファウスの方を向く。
オータキ『誂えるにはまだ時間がかかる。』
オータキの方を向くファウス。
オータキ『俺はネクロさんと話がある。内密のな。』
頷くファウス。
オータキ『ちょうどいい機会だ。この街を見学したらどうだ。』
ファウス『えっ?』
オータキ『ポンコと一緒に行って来い。』
ファウスの頭を撫でるオータキ。
ファウス『あ、は、はい。』
オータキはポンコⅡの方を向く。
オータキ『おい。ポンコ。ファウスにこの街を案内してやってくれ。』
一礼するポンコⅡ。
ポンコⅡ『承知しました…。』
車に乗り込むオータキとネクロ。彼は運転席に座るメイド服を着た女アンドロイドAに目配せする。オータキを見つめるファウス。
ファウス『あ、あの、オータキ様…。』
ファウスの方を向くオータキ。
ファウス『本当にありがとうございます。』
深々と頭を下げるファウス。オータキはファウスを見つめる。
オータキ『オータキ様ではない。ご主人様と呼べ。』
瞬きしてオータキを見るファウス。車の窓に肘をかけ、ファウスを見るオータキ。
オータキ『いいから、ご主人様と呼べ。』
ファウス『は、はい。ご主人様。』
笑みを浮かべるオータキ。
オータキ『よしよし。それでいい。』
運転席に座るメイド服を着た女アンドロイドAの方を向くオータキ。
オータキ『行くぞ。』
女アンドロイドA『はい。』
動き出すオータキの車。
エグゼニ連邦。エルフル樹海市。カルノア区ファッション経済特区ソーシン。立ち並ぶ樹木家屋の横の舗装された芝の歩道を歩くファウスとポンコⅡ。巨大な切り株を流用したロテスク劇場を手で指すポンコⅡ。ロテスク劇場を見つめるファウス。
ポンコⅡ『この建物はロテスク劇場です。晴れの日には…。』
ロテスク劇場の上部を指差すポンコⅡ。
ポンコⅡ『屋上で、雨天の日には中で、演劇やファッションショーや地域の寄り合いが盛んに行われていますよ。』
ポンコⅡは正面を向き、高くそびえる超高層大樹ビルの摩天楼ギルド・タワーを手で指す。
ポンコⅡ『あちらはギルド・タワーと呼ばれるソーシン地区の商工会議所となります。』
ギルド・タワーの下にある巨大な丸太を流用したエルフルデザイン大学の方を向くポンコⅡ。
ポンコⅡ『その下にあるのがエルフルデザイン大学となります。』
エルフルデザイン大学の方を見て頷くファウス。ざわめき。前方にあるキューズベリー広場の方を向くファウス達。キューズベリー広場に集う人々。炊き出しをするエグゼニ連邦ポルポ市の元ツチノコハンターで、現在ミートボーイ精肉所のNPO法人のリーダーでツチノコ人のゲインとエルフルデザイン大学の大学生達。
ファウス『…これは?』
ポンコⅡ『炊き出しですね。』
ファウスの目に映るゲイン。ファウスは眼を見開いて駆けだしていく。
ポンコⅡ『どうなさいました?』
続くポンコⅡ。ファウスはゲインの目の前に立つ。ファウスの方を向くゲイン。
ファウス『あの…。』
ファウス達に駆け寄るエルフルデザイン大学大学生A。
エルフルデザイン大学大学生A『ちょっと、すみません。ちゃんと順番を守ってください。』
エルフルデザイン大学大学生Aを見上げるファウス。
ファウス『あっ…。すみません。』
ファウスを見つめるゲイン。ファウスに駆け寄るポンコⅡ。
ポンコⅡ『ファウスさん。急に駆けだしたりして…。』
エルフルデザイン大学大学生Aの方を向くゲイン。
ゲイン『まあまあ、いいじゃねえか。それに見たところ、こりゃいいとこのメイドさん達だぜ。』
ゲインは微笑み、ファウスを見つめる。
ゲイン『なあ、お嬢ちゃん。俺達のやってる仕事に興味があるのかい?』
ゲインを見つめるファウス。
ファウス『あっ、その…はい。』
エグゼニ連邦。エルフル樹海市。カルノア区ファッション経済特区ソーシン。キューズベリー公園の噴水のベンチに座るゲインとファウスにポンコⅡ。
ゲイン『あのミートボーイの奴ら…いやミートボーイさんはさ。規格外の肉や切り落としを廃棄していたんだぜ。もったいないだろ。』
ファウス『はあ。』
ゲイン『だからさ。NPO法人で社会貢献事業の傍ら節税したらどうかって提案したんだ。』
頷くファウス。
ゲイン『それで今はこの通りと。支援金も市からも国からももらえるしな…。』
溜息を付くゲイン。
ゲイン『俺はゲインつってこの隣の市のポルポ市の人間なんだよ。』
ゲインを見つめるファウス。
ゲイン『ある日、俺は後ろ姿しか見てないがな。黒いドレスを着て…。』
ゲインはファウスの銀髪を見つめる。
ゲイン『お前さんみたいな銀色の髪をしていた。そいつが来て、大事な仕事で問題を起こし…俺達の街は死んだ。』
眼を見開き、ゲインから目をそらし、下を向くファウス。
ゲイン『助成金も打ち切られた…。』
下を向くゲイン。
ゲイン『俺は…必死になってツチノコを探したんだ、ゴミ箱、下水、屋根の上、人様の家に上がりこんだこともある!でも、見つからなかった!いなかった!
もちろん山の中も川の中も探したさ。でも、見つけられなかったんだ。その内、置いてきた女房と子供の顔を思い出してよ…。こんなことじゃ駄目だって思ってな。この先の…。』
北の方を指差すゲイン。
ゲイン『賃貸ダンジョンを貸りて今の事業を始めたんだ。俺みたいな境遇の奴らがいい肉を食って元気に生きるためにさ。今は軌道に乗り始めたばっかだけど、いつかは大きくなってあいつらの元に戻るんだ。』
俯き涙を流すファウス。
ゲイン『どうしたお嬢ちゃん。』
頭を掻くゲイン。
ゲイン『すまねえな。事業の話の筈が下らない身の上話になっちまってよ。』
ファウスは顔を上げ、ゲインを見つめる。
ファウス『ゲインさん…。僕…。』
駆けてくるエルフルデザイン大学女大学生A。
エルフルデザイン大学女A『ゲインさん!戻ってきてください!』
立ち上がるゲイン。
ゲイン『おお、分かった。分かった。』
ゲインはファウスの前に立つ。
ゲイン『それじゃあな。お嬢ちゃん。』
ファウスに手を振り、駆け去って行くゲイン。ファウスはゲインの背中を見つめる。
エグゼニ連邦。エルフル樹海市。カルノア区ファッション経済特区ソーシン、市街地。石畳の道を俯いて歩くファウス、後ろに続くポンコⅡ。
ポンコⅡ『どうしました?先程から、元気が無いようですが…。』
振り返るファウス。
ファウス『ポンコⅡさん…。』
音が鳴り、頭に手を当てるポンコⅡ。
ポンコⅡ『はい。はい。分かりました。すぐ向かいます。はい。』
ポンコⅡは頭から手を離し、ファウスの方を向く。
ポンコⅡ『あなたの服が誂え終りました。さあ、行きましょう。』
頷き、下を向くファウス。
ファウス『はい。』
ポンコⅡ『さあ、行きますよ!』
ポンコⅡはファウスの腕をつかむ。
ファウス『えっ、あの…ポンコⅡさん!』
ファウスの腕を引っ張って駆けていくポンコⅡ。
C9 NPO法人
C10 開かずの間
エグゼニ連邦。エルフル樹海市。カルノア区ファッション経済特区ソーシン、フェアルホテルに入るポンコⅡと手を引かれたファウス。ロビーのソファに座る同人誌を読むオータキ、隣に座るネクロ。彼らの前に進むポンコⅡとファウス。
ソファに座るオータキは同人誌を置き、ファウス達の方を見つめる。
オータキ『遅かったな。』
頭を下げるポンコⅡ。
ポンコⅡ『申し訳ありません。』
指を鳴らすネクロ。彼らの前に現れる中央に天秤が描かれた扉。
ネクロ『さ、行きましょう。』
扉を開くネクロ。扉から出るヌイ。
ヌイ『さ、できたよ!着て着て!』
ファウスに執事の服を渡すヌイ。
ライブラン『もぅ!御主人様!出ちゃ駄目だって!』
ライブランの方を向くヌイ。
ヌイ『ごめんごめん。』
ヌイはファウスの方を向く。
ヌイ『試着室はあちらよ。ささ、どうぞ。』
ファウスの背中を押し、部屋の中にある試着室の前に連れて行くヌイ。ファウスはオータキの方を向く。頷くオータキを見、試着室に入っていくファウス。ファウスはメイド服を脱ぎ、執事の服を着る。姿見に映る執事の服を着た自身の姿を見るファウス。
ファウス『これが僕…。』
俯くファウス。
ファウス『僕は…。』
試着室の扉を勢いよく開けるヌイ。
ヌイ『できた~?』
ファウス『えっ!』
後ろを振り返るファウス。ヌイはファウスを暫し見て、微笑む。
ヌイ『うわぁ。君に惚れちゃいそうよ。』
机を叩く音。
ライブランの声『御主人様!僕を捨てるんですか!』
ライブランの方を向き苦笑いするヌイ。
ヌイ『違うって、惚れ惚れするほどかっこいいんだって!』
ヌイはファウスの方を向く。
ヌイ『さ、皆にもみてもらおうよ。』
ファウスの手を引くヌイ。試着室から出るファウス。ファウスの方を暫し見つめ、感嘆の声を上げる一同。
オータキ『ふむ。かっこよく見えるな。良く似合うではないか。』
微笑むオータキ。
エグゼニ連邦。エルフル樹海市。カルノア区ファッション経済特区ソーシン市街地の芝道を走るオータキの車。運転席に座るメイド服を着た女アンドロイドA。助手席に座るポンコⅡ。後部座席に座るオータキにファウス。ファウスはオータキを見つめ、頭を下げる。
ファウス『オータキ様。今日は本当にありがとうございます。』
ファウスは自分が身に着けている服を見る。
ファウス『こんないい服を買っていただいて…。』
ファウスの頭を拳骨で軽く小突くオータキ。
オータキ『オータキ様では無い。御主人様と呼べ。』
ファウス『申し訳ありません。』
オータキ『まあいい。城主として当然のことだからな。』
俯くファウス。
ファウス『でも、僕…こんなに良くして頂いて、いいのかなって。だって…僕、僕。』
口を手で押さえ、目から涙を流すファウス。
ファウス『恩のある方と家族を自殺に追い込んだんです。それだけじゃない。ポルポ市の人達の生活も奪った…。それだけじゃない…ヨーケイ城で女の子達を…見殺しにした。助けられなかった…。』
ファウスを見つめるオータキ。
オータキ『…そうかそうか。俺が言える資格があるかどうかはわからんが…つらかったな。』
オータキを見つめ、彼に抱き着くファウス。フロントガラスから見えるヴァンガード城。
夕刻。エグゼニ連邦。エルフル樹海市。カルノア区ファッション経済特区ソーシン郊外、ヴァンガード城。廊下を歩くファウス。風に揺られ、鉱の部屋の扉からでるカーテン。ファウスは鉱の部屋の前まで行き、中を覗く。部屋にある棚を見つめるグリーンアイス連邦ブルベド都市国家代表でアイドルのアイリス・ヴァンガードのDVDを何個か持ったオータキ。ファウスは鉱の部屋に入る。
ファウス『オータキ様。あの…。』
ファウスの方を向き、目を見開くオータキ。
ファウス『何かお探しですか?僕手伝います。』
ファウスはオータキの持つDVDのジャケットを見つめる。
ファウス『あれ、これは…この人、この館のメイドさん達と同じ顔してますね。』
オータキはファウスを睨み付ける。
オータキ『ここには入るなと言っただろう!』
眼を見開くファウス。
ファウス『あっ…。も、申し訳…。』
オータキはファウスを張り倒す。床に倒れ、頬を押さえ、潤んだ瞳でオータキを見上げるファウス。オータキはファウスを見つめ眼を見開く。ファウスに背を向けるオータキ。
オータキ『出ていけ!この部屋から…すぐに出ていけ!!』
立ち上がり、下を向くファウス。
ファウス『ごめんなさい…。僕、知らな…。』
オータキ『いいから出ていけ!』
俯くファウス。
ファウス『はい…。』
鉱の部屋から出ていくファウス。
夜間。エグゼニ連邦。エルフル樹海市。カルノア区ファッション経済特区ソーシン郊外。ヴァンガード城。書斎の扉を叩くファウス。
ファウス『オータキ様。ファウスです。』
暫し沈黙。書斎の前に立つファウス。
ファウス『…こんな時間に申し訳ありません。』
ファウスは俯く。
ファウス『オータキ様。ごめんなさい。僕、あなたに雇って頂いて、お洋服も買って頂いたのに…なのに、僕は言いつけを守らず、あなたを裏切ってしまった。』
泣き崩れるファウス。
ファウス『ごめんなさい…。』
扉の書斎を開け、現れるオータキ。彼を見上げるファウス。
ファウス『オータキ様…。』
ファウスを見下ろすオータキ。
オータキ『入れ、こんなところで寝てられて風邪でもひかれたら困る。』
ファウスの手を差し伸べるオータキ。オータキの手を見つめるファウス。
オータキはファウスの腕を握り、立ち上がらせ、書斎に引っ張っていく。
ソファに座るオータキとファウス。テレビに映る一時停止されたアイリス・ヴァンガードのライブ映像。
オータキはファウスの頬を触る。
オータキ『…すまない。痛かったな。』
オータキを見つめ、首を横に振るファウス。
ファウス『いえ…。オータキ様は当然のことをしたまでです。僕が決まりを破ったから…。』
俯くファウスを見つめるオータキ。
オータキ『…あそこには大切なものがあったんだ。』
下を向くオータキ。彼はリモコンのスイッチを押す。動き出す画像。
アイリス・ヴァンガードの声『さあ、ノって行こう!皆!!』
テレビに映る一同の声『アイリスちゃ~ん!』
顔を上げるファウス。
ファウス『…この方は?』
オータキ『グリーンアイス連邦のアイドル、アイリスちゃん。』
ファウス『…綺麗で可愛らしい方。』
オータキ『…そうだろう。そうだろう。俺の嫁だ。』
瞬きしてオータキを見つめるファウス。
ファウス『…この方とご結婚していらしたんですか?』
ファウスから目をそらし、首を横に振るオータキ。
オータキ『…スラングだ。…大切な人を……表すな。』
画面に映るアイリス・ヴァンガードを見つめるオータキ。ファウスは彼を見つめる。
ファウス『…オータキ様。』
オータキはファウスの方を向く。
オータキ『ファウス。オータキ様では無い。御主人様と呼べと何回も言っているだろう。』
口に手を当てるファウス。
ファウス『あ、す、すみません。』
オータキ『まったく、入ってはならんと言った部屋には入るし、まったくしょうがない奴だな…。』
オータキはファウスの頭を撫でる。ファウスはオータキを見上げ、頭を下げる。
ファウス『…申し訳ありません御主人様。』
C10 開かずの間 END
次回予告
神性
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