話は少し戻り、雪蓮が一刀の暴走を相手している間、冥琳らは賊の掃討戦を行いながら村人の救出作業も行っていたが、残念ながら村人の多くは賊の犠牲者となり、生き残っている者は少数であった、それを聞いた冥琳らは厳しい表情していた中、兵の一人がある報告を持ってきた。
「申し上げます、周瑜様!現在、村人と思われる人物1名を発見しましたが、現在興奮状態で我々の説得にも耳を傾けようとせず、武器を持って抵抗しています!」
「分かった、決して村人に傷付けるな!私が行くまで離れて見ておけ!!」
報告を聞いた冥琳は兵に指示を出すと包(魯粛)と梨妟(太史慈)を呼んで、一刀の暴走の件と兵の報告について説明した。
「それで梨妟、村人を説得して宥めるつもりだが話を聞かずに暴れた場合、梨妟の力が必要になる。すまないが私と一緒に来てくれないか?それと包、しばらくの間、ここの指揮を任せる」
「分かった。ここは私に任せて」
冥琳は包が承諾すると梨妟を連れて、村人のところに行った。
冥琳が到着したが、尚も村人と思われる少女は尚も抵抗を続けていた。
その少女は初めて人を殺した為か、興奮して賊と官軍との見極めができなくなっていた。幸い一刀たちの兵の犠牲者はなかったが、その少女の周りには賊兵が何人も葬られていた。
だがその死体は斬られた物では何か堅い物と衝突していた感じであった。
死体と抵抗している少女の姿を見て、何処かで見たのではないかと思い出そう深い思考に入ってしまった冥琳はその少女が投げ出した武器に気付くのに遅れた。
「いやあああああ――――!」
「危ない!」
だが梨妟が冥琳を庇いながら村人が投げてきた物を避ける。
二人は無事避けたが、村人の投げた武器は再び自分の手元に戻ってきていた。
「冥琳、どうしたの。こんな所で考え事をして?」
流石に以前の外史の事を梨妟に言っても信じて貰うことができないであろうと冥琳は、素早く誤魔化し
「いやすまん。どうやってあの少女を助けたらいいのか考え過ぎたようだ」
「あの子助けるのは良いけど、冥琳が死んだら本末転倒よ♪」
冥琳の説明に納得したのか、梨妟は軽口を叩いて冥琳を注意した。
「村人は絶対に守ります!あなた達に手を出させはしません!!」
その少女は意識朦朧で疲労困憊にもなりながら、尚も村人を守る気迫を見せる。
冥琳はこれ以上、この少女を戦わす事に危険を感じ、敢えて一刀の肩書を利用する。
「村の者!私たちは『天の御遣い』である北郷一刀の軍だ!今、この村を襲撃していた賊を討ち果たした!!安心して出てくるが良い!!」
冥琳が周りに聞こえる様に宣言すると
「えっ…て…天の御遣い…やっと援軍が来てくれた…」
助けに来てくれたのが噂になっていた『天の御遣い』一刀の軍であるということが理解できた少女は、その言葉を聞いて安心したのか、その場で倒れてしまった。
すると背後の建物から避難していた村人たちが出て来て事情を説明した。
実はこの少女は料理の修行をしていたがその旅の途中で、食事にこの村に立ち寄ったところ賊の襲撃に遭い、村人を守る為、必死で戦っていたということが分かった。
村人たちは乱戦の中とは言え一刀の軍にも抵抗した少女を助けて欲しいと懇願した。
「安心するが良い。別にこの事で咎める事は無い。それにこの村を守った功労者として城で治療を受けさせとそれと別に褒美も取らせるつもりだ」
冥琳がそう告げると村人たちは安堵の表情を浮かべていた。
そしてその少女は治療の為、梨妟たちにより運ばれ、一人残された冥琳は漸く思い出し
「もしやあの者は……、だがまだ村人の話では料理の修行しており、何処にも仕えていないはず…。ならば一刀に相談するべき必要があるな」
そう言いながら冥琳は考えを纏め上げ、すぐさま村の救助活動に向ったのであった。
傷ついた少女は治療の為、城に運ばれ、興奮が収まった一刀たちも城に戻っていた。
そしてその日の夜
「ウッ……」
「おっ目が覚めたか」
「ここは……何処ですか?何故私は、ここで寝ているのでしょうか…」
「ここは居巣の城だ。アンタは村で目一杯戦って、その場気を失って城に運ばれてきたんだ」
「おっと、自己紹介まだだったね。私は太史慈だ、アンタの名前は?」
「私の名前は…」
「梨妟入るわよ♪」
すると雪蓮や一刀、冥琳が入って来た。
「あっ、目覚めたんだね。丁度良かった、まずは話をする前にお腹も減っているようだから、温かい内にこれを食べて」
一刀は少女が目を覚めたこと確認して、まずは話をする前に自分で作った料理を少女に差し出す。
少女は礼を述べ食べ始めると
「こ、これ…お、美味しいです!見た目はただの粥なのに、それでいて、こんなにもしっかりした味付けですね!」
「ああ…これね、粥じゃなくて、雑炊っていうのだ。粥にしては具が多いだろう?」
「これ雑炊というのですか…すごく心が落ち着いて美味しいですね…」
一刀からそう言われると少女はじっくり雑炊を味わって食べた。
「御馳走様でした。これ本当に美味しかったです。後でこれの作り方教えて貰えますか?」
「ああ良いよ。これくらいの料理ならすぐ覚えて食べられるよ、それでまずは話をしたいけどいいかな?」
「あっ、ごめんなさい!料理の話に夢中になってしまって…」
「それは問題ないから、取り敢えず自己紹介だけど、まずは俺から北郷一刀。姓が北郷、名が一刀と言うけど、それで君の名前は教えてほしいんだが」
「私は典韋です。兗州の農村の生まれですけど、『御使い様』の噂は聞いていましたが、こうして会えるとは思っていませんでした」
一刀や雪蓮と冥琳は、以前の外史では典韋を戦場で遠見した程度だったので、冥琳が最初に典韋を見た話を聞いた時、一刀自身も半信半疑であった。
だが雪蓮は別の事に気を取られ……
「ねぇ一刀、ひょっとしてさっきの料理は…」
「ああ一応俺が作ったんだ」
「いいな~私も食べたかったな~一刀、今度作ってよ♪」
「はいはい、その話は後で」
「感情籠ってな~い!」
「静かにしろ!雪蓮!!」
雪蓮が羨ましそうな表情をしながら一刀に訴えるが、今はこれを敢えて無視すると雪蓮が騒ぐと冥琳が注意して大人しくなり、話を続ける。
「それで君はさっき兗州の農村の生まれと言っていたけど、何であの村に居たの?」
「実は村を出て見聞を広めるのと、各地の郷土料理というのもどんな物か知りたくて旅に出たのですが、あの村で途中寄った際、賊に襲われて…熊とかよく捕獲していたのですが、人との戦いは今回が初めてで途中からよく覚えていないのです…あっ!それで村はどうなりましたか!」
典韋は村の事を思い出し、一刀は生存者はいるものの村は壊滅状態になった事を説明すると、落胆した様子を隠しきれなかった。
「そうでしたか…後、申し訳ありません。意識が無かったとは言え武器を太史慈さんらに武器を投げつけてしまって」
「気にすることないよ。それに初めてであそこまで戦えたのは凄い事だよ。このまま鍛えたらもっと強くなるから」
「そうですか?」
梨妟からそう言われると少し嬉しそうな表情をする典韋。
「それで話だけど、君のあれだけの力をこのまましたら勿体ないと思う。もし君が良ければの話なんだけど、俺たちに力を貸して欲しいんだ」
「わ、私ですか!?私なんて唯の民ですよ?」
一刀から勧誘を受けた典韋は驚きの声を上げるが、一刀は
「さっき梨妟が言った通り、君にはそれだけの力があるんだ。自信を持っていいよ」
一刀から勧誘を受けたが、まだ疑問に思う典韋は一刀に質問する。
「……一つ質問いいですか?」
「ああ、構わないよ」
「何故私の様な者を仕官させ、『御使い様』はどういう世を目指しているのですか?」
「仕官して欲しいのは何れ来るであろう乱世の為に、その乱世で大切な人を失わない様にしたいと思っている」
「大事な人ですか…ではその人以外はどうなるのですか?」
「勿論、できるだけ救うつもりだよ。でも自分の大切な人を守れない人が他の人を守れると思える?」
「……確かに自分が守れない者が他人を守れる訳ないですね。『御使い様』!失礼な事を聞いてごめんなさい!」
一刀は言ってから理屈を捏ねた様な言い方をしてしまったと思ったが、逆に典韋はその説明を聞いて納得した。
「それで仕官の件だけど、もし否だったら、それは遠慮なく言って欲しい。その場合村を守ってくれた功労者だから、できる限りそれには報いたいと思っている」
典韋は今まで見た官員は自分の出世の事しか考えていないと思っていたが、一刀の姿や考えを聞いて仕官をしても良いと考えた。
「もしこんな私でも良ければ喜んで仕えたいと思います」
「ありがとう。生憎、預けれる真名は無いから好きに呼んでくれたらいいよ」
「改めて自己紹介しますね。私の名は典韋、真名を流琉といいます。皆さんよろしくお願いします!」
「それと御使い様の事を…兄様と呼んでいいですか」
そして皆と真名を交した流琉であったが、一刀の事を『兄様』と呼ばれた事について冷やかす雪蓮と梨妟がいた事は言うまでもなかった。
一方、揚州呉郡でも官軍と黄巾党の戦いを行っていた。
「孫武が末の裔孫文台(真名を炎蓮)!戦で血濡れたこの刀、南海覇王を引っ提げて、いざ戦わん!命をやりとりすんのに大義なんざぁ必要なし!オラァ戦え!わめけ!奴らの命を食い散らかせ!それが生の証ってもんだ!!」
「歯向かう奴はブッ潰せ!!我が道に立ちはだかる奴はブッ殺せ!!」
炎蓮は兵たちを鼓舞しながら、自ら先頭に立って南海覇王を振り回していた。
「大殿!何度も言っているでしょうが!危ないから先陣切るのはお止め下されと!!」
炎蓮の腹心である程普は君主自ら先頭を戦う事を危険であると注意を促すが
「ハハハ!粋怜(程普の真名)、細かい事を気にするな。これ以上怒ると肌が荒れて顔の皺が増えるぞ!」
「誰の所為で皺を増やそうとしているのですか!!」
「こうなってしまったら、儂でも止められぬ。諦めろ、」
「祭、アンタ、大殿の所為にしているけど、止めなかったアンタにも責任があるから、大殿と一緒に雷火(張昭の真名)の説教受けなさいよ」
祭こと黄蓋が何を今更ということを言うが、粋怜は説教を受ける事を指摘する。
「何故、儂が大殿と説教を受けねばならぬのじゃ!」
「それはそうでしょう。大殿を止めに行くと言って大殿と一緒に剣を振り回していたら、貴女も同罪でしょう」
「ヌグググ…ええぃ!こうなれば自棄糞じゃ、この憂さをここで晴らしておくわ!!」
粋怜から説教を受けると現実を突き付けられると祭はこの怒りを黄巾党にぶつけるのであった。
黄巾党を殲滅した後、陣に戻ったたちは、見た目可愛いが怒りの余りに仁王立ちしている呉の頭脳と言われている張昭が待ち構えていた。
「大殿、祭、貴女たちは何を考えているのですか!前から…ブツブツ」
そして粋怜の予告通り、炎蓮たちは雷火から半刻程(約1時間)説教を受けるはめとなったのであった。
そして説教を受け、疲れ切った表情になっていた炎蓮は気を取り直して次の目的地を聞く。
「ハァ…疲れた。それで、粋怜。次の目的地は北か」
「それが大殿…先程、密偵からの情報では北で暴れ回っていた1万の賊が僅か1500の兵により壊滅させられたという情報が」
報告を聞いた炎蓮の目の色が変わった。何か面白い物を見つけたかの様に。
「へぇ…この揚州にもそんな骨がある奴がいたんだな。粋怜、それでそいつの名は?」
「何でも噂によるとその者は『天の御遣い』と呼ばれており、名を北郷一刀と言います」
「天の御遣いねぇ…面白そうだな。まあ近い内に会えるだろうな」
「それは何時もの勘ですかな?」
「ああ、その通りだ」
祭からそう言われると炎蓮は不敵な笑みを浮かべ、一刀と会うのを楽しみにしているようであった。
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なかなか新外史伝の続きが書けず、こちらの更新ばかりで申し訳ありません。
今回はある方が登場いたします
では第9話どうぞ。