「魔物はそれほどまでに狂暴な力を表しているのか!」
刻路(コクジ)の姿を目にした瞬間、潮路(シオジ)は大げさに驚いてみせた。
身体中の傷が、激しい戦いを思わせたのだろう。目の回りを縁取る青痣が、特に目立っている。
「…あの、確かに魔物は強かったのですが…」
晶(アキ)が横目で刻路を伺いながら、おずおずと口を開く。
刻路はブスッと顔を背けた。
彼の傷の多くは、帰路での鈴花(リンファ)とのやりとりでできたものだった。
「だから鈴花に豚(アレ)はだめなのに…」
晶は肘で刻路を小突いた。
「…ともかく!」
ゴホンと咳払いをして、刻路は祖父にことの成り行きを話し始めた。
神が魔物であったこと。
十二支国が狙われていること。
協力を拒んだ十二支がとばされてしまったこと。
そして、鈴花が猪になってしまったこと。
刻路の話に、潮路は時に驚き、時につらそうな顔を見せながらも、口を挟むことなく聞いていた。
刻路が話し終わると潮路は頷き、一呼吸おいて口を開いた。
「……それで、その生き証人の鈴花はどこにおるのだ?」
言われて顔を見合わせる刻路と晶に、潮路は首をかしげる。
晶が懐にかけた袋から球(たま)を取り出した。
「それは?」
「刻路と言い争っているうちに、この球になってしまったんです」
「まさか、『亥の球』!?」
潮路が声を大きくした。
「?」
初めて聞く単語に、今度は刻路と晶が首をかしげる番だ。潮路は腕を組み直した。
「『球』は国を救う素質のある獣士が持つとされている」
「…初めて聞きました」
晶が球に目を移して言う。潮路も頷いた。
「そうだろう。私も初めて見たのだからな」
「それおかしいだろ。鈴花が国を救うって……」
胡坐をかいて頬杖をついていた刻路がちっと舌打ちを叩いた瞬間、『亥の球』が突如光り輝いた。それと共にふわっと晶の手を離れ、刻路の頭にごつんとぶつかった。ぎゃっと刻路が悲鳴をあげる。
"私をばかにしてんの!?"
残響がかっているが、間違いなく、鈴花の声だ。
「ほう、意識があるのか」
潮路が感心した声をあげた。
"私って、やっぱりすごかったのね。でも、長様(おささま)、私は元に戻れるんでしょうか?"
「神に力を奪われすぎて、一時的に姿が変わっただけだろう。しばらく休めば元に戻るだろう」
「はん、オレをぼこぼこにするのに余計な力を使ったせいでここまで小さくなったわけだな?」
"あんたが余計なことを言うからでしょ!!"
球の姿をした鈴花でも、刻路を睨みつける姿が見えるから不思議だ。晶が苦笑いをする。
「意識がしっかりしているのはわかった。しかし、しばらくおとなしくしていることだな」
"でも長様! 刻路がぁ……"
「戯言はよい、今度こそ命がなくなるぞ!」
潮路の言葉に、3人はハッと息を呑んだ。鈴花はおずおずと晶の手の上に戻る。
「しかしそうか、今回の十二支は皆『球』の継承者だったのかもしれんな。だからこそ、神が本性を表したのだ。国を救うとされる彼らを、恐れているのかもしれん」
「確かにあいつら本気で揃ったら、神なんか恐くもなんともないだろうさ」
刻路が言いながら立ち上がった。
「さっさと探し出して、一緒にとっちめてくっか!!」
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十二支の物語です。