「……とりあえず、村に帰るか」
呆然と魔物の消えた場所を眺め続けていた鈴花(リンファ)と晶(アキ)だったが、刻路(コクジ)の言葉に二人そろってハッと顔を上げた。
「…う、うん……そうだね!」
晶はすぐに立ち上がり、鈴花が立つのを助けようとする。
魔物に操られていたときに負った鈴花の足の傷は深かった。応急処置で巻いた足の布が赤くにじんで痛々しい。
「それじゃ歩けないだろ。おぶってやるよ」
操られているとはいえ、傷つけてしまったことを、申し訳なく思っていた刻路が、鈴花に背を向けてかがんでみせた。
鈴花は「大丈夫よ」となんでもないように立ち上がろうとしたが、大きく体勢を崩して倒れそうになった。
刻路と晶が支えるために、とっさに鈴花に手を差し出す。
ところが突然、鈴花を中心にボウンと爆発が起こった。
「鈴花!?」
晶が悲鳴に近い声を上げた。鈴花に何があったか確かめたいものの、煙にまかれて様子がわからない。刻路もごほごほと堰をしながらも必死に煙を散らす。
しばらくして煙が晴れると、二人はそこに、黒い影を見た。
「魔物!? いや……黒豚ぁ!?」
刻路は、顔を険しくしていたが、意外なものの登場にすっとんきょうな声をあげた。
鈴花がいたはずの場所に、黒い生き物がうずくまっていた。刻路の言う通り、大きな鼻を持った黒い豚そのものだった。
「……ぶたって言うなって……」
「へ?」
豚の方から微かに聞こえた聞きなれた声に、刻路は首をかしげた。
「いつも言っとろうがっ!!」
小さくなっていた黒豚が突然に刻路に突進した。
フイをつかれた刻路は簡単に突き飛ばされ、近くにあった木に激突した。
「~~~~~いいってぇえええ~~~~~」
刻路が何度も体験している、この感覚。間違いない。
「鈴花!? どうしちゃったの、その体!? 猪?」
晶も目を丸くした。
「わっかんないわよもう、なにこれ……美女が台無しよぉ……」
鈴花が猪になった。その上話すことができる。信じがたくとも、声も口調もそのものだということが、鈴花に間違いないことを証明している。
猪には到底無理と思える、前足で顔を覆う格好。
そんな鈴花を撫でながら、今度は刻路と晶はただ、顔を見合わせていた。
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自己満足に書いている十二支の小説です。
余談ですが、十二支に猪を入れているのは日本と一部の国だけのようです。
本当は豚なんですが、日本にはあまりなじみがなくて猪になったらしいです。
…というわけで、鈴花は豚から離れられない運命にあるわけです。