No.756621

恋姫OROCHI(仮) 弐章・弐ノ壱ノ伍 ~駿府決着~

DTKさん

どうも、DTKです。
お目に留めて頂き、またご愛読頂き、ありがとうございますm(_ _)m
恋姫†無双と戦国†恋姫の世界観を合わせた恋姫OROCHI、43本目です。

今回は駿河編の五本目。

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2015-02-06 23:29:45 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:3796   閲覧ユーザー数:3252

 

 

 

 

 

駿府屋形では着々と戦準備が進められていた。

小波は行方不明だが、小波の手の者が数人いるので、幸いにも諜報網はそれなりに機能していた。

そんな四方に放っていた物見のうち、西から敵影の報告が入った。

剣丞たちが出てまもなくのことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵は白装束で身を固めた集団。数は約数千。ご丁寧にも駿河国内を通って、ここ駿府へ侵攻してくるそうです」

 

詩乃が物見からの報告を読み上げる。

 

「それはそれは、ありがたいですな」

 

幽がはははと、乾いた笑いを浮かべる。

駿府は元々海沿いの街だ。

だが、異変で海がなくなった今、南方から駿府屋形に直接攻め込まれる恐れがあった。

なので、急いでひよが南側の駿河の切れ目に柵を設置しているのだが、いささか拍子抜けだった。

 

「もしかしたら、敵は駿河の地形に詳しくないのかも、なの!」

「そりゃあ、敵さんも初めての土地には詳しくはないと思うぜ?」

 

鞠の、謎が解けた!という言葉に、翠が苦笑いをしながら冷静に返す。

 

「なんにしても、これで多少は戦いやすくなりましたね」

 

机に広げられた地図を見ながら詩乃が言う。

 

「基本方針はここ、宇津ノ谷峠で敵を迎え撃ちます」

 

詩乃が地図の一点を指し示す。

 

「ここならば道も狭く、こちらは高所を押さえられますので、小勢でもかなりの時間、敵を引き付ける事が出来るでしょう」

「ふむ、定石ですな」

 

詩乃の作戦に幽も追従する。

 

「基本軸は森一家と翠さんを交互に出しながら時間を稼ぐ形になると思いますが…いかがでしょうか?」

「お嬢から、剣丞さまや詩乃さまの言に従うように、と仰せ付かっておりますので、我ら森一家に出来ることは、詩乃さまを信じ、身体を張ることだけですわ」

 

小夜叉の名代として森一家を預かっている各務が、事も無げに答える。

 

「あぁ!各務の言うとおりだぜ。あたしら武官は小難しいことは分からないけど、人よりちょいと丈夫に出来てるんだ。

 雫や鞠が信をおく詩乃の策なら、この槍を任せられるってもんだ」

「お二人とも…ありがとうございます」

 

二人の温かい言葉に、胸をそっと押さえる詩乃。

これほどの篤い信頼に感じ入らないはずがない。

 

「残る問題は、敵軍が馬鹿正直にまっすぐ来てくれるか、ということですな」

 

幽が懸念を挙げる。

 

「その通りです。別働隊の可能性も否定できませんし、不利と見るや隊を分けたり迂回することも考えられます」

 

詩乃も、考えていました、とばかりに頷く。

 

「ですので、宇津ノ谷峠へは私と森一家、翠さんで向かい、駿府屋形には鞠さん、幽さん、ひよに残って頂き、有事の際に対応できるだけの戦力を…」

「ひょっ?それがし、峠へ出る気満々だったのですがなぁ~?」

「え?」

「失礼ながら、詩乃殿は武の心得は皆無。であれば、前線指揮は多少腕の立つ、それがしにお任せあれ。詩乃殿は駿府屋形でどんと構えていて下され」

「しかし…」

「それがしがここまでやる気を出すなど、十年に一度あるか無いかですからな。厚意は受け取って置いて下され」

「幽さん…ありがとうございます」

 

幽の気遣いにも感じ入る詩乃。

 

「それでは幽さん、翠さん、そして森一家の皆さんは、宇津ノ谷峠にて敵を迎撃して下さい!」

「「「応っ!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

――――

――

 

 

 

それは異様な光景だった。

全身を白い装束で固めた一団が、遅くもなく早くもない速度で、一糸乱れずに行進していた。

そして全員が徒歩の中、一人だけ輿に乗った女性が居た。

その者は、これまた一人だけ、やや明るい浅葱色のゆったりとした服を着ていて、異様の中にあって逆に異様である。

 

輿の乗っていることから、この隊の指揮官であろうが、その風貌は全く武官らしくない。

肩ほどまである艶やかな黒髪、横長の眼鏡をかけ、その下には知的な切れ長の瞳。

ゆったりとした服からは体つきは判断できないが、袖から伸びたスラリと細い指は、文官のそれである。

事実、その指は今も書物をめくっている。

戦の行軍中であることなどお構い無しだ。

 

「ん?」

 

その女性が初めて書物から目を外した。

一定の速度で進んでいた行軍が、僅かに遅れたからだ。

 

「見てこい」

 

輿の側に控えていた兵に短く命令する。

 

「はっ!」

 

その者は隊列の前方に向けて走り去る。

女性は早々にそちらへの興味を失い、再び書物へと目を落とした。

しかし、ゆるゆると行軍速度は落ち続け、ついには完全に止まってしまった。

 

「ちっ…」

 

わずかに舌打ちをし、前方を見やる女性。

肘掛に人差し指を延々と打ちつけ、逆の親指の爪を噛み、神経質な一面を覗かせる。

 

「も、申し上げます!」

 

ようやく戻ってきた兵の様子は、ひどく慌てていた。

 

「何があった」

「はっ!この先の隘路にて、何者かの迎撃を受けた模様!」

「迎撃、だと?」

 

このような天変地異が起きた中で、そのような余裕のある英傑がいるのか?

 

『こちら』には詳しくない彼女の脳裏に、具体的な姿も名前も浮かばなかった。

 

しかし、その蛮勇は賞賛に値しよう。

 

「一揉みに捻り潰せ。遅滞は許さんと伝えろ」

「はっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

――――

――

 

 

 

「しゃおらぁーーー!!!」

 

翠の銀閃が白装束を貫く。

しかし息つく間もなく、

 

「キエェェェ!!」

 

次々と白装束が向かってくる。

 

「ちっくしょ!少しは休ませろっての!」

 

一気に数人の剣が襲い来るが、剣筋は単調でバラバラ。

かつ、一人ひとりの武勇は雑兵のそれなので、翠ならば簡単にあしらえる。

その上、

 

「「「ヒャッハーーー!!!」」」

 

森一家の構成員が半分ついてくれているので、戦い自体は比較的楽なものだ。

 

(あね)さん!大丈夫ですかいっ!?」

 

頭は少し足りないが、みな気の良い連中なので、翠もすぐに打ち解けた。が…

 

「姐さんはちょっとなぁ…」

 

と苦笑いを浮かべる翠。

しかし、と気を引き締める翠の身体は奇妙な感覚に包まれていた。

 

こいつらとどこかで戦ったことあったかな?

 

一度見たら忘れないであろう、真っ白な出で立ち。

強くはないが、死ぬことを厭わない遮二無二の突撃。

まるで人形でも相手にしているような、嫌な感覚。

記憶にはないが、何故か身体が覚えていた。

 

 

ドーーーン……ドーーーン……

 

 

「姐さん!退き太鼓でさぁ!」

「あ、あぁ…よし!それじゃ、もう一当てした後、後退して交代するぞ!」

「「「応さぁ!!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

――――

――

 

 

 

「あれは……馬孟起、だと?」

 

旗印などは無いが間違いない。

馬の尾のように束ねた髪を靡かせ、戦場を舞うその姿。

誰よりも猛々しく、そして美しく煌く十文字槍。

見間違うはずがない、蜀の錦馬超だ。

 

「何故、彼女がここに…」

 

いったい何が起こっているのだ!?

 

指揮官の女性は愕然とした。

全く動かぬ戦況に業を煮やし、やってきた最前線。

目に飛び込んできたのは信じられない光景だった。

馬超が退くと同時に、今度は見知らぬ鬼の形相をした女が出てきた。

 

あれが在地の将だろうか?

馬孟起と連携が取れている、ということか…

話が違う。想定外のことが多すぎる!

 

「……撤退だ」

「は……今、なんと?」

「聞こえなかったのか!?撤退だ!!」

 

女性は長い袖を靡かせ、戦場に背を向ける。

 

「東から攻めさせる鬼とやらも退かせろ。今すぐにだ!!」

「は、はっ!」

「どういうことか、于吉を問い質してくれる!」

 

女は肩を怒らせながら言葉を吐き捨てた。

 

 

 

こうし駿府攻めの部隊は撤退していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

――――

――

 

 

 

「おや?」

 

峠の頂上から戦況を見ていた幽は、敵方の違和感に気付いた。

 

「どうしたんだ?」

 

前線から退き、休憩していた翠が水筒片手に顔を覗かせる。

 

「いえ……敵が、退いていくようですなぁ」

「なんだって!?」

 

慌てて翠も敵軍を見やる。

 

「どういうことだ?さっき戦い始めたばかりだろう!?」

「翠殿!申し訳ありませんが、ひとっ走り各務殿のところに赴き、深追いはせぬようにと制しに行って下さらぬか?」

「あ、あぁ……分かったぜ!」

 

翠が槍を手に駆け出す。

 

「伝令殿はこちらへ!」

「はっ!」

「駿府屋形の詩乃殿へこう伝えて下され。突然敵が退いた。それがしたちはこの場を死守するゆえ、各方面の警戒の強化と今後の指示を求むと」

「はっ!」

 

全て指示を出した後、再び敵軍へと目を転じる幽。

 

「これが罠なのか、真の撤退なのか……あの混乱ぶりが演技だとしたら、かなり厄介な敵ですな…」

 

ひとりごちながら、突出しかけた森一家が動きを止めたのを見て、一安心する幽であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

――――

――

 

 

 

「敵が……撤退?」

 

幽からの伝令を、詩乃は驚きをもって受けた。

いくらなんでも早すぎる。

昨日の今日ではない。今日の今日だ。

罠なのか、それとも敵の指揮官などに何かあったのか。

何にしても事態は動いている。

 

「分かりました。幽さんには、日没まではその場を死守。日没後は偽兵を用い、駿府屋形まで退いて下さい、と伝えて下さい」

「はっ!」

「東南北の監視は引き続き行って下さい。西の敵軍の動きは逐一報告を出来るような態勢をとってください」

「はっ!」

 

小波の隊にも指示を出す。

 

「ふぅ……」

 

大きく息をつく詩乃。

 

「詩乃…」

 

鞠が心配そうに声をかける。

 

「大丈夫です。明日になれば、剣丞さまたちも帰ってくることでしょう。勝負はそれまで。今夜を乗り切れば私たちの勝利です」

「なんか詩乃ちゃんらしくないね。まるで剣丞さまみたい!」

 

根拠の無い自信を覗かせる詩乃に、ひよが笑顔を見せる。

 

「おや、困りましたね。軍師たる私まで剣丞さまのような楽観の仕方では…」

 

詩乃は悪戯っぽく目を瞬かせる。

 

「でも、剣丞さまがいらっしゃれば、どんな敵にも勝てる……そんな気がするんです。全く以って非論理的ですけどね」

「ううん。鞠もそう思うの!」

「私もだよ!」

 

駿府屋形の評定の間で三つの華が咲いた。

 

「さて、今夜を乗り切るためにも万全を尽くし、事に当たりましょう!」

「はいっ!」「応なの!」

 

 

 

しかし敵軍は何処へかと消え、駿河で再び剣戟が響くことは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、剣丞たちは静かな駿府屋形に帰ってきた。

明命が先触れに出ていて、詩乃たちが剣丞たちを出迎えるため門前に出ていた。

 

「良かった。まだ敵は来てなかったんだな」

 

全員が無事なのを見て、胸を撫で下ろす。

 

「いえ、実は……」

 

 

 

…………

……

 

 

 

「なるほどね…」

 

上段の間に全員集まり、お互いの情報を交換し合った。

 

「小夜叉さん。確かにその男性は、白装束の男、と言ったのですね?」

「あぁ。今際の際だったが間違いねぇ。鬼と白い装束の男たちが新田を探していた。そう言ってたな」

「ふむ…」

 

詩乃は顎に手を当てて考え込む。

 

「だから俺たちは、もしかしたら駿府屋形に鬼が迫ってるかもしれないと思って、いざとなったら挟撃も出来るようにしてたんだけど…」

 

明命に哨戒してもらいながら戻ってきたのだが、駿府の街は驚くほど静かだった。

 

「それで、詩乃の見解は?」

「はい。小夜叉さんの話から、敵は虱潰しに剣丞さまを探し回りながら、最終目的地は駿府屋形。我々が交戦した部隊との挟撃を目論んでいたものと推察します」

「間違いないでしょうな」

 

幽も賛同する。

 

「それが突然、水が引いたように撤退し、今の今まで再度攻めてこないとなると、これは迂回などの策ではなく、予期せぬ事故…それも指揮系統に関わるものではないかと思います」

「…なるほどな」

 

翠が分かったような分からんような返事をする。

 

「ということは、しばらく?」

「はい。敵が駿府屋形に攻めてくることは無いでしょう」

「そっか…」

 

ホッと胸を撫で下ろしながら、鞠に目配せをする剣丞。

鞠も剣丞の方を見ていたので、ニッコリと満面の笑みを浮かべる。

 

詩乃たちと駿府屋形を救えたのだ。

鞠が見た最悪の過去を、ようやく全て変えることが出来た。

これで、ここで出来ることは全て終わった。

 

「それじゃあ、戦後処理や引継ぎなど終えたら、急いで洛陽に戻ろう!管輅!」

「はい」

 

いつも通り、いきなり現れる管輅。

 

「うわあぁ~!!」

「だ、誰ですかっ!?」

 

まだ剣丞には、管輅の説明と言う大仕事が残っていた。

 

 

 

 

 


 
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