「………何やってるんだか、俺は」
今俺の周りには人だったものの一部が大量に散乱している。
その上、自分では見えないが、きっと俺の体は返り血に塗れていることだろう。
それも当然といえば当然だろう。久々の戦場だったせいか、内から沸き上がる感情の抑制が出来ずに、技術も何もなく、それこそ獣といっても差し支えない戦い方をしてしまった。
「これじゃ、あの人
・・・
に合わせる顔が無いな、まったく」
獣だった俺をここまで人に戻してくれたのに、戦場にたっただけで、獣に戻ってしまうとは………
「零児さん!……え?…これ、は……?」
「………………」
後ろから追いついてきた柳琳が、俺に声を掛けるが、俺の周りを見て絶句する。
いくら群雄割拠の時代に生きているとはいっても、ここまで無惨に殺された死体を見たことは無かったのだろう。
「………本隊の方で何かあったのか?柳琳」
「え……?そ、そうです、桂花がこちらに合流するように、とのことです」
「合流……?追撃しなくていいのか?」
大半は俺が片付けたが、まだ結構な数が逃げていった筈なのだが。
「そちらは桂花さんが春蘭と姉さん、許緒ちゃん、徐晃ちゃんを向かわせていますから、心配しなくても問題ないと思いますよ?」
「なら心配はいらんか。…………よくよく考えてみると、生き残った奴らの方が不運じゃないのか?それは」
突撃しか考えていない春蘭と華侖、春蘭と似たような性格の許緒、なにを考えているか良く分からない徐晃。追われるほうからしたら驚異でしかないだろう。
「フフフ……そうかもしれませんね」
「まあ自業自得、と言うべきだろうな。ならいつまでも突っ立ってないで、華琳たちのところに向かうとするか」
「はい、零児さん」
変身を解除し、部隊の中心部に向かう。………もう秋蘭たちも合流しているのか、夏候の旗も見える。
「…………ああ、そうだ。柳琳」
「………何ですか?」
「このこと
死体について
は華琳たちには黙っていてくれ」
「え……?ど、どうして……」
「あいつらに明かす程のことじゃないからな………まあ新兵特有の興奮による、過剰行為とでも言っておいてくれ」
じゃ、よろしく、と軽い調子で言い残し、先に華琳達の方へ向かう。その間の僅かな時間に考えることは先程の自分の行動について。
たかがこの程度で、動揺するなんてことはまずありえない。あれより酷い戦場など、数え切れないほど経験してきた。あの人達
・・・・
に保護されてからも、人を殺すことに慣れきった俺が、たかが数年で一般人のように取り乱すはずもない。今までと今回、違う点があるとすれば、直接俺の手で殺したか、銃器を使って殺したかの違い。それともう一つ、《仮面ライダー》という想像上の物であったはずの力を使ったこと。
「…………どちらにしろ、自分を御し切れなかったのが原因だな。…………陳留に戻ったら、基礎からやり直さないとな」
心を常に澄んだ泉の如く一定に保つ、明鏡止水と呼ばれる境地。これに至ることが出来れば、今回のような失態を犯すような事態にはならないだろう。
「飼育された猛獣のように命令を聞いて暴れていたあの頃とは違って、人としての心を得たが故の弊害か……まったく、この世はままならない事ばかりだな」
「あら、それをどうにかするためにここにいるのではないの?」
「それはそうなんだがな…………ん?」
「どうしたの?零児、そんな間の抜けた顔をして」
独り言だったはずの言葉に返事が帰ってきたため、不思議に思い顔を上げると、そこには追撃に出ている三人以外の全員が勢揃いしていた。
俺の後ろにいたはずの柳琳まで華琳の側にいることから、俺が思っているよりも深く考え事をしていたようだな。
「あまり長い付き合いではないけれど、貴方のそんな顔初めて見たわ」
「………そりゃ俺だって(生物学上は)人の子だ、惚けた顔もするさ」
「ふふ……私としては貴方の知られざる一面が見れて嬉しいわね」
「………そりゃあよかったな」
華琳の浮かべる朗らかな笑みを見て、何も言えずに嘆息する、どうやら聞かれていたのは最後の部分だけのようだ。……………もっとも、全部聞かれていて、華琳がそれを黙っているだけかも知れないが、今は詮無きことだ。この場で問い詰めないというのなら、こちらも知らない振りをするだけだ。
「さて、そろそろ追撃に出ている春蘭たちも戻ってくる頃だし、わたし達も陳留に戻るわよ」
「「「「「御意!!」」」」」
こうして、俺のこの世界では初めての殺し合いは幕を閉じた。
………ちなみに、余談になるのだが、陳留に戻るまで持つはずだった糧食は城まで後1日程の距離になったところで尽きてしまった。原因としては許緒が予想以上の大飯ぐらいだったことだろう。
流石の華琳もこれに対しては文句を付けることも出来ずに黙っていた。
荀彧も無事、軍師として華琳の元で働くことになったので、万々歳と言ったところだろう。
唯一の悩みといえば、軍師と経済の中核を担っている人物が男嫌いなため、俺の肩身が少しばかり狭くなったことだ。
………しかし、これからこの世界は混沌に飲まれていくことになる筈だ。俺に出来ることはたかが知れているが、せめて華琳たちが傷つかないことを祈るとしよう。
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