許緒、徐晃を加え行軍すること半刻。俺たちは盗賊団の砦に辿りついた。
盗賊団の砦は、山の影に隠れるようにひっそりと建てられていた。許緒達と出会った所からそこまで離れているわけではないが……これだけ見つかりにくい場所ならば、容易には見付からなかっただろう。
「……如何にも性根が腐った連中が好みそうな場所だな」
もちろん近付くとすぐに見つかるから、砦はまだ何とか見える程度の大きさでしかないが、小悪党が好みそうな気配が感じ取れる。
「許緒、徐晃、この辺りに他に盗賊団はいるの」
「いえ。この辺りにはあいつらしかいませんから、曹操さまが探している盗賊団っていうのもあいつらだと思います」
「………(コクコク)」
華琳の問いに、許緒、徐晃が返事を返す。
「そう、敵の数は把握できている?」
「はい、およそ六千との報告が」
「我々の隊が二千と少しだから、三倍ほどか……。ただの盗賊団にしては多すぎないか?」
確かに春蘭の言う通りだろう。いくら砦があるとはいえ、ただの盗賊団程度が六千人も抱えて、上手く機能する筈がない。
「案外、噂を聞きつけて他の地域から集まった結果の数かも知れんな」
「零児?でもこの辺りには他の盗賊団はいないとの事だけど?」
「それはあくまでここら一帯を襲っている盗賊団の話だ。いくら畜生風情に身を落としたとは言っても、人間だ。その位の知恵は回るだろう………そして、人は集団を好む。自分が異端であることを極端に恐れる、故に自らと同じ性質のものと合流する。そうする事によって、自らが異端ではないと自分を騙して、心の安寧を得るんだ」
「……………異端を恐れる、か」
「そうだ…………極稀に異端となることを恐れず、自らの信念を貫こうとする者もいるにはいるが、そういった人物は大抵が歴史に名を残す偉人、もしくは世界を混乱に陥れた狂人とされる………ま、結局のところ人は周りに合わせる生き物だ、ということだ」
そう言って強引に話を打ち切る…………俺は何をしてるんだか。なんで賊が予想以上に多かった話から人間の大衆心理の話をしてるんだ?柄にも無く緊張してんのかねぇ。
「いくら数がいたとしても、連中はただ集まっているだけの烏合の衆。訓練なぞしているはずもなく、さらに緋霧が言っていることが真実だとすれば、統率なぞあってないようなものです………それ故、我々の敵ではありません」
「そうね……けれど、策はあるのでしょう?糧食の件、忘れてはいないわよ」
「無論です。兵を損なわず、より戦闘時間を短縮させるための策、既に私の胸のうちに」
「いいわ、説明なさい」
華琳は荀彧に説明を促す。さて、どんな策が出てくるやら。
「はっ……まず曹操さま、曹純、緋霧は少数の兵を率い、砦の正面に展開してください。その間に夏侯惇、夏侯淵、曹仁、曹洪は残りの兵を率いて後方の崖に待機。
本隊が銅鑼を鳴らし、盛大に攻撃の準備を匂わせれば、その誘いに乗った敵は必ずや外に出てくることでしょう。
その後は曹操さま率いる隊は兵を退き、充分に砦から引き離したところで……」
「私たちで敵を後ろから叩く、というわけか」
「ええ」
確かに理想的な挟撃の形になる。問題は賊がそう簡単に出てくるか?と言ったところだが、ここまで考えているんだ、それは想定済みだろう。それ以外の懸念事項は……
「……ちょっと待て、それは何か?華琳さまを囮に使うと、そういうわけか!」
春蘭、こいつだ。華琳のことを第一に考えるコイツなら、こう言い出すことは目に見えていたはず。……さぁどう説得するのやら。
「何か問題が?」
「大ありだ!華琳さまにそんな危険なことをさせるわけにはいかん!!」
「なら、あなたは他になにか有効な作戦があるとでもいうの?」
「烏合の衆なら、正面から叩き潰せば良かろう」
「「「「「……………………………」」」」」「………おいおい、流石にそれはねぇわ。春蘭」
春蘭のあんまりな発言に許緒、徐晃以外の全員が唖然とする。………まあ気持ちは分かるが。
「油断した所に伏兵が現れれば、相手は大きく混乱するわ。混乱した烏合の衆はより倒しやしくなる。曹操さまの貴重な時間ともっと貴重な兵の損失を最小限にするなら、一番の良策だと思うのだけれど?」
「な、なら、その誘いに乗らなければ?」
策が思いつかなかったのか、どもりながら荀彧に問いかける。それに対して荀彧は………
「………ふっ」
にやりとあくどい笑みを浮かべながら、鼻で笑うことで答えた。
「な、なんだ!その馬鹿にしたような……っ!」
いや、今のは明らかに馬鹿にしてる笑い方だ、しかも無性に腹が立つ類の。
「曹操さま。相手は志も持たず、武を役立てようともしない虫のように単純な連中です。間違いなく、夏侯惇殿よりも容易く挑発に乗ってくるものかと……」
「…………な、ななな……なんだとぉー!!!」
息をする様に毒を吐くな、荀彧は。これが俺に向かって飛んで来ないことを祈るばかりだ。
「はいどうどう。春蘭。あなたの負けよ」
「か、華琳さまぁ……」
華琳……春蘭の宥め方それでいいのか?
「……とはいえ、春蘭の心配ももっともよ。次善の策はあるのでしょうね」
「この近辺で拠点になりそうな城の見取り図は既に揃えてあります。あの城の見取り図も確認済みですので……万が一こちらの誘いに乗らなかった場合は、城を内から攻め落とします」
流石、よく考えてある。この分だと、既に何人か潜入させていても不思議じゃないな。
「分かったわ。なら、この策で行きましょう」
「華琳さまっ!」
「これだけ勝てる要素の揃った戦いに、囮の一つも出来ないようでは……この先の覇道など、とても歩めないでしょうよ」
「俺も華琳の意見に賛成だな。国の王を目指すというのなら、間違いなく他の諸侯と戦うことになる。ここで怯えるような奴に覇道を歩む資格はないな」
「華琳さまや緋霧の言う通りです。ただ賊を討伐した程度では、誰の記憶にも残りません。
ですが、最小の損失で最高の戦果を上げたとなれば曹孟徳の名は天下に広まりましょう」
「な、ならば……せめて、華琳さまの護衛として、本隊に許緒と徐晃をつけさせてもらう!それもダメか?」
「許緒や徐晃は貴重な戦力よ。伏兵の戦力が下がるのは好ましくないのだけれど……」
「私が二人の分まで暴れれば、戦力は同じだ。それで問題無かろう!」
「そんなもん物理的に無理だろうが」
「なんだとぉ!?」
荀彧と春蘭の言い合いに口を挟む。
「本隊は既に華琳、柳琳、荀彧、俺の四人がいる。もう一人ぐらいなら大丈夫かもしれんが、あまり多過ぎると囮の意味がなくなるだろう?それに許緒も徐晃も振り回す系統の武器だ。敵に突撃するならまだしも敵を引き付けるのには向いていない」
まだ隊としての連携が出来るのなら別だが……彼女達は先程合流したばかりだ。信用していない訳では無いが、不確定要素はなるべく潰しておきたい。
「し、しかし!!」
「くどいぞ?……一応俺もお前と対等に戦えるんだ。少しは信用してくれ」
「そうですよ、春蘭。私と私の部隊《虎豹騎》もいます。華琳姉様は必ずお守りします」
「春蘭も納得なさい。……この戦が終わったら相手をしてあげるから」
「本当ですか!分かりました、緋霧、柳琳。頼んだぞ!」
「…………応」
「勿論です」
華琳の鶴の一声であっさり春蘭が納得した。ヤレヤレ、無駄に神経使わされたな。………というか華琳ってレズなのか……?
「話は終わったかしら?」
「おう、スマンな荀彧。時間を取らせた」
「まったくよ………それじゃ許緒、徐晃はそれぞれ夏侯惇、曹仁の部隊に入って頂戴」
「わ、分かりましたっ!」
「………りょうかーい」
「わかった」
「了解っす!!」
「囮部隊は曹操さまと私、曹純、緋霧ね………これでよろしいでしょうか、華琳さま」
「ええ、それで行きましょう」
「緋霧!!先程の言葉、信じるからな!華琳さまを頼んだぞ!」
「任せろ……さて、今のうちに変身しとくか」
呟きつつ、懐から、マツボックリロックシードを取り出す。多対一を想定した場合、キウイやイチゴ、パインなんかもいいんだが、今回はあくまで囮。あまり圧倒しすぎるのも問題だ。それ故、敢えてスペックの低いマツボックリロックシードを使う。一応アームズウェポンの《影松》が槍なのでリーチもあるし。
<マツボックリ!>
マツボックリロックシードを解錠し、先程の戦闘からずっと付けっぱなしだった戦極ドライバーにセットする。
<ロック・オン!>
「変身……ってな」
<ソイヤッ!マツボックリアームズ!一撃・インザシャドウ!>
カッティングブレードを倒し、マツボックリを模した鎧を装着した《鎧武・マツボックリアームズ》へと変身する。
「……これで三つ目だったかしら?前の二つに比べて随分貧弱な見た目ね」
「これは一応機動力を武器にした鎧だからな。本来の戦法は一撃離脱なんだが、俺が持ってるロックシードの中では今回の目的に一番即しているんでな」
華琳に言葉を返す。随分とザックリ切り込んで来るなぁ。………まあ弱いことは認めるが。
「ええっ!?に、兄ちゃんの姿が変わった!!?何それ!?」
「……おおー」
許緒と徐晃は驚いているようだが………
「許緒、お前の攻撃を防いだ時にも変身していたんだが?」
「そ、そんなの考える余裕なんてなかったもん!ね?香風
シャンフー
?」
「………さっきと、鎧が違う」
「気付いてたの!?」
「………とーぜん」
ほとんど表情が変わっていないが、何処か自慢げな雰囲気を漂わせる徐晃。
この二人を見ていると、どこか和む自分がいる。
………保護欲、とかいうのがこの感情なのだろうか?
そして、俺よりもヤバイのが………
「な、なんですのこの愛らしさ!!!これは帰ったら早速似合う服を選別しないといけないわね!!」
…………曹洪は少女趣味
ロリコン
なのか?というか華琳もそうだが、この陣営百合の花咲き乱れすぎじゃないか?俺に実害が無ければ別に構わないが。
「ふふっ……それは楽しそうね、栄華。是非私も協力させて頂戴」
「勿論です!お姉さま!!」
「もう少し緊張感持てよ、お前ら…………」
「あら、緊張しすぎて縮こまるよりはましでしょう?」
「そりゃ確かにそうだが……限度があるだろ」
俺のツッコミにすら、華琳は律儀に言葉を返してくる。曹洪はトリップ中で俺の声は耳に入ってないようだが。
「さて、茶番はこれくらいにするとしましょうか」
そう言うなり、それまで笑みを浮かべていた華琳の表情が引き締まり、
「では作戦を開始する!各員持ち場につけ!!」
力強い声で兵に指示を出していった。
春蘭達の部隊が離れていく。
これでこちらに残ったのは華琳の親衛隊百、荀彧の部隊の連中百、柳琳の虎豹騎三百の計五百人ほど、相手が約六千とのことだから、兵力差は十二倍。こんな軍勢で攻め入ろうなんてよっぽどの阿呆しかしないだろうな。因みに俺は暫定的に華琳の親衛隊所属になっている、賊の討伐がひと段落したら、俺の部隊も作るらしいが………正直な所、独りの方が色々な意味で楽なんだが、華琳の命令なので我慢する。
「大丈夫ですか?零児さん……でよろしいのですよね?」
「ん?…柳琳か、そういやお前にはこれ
変身
見せるのは初めてだったか」
そんなとりとめのないことを考えていると、柳琳が話しかけてきた。柳琳達には変身した姿を見せてなかったな、ビークルは見せたが。
「ええ………それが、御使い様のお力…ですか?」
「さあな、これかも知れないし、別の物かも知れない、俺にだって御使いなんてものはよく分かってないんだ。身元不明の俺が、利用出来る存在だと示すだけの言葉として御使いを名乗っているだけだからな」
柳琳の疑問に素直に自分の現状を話す。華琳は天の御使いとしていた方が都合がいいなどと言ってはいたが、それはあくまで民衆や新参の者に紹介するときだけだ。柳琳達のように中枢に居る人物にはどうせいつかバレるのだから早いうちに明かしておいた方が後々禍根も残らないだろう。
「あらあらあら……?それを私に話して良いのですか…?」
「元々俺のことを御使いとして扱うことにしたのは華琳だ、その血縁でもある柳琳達に隠すようなことでもないだろう………まあ曹洪に明かすかは保留だが……」
「クスッ………栄華もあれで、優しい子ですよ…?」
「それは分かってるさ、真名を預けてもらえたとしたらあいつにも俺のことを話すさ」
真名を預けてもらえてないということは、未だ信用されてないという事。信用されれば、こちらが何かを隠す必要はないだろう。…………あくまで俺が抱えるモノ
・・・・・・・
に触れない範囲で、だがな。
「あらあらあら……随分とお優しいのですね、零児さんは」
「……………………さあ、どうだろうな」
柳琳の言葉に明確な言葉を返さずに濁す。
「そこ!!早くこっちにきなさいよ!!作戦が始められないでしょうが!!」
「分かった!……さて、行くか、柳琳」
「ええ、……まいりましょうか」
荀彧が俺たちを呼びに来た。さーて、漸く開戦だねぇ、愉しくなってきた。
戦いの野に、激しい銅鑼の音が響き渡る。
「………………」
響き渡る……。
「………………は?」
響き……。
「………………」
……響き渡る銅鑼の音は、こちらの軍のもの。だが、響き渡る咆哮は、城門を開けて飛び出してきた盗賊達のもの。
「……桂花」
「はい」
「これも作戦のうちかしら?」
「いえ……これはさすがに想定外でした……」
そりゃそうだろ、これを想定していたというのなら、もう軍師じゃなくて預言者を名乗るべきだ。
「連中、今の銅鑼を出撃の合図と勘違いしているのぁしら?」
「大方、その通りだろうな。盗賊風情にしても、流石に馬鹿過ぎるだろ」
「………そう」
「どうした?華琳、挑戦の謳い文句でも考えていたのか?」
この時代は、まだ舌戦とかしていた頃のはずだから、考えていてもおかしくはないな。
「……一応、こういう時の礼儀ですからね。まあいいわ、大した内容でもないから次の機会にでも使うとするわ」
「ま、それが賢明だな。ほら、さっさと下がろうぜ。殿
しんがり
は俺が務めさせてもらうがな」
既に相手はこっちに突っ込んできている。えらく多いが、もしかして全軍で出て来てるか……?
「なんですって!?どういうつもりなの!?」
「どうもこうも、この中で一番生存率が高いのは間違いなく俺だ。それにさっきも言っただろ?巻き込まれるような手段を持っている、と。そういった面でも、俺が華琳のそばにいるよりは、殿にいた方が有効活用
・・・・
出来るんだよ」
思わず、といった感じで声を荒らげる荀彧に、俺の戦場での価値
・・・・・・
を伝える。
「…………零児」
「何だ?」
華琳の声に返事を返す。声を掛けてきた華琳の目は、出会った時と同じ、こちらを見定める目をしていた。
「やれるのね?」
「当然」
「……………ならいいわ、桂花、柳琳。わたし達は予定通りにするまで。総員、敵の攻撃は適当にいなして後退するわよ!」
「「御意!」」
返事を返すと、華琳は踵を返し、軍の指揮へと向かった。それに柳琳、桂花も追随する。
そうしていくうちに、俺の周りには誰も居なくなる。
「…………ああ、懐かしいな、この空気は。一刀達に出逢う前は、このような状況、日常茶飯事だったというのに」
あの時と違うのは、自分の持つ武器と、当時持っていた、獣の如き闘争本能が鳴りを潜めていることだけだ。
「さて、俺もそろそろ下がりますかね」
豚どもが罠にかかるまで、後少し。そのときが待ち遠しいねェ………
Side Outsider
「報告!曹操さまの本陣、後退してきました!」
伝令の兵士が、作戦が開始したことを意味する報告をもたらす。
「やけに早いな………。ま、まさか……華琳さまの御身に何か……!?」
「まじっすか!?なら早く華琳姉ぇ助けに行かないと!!」
「焦り過ぎよ華侖!!………大方、予想以上に作戦が上手くいった、といったところでしょう」
「姉者もだぞ………ほら、あそこに華琳さまは健在だ。柳琳たちもちゃんと無事だぞ」
「おお……。良かった………。良し、総員、突撃準備!!」
春蘭と華侖が暴走しかけるという騒動が起こりかけたが、何とか抑えられた。
………しかし、彼女たちの位置から、零児を発見することは出来なかった。彼女たちは零児が、華琳のそばにいると思い込んでいるために、殿を務めている零児を見つけられるはずがなかった。
「……これが、敵の盗賊団とやらか」
「隊列も何もあったものではないな」
「ただの暴徒の群れっすね。これなら、桂花さんの策がなくても楽勝っすね」
「そんなことは態々言われなくても分かっていますわ、より兵や糧食、金銭を削減するためには、策も必要ですわ、華侖…………今回のような真似はもう御免ですけど!!」
賊のあまりにも滅茶苦茶な隊列にそれぞれが愚痴を零す。常日頃から訓練を重ねる彼女たちにとって、盗賊団など、有象無象に過ぎないのだ。
「………凄い、これが曹操さまの軍なんだ…」
「………かっこいー……ね」
そのような彼女たちの後ろ姿に、季衣、香風は思わず言葉を洩らす。
「ふむ……。そろそろ頃合かな」
「まだですわよ。横殴りでは混乱の度合いが薄くなりますわ」
「ま、まだっすか…?」
「まだだ」
「もう良くないですか!夏侯淵さま!」
「きーちゃん……まだだよー。………少し…落ち着いたら……?」
三者三様に急かすのを、三者三様に宥める。
「だが、これだけ無防備にされているとだな、思い切り殴りつけてやりたくなる衝動が……」
「そうっすよね!!流石春蘭姉ぇ!!」
「ボクもその気持ち分かります!!」
突撃思考を持つ三人が同調し、
「気持ちは分からなくもないがな……」
「貴女たちはもう少し、自制というのを覚えなさいな………」
「…………」
それを諌める立場に立たされている三人が揃って溜息をつく。
そのようなコントじみたものを繰り広げているうちに、盗賊団はその殿を晒していた。
「敵の殿だぞ!もういいな!」
「うむ。遠慮なく行ってくれ」
秋蘭の言葉に春蘭は喜びの声を上げる。
「良し!頼むぞ、秋蘭」
「応、夏侯淵隊、撃ち方用意!」
「よぅし!総員攻撃用意!相手の混乱に呑み込まれるな!平時の訓練を思い出し、混乱は相手に与えるだけにせよ!!」
「曹仁隊突撃準備!民を傷つける奴らを根絶やしにするっす!!」
「曹洪隊も突撃の準備を!あの害虫どもを一匹残らず駆逐しなさい!」
それぞれの将の号令を受け、総勢千五百人が一斉に動き始める。
「敵中央に向けて一斉射撃!撃てぃっ!」
「統率など無い暴徒の群れなど触れる端から叩き潰せ!総員、突撃ぃぃぃぃっ!」
春蘭たちが攻撃を開始した少しあと、本陣もまた、動きを見せていた。
「後方の崖から夏侯惇さま、曹仁さま、曹洪様の旗と矢の雨を確認!奇襲は成功です!」
「流石ね。総員反転!!数を頼りの盗人どもに、本物の戦の何たるかをその身に刻んで下げなさいっ!!」
Side 零児
「ようやく誘い込みが完了したか。………では暴れるとしようか……!」
後方に下がりながらも、少しづつ影松で突き殺していたため、既にアームズは真っ赤な血で濡れているが、こんなものではモノタリナイ……!
「さあ………俺を愉しませろ!!外道ども!」
<キウイ!>
「変…身ッ!!」
<ソイヤッ!キウイアームズ!撃・輪・セイヤッハッ!!>
キウイロックシードを取り出し、キウイアームズへと換装する。手に持っていた影松がなくなり、代わりに<キウイ撃輪>が両手に現れると同時に、近づいて来ている賊どもを切り捨てる。
「なんなんだよコイツ……っ!!この……化け物がッッ!!」
「化け物………ね。言い得て妙だが……それがどうした?今貴様らにできることは、己の行いを悔いて死んでいくことだけだ」
そう冷たく言い放ち、俺を罵った奴を斬り捨てる。
今更真っ当な人間に戻れる訳が無い。俺は戦場においては只の殺戮機械
キリングマシーン
……だが、華琳たちにまで、この姿を見せる必要はない。
「に、逃げろッ!!こんな化け物相手にしたら死んじまうぞ!!」
「逃げるったってどこに逃げるんだよ!!後ろからも敵が来てんだぞ!?」
「そんなもん知るか!兎に角こいつのいないところに逃げろ!!」
賊どもは狂乱の声をあげながら、逃げ惑う。
………その姿は、今の俺に対しては殺意を増幅する行為に他なら無い。
「…………逃がすわけが無いだろう?貴様らはこの世界を腐らせる蛆虫だ。そんな連中が生き残ろうなんて、傲岸不遜にも程がある。故に……此処で全員殺す……ッ!!」
更なる殺意を纏わせ、敵の真っ只中に突っ込む。
一人でも多く、敵を殺す為に………
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