○壱乃章 お天さまと唯○
天空稲荷神社。
今日はスカインガールズの仕事もなく、また学校も休み。
巫女の仕事を終えて一息ついていた北城 唯に、一人の妖狐が声をかけた。
「精が出るねぇ、唯ちゃん」
「あ、お天さま!」
唯に声をかけた妖狐こそ、『お天さま』こと天洸、天空稲荷神社の祭神である。
「いつもいつもお掃除ご苦労様。唯ちゃんがきれいにしてくれてるお陰でとっても居心地いいよw」
「あ、ありがとうございます!あの…ところでお天さまはどうして表に出てこられ…」
と、言いかけた唯の言葉をさえぎり、天洸は続ける。
「…そういう丁寧な言い回しされるとなんか堅苦しいからさ、肩の力ほぐしていこうよ。ね?」
「え、ですがお天さまはここの神様で…」
「つれないねえ。あたしと唯ちゃんの仲だろ?ほーれほれっ!」
突然、唯の尻尾の付け根をくすぐりだす天洸。
「あははっははっはっは、や、やめて、何するのよ、うひゃひゃひゃwww」
「そうそう!ムリしてあたしに敬語なんか使わないでさ。素でいこうよ、素でさw」
「そ、そうねwあーお腹痛い…wところでお天さま、これからどこ行くの?」
「んー、最近きつねうどんが美味しいお店ができたんだよ~。唯ちゃんも行くかい?」
「あ、じゃあお母さんに相談してくるね」
と、唯は社務所へと走っていった。
数分後。
「OKだってさ、お天さま」
唯が戻ってくるころには、天洸はカジュアルなスーツ姿になっていた。
「よーし!じゃあ行くかい?」
「うんっ!」
「それじゃああたしの手につかまって!神通力で一気に飛ぶよ。そーれっ!!」
こうして、一人と一柱は開店したばかりのうどん屋で美味しいうどんを楽しんだそうだ。
○弐乃章 お天さまとおにぎり屋さん○
おにぎり専門店、鬼斬島田。
「いらっしゃいま…あっ!?」
店番をしていた少年・島田貞興は思わぬ来客に目を丸くした。
「やあ、貞興くんだっけ?」
「あ、い、いらっしゃいませ…」
貞興が緊張するのも無理はない。やってきたのは本物の神様なのだから。
「おや、なんだい汗なんかかいちゃって」
「ま、まさか本物の神様が来店されるなんて…あ、あの、何になさいましょうか…」
と、ガチガチに緊張しきっている貞興を見るや、天洸は思わず吹き出してしまう。
「ぷっくく…うははははは、なんだそりゃw本物の神様が来たのがそんなに怖いのかい?」
「だ、だってまさか天空稲荷の祭神ともあろうお方がこここここんなおにぎり店においでになるなんて…」
と、まだ緊張している貞興に、天洸はそっと言い聞かせるように話した。
「あのね、たしかにあたしは神だけど…でもそれってさ、生きる時間が長いか短いかってだけなんだよ」
「え、そうなんですか?」
「そりゃまあ、信仰してくれるってのは嬉しいけど、でもあたしは神である前に一人の女なんだ。だからおにぎりも食べたいしおしゃれもしたいのさ」
「はぁ…そうだったんですか…」
「だからさ、あんまり緊張しなくていいから。肩の力抜いて、あたしのことは普通の女だって思ってもらっていいんだよ。ね?」
と、天洸がここまで言い切る頃には、貞興の緊張の糸もすっかりほぐれていた。
「あはは、なんだ。お天さまがそんな気さくな方だったなんて…緊張して損した気分だなあ」
「それで、注文だけど…この『いなりおにぎり』っていうのもらえるかな?」
「はい、かしこまりました。いなりおにぎりですね、少々お待ちくださいませ」
「いや、お待ちくださいませって…そこまでかしこまってくれなくてもねえ…」
と、言いかけたところを、今度は貞興が一言。
「いいえお天さま、たとえ貴女が普通の女だったとしてもそこは譲れません」
「え、どゆこと?」
「昔から我々商売人の間ではこう言うんですよ…お客様は神様です、ってね」
と、自信満々に語る貞興を見て、天洸も思わず大笑い。
「なるほど!お客様は神様かぁ!こりゃあ一本取られたw」
「はい、ご注文のいなりおにぎりです」
「いや、でかいね。これが200円って安いなあ。ありがとうね!」
「どういたしまして。またお越しください」
丁寧にお辞儀をする貞興を尻目に、天洸は店を立ち去った。
こうして、いなりおにぎりを味わった天洸はその後、鬼斬島田の新たな常連客になったという…。
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お天さまといろいろ。
■出演
お天さま:http://www.tinami.com/view/742459
唯:http://www.tinami.com/view/742179
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