No.738925

紫閃の軌跡

kelvinさん

第43話 自覚の差

2014-11-23 00:52:46 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:3367   閲覧ユーザー数:3116

~ミシュラム 迎賓館~

 

「………支障がない程度には加減したつもりだったんだが……少しは自重しろよ。」

 

次の日の朝……朝食後、ジト目でそう言葉を零しつつ淹れたてのコーヒーを啜るアスベル……その視線の先には腰に痛みを感じている面々―――昨日、アスベルと一緒に寝た(その内二名は乱入してきた)女性陣……シルフィア、レイア、アリサの三人であった。別にぎっくり腰になったわけではない。単純に体を酷使しすぎただけなのだが。

 

「しょうがないじゃない。欲には勝てないんだから……あいたた……」

「い、何時もどおり……ね……」

「あ、あう………」

 

本来ならば人数的に不利なアスベル……同じ境遇にいるシルフィアですら上回る身体能力……その理由は士官学院での彼自身の過ごし方にあった。授業や部活動はともかくとして、遊撃士を本格的にこなしていた時よりも自由に使える時間が多くなり、その分を鍛錬に当てていたりしていることが多い。学生ならではのモラトリアムさが彼の成長の原動力となっていたのだ。

 

「とりあえず、部屋に戻ったら“直してやる”からがまんしろよ。」

「え?ノーガード(衣服)的な意味で?」

「超絶短時間(10秒)ハードコースで行くぞ?「それはやめてください。きぜつしてしまいます」」

「「はやっ!?」」

 

瞬時に土下座したレイア……この関係を見るに、アスベルが紛れもなくレイアの手綱を握っているということを察したシルフィアとアリサであった。何をするかというと、軽いマッサージのものだ。八葉一刀流の八の型“無手”、そしてアスベルが転生前に学んでいた剣術……人の壊し方を知るこということは、ひいては生かし方も知るということ。その知識と、この世界で気功による類のものを色々学んだ影響でそういうこともできるようになっただけなのだが。

 

「はい、こんな感じだな。」

「だいぶ楽になったわ。ありがと、アスベル。」

「アスベルには、本当に頭が上がらないわね……で、案の定……」

「………(気絶中)」

 

何があったのかというと、レイアが色仕掛けしてきたのでご希望通り超絶短時間(10秒)ハードコースを食らわせ、気絶したという顛末。でも、これが一番疲れが取れるという代物だから、その辺を解ってやっているのか……あるいは本気で誘ったのか……どっちも本音なのだろう、とは思う。

 

ため息を吐きつつも、レイアを叩き起こして執事やメイドにお礼の言葉を述べた後、遊撃士協会のクロスベル支部に顔を出すことにした。レイアを職場に送り届けるという目的もあるのだが、もう一つは知り合いから頼まれた用事を片付けるという目的もある。

 

ミシェルに挨拶をした後で尋ねると丁度いたようで、二階に上がってその目的の人物を含めた人たちに声をかけた。

 

「お久しぶりです。リンさんにエオリアさん。」

「その声は、アスベルじゃないか。久しいな。それにシルフィアも一緒とはな。」

「お久しぶりね。一昨年以来かしら。」

「はい。あと、ここではその名前を呼ばれるのは……」

 

クロスベル支部における腕利きの正遊撃士。リン・ティエンシアとエオリア・メティシエイル。B級という扱いではあるが、実力自体はA級に迫る勢いとも噂される。リンはあの“不動”の異名で知られる共和国支部きってのエース、ジン・ヴァセックの妹弟子にあたり、“泰斗流”を習得している。エオリア・メティシエイルはレミフェリア公国の出身であり、同業者の中では珍しく医師免許を持つ遊撃士である。

 

「エオリアさん、貴女にこれを渡すよう預かっていましたので、渡しておきますね。」

「手紙?………あっ!!」

 

アスベルの渡した手紙―――首を傾げるエオリアが差出人の名前を見た瞬間、喜びに満ち溢れ……その手紙を愛おしそうに頬ずりしていた。これには一同苦笑ものである。そして、気が付くと中から便箋を取出し、食い入るように熟読していた。可愛いものには目がないエオリアが他に夢中になれる存在……それは、一人の青年もとい一人の王族たる人間の存在。

 

「シオン……いや、シュトレオン王子からの手紙ということか。」

「ご明察。」

 

A級正遊撃士“紅氷の隼”シオン・シュバルツ……その実は、リベールの現女王であるアリシアⅡ世の実兄の孫。シュトレオン・フォン・アウスレーゼという名を持つ。最近までそのことは伏せられてきたが、昨年の女王生誕祭にてリベール国内にそのことを発表。今は亡き王子の子息が生きていたということもあって驚きが多くあったが、男系の王族が生きていたというニュースが大変喜ばしい話題となったことは事実であった。

 

その彼なのだが、三人の人物に惚れられている。その内の一人が彼女―――エオリアであり、残るはリベールの次期女王であるクローディア・フォン・アウスレーゼ王太女と、更にはエレボニア帝国アルノール家の皇位継承権第三位であり、“黄金の至宝”と呼ばれ、同い年の姉や弟共々エレボニアの国民から愛されているアルフィン・ライゼ・アルノール皇女。

 

「人の事をどうこう言えた資格はないのですが……アイツが一番苦労すると思います。」

「そうだな……」

「だよねぇ……」

「私は正直半信半疑だったけれど」

「アレを聞いたら本気かどうか疑っても仕方ないわ。」

 

何せ、いろいろ事情はあれども非公式(表に出すとヤバいので)ながら全員許婚という状態……クローゼはアリシア女王陛下が、アルフィンは自身+ユーゲント皇帝陛下、しかもエオリアは医者の繋がりでアルバート大公とも家族ぐるみで面識があり、彼が推挙したとのことだ。誰かを正妻に迎えるだけでも西ゼムリア中の話題をかっさらうこと間違いなしである。……裏的な意味だとルドガーに勝てる奴はいないが。そうこうしている間にエオリアは手紙を読み終えたようであり……その直後に放たれた会話は

 

「来月ヘイムダルに行っていい!?」

「ダメだ」

「ぐすん………リンのいけず。」

 

見事に予想通りであったのは言うまでもなかった。解りやすいというのも少しは考え物だと思ったのは……口に出すことだけは避けた。ともあれ、これで諦めるようなエオリアではなく……ミシェルと相談し始めたのを見届け、リンと別れてその場を後にした。その後、Ⅶ組の面々へのお土産を買い込み、レイアやシルフィアと別れたアスベルとアリサは大陸横断鉄道に乗り込み、一路トリスタへと戻っていった。

 

「そういえば、その……昨日と一昨日の事……」

「ま、見抜かれてたんだろうな、とは思うよ。でも、このまま踏ん切りがつかなくなると思ってくれたからこその行動だったとは思う。感謝こそすれ、迷惑とは思わないさ。大体、こんなことで一々驚いてたり怒ってたりしたら、それこそ相手の思うつぼだし。」

「……アスベルって、やっぱり大人よね。」

「俺の父さんに言わせたら『まだまだ』だけれどな。……そっちの両親にいろいろせがまれそうだが。」

「う”……否定できない……」

 

帰りの道中で色々話し込んでいた……どの道、あのメイドの事だから簡単に見抜いてしまうことは予想済でもあった。

 

 

その頃、自由行動日ということでリィンは依頼をこなすことになったのだが、まずは『まだ見ぬ差出人』という依頼……その主はヴィンセント・フロラルド。本名の書かれていない手紙……その主を探し出してほしいということだ。ヒントは『グランローゼ』……その名に似た『グランローズ』……リィンにとっては、その関係で先日えらい目に遭ってしまった代物だ。

 

『あと、これも頼まれていたものなんだけれど』

『え!?そ、そんな……その、好意を向けられていることには、嬉しいですけれど……』

『え?』

 

先月の旧校舎探索の後、ガイウスが所属している美術の部員であるリンデから頼まれた生花の受け取りに起こったこと……その真実は、リンデとは双子の妹であるヴィヴィがリンデに変装してリィンにグランローズを買わせる様仕向けた悪戯であった。まぁ、当のリィンはというと花言葉を知らなかったことに対してばかり気が向いてしまい、その際のリンデの表情が満更でもなさそうだったことには気づかなかった様子であった。

 

ちなみに、その失敗の事をエリゼへの手紙でも書いていたのだが……帰ってきた返事は『兄様は女心がどういったものなのかを今一度勉強なさるといいでしょう』と辛辣なものであったことには言うまでもない。そう言っても理解できないのがリィン・シュバルツァーという人間なのだが。

 

話を戻そう。ヴィンセントからの手紙の差出人を探すべく、同学年の女子を聞き込んでいくリィン……その過程で、ステラにも尋ねたのだが

 

「……グランローゼ、ですか?」

「心当たりあるのか?」

「ええ。グランローゼ……となると、ドレスデン男爵家あたりでしょうか。確か男爵家の身でありながら二度皇家に嫁いだことのある家ですね。二度目の時はかの“金獅子”の側室として嫁いだと。これは聞かれた事とは関係ないのですが……“金獅子”の側室の娘の一人は、シュバルツァー公爵家夫人―――ルシア夫人ですし。」

「………それは、俺も初耳なんだが。」

 

皇族に縁があるというか、紛れもなく皇族に血縁のある家ということにはリィンも驚きという他ない。それも一昨年アリシア女王陛下がかつて冒険していた縁―――前皇帝陛下とシュバルツァー男爵領(センティラール州)前当主の縁から来るものでもある。

 

かの鳳翼館はウォルフガング前皇帝陛下が旧友の好でユミルを訪ねた折、彼と前当主であったバーナディオス男爵が手合わせした際に噴き出した温泉の水脈を見て、即席で露天風呂を作り……酒も交えて交流を深めた縁から建てられ、恩賜された経歴がある。その後も正室や側室を伴って何度も足を運び、その縁で側室の娘の一人であったルシアがバーナディオスの息子であったテオに嫁入りしたとのことらしい。そう言った意味でも社交界では何かと注目を集めやすい家柄だということには流石のリィンも苦笑した。

 

「ドレスデンですか……確か、同じ学年の調理部にいたという話は聞いてますね。アスベルがいれば解ると思いますが……」

「そっか、ありがとうステラ。」

 

結局のところ、同学年には該当者がおらず……ヴィンセントにはドレスデン男爵家の人間なのではないかということを伝えようとしたのだが、その当事者が現れた。その人物は見るからに衝撃しか与えない容姿の女子生徒―――マルガリータであった。

 

「ウフフ、ごきげんようヴィンセント様。それにリィン様。」

「えと……ひょっとしてヴィンセント先輩に手紙を出したのは……」

「ご明察ですわ。心配しなくても、私は一途なものですので。」

「?あ、ああ……」

 

マルガリータの言葉にリィンは頷く。一方、ヴィンセントは自分にとって“場違い”とも思えるような人の登場に慌てふためいていた。結局、彼のお付きであるサリファが姿を見せ、その場を取り繕ってお開きとなったのだが……その際、リィンに近付き

 

『ご苦労をおかけしたようで申し訳ありません。この先もヴィンセント様やフェリス様がご迷惑をおかけするかと思われますが、どうか気を悪くしないでいただきたいです。』

 

そう言って去っていった……リィンには、何の事やらさっぱりであった。何はともあれ、他の依頼をこなすためにその場を後にした。

 

 

その頃のルドガーはというと……中庭で花壇の手入れをしていた。別にルドガー自身は園芸部ではなく、同じクラスのフィーから頼まれたわけでもない。ここのところ、何か考え事をしていることが多く、花壇の手入れも疎かになっている様子……これでは折角の花もちゃんと育たない……お節介みたいなものだが、手入れをしていたのだ。機械ずくめだと考えが煮詰まることも多いので、気分転換も兼ねての事だ。

 

「あら、フィーちゃんと同じクラスの……今日もお手入れですか?」

「どうも、先輩。アイツが珍しく悩んでるんで、その『肩代わり』ってやつです。尤も、単なる意地の張り合いなんでしょうが……」

 

すると、其処に姿を見せたのは園芸部部長である貴族クラスの女子生徒―――エーデル。ほんわかとした雰囲気を持ち、戦い事にはあまり縁がなさそうな雰囲気だが……実は、かなりの実力者らしい。というか、士官学院に進学しているということはそういうことにも通じている必要があるわけで……風の噂では、学年最強といわれるフリーデルに次ぐ実力者とも言われているほどだ。

 

すると、エーデルは笑みを浮かべつつ、ルドガーの隣に座り込んだ。黙々と作業をしているルドガー……そして、その隣で笑みを浮かべてその作業を見つめているエーデル。

 

「あの、先輩?」

「何でしょうか?」

「他の花壇の方はいいんですか?というか、俺の作業を見てても面白いことなんてありませんよ?」

「私もそうしようと思いましたが、もう手入れをしてくれてるみたいで……ルドガーさんですよね?それに、何だかフィーちゃんと近しい雰囲気を感じたんです。花が好きな人でないと、こんな風にはできませんから。」

 

何だか『優しい』という風に言われたような感じで、ルドガーも苦笑を零した。そして、花壇のことをちゃんと見た上でその発言をしたことには、“只者”じゃないなと思わずにはいられなかった。そんな状態が続き……気が付けば、時刻は正午になっていた。二人は中庭に移動し、ルドガーが持ってきていた弁当を開くと、隣から注がれる視線……エーデルが物欲しそうにしながら見つめていた。

 

「……食べます?何だったら、全部いいですけれど。」

「え、いいの?」

「こういう時、たまに弁当を二つ作ることがあって……もったいないですし、どうぞ。」

「あ、ありがとう。今日お昼を忘れちゃってどうしようと思ってたから。」

 

異性と二人で穏やかに食事をとることが久々で……思わず涙がこぼれそうになったルドガーだった。互いに呑気な会話をしながら食事を食べ終わり、穏やかな陽気と満腹感から眠気に誘われ、意識しないうちにルドガーは眠っていた。

 

「ん……(気付かないうちに眠ってたのか……)」

 

『結社』にいた時はかなり気を張り詰めることが多かったので、こうやって眠るのは久々だな、と思っていたルドガーであったが……とりあえず目のあたりをこすろうと右手を上げようとした時、

 

「んっ………」

「ん?」

 

何か柔らかい感触が右手に当たる。先程まで寝ていたため視界がまだぼやけていて、その視界上に映る影―――そして、一瞬聞こえた甲高い声。殺気のような気配は感じないが、とりあえず影をよけようとして右手でそれをよけようとすると

 

「あんっ………」

「………」

 

また聞こえた甲高い声。そして、柔らかい感触……気が付けば、後頭部に感じる感触も右手のそれとは異なるが紛れもなく柔らかい感触。そこでルドガーの意識がはっきりとし、その全貌が明るみになった瞬間、向こうも眠っていたようで……ふと視線が合う。それを見たルドガーは瞬時に右手を離して、起き上がった。

 

「あ、あの、す、すみません!まさか、膝枕してくれるとは思わなくて……」

「……ルドガー君って、意外とエッチなんですね。」

「………」

 

反論の余地もない……寝ぼけてたとはいえ、相手の同意も得ずに触ってしまったのだから。どうしたものか冷や汗を流すルドガーを見て、エーデルは柔らかい笑みを零しながら、ルドガーの頬に口づけをした。これにはまた驚くルドガー。

 

「これは、お昼ご飯のお礼ですよ。……これでも、責任を感じるのでしたら……今度、デートしてくださいね。ルドガー君。それじゃ、また明日。」

 

そう言って被っている麦わら帽子を更に深く被り、まるでその表情を見せない様にして去っていくエーデル。それを見届けるように茫然としていたルドガー……彼女が去った後、ため息を吐いた。

 

「……ああいうタイプの人間は好みなんだが、デートって……俺、惚れさすようなことしたか?何もしてねえと思うんだが……」

 

ルドガーは気付くはずがない。そもそも、エーデルが何故膝枕をしたのか……その原因の一端は彼の作った弁当にある事を。別に変なものが入っているわけではない。味としては申し分ないというか、言葉にできないほどの美味しさを秘めている。だが、その最大の特徴は……『食べた異性が惚れる』というものだ。正確に言えば女性の本能をくすぐるようなもので、その効力もあったが……

 

この学院に来てから、偶に園芸部の手伝いをすることがあり、買い出しとかで男手が必要な時とかはルドガーが手伝っていたのだ。そういった気遣いや優しさからエーデルがルドガーに恋心を抱くきっかけになっていた。それで今回のお弁当である。要するに『完全に堕ちた』ということだ。

 

ちなみに、何故料理を食べているⅦ組のメンバーがその被害を被っていないかというと……誰かしらに恋心を抱いているようだ。ただ、約一名―――エマに関してはよく解っていないのが現状だが……第二柱あたりがなにかしら仕込んだ可能性もある。そりゃ、自分の恋敵手(ライバル)を増やすような真似はしたくないのが本音だろう。

 

しかし、そんなことも良く解らないルドガーにとっては、首を傾げること以外にどうしようもできなかったのであった。この後、リィンの連絡で旧校舎に行くこととなった。

 

 

てなわけで、フラグが着々と詰みあがっていく奴らです。

ちなみに、ルドガーの影響を受けていない理由(エマを除く)は

 

アリサ→アスベル

ラウラ、ステラ→リィン

フィー→???

サラ教官→旦那さん

 

というわけです。

あと、第三学生寮自体に関してツッコミ云々が入っていなかったので補足。2・3階部分に部屋が追加されています。

 

西側から

201<ラグナ>202<リィン> (階段)203<エリオット>204<ユーシス>205<ガイウス>

210<空き> 209<????>(階段)208<アスベル> 207<ルドガー>206<マキアス>

 

301<サラ>302<?????>(談話所)303<アリサ>304<???>305<ラウラ>

310<空き>309<空き>   (階段) 308<ステラ>307<フィー>306<エマ>

 

という感じです。?の箇所に関しては、次のあたりにて判明します。

 


 
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